道楽ねずみ

ドイツに関するものを中心に美術展,オペラ,映画等の趣味の世界を紹介します。

建武・建炎・景炎の3つの元号―再起への思い

2014年12月31日 | 衒学道楽
あと数時間で今年も終了です。
正直なところ悪夢のような一年でありましたが、家族も自分も無事であることに感謝です。
恒例のように穴八幡に参拝し、夏目坂にある中村屋で年越し蕎麦をいただきました。




来年は、今年の閉塞した気持ちを一新したいところです。


ところで、西漢が王莽の簒奪によって中断した後、東漢の初代皇帝として即位した光武帝は、年号を「建武」としました(因みにその顰みにならって、周囲の止めるのも聞かずに元号を「建武」と改め、失政を繰り返し、文字通り武士を建てる結果を自ら招いたのが、あの「建武の新政」の後醍醐天皇でした。)。
また、北宋が靖康の変によって滅亡した後、再興された南宋は、元号を「建炎」としました。五行思想によれば、宋王朝は火徳をもって天下をとったと考えられていたから、再度「炎」を起こす必要があると考えられたからです。
そして、南宋の首都臨安が元の手に落ちると、南宋は今度は元号を「景炎」とし、「建炎」の時と同じようになることを夢見ました(その夢が実現しなかったのは歴史のとおりです。)。

元号制は過去の旧弊で直ちに廃止すべきと考えている自分におよそ縁のないことですが、過去の元号に込められた再起への期待に思いをはせてみました。

来年1年間、自分としては、自分の健康と能力に相応しい身の丈にあった慎ましい暮らしをしたいと思ております。

2014大回顧展その2(印象に残った美術展10)

2014年12月30日 | 美術道楽
恒例の美術ランキングのシーズンになりました。
私のような美術に詳しくもない好事家がランキングをつけること自体が傲岸というほかないのですが、それでも自分の好みだけを基準にメモを作成する程度の趣旨で、今年も行ってみようかと思います。
中にはブログの中で紹介することもできなかったものもありますが、とりあえずランキングだけは書いて見たいと思います。
例年と同様独断と偏見によるもので、公平なものとはいえません。

第1位 現代美術のハードコアはじつは世界の宝である展―ヤゲオ財団コレクションより(東京国立近代美術館)
このランキングが、私の独断と偏見によるということならではです。
この美術展本当に好きでした。台湾のヤゲオ財団の私蔵コレクションで、経営者一族の世界各地の自宅に飾られている作品とか。リヒターとロスコ、バゼリッツとキーファーがそれぞれ同じ部屋に展示されていましたが、その空間でずっと過ごしていたくなりまして、毎日30分ずつでもここで過ごせたらどれだけいいのにと思いました。また、個人蔵でもう見られないかという思いもあり、結局 、都合7回通うことになりました。巡回中でまだどこかで展示中の展覧会です。

第2位 チューリッヒ美術館展(国立新美術館)
こちらは結局ブログで紹介していない状態です。チューリッヒ美術館の「マスターピース」が来るという売りで宣伝していまして、マスターピースなんて高級コンドミニアムの宣伝みたいと思っていましたが、期待を全く裏切りませんでした。エルンスト・バルラッハやアルベルト・ジャコメッティ(すみません別に彫刻家だけがいいわけではありません。)、キルヒナー、モンドリアンといった最初から興味が沸きそうな作家のものはいうに及ばず、あまり自分としては関心の乏しいクレーやモネなども本当にいい作品が来ていました。ココシュカの作品もアルマ・マーラーへのおそれがにじみ出た作品などとても興味深く思いました。現代美術大好きという自分の好みを除けば、文句なしにこちらが一位になるべきものと思います。

第3位 ヴァロットン展(三菱一号館美術館)
 作家一人に焦点をあてた回顧展では何といってもこれです。不穏な雰囲気を称えた絵、コミカルな「ペルセウスとアンドロメダ」、禿頭の年寄りがとてもスケベっぽい「貞淑なシュザンヌ」などとても印象的です。ヴァロットンの家族の風景画もとても強烈でした。版画も表現力ゆたかでとても良かった。
 日本であまり知られていないヴァロットンを一躍有名にし、これだけ強烈な印象を残したこの企画展は本当に素晴らしいです。工夫という面では文句なしに一番の企画展と思います。

第4位 フェルディナント・ホドラー展(国立西洋美術館)
 今年は何といってもスイス年です。ヴァロットンも素晴らしいのですが、こちらも良かったと思います。オイリュトミーなどの人物の不思議な動きの絵も山の風景も関心が持てました。恋人の死を描いた絵は、昔バーゼルで何度となく見たホルバインの「墓の中の死せるキリスト」から影響を受けたものとすぐに分かりました。この恋人の死を描いた絵と同じような輪郭を使って山の絵まで描いているのには驚きました。
 来年また出かけます。

第5位 オルセー美術館展(国立新美術館)
 オルセー美術館の所蔵品の雰囲気を味わうことができました。クールベの「市から帰るフラジェの農民たち」を見てれば「オルナンの埋葬」にも思いをいたすことができますし、モネの「草上の昼食」を見ればマネの同名の絵画に思いをいたすことができます。個々の作品も良いのですが、そうした工夫も良かったと思いました。マネのアスパラガスの絵がとても気に入りました。

第6位 だまし絵Ⅱ(渋谷Bunkamuraザ・ミュージアム)
昔企画展であった「だまし絵」の続編です。「だまし絵Ⅱ」と題しながらも、その実態は、現代アートのオンパレードです。ですから私にとってはお気に入りでした。トーマス・デマンド、ゲルハルト・リヒター、ミロ、ダリなど見ていて飽きませんでした。

第7位 台湾国立故宮博物院展(東京国立博物館)
 台湾から白菜と豚の角煮が来るというので話題が持ちきりでした。上野で白菜が展示された際には、大混雑で一時期は4時間待ち。それだけ待つなら台湾まで行って見ればいいじゃないかと話題になった展覧会でした。展示作品を選んだいい企画展でした。私がとても感激でしたのは四庫全書、永楽大典、それと雍正帝による朱批奏摺でした。
結局、10月に九州国立博物館には行くことができなくなり、豚の角煮は見ることができなくなったのは残念でした。

第8位 世紀の日本画(東京都美術館)
 前期と後期に分かれて総入れ替えの企画展でした。日本美術院の再興から100年にあたるのを記念して、前史としての東京美術学校設立から、現在に至るおよそ130年の活動を振り返る展覧会として開催され、数々の著名な日本画家の作品が展示されました。
 私が気に入ったのは何といっても小倉遊亀の「径(こみち)」です。軽快な足取りで歩くワンちゃんの魅力に吸い寄せられて、クリアファイルまで買いました。

第9位 ウフッツィ美術館展(東京都美術館)
 これもこんな下の順位では申し訳ありません。ドメニコ・ギルランダイオやフィリッポ・リッピから始まり、ボッティチェリを経てジョルジョ・ヴァザーリまでのルネッサンスの絵画を一望することができました。残念ながらルネッサンスの三大巨匠の作品はありませんでしたが、夜の美術館で、作家や作品の解説の情報を読まずに数々の絵のみを見つめていますと、何ともいえない至福の時を過ごすことができました。私としてはギルランダイオ、フィリッポ・リッピ、アンドレア・デルサルトの作品がとても素晴らしく思われました。

第10位 デュフィ展(渋谷Bunkamuraザ・ミュージアム)
デュフイの明るい作品が確立するまでの様子を知ることもでき、とても興味深く思われました。「電気の精」という作品が面白かったほか、島根県立美術館の「ニースの窓辺」にも再会することができました。

番外編 
横浜トリエンナーレ2014(横浜美術館ほか)
今年は横浜トリエンナーレ開催年でした。森村泰昌がアーティスティック・ディレクターとなり、閉会式まで数々のパフォーマンスもありました。
 現代アートの取っつきにくさを取り払おうとする努力も一応好意的に受け止められるかと思います(ただし、いささか説明過剰なのは閉口し、もう少し鑑賞者に判断させてくればいいのにという思いも残りました。)。


アンディ・ウォーホル展(森美術館)
 ウォーホルの自画像や作品を製作するスタジオの再現など興味深く思われました。

バルテュス展(東京都美術館)
 はっきりいって好きではない絵でした。それでも、物議を醸し出しそうな絵の多いこの画家を敢えて取り上げて回顧展を開いたことには敬意を表したいと思います。
 バルテュスが、性器を露出した少女の絵を描くばかりか、少女という存在を「これから何かになろうとしているが、まだなりきってはいない。この上なく完璧な美」と言いながら、ロリコンではないと強弁しているというのは笑えました。バルテュスの場合,結婚それ自体も犯罪的で、彼がロリコンであることの最大の証拠のようなのですが。

ラファエル前派展(森アーツセンターギャラリー)
 ミレイの「オフィーリア」、ウィリアム・モリスの「麗しのイズー」もいいのですが、何といってもダンテ・ゲイブリエル・ロセッティの「プロセルピナ」です。プロセルピナ(ペルセポネー)のモデルは、ウィリアム・モリスの妻とジェーン・バーデンであり、この絵はモリスとロセッティの間で、揺れ動くジェーンの難しい立場を表現しているということです(見た者を釘付けにするような妖艶な女性で、いかにもfemme fataleというイメージでした。)。
 絵も良かったのですが、ラファエル前派のメンバーの、錯綜したドロドロの男女関係図に興味を惹かれました。

2014大回顧展(印象に残ったオペラ3)

2014年12月29日 | オペラ道楽
2014年ももう終わろうとしています。

今年の自分のフライトは、未だ一度も経験したことがないほどの大荒れ。
尋常一様ではない乱気流に巻き込まれて、一度は墜落直前まで急降下しただけではなく、そこから何とか持ち直して態勢を整えても、その度ごとに自分の上司から執拗にミサイルを撃ち込まれ、最後は完全に操縦不能になりました。

最終的に生きながらえたばかりではなく、閑職に遷りながらも今では普通に仕事をして、こうやってブログさえ書いているのはもはや完全に奇跡としかいいようがありません。いろいろな思いはありますが、家族も自分もとりあえず生きながらえていることだけでも感謝です。

ということで、今年は途中からブログの更新も途絶えていますが、今年も相変わらず美術館とオペラにだけは行きました。
今日はまずはオペラのランキングに挑戦したいと思います。オペラは見ている数がそれほど多い訳でもないのでベスト3に絞ります。

第1位 死の都(新国立劇場)
 ローデンバックの小説とは真逆の明るいエンディングとコルンゴルドの素晴らしい音楽を組み合わせたオペラです。
 演出もフィンランド国立歌劇場のプロダクション・レンタルで凝っています。マリエッタの首を絞めてしまう(ただし、どんでん返し有り)場面の緊迫感など演技もよかったと思います。マイナーとも思える作品を日本で見ることができて感激です。

第2位 NABUCCO(ローマ歌劇場)
 極めてオーソドックスな演出ではありましたが、歌手は素晴らしく、普通に楽しむことができました。オケがいささかエネルギー不足という感じもしましたが、オケの編成はいろいろ制約もあるでしょうし、いい作品を楽しむことができました。

第3位 PARSIFAL(新国立劇場)
 新国立劇場の総監督が飯守泰次郎総監督に交代後、初めて上演されるオペラです。
 飯守泰次郎さん自ら指揮です。騎士の世界、クリングゾルの世界いずれも絶対視しないという物語の筋を徹底した演出であり、最後にその両者がいずれも廃れて弁証法的にaufhebenされた世界が創られる予感を感じましたが、坊さんの登場にどうしても違和感が残りました。オケに改善の余地を残した上演だったように感じました。


番外編 Idomeneo(二期会)
 演出がとても面白かった。エレットラ役の歌手も大活躍でした。

Don Giovannni(新国立劇場・渋谷区本町)

2014年12月09日 | オペラ道楽
ブログの更新が止まった直後の10月末には新国立劇場でDon Giovannniを見に行っていました。
ヴェネチアを舞台にしており、ドン・ジョバンニもゴンドラに乗って登場します。
ドンナ・アンナ役の歌手とレポレッロ役の歌手がよく、ドン・ジョバンニ役の歌手は役柄のワルさがあまり感じられないような気がしました。前後逆になり、ドン・カルロを先に書きましたが、ドン・カルロにも出ていた妻屋さんが今回は騎士長役です。不気味な貫禄を出していました。今回の役柄は本当にぴったりです。
いろいろほかに感想もありましたが、だいぶ時間が経ちまして、後のことは忘れてしまいました。
やはりブログはすぐに書かないとだめなようです。

スタッフ
指揮ラルフ・ヴァイケルト
演出グリシャ・アサガロフ
美術・衣裳ルイジ・ペーレゴ
照明マーティン・ゲプハルト

キャスト
ドン・ジョヴァンニ:アドリアン・エレート
騎士長:妻屋秀和
レポレッロ:マルコ・ヴィンコ
ドンナ・アンナ:カルメラ・レミージョ
ドン・オッターヴィオ:パオロ・ファナーレ
ドンナ・エルヴィーラ:アガ・ミコライ
マゼット:町 英和
ツェルリーナ:鷲尾麻衣

合 唱:新国立劇場合唱団
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団


Don Carlo(新国立劇場・渋谷区本町)

2014年12月01日 | オペラ道楽
すっかりブログの更新を怠っています。
旅行をしていたというような楽しい事情からではなく、親の入院などあり、バタバタしていたのです。自分の健康は小康状態になっているのに、今年は波乱続きです。
と嘆いてはいられません。

この間にも随分美術館には行きましたが、とりあえず昨日見たオペラの話から始めます。

昨日11月30日新国立劇場に行き、ヴェルディのDon Carloを見に行きました。
演出といえば舞台上のオブジェの間にできるスリットで表された十字架が変幻自在に変わっていくことくらいで、あまり大きな演出はありません。極めてシンプルです。
あくまでも歌と音楽を楽しむオペラでした。
このようなオペラでしたから、新国立もうまい歌手をそろえてくれたようでして、歌手はとてもよかったように思いました。フィリッポ2世(フェリペ2世)役の歌手やロドリーゴ役の歌手をはじめ外国人歌手は大活躍でしたし、日本人歌手では妻屋さんが宗教裁判の審問官の役を熱演していました。前回のドン・ジョバンニでは騎士長の役ですし、いつも荘厳で存在感のある、というといいのですが、ちょっと不気味な役でご活躍のようです。ヴェルディのマクベスだったらバンクォーの役を演じるのでしょうか。
閑話休題。しかし、音楽は音量を上げるところで、また、あれ?と思うような音を外した箇所もあり、オケはまだまだ改良の余地もあるのかと思いました。

この演目は、新国立で知る限り今まで2回既に上演されていますが、いつも忙しくて行くことができない時期で、いずれも見ることができなかったのですが、今回念願が叶って初めて見ることができました。





会場内のクリスマスツリー






スタッフ
【指揮】 ピエトロ・リッツォ
【演出・美術】 マルコ・アルトゥーロ・マレッリ
【衣装】 ダグマー・ニーファイント=マレッリ
【照明】 八木麻紀

キャスト
フィリッポ二世:ラファウ・シヴェク
ドン・カルロ:セルジオ・エスコバル
ロドリーゴ:マルクス・ヴェルバ
エリザベッタ:セレーナ・ファルノッキア
エボリ公女:ソニア・ガナッシ
宗教裁判長:妻屋秀和
修道士:大塚博章
テバルド:山下牧子
レルマ伯爵/王室の布告者:村上敏明
天よりの声:鵜木絵里
合 唱:新国立劇場合唱団
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽