道楽ねずみ

ドイツに関するものを中心に美術展,オペラ,映画等の趣味の世界を紹介します。

六義園のしだれ桜

2016年03月28日 | 風流道楽

六義園のしだれ桜も見に行きました。

同じ3月27日に行きましたが、有名なしだれ桜は満開です。

こちらの方は、小石川後楽園どころではない大混雑です。

 

私は年間パスポートがあるので、待たずに入れるのですが、入場券を買う人の長蛇の列ができています。入っても、人、人、人、我々だけ鼠です(いつものギャグですみません。)。

 

もうどうしても人が入らない写真は撮れません。

 

毎年混むので、今年は夜桜は諦めようと思って、日中にでかけたのですが、日中も大混雑でした。

 


小石川後楽園のしだれ桜

2016年03月27日 | 風流道楽

本日、小石川後楽園のしだれ桜を見に行きました。

朝早く天気がよくないので、空が曇っていてさえない景色にしかなりません。

しだれ桜の下にあった「小石川後楽園」という表示が今年はありませんでした。

 

近くに日中友好会館があり、そこに宿泊施設があることにもよるのでしょうか。

中国人の観光客がとても多いように感じました。

 

込み合う前に小石川後楽園に行って正解でした。

 


村上隆のスーパーフラット・コレクション(横浜美術館)

2016年03月23日 | 美術道楽

横浜美術館で「村上隆のスーパーフラット・コレクション」と題する企画展が開催されています。

 

森美術館で展示されていた五百羅漢図だけではなく、村上隆の作品はどうの好きになれないのですが、こちらは村上隆の作品ではなく、そのコレクションの展示です。テレビの「ぶらぶら美術館」でアンゼルム・キーファーの作品を見て、キーファーの作品を見るだけでも意味がありそうだと考え、この企画展に出かけてみた次第です。

 

行ってみまして、その膨大なコレクションに圧倒されました。

ホルスト・ヤンセン、アンディー・ウォーホール、奈良美智、ガブリエル・オロスコなどいかにも現代アートという感じの作品もあれば、一休や秀吉の書もあり、北大路魯山人の器もあり、果てには村上隆のパパの小作品もあるなど、本当に広いジャンルの作品が多数展示されています。

 

ただ、個々の作品の解説はなく、しかも展示がたくさんあるのに、展示作品の作家と作品名を記載したプレートが一か所にまとめられていることもあって、誰のどの作品だかわからなくなっているものもありました。

 

一番の見どころともいえる、キーファー作品は何と入場料を支払わなくても入ることができるスペースに展示されていました。入口を入ってすぐのところに展示しており、お年寄りの車付きのカバンやベビーカーが、天文学的とまではいえないかもしれませんが、極めて高額と思われるキーファー作品のガラスケースに激突しそうで心配になります。

キーファー作品は、無料のスペースで、しかも空間的に余裕のないところ置かれているせいか、せっかくの作品なのに、足を止めてみている人の姿もほとんどいませんでした。残念なことです。

無料スペースには、ほかにも大きな作品が展示してあります。「ぶらぶら美術館」の番組の中で山田五郎氏が、このまま横浜美術館にずっと置いてくれれば、村上さんも管理の問題がなくていいのではないかと発言していましたが、本当にそのとおりと思ってしまいました。このままここにおいてくれれば、訪問者もいつもキーファー作品が見られて本当に良いのにと思います。

 

キーファー作品以外で、私のお気に入りの作品は、もちろん相方も含めネズミですので鼠志野茶碗もありましたが、なんといってもダグ・アンド・マイク・スターン《横桟のあるキリスト》でした。バーゼル美術館所蔵のホルバインの《墓の中の死せるキリスト》をベースにした作品です。昔、何度も訪れたバーゼル美術館所蔵のあの作品をベースにした作品ですので、強く魅き付けられました。

 

4月3日までの開催予定です。

会場内は写真撮影が可能です。

 


茶の湯の美、煎茶の美(静嘉堂美術館)

2016年03月22日 | 美術道楽

世田谷区岡本にある静嘉堂美術館で開催中の「茶の湯の美、煎茶の美」と題する企画展に行きました。二子玉川から世田谷美術館行きの小型バスに乗っていきます。20年も前にこのバスに乗って世田谷美術館から二子玉川まで出たことを思い出しました。今回は期間終了間際であったせいか、静嘉堂美術館に行く客で小型バスは息苦しくなるくらいの超満員です。

 

さて、展示品ですが、静嘉堂美術館自慢の国宝の曜変天目(稲葉天目)が展示されています。前にサントリー美術館でも藤田美術館所蔵の曜変天目を見ましたが、曜変天目は世界で3点しかなく、いずれも日本にあり、国宝に指定されているということです。藤田美術館のものと合わせて2つ見たことになります。

《唐物茄子茶入 付藻茄子》というのは、足利義満→信長→秀吉と伝わったもので、大坂夏の陣で大破したものの、家康の命により漆でつなぎわせ、表面も漆で塗り固めて修復したものということですが、外から見たのでは、破損したことがわからないほど、漆で陶器の色、肌合いまでうまく再現されています。

このほか、油滴天目、灰被天目等々もとは大名家の所蔵していた茶器が所狭しと展示されています。

 

敷地も広く、庭に出れば、竹林も見ることができます。

23区内にこのような場所があるとは知りませんでした。

 

 

 

 


没後100年 宮川香山展(サントリー美術館)

2016年03月21日 | 美術道楽

サントリー美術館で開催中の宮川香山展に行きました。

宮川香山は、幕末期から大正期にかけて活躍した陶芸家で、京都に生まれ、岡山県に行った後、明治維新後横浜に出て、そこで輸出用の精巧な陶芸を作成するようになります。

 

1876年のフィラデルフィア万国博覧会や、1878年のパリリ万国博覧会などで受賞し、その名声を高め、特に、陶器の表面をリアルな浮彫や造形物で装飾する「高浮彫(たかうきぼり)」という新しい技法で知られるようになります。花瓶に張り付いているような蟹、水差しの上で体をくねらせて、歯や耳の血管まで再現してあるネコ、花瓶に張り付いて、毛並や赤くなった目やこれまた耳の血管まで再現してあるネズミなど、いったいどうしてこんなに精巧な作品が製作できるのか驚嘆します(いずれも写真撮影ができない作品で、冒頭の写真とは異なる作品です。)。

おばあさんたちが、「いや、よくできたネズミだ。」としきりに感激しておりまして、うちの相方ねずみのことを「よくできるねずみ」と褒めてもらったような気持になり、こそばゆい気持ちになってしまいました(趣旨はもちろん違うのですが。)。


ジョルジョ・モランディ 終わりなき変奏(東京ステーションギャラリー)

2016年03月20日 | 美術道楽

東京ステーションギャラリーで開催中の、「ジョルジョ・モランディ 終わりなき変奏」と題する企画展に行きました。

ジョルジョ・モランディの作品につきましては、既に昨年のミラノ、ローマ紀行でもいろいろ紹介しているところです。

 

モランディは、故郷からほとんど出ることなく、ひたすら瓶や水差しの絵を描いた画家として知られています。中には、同じような絵もあり、2つ並べると間違い探しのような感じもします。今回の企画展に際しても、「すこしちがう すごくちがう」というキャッチコピーが用いられています。いろいろ見ていますと、サイロのような変わった形の容器があったり、伸縮自在の不思議な器が描かれていたり、影のつけ方に特徴があったり、瓶についてホコリに特徴があったり、およそ実際にはありえない瓶の配置(テーブルから容器が落ちてしまうような配置)があったり、瓶と瓶との間に微妙な距離が置かれたり、間にリボンのようにつなぎ合わせるように見える器が置かれてたりと、いろいろ工夫がされていることを知りました。何でも瓶のホコリはとても貴重で、誰もモランディの瓶のホコリを掃除してはいけなかったそうです。

 

モランディが瓶だけではなく、瓶のような没個性的で空間表現しかされていない風景画や花の絵も描いているということは今回初めて知りました。

 


新宿風景展(中村屋サロン美術館)

2016年03月14日 | 美術道楽

3月13日まで中村屋サロン美術館で開催していた「新宿風景展」に行きました。

油彩画は佐伯祐三のほか、名前を知らなかった刑部人という画家の作品の合計2点のみの展示ではありました(刑部の作品は描かれた年さえ不明でした。)。

大半の作品は、新宿の昔の景色を描いた堀潔の絵葉書でした。それはそれで、昔の景色を知ることができたり、思い出すことができたりと興味深く見ました。

このほか、歌川広重や川瀬巴水の版画もありました。広重の作品は、市ヶ谷八幡や内藤新宿を描いた作品が展示されていました。内藤新宿の作品は、巨大な馬が描かれているのが有名ですが、馬糞まで描かれています。

 

江戸時代まで遡って、今自分の住んでいる近辺の景色の版画を見ることができるのは、楽しいものです。


カラヴァッジョ展(国立西洋美術館)

2016年03月13日 | 美術道楽

国立西洋美術館で開催中のカラヴァッジョ展に行きました。

2001年に東京都庭園美術館でカラヴァッジョ展が開催されて以来、久しぶりの回顧展になります。

 

今回、カラヴァッジョの作品は、以下のものが展示されています。

《女占い師》(ローマ、カピトリーニ美術館)

《トカゲに噛まれる少年》(フィレンツェ、ロベルト・ロンギ美術史財団)

《ナルキッソス》(ローマ、バルベリーニ宮国立古典美術館)

《果物籠を持つ少年》(ローマ、ボルゲーゼ美術館)

《バッカス》(フィレンツェ、ウフッツィ美術館)

《マッフェオ・バルベリーニの肖像》(個人蔵)

《エマオの晩餐》(ミラノ、ブレラ美術館)

《メデゥーサ》(個人蔵)

《洗礼者ヨハネ》(ローマ、コルシーニ宮国立美術館)

《法悦のマグダラのマリア》(個人蔵)

《エッケ・ホモ》(ジェノヴァ、ストラーダ・ヌオーヴァ美術館ビアンコ)

 

カラヴァッジョの11作品をいっぺんに見られるなんて、とても貴重な機会です。しかも、個人蔵の作品などは、この機会を逃すともう一生見られないと思いますと、特に熱心にみてしまいます。《マグダラのマリア》は、最近になってカラヴァッジョの真筆であることが確定した作品で、しかも、一般公開は世界初ということです。《マグダラのマリア》は、お尋ね者のカラヴァッジョが、恩赦を得るための切り札として描いた絵ということです。マグダラのマリアは、娼婦としての過去を悔い改め、聖女となっているので、カラヴァッジョはこの絵をシピオーネ枢機卿に寄付することによって、自分も悔い改めるので、恩赦をしてほしいと訴えたかった模様です。

《洗礼者ヨハネ》に描かれたヨハネのポーズは、17世紀初めにローマで発掘された著名な古代彫刻《瀕死のガリア人》に基づくといわれています。カピトリーニ美術館に展示されている彫刻のことと思います。

 

世界初の公開ということもあり、《マグダラのマリア》の前は人込みで一杯ですし、それだけではなく開館前から国立西洋美術館の前には開館前から長蛇の列ができるほどの人気です。

 

私は、昨年ミラノ、ローマを訪れていたので、《女占い師》、《ナルキッソス》、《果物籠を待つ少年》、《エマオの晩餐》は見てから1年も経たないうちに「再会」することができました。また、もう13年も前になりますが、フィレンツェを訪れた際にもウフッツィで《バッカス》は見ていたので、この絵とも「再会」できましたし、今回展示のものとは違う作品の《メデゥーサ》(個人蔵)も見たことがありましたので、「再会」に近い気持ちとなりました。今回、ローマのコルシーニ宮国立美術館やジェノヴァのストラーダ・ヌオーヴァ美術館など行っていないところの絵も見られてとてもうれしくなりました。

 

カラヴァッジョ作品以外の作品でも、バルベリーニで見たベルニーニ《教皇ウルバヌス8世》を初め、イタリア各地から優れた作品が来ています(グエルチーノもあれば、ドメニキーノもあります。)。国立西洋美術館のラ・トゥールやグエルチーノ作品も展示されています。

また、カラヴァッジョの非行の記録や、ライバルとの裁判の記録なども、合間合間に展示されており、意外な見どころです。

 

おそらくは、2016年の美術展の中では、最も印象に残る美術展になりそうな雰囲気です。

今回、石鍋先生の講演を挟んで、合計3回会場を1周して、目を皿のようにしてみましたが、後、最低2回は訪れようと思います。

また、改めてカラヴァッジョの絵画を見るために「巡礼」をしたくなりました。ただ、イタリア周辺ですと、残るはナポリ、シチリア、マルタになってしまい、いささかハードルを感じなくもありません。今回の企画のパネルでドイツのポツダムの絵画館にもあることを知りましたが、ポツダムも何回か出かけている割には、1日でサンスーシーとツェツィリエンホーフの両方を回ったせいか、絵画館には一度も行っておりません。こちらも、ぜひ訪れたくなりました。

 


カラヴァッジョ展記念講演会「カラヴァッジョの真実」(国立西洋美術館)

2016年03月12日 | 美術道楽

国立西洋美術館でカラヴァッジョ展が開催されているのに合わせて、成城大学の石鍋真澄先生により「カラヴァッジョの真実 カラヴァッジョとはどんな男だったのか」と題する記念講演会が開催されました。

 

項目としては、

1 カラヴァッジョの犯科帳

2 カラヴァッジョの剣

3 カラヴァッジョのライバル

4 カラヴァッジョの女

5 騎士カラヴァッジョ

6 カラヴァッジョはどんな男だったのか。

といった内容です。

 

最初にカラヴァッジョの年譜や逃亡の軌跡が紹介されました。カラヴァッジョがミラノを出たのは1592年、ローマに到着したのは1595年ということで、ローマに到着した時期は従来考えられていた時期より遅く、ミラノからローマまでの期間は空白の3年間があるということです。

 

1では、カラヴァッジョが殺人で追われることになった事件も含め、カラヴァッジョが関与したとしされている事件が紹介されました。カラヴァッジョは、パトロンの枢機卿を初め、当代一流の知識人と交流を持つ一方、金が入れば夕刻からは遊興仲間とつるんで酒場に繰り出し、売春宿の経営者を初めアンダーグランドの仲間とも交流を持つという両極端の交遊関係を持っていたようです。ただ、カラヴァッジョが人殺しとなった事件は、徒党を組んでの私闘で、カラヴァッジョとしてもあまり罪の意識もなかったのではないかということでした(にもかかわらず、処罰はカラヴァッジョ側に重かったようです。)。

 

カラヴァッジョを語る上で、3つのキーワードがあるそうで、それが剣、ライバル、女ということです。

2の剣に関して言えば、カラヴァッジョは剣が大好きで、相当執着もあったようで、剣の不法所持の記録が複数あるようです。カラヴァッジョの絵の中には、カピトリーニ美術館の《女占い師》、ローマのポポロ教会チェラージ礼拝堂の《聖パウロの回心》、マルタのサン・ジョヴァンニ聖堂にある《洗礼者ヨハネの斬首》のように剣の描かれたものもあるということです。もっとも剣が好きだったのはカラヴァッジョだけではないようで、ライバルのパリオーネも剣が大好きであったようです。

3のライバルということですと、上記のようにパリオーネの名前が上がります。パリオーネとは裁判闘争もしたとか。パリオーネを誹謗する詩というのを紹介されましたが、何だか放送禁止用語もあり、お下劣な感じです。ただし、この詩がカラヴァッジョの作と断定する証拠もないようです。

4の女ということであれば、カラヴァッジョがモデルとしていた娼婦に関心を示した公証人を襲撃したり、これまた娼婦の元締めと私闘の上で殺害したりと、やはりいろいろあるようです。

 

5についていえば、カラヴァッジョはその後マルタ騎士団に入りながらも、再び事件を起こして、収監され、今度は脱獄までしてしまい、騎士としての身分をはく奪されてしまいます。

 

6についていえば、同性愛者としての疑惑についても説明がありましたが、同時にタフな男としてのイメージも伝わってきました。カラヴァッジョは、絵の技法についてうんちくを垂れるような人物ではなく、いい絵であればそれ以上何の説明が必要なのかと言いそうな人物のようです。

 

予定時間を15分もオーバーし、カラヴァッジョの人生と作品をほぼ網羅した講演でした。ちょうどこの講演のあった今日、石鍋先生のカラヴァッジョ伝記集 (平凡社ライブラリー) が刊行され、こちらの本も買いましたので、読んでみたいと思います。

 


マウスの誕生日

2016年03月07日 | ドイツ語

マウスのクイズです。

どの有名なネズミが今日、誕生日ですか?

答えはDie Maus.

 

45年前の1971年3月7日、ドイツのARDにDie Mausが登場しました。

そのネズミが出てくる番組が、現在まで続くDie Sendung mit  der Maus「マウスと一緒の番組」です。

 

今年もマウスの誕生祝をしました。 

ケーキは、神楽坂にあるle Pommierで買いました。

普段よく出没するあたりにあるので、一度買いたいと思っていたのですが、以前にも行ったことのある麻布十番の店の姉妹店でした。

写真があまりよく撮れていないのですが、素材を贅沢に使って丁寧に作り上げたおいしいケーキでした。

 


Jenůfa(イエヌーファ)(新国立劇場)

2016年03月06日 | オペラ道楽

新国立劇場で上演中のイエヌーファを見ました。

今回の演出は、クリストフ・ロイによるもので、2012年3月4日にベルリンのDeutsche Operで新演出上演されたものと同様ということです。今回の主要キャストも、シュテヴァを演じるジョゼフ・カイザー以外は、Deutsche Operで上演された時の歌手が来日しているということです。

 

初めてみるオペラで歌も音楽も知らないものばかりでした。

その意味でなじみはないのですが、とても演劇性の高いオペラで、舞台の展開から目が離せません。

演出はとてもシンプルながら興味深いです。

 

第1幕目、前奏曲もないまま静かに幕が上がり、最初に登場するのは、イエヌーファの継母のコステルニチカです。男性に付き添われて、舞台となっている白い空間の中に入ってきます。スポーツバックのような黒っぽい大きなカバンを持っていて、ホテルの部屋に泊まりに来たような雰囲気ですが、コステルニチカはカバンを置いた後も茫然自失と立ち尽くしています。

そして、そこにコステルニチカの義母で、イエヌーファの祖母であるブリア夫人(イエヌーファと交際しているシュテヴァの祖母。つまりイエヌーファとシュテヴァはいとこ同士。)が現れたり、粗野な振る舞いのラツァ(シュテヴァの母の連れ子)が現れたりと、コステルニチカを置いてきぼりにしたままストーリーは展開します。後でわかるのですが、この演出ですと、物語はすべての事件が起こってしまった後の収監中のコステルニチカの回想ということなのでしょうか。

ラツァはとても粗野で、身勝手で嫉妬深く、シュテヴァに恋するイエヌーファに執心のあまり、誤ってナイフで顔を傷つけてしまいます。

第1幕の舞台は一貫して白い部屋のような空間ですが、その奥の扉が開いたときには、麦畑?と思われる秋の収穫の景色が広がっています。

 

第2幕目では、既にイエヌーファがシュテヴァの子を出産した後のストーリーです。コステルニカは、イエヌーファのためといい、最初にシュテヴァに接触します。シュテヴァは産まれた子のために金銭は払うといいながら、イエヌーファとの結婚は拒否し、第1幕とは一転して、顔に傷のあるイエヌーファに魅力はない、コステルニカは魔女みたいと言います。次にコステルニチカは、ラツァに子持ちのイエヌーファを押し付けようと接触します。ラツァはイエヌーファとの結婚には乗る気ですが、義理の弟シュテヴァとイエヌーファとの間の子を押し付けられることに躊躇します。そこで、コステルニチカは、とっさに子はとっさに死んだと説明してしまい、結局、そのとおりの事実を作り出すために、あの舞台にあった黒っぽいカバンに眠っているイエヌーファの子を押し込み、外に持ち出し、そのまま殺害します。

きっと、ラツァが冷静になるのを待って説得すれば、当初のプランのように子持ちのイエヌーファをそのまま押し付けられたでしょうに、コステルニチカのとっさの嘘が生んだ悲劇です。

シュテヴァの身勝手さは当然なのですが、ラツァも身なりは整えて、反省の言葉とイエヌーファへの愛をうたいますが、それでも立ち居振る舞いはまだ粗野のままで言動も感情的なところがあり、成長はし切れていません。

舞台には、第1幕に引き続き黒っぽいカバンが置かれているので、観客としてもコステルニチカの犯してしまった所業に目を向けざるを得なくなります。

舞台奥に見える外の美しい雪景色(ドクトル・ジバゴの場面のようです)が、何ともさびしいものに見えてきます。

 

第3幕でも舞台装置は変わりませんが、場面はイエヌーファとラツァの結婚式となります。ここでは、既にカバンは置かれていません。

春の雪解けとともに遺体が発見され、コステルニチカの犯罪を含め、すべての出来事が露見します。

結婚式の最中であったのに、客も皆去り、シュテヴァが村長の娘と結婚する話も破談となり、結婚式の場面からはラツァとイエヌーファを除きすべての人々が去ります。

そして、最後にラツァとイエヌーファは愛を確かめ合って、舞台の奥へと消えていきます。

 

義理の娘のことを思うといいながら、最終的には自分の体裁ばかり考えているコステルニチカの思いがすべての災いにつながっていくストーリーの展開が切ないです。オペラの中の場面にはありませんが、コステルニチカの亡夫も、その兄弟でシュテヴァの亡父もいずれもアル中であったということです。

 

事前に今回の演出では、登場人物が人間的に成長していくという要素を意図的に排除している、幕が閉じるまで暗澹とした話であると聞いていたのですが、実際に見てみますと、なるほどシュテヴァは最初から最後まで身勝手な男ですが、最後には一応の苦悩も見られましたし、ラツァはイエヌーファに結婚を申し込む第2幕になってもまだ粗野な振る舞いがありましたが、第3幕にはそのような要素もなくなり人間的な深まりが見えるような気がしました。これであれば、ラツァとイエヌーファの将来にも、薄明りだけはみえるのではないかと思いました。

 

 

 

イエヌーファの舞台は、チェコのモラヴィア地方です。イエヌーファが最初に上演されたのも、モラヴィア地方の都市ブルノです。ブルノは、チェコ第2の都市で、憲法裁判所、最高裁判所、最高行政裁判所など司法の中枢が集中している都市です。社会主義のチェコスロバキア時代には、ブルノはプラハ、ブラチスラヴァに次ぐ第3の都市でありまして、憲法裁判所の所在地として、プラハでもブラチスラヴァでもないブルノが選ばれ(ただし、ブルノは、第一次世界大戦後にオーストリアから独立して成立した第一共和制時代にすでに最高裁判所の所在地でもありました)、チェコとスロヴァキアが分離した後も、憲法裁判所はそのまま残っているのです。また、ブルノに最高行政裁判所があることと無縁ではないのかもしれませんが、ドイツのライプチヒ(連邦行政裁判所の所在地)と姉妹都市です。

 

 

閑話休題。イエヌーファは、暗い内容のオペラで、日本ではあまり知られていないオペラではありましたが、ほぼ満員に近い盛況でした。

日本でもオペラという文化がかなり根付いているのだと感じた次第です。

 

あらすじ

 

第1幕

製粉所を経営するブリヤ家の孫娘イェヌーファは、従兄で製粉所の若き当主シュテヴァと結婚予定。実は密かに彼の子を身籠っている。徴兵検査から戻ったシュテヴァは酔って大騒ぎ。そこにコステルニチカ(教会の女性)と呼ばれるイェヌーファの継母が現れ、「ブリヤ家の男は酒飲みで苦労するから、結婚はシュテヴァが1年間酒を絶ってから」と命じる。

不安になるイェヌーファにシュテヴァは「君のバラ色のりんごのような頬はこの世で一番美しい」と褒める。その様子をラツァが見ていた。シュテヴァと異父兄弟のラツァも彼女を愛している。「シュテヴァが彼女の頬しか見ていないなら、それが消えると......」そう思ったラツァはナイフで彼女の頬を切ってしまう。

 

第2幕
イェヌーファの妊娠を知ったコステルニチカは、彼女を家に隠し続ける。そして1週間前に男児が誕生。体調の悪いイェヌーファが眠る間に、コステルニチカはシュテヴァを呼び出す。彼は、「バラ色のりんごの頬も消え、性格も変わった彼女とは結婚できない、村長の娘カロルカと婚約した」と言い、金を置いて去る。その後ラツァが来てイェヌーファとの結婚を懇願。ならば、とコステルニチカは赤ん坊のことを打ち明けるが、葛藤するラツァを見て、「でも死んだ」と嘘をつく。嘘を誠にするためコステルニチカは赤ん坊を抱いて外に出る。目覚めたイェヌーファは、「熱で2日寝込んだ間に息子は死んだ、シュテヴァは別の女と結婚する」と言われ呆然。ラツァは彼女に結婚を申し込む。


第3幕

イェヌーファとラツァの婚礼の日に、用水路の氷の下から凍った赤ん坊が発見される。それはイェヌーファの息子だった。人々はイェヌーファを責めるが、コステルニチカが自分の仕業だと告白する。大きな不幸を背負ったイェヌーファはラツァに別れを告げるが、それでも共に人生を歩みたいとラツァは言う。

2人は苦難を乗り越え、共に生きていくことを誓うのだった。

 

指揮:トマーシュ・ハヌスTomáš Hanus

演出:クリストフ・ロイ: Christof Loy

美術:ディルク・ベッカー Dirk Becker

衣裳:ユディット・ヴァイラオホJudith Weihrauch

照明:ベルント・プルクラベク Bernd Purkrabek

振付:トーマス・ヴィルヘルムThomas Wilhelm

演出補:エヴァ=マリア・アベラインEva-Maria Abelein

ブリヤ家の女主人:ハンナ・シュヴァルツHanna Schwarz

 ラツァ・クレメニュ:ヴィル・ハルトマンWill Hartmann

シュテヴァ・ブリヤ:ジャンルカ・ザンピエーリGianluca Zampieri

コステルニチカ:ジェニファー・ラーモアJennifer Larmore

粉屋の親方:萩原 潤

村長:志村文彦

村長夫人:与田朝子

カロルカ:針生美智子

羊飼いの女:鵜木絵里

バレナ:小泉詠子

ヤノ:吉原圭子