「境界に生きた心子」

境界性パーソナリティ障害の彼女と過ごした千変万化の日々を綴った、ノンフィクションのラブストーリー[星和書店・刊]

亀裂 …… 「生死命の処方箋」 (58)

2010年12月19日 18時35分27秒 | 「生死命(いのち)の処方箋」
 
(前の記事からの続き)
 
○ 東央大病院・ 階段

  世良が 美和子の腕を掴んで 昇っていく。

美和子 「痛い、 世良さん …… !」

 

○ 同・ 屋上

  世良、 美和子の両肩を押して 金網に押し

  つける。

世良 「立場をわきまえろよ !  あれが医者の

 することか !?」

美和子 「(絞り出すように) …… 医者として

 どんなに非難されても構わない …… ! 

 あたしは医者である前に ジュンの姉よ …… 

 !!」

世良 「たとえわずかでも 脳が生きている人から

 臓器を摘出するのは、 立派な殺人罪だ

 !」

美和子 「そんな建て前論 …… ! 自分ばっかり

 善人面して …… !  あなたは人の死が 分から

 ない偽善者よ …… !!」

世良 「死んでいく人の命は、 生きていく人の

 命より 価値がないって言うのか !?」

美和子 「(爆発するように) ジュンが 意識障

 害を起こしたのよ …… !!  このままジュン

 が死んでくのを 黙って見てろって言うの …… 

 !?」

世良 「 !! …… 」

美和子 「そんなに あたしをいじめて嬉しい …

 … !?  どうしてそんなむごいこと …… !!

 (涙)」

世良 「 …… 俺はただ、 真実を偽ってはいけな

 いと …… 」

美和子 「真実と 一人の人間の命と、 どっちが

 大切なの …… !?」

世良 「 …… (言葉を失う)」

美和子 「大した正義感だわ …… !!」

世良 「(金網をガシャンと掴む) …… こんな

 取材、 始めるんじゃなかった …… !!  本当

 のことを知らなければ、 こんなことには …… 

 !!」

美和子 「 ……… (涙)」

世良 「 …… 脳死なんてものがなければ、 俺た

 ちは うまくいってただろうな …… 」

美和子 「 …… いってた …… ?」

世良 「 …… 一度、 こうなってしまったら …

 …」

美和子 「 …… 待って …… 世良さんとあたしは

 立場が違うだけで …… 」

世良 「立場の違いは、 心の違いよりも大きい

 よ …… どっちが 悪いわけでもないのに …… 

 …… 互いの嫌な面ばかりが 表に出る …… 

 互いに傷つけられた分だけ、 傷つけ返そうと

 してる …… 」

美和子 「 ……… (泣)」

世良 「情けないよ …… !」
 

○ 河川敷

  泣きながら歩く美和子。

  夕日。

  白鷺が飛ぶ。

(次の記事に続く)
 
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