新国立劇場でオペラ・アンドレア・シェニエを見ました。
2010年に上演されたものを、キャストを変えた上で再演したものです。
シンプルな舞台ながら、興味深い演出です。
幕はギロチンの刃からとった斜め形にしてあり、左右に幕が開閉します。
幕の内側の幕もギロチンの刃のように斜めの形で下に降りてきます。第1幕と第2幕の幕間では、ギロチンが2の累乗形式で、2,4,6,8,16,32・・・と次々と増殖していく映像が流れ、血の粛清の連鎖という恐怖政治の実態を語りかけてくれます。
それと、舞台が最初から最後まで歪んでいて、水平方向にならず、セットがみな傾いているのも、当時の不安定な情勢や登場人物の歪んだ心情をうまく表していると思います。
台詞はありませんがロベスピエールも後ろ姿で第2幕に登場します。肖像画でみられる髪型が特徴的です。サン・ジュストはいなかったようです。そのほかにもヴァルミーの戦いの勝者デュムーリエ将軍など、実在の人物の名前もちらほら出ます。
音楽にもラマルセイエーズのおしまいの方にあるmarchons, marchonsの部分のメロディーも入ります。
第1幕では、マッダレーナの属する貴族階級のノー天気な様子が描かれます。詩人であるアンドレア・シェニエが民衆の困難な生活を歌っても、貴族階級は全く意に介せず、気分を損ねるだけです。マッダレーナの父に至ってはケーキを食べ続けるなど飽食の限りを尽くしています。
第2幕になりますと、既に王制は廃止されているどころか、王も処刑され、舞台はロベスピエールの恐怖政治の時代になっています。革命裁判所の検事アントワーヌ・カンタン・フーキエ=タンヴィルの密偵も暗躍しています。
第3幕では、革命裁判所が舞台となります。ジェラールは、マッダレーナを手に入れるためにシェニエを消すべく、シェニエの起訴状を書きますが、マッダレーナの愛の深さに心を打たれ、裁判では虚偽の起訴状を書いたと述べますが、シェニエはそのまま死刑になります。
第4幕では、シェニエを助ける術のないマッダレーナは、他の死刑囚と入れ替わりシェニエと共に死刑になることを選びます。
第3身分の苦しみを全く理解しない、ノー天気な貴族と恐怖政治の血の連鎖の両方がうまく描かれている演出と思いました。
シェニエやマッダレーナの歌がとても素晴らしく、いいオペラです。
主要なキャスト3人はとても素晴らしかったですし、それ以外の歌手も頑張っていたと思います。オケも頑張っており、楽しむことができました。
【指揮】ヤデル・ビニャミーニ
【演出・美術・照明】フィリップ・アルロー
【衣裳】アンドレア・ウーマン
【照明】立田雄士
【振付】上田 遙
【再演演出】澤田康子
【舞台監督】斉藤美穂
キャスト
【アンドレア・シェニエ】カルロ・ヴェントレ
【マッダレーナ】マリア・ホセ・シーリ
【ジェラール】ヴィットリオ・ヴィテッリ
【ルーシェ】上江隼人
【密偵】松浦 健
【コワニー伯爵夫人】森山京子
【ベルシ】清水華澄
【マデロン】竹本節子
【マテュー】大久保 眞
【フレヴィル】駒田敏章
【修道院長】加茂下 稔
【フーキエ・タンヴィル】須藤慎吾
【デュマ】大森いちえい
【家令/シュミット】大久保光哉
【合唱指揮】三澤洋史
【合唱】新国立劇場合唱団
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団
【芸術監督】飯守泰次郎
あらすじ
【第1幕】革命前のパリ。宴の準備が進むコワニー伯爵家では、父と共に奴隷のように仕える従僕ジェラールが貴族制度への不満を募らせていた。一方で彼は伯爵家令嬢マッダレーナを密かに愛している。宴が始まり、マッダレーナの求めに応じて客のひとり、詩人アンドレア・シェニエが愛の詩を即興で読むが、それは貴族制度を批判する内容でもあった。マッダレーナは大きく共感。ジェラールも己の使命を悟り、従僕の衣服を脱ぎ棄て、館から去る。
【第2幕】革命から5年後。ロベスピエールの恐怖政治が敷かれるパリ。「革命の敵」と疑われ密偵に監視されるシェニエは、友人に国外脱出を勧められるも、何度も受け取る匿名の手紙の主が気になって仕方がない。その人は実はマッダレーナで、出会った2人は愛を誓う。革命派幹部になったジェラールも彼女を忘れられず、居場所を探し出して彼女を捕らえようとしたとき、傍らの男と決闘。重傷を負うが、その男がシェニエだとわかり2人を逃がす。
【第3幕】革命裁判所の大広間。シェニエ逮捕の一報が入り、これでマッダレーナが自分のものになると満足したジェラールは起訴状を書き始めるが、ふと我に返り、かつて貴族の奴隷だった自分は今や情熱の奴隷になってしまったと愕然とする。ジェラールの前に連れてこられたマッダレーナは、自分を差し出す代わりにシェニエを救ってほしいとお願いする。シェニエが入廷し、自分は愛国者であり決して裏切り者ではないと主張。マッダレーナの願いを受けたジェラールも、彼への罪状は間違いだったと訴えるが、シェニエに死刑判決が下される。
【第4幕】サン・ラザール監獄の中庭。辞世の詩を読むシェニエ。そこに、彼と死ぬために女囚と入れ替わったマッダレーナが来る。ジェラールは2人を救うためロベスピエールのもとへ走るが、2人は愛を誓い断頭台へ向かう。