「境界に生きた心子」

境界性パーソナリティ障害の彼女と過ごした千変万化の日々を綴った、ノンフィクションのラブストーリー[星和書店・刊]

遺族に終わりはない -- かえらぬ命 (5)

2009年04月27日 10時12分04秒 | 死刑制度と癒し
 
 森田泰元 (たいげん) さんの

 長男・ 泰州 (やすくに) ちゃん (当時9才) は、

 やっちゃんと呼ばれていました。

 星空の好きなやっちゃんを 誘拐・殺害したのは、

 泰元さんの知り合い・ 津田暎 (あきら) でした。

 遺体を遺棄した後、 身代金要求の 電話を重ねました。

 ギャンブルで借金を背負った 短絡的犯行です。

 泰元さん夫妻は、 法廷にもほとんど 足を運んでいません。

 津田被告と 同じ空気を吸うことすら、 嫌だったといいます。

 最高裁で死刑が確定し、

 弁護士は再審を勧めましたが、 津田死刑囚は断りました。

「 遺族は 『あいつはまだ生きとるんか』 と 怒っとるじゃろう。

 執行にならんと、 許してもらえんだろうな 」

 拘置所では聖書を読み、 泰州ちゃんの命日には 冥福を祈りました。

「 『あいつを殺すのは惜しい』 と 言われるような人間になってから

 執行されなければ、 泰州ちゃんの命との バランスが取れない。

 心の豊かな 人間になりたい。」

 死刑執行の時は 刑務官に礼を述べて 逝きましたが、

 遺族に 謝罪の手紙を 書くことはありませんでした。

 泰元さんは 死刑を当然と思っています。

 悲しみに耐えることに 精一杯で、

 それ以外なにも 感じることができませんでした。

 年月を重ね、 悲しみがかさぶたのように 固まっていく気もしますが、

 犯人を許せないという思いが 風化することはありません。

「 犯人は死刑になったら、 それで終わりかもしれない。

 でも、 私たちは死ぬまで 事件を引きずって生きていく。

 無期懲役にされたようなものです。」

〔読売新聞より〕