「境界に生きた心子」

境界性パーソナリティ障害の彼女と過ごした千変万化の日々を綴った、ノンフィクションのラブストーリー[星和書店・刊]

肝臓はあげられない …… 「生死命(いのち)の処方箋」 (55)

2010年12月05日 17時41分43秒 | 「生死命(いのち)の処方箋」
 
(前の記事からの続き)

○ 街路 (夜)

  世良の車が走る。

 
○ 世良の車の中

美和子 「世良さん、 ジュンに 余計なこと

 吹き込むのはやめて」

世良 「余計なことだって?  事実を隠してば

 かりいて、 自分の良心に 恥ずかしくないの

 か ?」

美和子 「あたしは …… 自分の良心なんかより

 ジュンの命のほうが 大事よ …… !」

世良 「だったら 自分の体を犠牲にしてでも、

 淳一くんを 助けるべきじゃないのか?」

美和子 「どういうこと ?」

世良 「(失言を悔やみ) …… 生体肝移植だよ

  ……。 どうしてそれには 一言も触れないん

 だ ?」

美和子 「(当惑) …… 生体肝移植は、 技術的

 にも、 倫理的にも、 まだ問題があるし …

 …」

世良 「それは 脳死からの移植だって 同じだろ

 う !?」

美和子 「 ……… (言葉が出ない)」

世良 「自分の体を 切るのは嫌で、 人のものなら

 騙してでも 巻き上げようっていうのか

 ?」

美和子 「 ……… (うつむいてしまう)」

世良 「 ……… 美和子が、 信じられなくなった

 よ …… 」

  気まずい沈黙。

美和子 「 …… 世良さんには、 言いたくなかっ

 た …… 」

世良 「何を ?」

美和子 「 …… あたし、 ジュンとは 組織が不適

 合なの …… 」

世良 「え ?」

美和子 「ジュンに肝臓を あげることができな

 いのよ …… (涙がにじむ)」

  世良、 驚いて 車を道路脇に止める。

世良 「本当か …… ?」

  小さく頷く美和子。

世良 「そんな …… 」

美和子 「 …… あたしが駄目なら …… 次の身内

 は …… 」

世良 「 ……… 」

美和子 「世良さんに そんなこと頼めないじゃ

 ない …… !! (顔を伏せる)」

世良 「 …… 美和 …… 」

  涙を拭う美和子。

美和子 「 ……… 言ったら ……、 くれた …… 

 ?」

世良 「 ……… (沈黙)」

美和子 「 …… 答えられないのね …… (涙)」

(続く)
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする