今年も間もなくおしまいになります。
毎年の行事となっておりますので、今年1年間で印象に残った美術展を挙げてみたいと思います。一応の順位として並べてはありますが、客観的な基準ではなく、あくまでも道楽ねずみにとってインパクトがあったかどうかだけが基準となっています。誰もこのような零細ブログのランキングなど気にはしないと思いますが、学芸員の皆様の貴重な努力と心のこもった企画にまがりなりにも順位をつけることに気が引けるので、このような弁解をさせていただいた次第です。
第1位 グエルチーノ展(国立西洋美術館)
個人的には、今年は珍しく自分にとっての1位に何の迷いもありませんでした。グエルチーノという画家の名前、そしてグエルチーノが生前から著名な画家であり、死後も最近まではかなり知られた画家であったといことを恥ずかしながら今まで全く知りませんした。
今年、グエルチーノ展で代表作をたくさん見まして、その後夏にイタリアに行き、ボルゲーゼ美術館やカピトリーニ美術館でもその作品を見ました。「放蕩息子の帰還」のワンちゃんと再会した時にはとてもうれしくなり、ワンちゃんが自分を覚えていて歓迎してくれたような気持ちになりました。
グエルチーノ展は、別の美術ブロガーさんたちが中心となって開催したランキング付けでも第1位に輝いたと聞きましたが、自分の個人的なランキングはともかく、ほかの人からもグエルチーノ展が人気だったのだということにはいささか驚きました。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/14/ad/a80056598806ba89e63da1b00051c52b.jpg)
第2位 プラド美術館展(三菱一号館美術館)
2013年にプラド美術館で開催され好評を博した展覧会”Captive Beauty. Fra Angelico to Fortuny”を再構成した企画ということです。
小さな絵の方が、巨匠たちがすべて一人で手掛けていて貴重なこともあるということがよくわかりました。貴重なヒエロニムス・ボスの《患者の石の除去》のほか、ベラスケスの《ローマ・ヴィラ・メディチの庭園》、ムリーリョの《ロザリオの聖母》やゴヤの《トビアスと天使》の絵が好きで、4度も足を運んでしまいました(ほかにも注目度は高くなかったようですが、グイド・レーニの作品もありました。)
第3位 ボッティチェリとルネサンス(渋谷Bunkamuraザ・ミュージアム)
ウフッツィ美術館の《受胎告知》を初めボッティチェリの作品が多数展示されていました。サヴォナローラの悪影響を受ける前の明るい作品も多かったのでうれしくなりました。
聖母子像も複数展示されており、フィリッポ・リッピやヴェロッキオからの影響もわかるように展示されていたのが興味深く思われました。
第4位 ルネ・マグリット展
商業デザイナーとして制作にかかわった初期の作品からシュルレアリズムに傾倒していった時代、ナチがベルギーに侵攻した後の妙な色づかいになった時代、その後のマグリットらしい色づかいに戻った時代などマグリットの作品を通史的にみることができました。
多くの作品を見ながら、同じようなテーマが巧みに切り張りするように組み合わせられているのも見まして、大変興味深く思いました。マグリットの作品をこれだけまとめて多数見たことはありませんでした。
第5位 No Museum, No Life?―これからの美術館事典(東京国立近代美術館)
いささか奇をてらったようなところもありましたが、辞書形式にアルファベットごとにキーワードを取り上げ、作品を展示してありました。写真撮影が基本的に許可されていたのもうれしく思いました。
美術作品としては、グエルチーノもあれば(グエルチーノ展終了後の企画だったため。)、アンリ・ルソーもあれば、フランシス・ベーコンもあれば、シュテファン・バルケンホールもあれば、トーマス・シュトゥルートもありと不思議な空間でありました。美術館の地震対策、展示されない時期の保管状況、修復作業など、普段は知りえない情報を得ることもできたのも貴重な機会でした。ランキングをしていますと、なんだがグエルチーノとグイド・レーニ関連の企画が多く並んでしまったようですが、他意はありません。
第6位 ピカソと20世紀美術(東京ステーションギャラリー)
北陸新幹線の開通を記念して東京ステーションギャラリーで開催された美術展の第1弾です。
タイトルはピカソ…ですが、ピカソ以外の作品も多数展示されていて、とても充実した内容でした。キルヒナー、ケーテ・コルヴィッツ、マックス・エルンスト、ゲルハルト・リヒターなど道楽ねずみが大喜びするような作品ばかりです。
富山県立近代美術館のコレクションからの貸し出しですが、これだけの作品を所蔵しているということが驚きですし、こんなに貸し出してしまって大丈夫なのかと心配にもなりました。
第7位 高橋コレクション展 ミラーニューロン(東京オペラシティ・アートギャラリー)
既に「ネオテニー・ジャパン」でコレクションの一部が公開されたこともある、高橋コレクションからの展示です。今回の内容は、個人的には好きになれない作品も少なくなかったのですが(たとえば、会田誠の《ジューサー・ミキサー》など。)、それでもコレクションの質の高さと多様さには脱帽せざるを得ません。
第8位 鴨居玲 踊り候え(東京ステーションギャラリー)
こちらも北陸新幹線開業記念の企画展(第2弾)です。
私は、鴨居玲という人の名前も知りませんでしたが、見てとても印象に残りました。
《1982年 私》と題する作品は、ギュスターヴ・クールベの《画家のアトリエ》を踏まえた作品であることが明らかなのですが、画家自身、裸婦、犬など共通のアイテムを描きながら、画家の様子が正反対であり、およそ正反対の作品となっているのがとても印象に残りました。会期中意外な人気で驚きました。
第9位 ガブリエル・オロスコ展(東京都現代美術館)
こちらも、金沢からやってきた作品、すなわち金沢21世紀美術館所蔵の《ピン=ポンド・テーブル》が展示されていました。石を掘り込んだ作品、カップめんの食べかすをそのまま展示した作品、島の中に人工的な島を作って撮影した写真作品など興味深く見ました。
第10位 久隅守景展(サントリー美術館)
ずいぶんと毛色の違う地味な作品となりました。
久隅守景といえば、日本史の教科書で見た納涼図屏風以外は知らなかったのですが、他の多くの作品を見ることができました。展示替え後の鷹狩図屏風、賀茂競馬・宇治茶摘図屏風なども興味深く見ました。守景は、納涼図屏風のように力の抜けた感じで、人間にも動物にも優しい視線で絵を描くのですが、その技術はとても優れたものがあります。
四季耕作図屏風も、とても優れた作品です。
家族も含め守景の生涯を知ることもできて、興味深く見ました。知らなかったことばかりでした。
ランキングを書いてしまして、今年は前半に大きな企画展が集中していたことに改めて気づきました。前半の企画展の重要なものをあやうく見落とすところでした。
番外編
1 動物
今年は、動物関連の作品展も多かったようです。
ねずみ属たちは、自分たちの仲間が描かれている鳥獣戯画はもちろんのこと、ほかの動物の絵画も好きです。
・ 鳥獣戯画展(東京国立博物館)
鳥獣戯画の甲、乙、丙、丁を全部みられるのはすごかったと思います。
ただ、2時間30分も待たされるのはきつかったです。
本来なら、絶対にベスト10に選ばれるはずなのですが、そもそも東博さんと京博さんの所蔵品ということもあり、道楽ねずみの感性によりあった作品の方を優先してしまいました。
・ いぬ 犬 イヌ(渋谷区立松濤美術館)
犬にスポットライトを当てた日本画の展覧会でした。
円山応挙の犬の絵もありましたが、この企画展のために描かれた中島千波の絵の中に出てくる、森村泰昌が演じているような犬が印象的でした。
犬の写真を持参した人にはポチ割なるものもありました。
・ 動物絵画の250年(府中市美術館)
こちらは犬に限定しません。我々の仲間ねずみもありました。
実際のところは円山応挙展のような感じもありました。
2 個性的な女性作家
・ マリー・ローランサン展(府中市美術館)
作品から受ける印象よりもローランサンはずっとユニークのようです。
アポリネールやアンリ・ルソーの影響を受けながら、不思議な世界を醸成していったようです。
・ ニキ・ド・サン・ファル展(国立新美術館)
土偶のようなオブジェでしか知りませんでしたが、射撃絵画など違った作品がまた面白く思われました。ただ、母親との関係はかなり悪かったようです。
政治は女性と黒人に任せればいいという、1960年代から70年代ならではのニキの発言が、タイミング悪く2015年にはひどいブラックユーモアに聞こえてしまいました(サッチャーさんがイギリスの首相の時代であれば、説得力もあったのでしょうが。)
・ ヘレン・シャルフベック――魂のまなざし(東京藝術大学大学美術館)
画家としての腕はよかったようですが、もはや「痛い女」としか表現しようもないような画家でした。私には、(シャルフベック以外誰もその存在を知らないという)婚約者にフラれたというのが、思い込みにすぎないように思われ、怖い感じがします。その後もうんと年齢の下の男性と結婚をすると一方的に思い込み、その男性が別の女性と結婚すると多量の手紙を送りつけるなんてストーカー以外の何者でもありません。
3 さようなら カマキン
とうとう神奈川県立近代美術館鎌倉館が閉館になります。
3回に分けて開催されました「鎌倉からはじまった。」も今年の重要な企画展でした。
私よりももう少し上の高齢者の方には、何とも寂寥感が残ることでしょう。
そして今年の1枚。
自分にとっては当然この絵です。
グエルチーノ《放蕩息子の帰還》※この写真は、ボルゲーゼ美術館内で撮影したものです。
東京とローマという遠く離れた2つの土地で見ることができました。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/61/7f/432bb51c8daa20ec2039b251e5bc6a54.jpg)
それとヴァチカン美術館の絵画館の中のこの絵ももう1枚あげさせてください。
カラヴァッジョ《キリスト降架》
この絵が記憶に残っている理由は、ヴァチカン美術館の絵画館内でのエピソードからです。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2c/9b/293d89eb5ff09454e8e660f1673af57c.jpg)