(前の記事からの続き)
○ 東央大病院・ 階段
世良が 美和子の腕を掴んで 昇っていく。
美和子 「痛い、 世良さん …… !」
○ 同・ 屋上
世良、 美和子の両肩を押して 金網に押し
つける。
世良 「立場をわきまえろよ ! あれが医者の
することか !?」
美和子 「(絞り出すように) …… 医者として
どんなに非難されても構わない …… !
あたしは医者である前に ジュンの姉よ ……
!!」
世良 「たとえわずかでも 脳が生きている人から
臓器を摘出するのは、 立派な殺人罪だ
!」
美和子 「そんな建て前論 …… ! 自分ばっかり
善人面して …… ! あなたは人の死が 分から
ない偽善者よ …… !!」
世良 「死んでいく人の命は、 生きていく人の
命より 価値がないって言うのか !?」
美和子 「(爆発するように) ジュンが 意識障
害を起こしたのよ …… !! このままジュン
が死んでくのを 黙って見てろって言うの ……
!?」
世良 「 !! …… 」
美和子 「そんなに あたしをいじめて嬉しい …
… !? どうしてそんなむごいこと …… !!
(涙)」
世良 「 …… 俺はただ、 真実を偽ってはいけな
いと …… 」
美和子 「真実と 一人の人間の命と、 どっちが
大切なの …… !?」
世良 「 …… (言葉を失う)」
美和子 「大した正義感だわ …… !!」
世良 「(金網をガシャンと掴む) …… こんな
取材、 始めるんじゃなかった …… !! 本当
のことを知らなければ、 こんなことには ……
!!」
美和子 「 ……… (涙)」
世良 「 …… 脳死なんてものがなければ、 俺た
ちは うまくいってただろうな …… 」
美和子 「 …… いってた …… ?」
世良 「 …… 一度、 こうなってしまったら …
…」
美和子 「 …… 待って …… 世良さんとあたしは
立場が違うだけで …… 」
世良 「立場の違いは、 心の違いよりも大きい
よ …… どっちが 悪いわけでもないのに ……
…… 互いの嫌な面ばかりが 表に出る ……
互いに傷つけられた分だけ、 傷つけ返そうと
してる …… 」
美和子 「 ……… (泣)」
世良 「情けないよ …… !」
○ 河川敷
泣きながら歩く美和子。
夕日。
白鷺が飛ぶ。
(次の記事に続く)