恒例の美術ランキングのシーズンになりました。
私のような美術に詳しくもない好事家がランキングをつけること自体が傲岸というほかないのですが、それでも自分の好みだけを基準にメモを作成する程度の趣旨で、今年も行ってみようかと思います。
中にはブログの中で紹介することもできなかったものもありますが、とりあえずランキングだけは書いて見たいと思います。
例年と同様独断と偏見によるもので、公平なものとはいえません。
第1位
現代美術のハードコアはじつは世界の宝である展―ヤゲオ財団コレクションより(東京国立近代美術館)
このランキングが、私の独断と偏見によるということならではです。
この美術展本当に好きでした。台湾のヤゲオ財団の私蔵コレクションで、経営者一族の世界各地の自宅に飾られている作品とか。リヒターとロスコ、バゼリッツとキーファーがそれぞれ同じ部屋に展示されていましたが、その空間でずっと過ごしていたくなりまして、毎日30分ずつでもここで過ごせたらどれだけいいのにと思いました。また、個人蔵でもう見られないかという思いもあり、結局 、都合7回通うことになりました。巡回中でまだどこかで展示中の展覧会です。
第2位 チューリッヒ美術館展(国立新美術館)
こちらは結局ブログで紹介していない状態です。チューリッヒ美術館の「マスターピース」が来るという売りで宣伝していまして、マスターピースなんて高級コンドミニアムの宣伝みたいと思っていましたが、期待を全く裏切りませんでした。エルンスト・バルラッハやアルベルト・ジャコメッティ(すみません別に彫刻家だけがいいわけではありません。)、キルヒナー、モンドリアンといった最初から興味が沸きそうな作家のものはいうに及ばず、あまり自分としては関心の乏しいクレーやモネなども本当にいい作品が来ていました。ココシュカの作品もアルマ・マーラーへのおそれがにじみ出た作品などとても興味深く思いました。現代美術大好きという自分の好みを除けば、文句なしにこちらが一位になるべきものと思います。
第3位
ヴァロットン展(三菱一号館美術館)
作家一人に焦点をあてた回顧展では何といってもこれです。不穏な雰囲気を称えた絵、コミカルな「ペルセウスとアンドロメダ」、禿頭の年寄りがとてもスケベっぽい「貞淑なシュザンヌ」などとても印象的です。ヴァロットンの家族の風景画もとても強烈でした。版画も表現力ゆたかでとても良かった。
日本であまり知られていないヴァロットンを一躍有名にし、これだけ強烈な印象を残したこの企画展は本当に素晴らしいです。工夫という面では文句なしに一番の企画展と思います。
第4位 フェルディナント・ホドラー展(国立西洋美術館)
今年は何といってもスイス年です。ヴァロットンも素晴らしいのですが、こちらも良かったと思います。オイリュトミーなどの人物の不思議な動きの絵も山の風景も関心が持てました。恋人の死を描いた絵は、昔バーゼルで何度となく見たホルバインの「墓の中の死せるキリスト」から影響を受けたものとすぐに分かりました。この恋人の死を描いた絵と同じような輪郭を使って山の絵まで描いているのには驚きました。
来年また出かけます。
第5位
オルセー美術館展(国立新美術館)
オルセー美術館の所蔵品の雰囲気を味わうことができました。クールベの「市から帰るフラジェの農民たち」を見てれば「オルナンの埋葬」にも思いをいたすことができますし、モネの「草上の昼食」を見ればマネの同名の絵画に思いをいたすことができます。個々の作品も良いのですが、そうした工夫も良かったと思いました。マネのアスパラガスの絵がとても気に入りました。
第6位
だまし絵Ⅱ(渋谷Bunkamuraザ・ミュージアム)
昔企画展であった「だまし絵」の続編です。「だまし絵Ⅱ」と題しながらも、その実態は、現代アートのオンパレードです。ですから私にとってはお気に入りでした。トーマス・デマンド、ゲルハルト・リヒター、ミロ、ダリなど見ていて飽きませんでした。
第7位
台湾国立故宮博物院展(東京国立博物館)
台湾から白菜と豚の角煮が来るというので話題が持ちきりでした。上野で白菜が展示された際には、大混雑で一時期は4時間待ち。それだけ待つなら台湾まで行って見ればいいじゃないかと話題になった展覧会でした。展示作品を選んだいい企画展でした。私がとても感激でしたのは四庫全書、永楽大典、それと雍正帝による朱批奏摺でした。
結局、10月に九州国立博物館には行くことができなくなり、豚の角煮は見ることができなくなったのは残念でした。
第8位
世紀の日本画(東京都美術館)
前期と後期に分かれて総入れ替えの企画展でした。日本美術院の再興から100年にあたるのを記念して、前史としての東京美術学校設立から、現在に至るおよそ130年の活動を振り返る展覧会として開催され、数々の著名な日本画家の作品が展示されました。
私が気に入ったのは何といっても小倉遊亀の「径(こみち)」です。軽快な足取りで歩くワンちゃんの魅力に吸い寄せられて、クリアファイルまで買いました。
第9位 ウフッツィ美術館展(東京都美術館)
これもこんな下の順位では申し訳ありません。ドメニコ・ギルランダイオやフィリッポ・リッピから始まり、ボッティチェリを経てジョルジョ・ヴァザーリまでのルネッサンスの絵画を一望することができました。残念ながらルネッサンスの三大巨匠の作品はありませんでしたが、夜の美術館で、作家や作品の解説の情報を読まずに数々の絵のみを見つめていますと、何ともいえない至福の時を過ごすことができました。私としてはギルランダイオ、フィリッポ・リッピ、アンドレア・デルサルトの作品がとても素晴らしく思われました。
第10位
デュフィ展(渋谷Bunkamuraザ・ミュージアム)
デュフイの明るい作品が確立するまでの様子を知ることもでき、とても興味深く思われました。「電気の精」という作品が面白かったほか、島根県立美術館の「ニースの窓辺」にも再会することができました。
番外編
横浜トリエンナーレ2014(横浜美術館ほか)
今年は横浜トリエンナーレ開催年でした。森村泰昌がアーティスティック・ディレクターとなり、閉会式まで数々のパフォーマンスもありました。
現代アートの取っつきにくさを取り払おうとする努力も一応好意的に受け止められるかと思います(ただし、いささか説明過剰なのは閉口し、もう少し鑑賞者に判断させてくればいいのにという思いも残りました。)。
アンディ・ウォーホル展(森美術館)
ウォーホルの自画像や作品を製作するスタジオの再現など興味深く思われました。
バルテュス展(東京都美術館)
はっきりいって好きではない絵でした。それでも、物議を醸し出しそうな絵の多いこの画家を敢えて取り上げて回顧展を開いたことには敬意を表したいと思います。
バルテュスが、性器を露出した少女の絵を描くばかりか、少女という存在を「これから何かになろうとしているが、まだなりきってはいない。この上なく完璧な美」と言いながら、ロリコンではないと強弁しているというのは笑えました。バルテュスの場合,結婚それ自体も犯罪的で、彼がロリコンであることの最大の証拠のようなのですが。
ラファエル前派展(森アーツセンターギャラリー)
ミレイの「オフィーリア」、ウィリアム・モリスの「麗しのイズー」もいいのですが、何といってもダンテ・ゲイブリエル・ロセッティの「プロセルピナ」です。プロセルピナ(ペルセポネー)のモデルは、ウィリアム・モリスの妻とジェーン・バーデンであり、この絵はモリスとロセッティの間で、揺れ動くジェーンの難しい立場を表現しているということです(見た者を釘付けにするような妖艶な女性で、いかにもfemme fataleというイメージでした。)。
絵も良かったのですが、ラファエル前派のメンバーの、錯綜したドロドロの男女関係図に興味を惹かれました。