国立西洋美術館で開催中のボルドー展に行きました。
「○○○(都市の名前)+展」というのは、どうも胡散臭い印象を受けてしまいます。
要するにその都市にかかわるものであれば、何でもOKとなってしまうのですから。また、デパートの物産展のように、物を売っているのではないかというイメージも与えます。
今回はボルドー展。ワインの展示即売会のようなイメージがありますが、果たしてどうなることら。
まずは国立西洋美術館のHPから開催の趣旨を引用します。
(引用始め)古代ローマ以来の伝統を誇るワインの生産と海洋貿易がもたらした富を背景に、洗練された独自の都市文化を育んできたフランス南西の港町ボルドー。大西洋のほど近く、ガロンヌ河の流れに沿って三日月のかたちに発展したことから「月の港」とも呼ばれたこの町は、18世紀に繁栄を極め、パリに100年先立って都市整備が進められ、壮麗な古典主義・新古典主義の建築が立ちならぶ景観美をつくり上げました。ボルドー市の全面的な協力を得て実現した本展は、先史時代から現代まで、ボルドーの悠久の歴史と美術を展観するものです。ドラクロワやルドン、ゴヤをはじめ、町にゆかりのある数々の画家や作品を紹介するとともに、名高い《角を持つヴィーナス(ローセルのヴィーナス)》をはじめとする貴重な考古・歴史資料から、在りし日の市民生活を物語る数々の装飾芸術品まで幅広い展示をおこないます。200点を超える多様な作品・資料を通じて、ボルドーをボルドーたらしめているワインとのつながりを道標べに、芳醇なる都市の歴史を旅します。(引用終わり)
全体の構成は、
プロローグ
第1章 古代のボルドー
第2章 中世から近世のボルドー
第3章 18世紀、月の都ボルドー
第4章 フランス革命からロマン主義へ
第5章 ボルドーの肖像―都市、芸術家、ワイン
エピローグ 今日のボルドー
と分かれます。
プロローグでは、紀元前2万5000年もの太古の《角を持つヴィーナス(ローセルのヴィーナス)》が展示されます。ラスコーの洞窟からわずかしか離れていないところから発見されたものとのことで、乳房や腹部などが強調された、いかにも多産や豊穣のイメージを盛り込んだ像という印象を受けます。
第1章では、ローマ帝国の時代に遡るボルドーの歴史がひもとかれます。ボルドーの歴史は、紀元前1世紀にガリア人がガロンヌ河畔に「ブルディガラ」を建設したことに始まり、古代ローマの属州アクィタニアの中心地として発展したということです。この章では、《少女の墓碑》が印象に残りました。ローマ帝国時代の裕福な商人が、自分よりも先に逝ってしまった娘を弔うために建立した墓の墓碑が展示されています。そこには、大事そうにペットのワンちゃんを抱く女の子と、何故かそのワンちゃんのしっぽが下まで低く垂れ下がり、そのしっぽを鶏がガブッとかぶりついている姿が刻まれています。きっと、ペットの犬が大好きなお嬢さんで、あるときその犬のしっぽを鶏がかみつき、家族で大笑いをしたといったエピソードがあったのでしょう。そんなエピソードをひとまとめにして墓碑にした姿を見ていますと、娘の死を悼み、生前の楽しかった出来事を墓碑に記録しようとするローマ時代の人々の親心まで伝わってくるように思います。
第2章では、英仏百年戦争の時代のボルドーの歴史も解説されています、ボルドーはイングランド領となり、ボルドーの紋章には英王室の紋章である3頭のライオンも描かれていたそうです。
第3章から次第に文物と絵画の紹介が増えます。エセーを著したモンテーニュも「法の精神」を著したモンテスキューボルドー近郊出身ということで、エセーや法の精神のノートも展示されているほか、テーブル、陶器類等の展示もあります。この章の見所は、ピエール・ナルシス・ゲランの《フェードルとイポリット》ですが、ほかにもシャルダンの絵などが音声ガイドにも載らないまま、ひっそりと展示されています。
第4章では、フランス革命期のボルドーの歴史が語られます。ナポレオンの経済政策(おそらくは大陸封鎖令のことと思われる)が、ボルドーの経済には大きなダメージであったので、ボルドーは王政復古を望む声が高く、ブルボン王朝の末裔の人気が高かったことなどを知りました。1830年の7月革命でシャルル10世の復古ブルボン朝が打倒され、ルイ・フィリップが王となった後も、ブルボン朝の末裔を王にと望む声がボルドーでは強かったことなどを知りました。
この章では、ペルジーノほかの《玉座の聖母子と聖ヒエロニムス、聖アウグスティヌス》、ルーベンス《聖ユストゥスの奇跡》、ドラクロワ《ライオン狩り》、ルドン《ライオン狩り》(ドラクロワの作品の模写)など、見所満載です。
第5章ではワインのエチケットを含め、アール・デコの作品が紹介され、ザッキンの彫刻作品まで紹介されます。
エピローグでは昔、港の倉庫であった場所が、現代造形芸術センター(CAPC)となり、さらにCAPCボルドー現代美術館へとなっているのですが、その場所において改修中にジョルジュ・ルースが制作した一連の写真が紹介され、締めくくられます。
最初の方の作品は、しっぽを噛まれたワンちゃんの作品以外にはあまり興味がわかなかったのですが、中盤から後半の途中までの作品はすごいです。ルドン、ゴヤ、ロートレックなどの作品もあります。
最初はともかく、中盤以降はゆっくりと時間をとって丁寧に見たい美術展です。
なお、ミュージアムショップではやはりボルドーワインを売っていました。