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「境界に生きた心子」

境界性パーソナリティ障害の彼女と過ごした千変万化の日々を綴った、ノンフィクションのラブストーリー[星和書店・刊]

多佳子 …… 「生死命(いのち)の処方箋」 (27)

2010年09月06日 21時00分56秒 | 「生死命(いのち)の処方箋」
 
(前の記事からの続き)

○東央大病院・ 人工透析室 (朝)

  美和子が 渋る淳一を引っ張ってくる。

淳一 「何だよ、 どこ連れてくんだよ ?」

美和子 「ジュン、 平島さんに謝りたいって

 言ったじゃない?」

淳一 「ええ ?  いいよ、 そんなの !」

美和子 「潔くしなさい、 男の子 (淳一の腕を

 後ろにひねって 押していく)」

淳一 「あ、 いててて …… !!」

  透析中の多佳子、 美和子と淳一に気付く。

美和子 「(淳一の腕を抑えたまま 笑顔で)

 平島さん、 夕べはよく寝られた?」

  多佳子、 コクッと頷き、 ウォークマンの

  イヤホーンを 耳からはずす。

美和子 「ジュンがね、 平島さんに挨拶したい

 って」

淳一 「あ、 いや、 あの …… お、 おはよう

 …… ! (作り笑顔)」

多佳子 「…… おはよう ……」

淳一 「きのうはオレ、 何か勝手なこと 言っち

 ゃったかな、 なんて …… (照れ笑い)」

多佳子 「(首を小さく横に振る)」

美和子 「じゃあ、 あたしは オペの準備がある

 から (立ち去る)」

淳一 「あ、 姉キ、 待てよ …… ! (焦る)」

  淳一、 多佳子に向き直り、 照れ笑い。

淳一 「へへ …… (間が持たない)」

多佳子 「………」

  イヤホーンから流れる音楽。

淳一 「あれ ?  それ …… 友部正人の曲じゃな

 い ?」

多佳子 「うん ……」

淳一 「えー、 好きなの ? (ぱっと表情が明る

 くなる)」

多佳子 「詩がいいの。 佐伯くんも ? (目が輝

 く)」

淳一 「オレ、 アルバムほとんど持ってるよ!

 友部ってさァ、 すごくきかん坊なところと、

 すごく弱いところが あるんだよね。 だから

 納得させられちゃうんだ」

多佳子 「ほんとに自分のこと 歌ってるんだよ

 ね」

淳一 「オレ  『何でもない日には』 も持ってる

 んだぜ、 今もう売ってない奴!」

多佳子 「…… それって、 10年前のアルバムだ

 よね。 ちょうどあたしが 透析始めた年 ……

 …」

淳一 「……… (神妙になって) 透析、 大変だ

 ったんだね」

多佳子 「(うん) ………」

淳一 「今まで、 辛かったんだ ………」

多佳子 「……… (うん)」

淳一 「…… きのうはごめん ………」

多佳子 「(ううん) あたしも ………」

淳一 「手術、 うまくいくといいね (多佳子の

 手を取る)」

多佳子 「ありがとう ……」

淳一 「(パッと手を放し 頭を掻く) なんて、

 手握っちゃったりして …… !」

多佳子 「……… (笑む)」

淳一 「…… よかった …… オレ、 嫌われたかと

 思ってた ……」

多佳子 「…… 佐伯くんは 手術受けないの?」

淳一 「……(質問には答えず) 平島さんには、

 元気になってほしい ……」

多佳子 「……… うん …… (思いをまとめきれ

 ない)」

(次の記事に続く)
 
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