「境界に生きた心子」

境界性パーソナリティ障害の彼女と過ごした千変万化の日々を綴った、ノンフィクションのラブストーリー[星和書店・刊]

肝移植、 断念 …… 「生死命(いのち)の処方箋」 (29)

2010年09月29日 20時37分24秒 | 「生死命(いのち)の処方箋」
 
(http://blog.goo.ne.jp/geg07531/e/b4eccc2d5026634d7a19111e0cff4e4c からの続き
 http://blog.goo.ne.jp/geg07531/e/7ac25ee3dc5c59a245ec8d9438bcef30 参照)

○夜空

  上弦の月に 雲がかかっていく。
 

○東央大病院・ 外景 (夜)
 

○同・ 消化器外科・ カンファレンスルーム

  緒方、 犬飼(59才)、 川添(37才)、

  山岡(44才)、 小池(39才)、 ナース

  らが合議している。

  美和子は うなだれて座っている。

  世良も取材で同席している。

緒方 「では、 木下幸子さんの膵臓と腎臓を、

 平島多佳子さんに 同時移植することに決定

 します」

緒方 「了解しました」

美和子 「………」

緒方 「佐伯くん、 気持ちは分かるが、 落胆し

 ている時ではないよ。 木下さんの肝臓の状態が

 悪くなった以上、 淳一くんへの移植は

 断念せざるを得ない」

美和子 「…… 諦めきれません ……」

緒方 「諦めきれないのは 君だけだと思うか?

 しかし患者さんは 淳一くん一人ではないんだ。

 早急に 平島さんのオペの準備に かから

 なければ」

美和子 「………」

犬飼 「それに 淳一くんが自身が 乗り気ではな

 いのだから」

緒方 「今は 平島さんのオペに集中しよう」

犬飼 「このオペを成功させることが、 淳一くんの

 次の機会に 繋がっていくんじゃない

 か?」

美和子 「……… (ぐっと唇を噛みしめる)」

緒方 「佐伯くん、 君は医者だろう?」

世良 「(美和子の肩に しっかり手をかける)

 美和子、 顔を上げて 前を向いていこう」

美和子 「…… (意を決するように) この手術、

 必ず成功させてみせる …… 世良さん、しっ

 かり書いて」

世良 「ああ」

美和子 「ジュンにも、 社会にも、 移植の成果

 を伝えるのよ。 平島さんにも、 きっと頑張

 ってもらう」

  美和子の目に 意欲が戻る。

(次の記事に続く)