道楽ねずみ

ドイツに関するものを中心に美術展,オペラ,映画等の趣味の世界を紹介します。

レオ・レオニ 絵本のしごと(Bunkamuraザ・ミュージアム・渋谷区道玄坂)

2013年06月30日 | 美術道楽
渋谷東急本店のbunkamuraザ・ミュージアムで開催中のレオ・レオニ展に行って参りました。

前の企画展であるロペス展に行った際に予告のチラシを見て,今回の企画展を知りました。

野ねずみフレデリックが,ドイツのアニメの「マウス」と同じような眠そうな目をしているので,相方ねずみと道楽ねずみのねずみ属としては,行って確認しなければならないと思い出かけた次第です。

レオニは,いろいろな動物の絵本を書いていますが,やはりねずみが多いようです。

詩人フレデリック,画家のマシュー,マックマウスさん,ねずみのアレクサンダとぜんまいねずみ等々です。
子供向けの絵本でありながら,イソップのような寓話もあり,大人が見ても考えさせられます。
「世の中でねずみが一番偉い。」というお告げをでっちあげて,いい思いをしていたねずみがばけの皮を剥がされ,追い出される話など興味深いものがあります。

フレデリックですが,見た目は眠そうな目をしていてマウスに似ていますが,口がやや曲がっていますし,またぬいぐるみも鼻の部分はマウスのように円錐形というか鋭角的なフォルムもないようですし,やはりマウスとは異質な感じがしました。

金沢21世紀美術館

2013年06月26日 | 美術道楽
昨年は金沢21世紀美術館に行きました。
美術館の(旭川にある)旭山動物園ともいわれるほど,地方の美術館の中で元気な美術館です。
そのときは「Aloha Amigo! フェデリコ・エレロ×関口和之」という企画展をやっていたようです。
しかし,印象に残ったのは常設展の方でした。
テレビで必ず紹介されるスイミング・プールなど,相方ねずみとともに楽しむことができました。

碌山美術館(安曇野・穂高)

2013年06月25日 | 美術道楽
もう2年も前になりますが安曇野にある碌山美術館に行きました。
荻原碌山(守衛)の作品を展示した美術館です。

荻原碌山は安曇野出身の彫刻家で,同郷の相馬愛蔵のサロンに出入りするようになり,愛蔵の妻黒光に思慕の念を抱くようになり,悶々とした思いを持ちながらも制作を続けます。
相馬愛蔵・黒光夫妻は,新宿中村屋の創業者夫妻です。碌山美術館に行ったのは,ちょうど新宿区三栄町にある新宿歴史博物館で「新宿中村屋に咲いた文化芸術」を見に行ってから間もない時期でした。

中村屋の創業者である相馬夫妻は,芸術,文化に関心を持ち,明治末から大正期の文化芸術の支援者となったそうで,その元にはいろいろな芸術家が集まったそうで,その中の一人が荻原碌山ということだそうです。新宿歴史博物館でも荻原碌山の作品を見ましたが,碌山美術館では当然のことながら荻原碌山の作品を集中的に見ました。
碌山美術館にももちろん「文覚」という作品がありました。碌山はかなわぬ恋心を,人妻の袈裟御前に横恋慕した文覚上人の作品に委ねたのでしょうか。

黒光をモデルにしたといわれる「女」という作品もありましたし,また「デスペア」という作品も印象的でした。
「デスペア」というのはR.W.ファスビンダーの映画のタイトルにもあります。

この間夏目漱石と美術展に行き,荻原守衛が碌山と名乗ったのは,夏目漱石の小説の「二百十日」の登場人物である「碌さん」にちなんでのことであると初めて知りました。私は安禄山(碌の字が違いますが)にちなんでとったのだと思い込んでおり,なんて趣味が悪いのだろうかと思っておりましたが,ようやく合点がいきました。

箔一の扇子

2013年06月24日 | 買い物道楽
久しぶりに過ごす東京の梅雨に身体がついていけなくて弱り気味です。
暑さはたいしたことがなくても,非常に湿度が高くなるので,頭の手術の跡など古傷が疼きます。
最近は節電ということで冷房も入らないことが多いので,扇子を買いました。昔,鳥獣戯画の扇子を使っていたのですが,長年の使用でくたびれてきたので,新しいものと交替です。
最初,伊勢丹で扇子を探して,利休鼠(りきゅうねず)の上品な扇子を見つけたのですが,あまりに高いのでやめました。
結局,箔一という金沢の箔を扱っている会社の製品で,銀龍(パール)という商品名のものを買いました。本当は こちらの「柿渋脇漆扇子 鯉(赤黒)」という商品の方が気に入ったのですが,赤と黒で派手,戦国大名でも使いそうな柄でしたので,職場で使うのには無理があると思い,もう少しおとなしいものを買うことにしました。
金沢の箔の技術を用いて,銀色で表現した扇子で,なかなかお気に入りです。金沢の箔製品は,旅行に行ったときに手に入れたものもあります。
そのうち,プライベートで使うために「柿渋脇漆扇子 鯉(赤黒)」も手に入れたいものです。

Das Erste

2013年06月23日 | ドイツ語
最近ブログのテーマに不足しています。
4月に転居したばかりでいささか慌ただしいこともあれば,また,近く再度職場の環境が変わることとなり,その意味で慌ただしいこともあります。また,少し計画していることもあるのですが,まだまだこの場で明らかにするようなことでもありません。

その中で,最近,ハマっているのがIPadでドイツのテレビ番組を見ることです。IPadのアプリケーションの中にはDas Ersteというものがあり,これをインストールすれば,WiFi接続環境で,ドイツの番組を見ることができます(もちろんDas Ersteの放送だけですが。)。そこで,Die Sendung mit der Mausをまるまる30分見ることができれば,NHKの衛星放送でドイツのニュース番組がとんだ場合にはTagesschauというニュース番組も見ることができます。もっとも,後者の方はPodcastでパソコンにダウンロードをして,同期化した上で見ることの方が多いのですが。

随分と便利な世の中になりました。
我が家の相方ねずみは,道楽ねずみよりももっとIPadでDas Ersteを見ているようです。

因みにドイツの全国紙のほか,Berliner Morgenpost,Hamburger Abendblaetter,Muenchner Merkurなどの地方紙までも,有料ではありますが,IPadで購読することができます。道楽ねずみは読む時間もろくにないのにFrankfurter Allgemeineを購読しています。

貴婦人と一角獣展(国立新美術館・港区六本木7丁目)

2013年06月17日 | 美術道楽
国立新美術館で開催中のフランス国立クリュニー中世美術館所蔵 貴婦人と一角獣展に行ってきました。

まずはHPでの紹介から
引用始め
「フランス国立クリュニー中世美術館の至宝《貴婦人と一角獣》は,西暦1500年頃の制作とされる6面の連作タピスリーです。19世紀の作家プロスペル・メリメやジョルジュ・サンドが言及したことで,一躍有名になりました。
千花文様(ミルフルール)が目にも鮮やかな大作のうち5面は,「触覚」「味覚」「嗅覚」「聴覚」「視覚」と人間の五感を表わしていますが,残る1面「我が唯一の望み」が何を意味するかについては,“愛”“知性”“結婚”など諸説あり,いまだ謎に包まれています。
本作がフランス国外に貸し出されたのは過去にただ一度だけ,1974年のことで,アメリカのメトロポリタン美術館でした。 本展は,この中世ヨーロッパ美術の最高傑作の誉れ高い《貴婦人と一角獣》連作の6面すべてを日本で初めて公開するもので,タピスリーに描かれた貴婦人や動植物などのモティーフを,関連する彫刻,装身具,ステンドグラスなどで読みといていきます。
クリュニー中世美術館の珠玉のコレクションから厳選された約40点を通して,中世ヨーロッパに花開いた華麗で典雅な美の世界を紹介します。」(引用終わり)

解説を引用しましたが,まだまだ謎の多いタペストリーのようです。特に最後の1面が何を意味すると解するかによっては,女性の動作のとらえ方自体が変わってくるようです。

とても貴重な作品のようです。深紅のタペストリーが6枚全部一同に展示されているのを見るのは圧巻です。
一角獣,獅子のほかにもウサギ,猿など様々な動物も描かれています。
動物たちの仕草や表情,視線などもひとつひとつ意味があるようです(他方で意味がない箇所では,ウサギなど同じ絵で複数のタペストリーに表現されているようです。)。
動物たちの表情も豊かで,獅子や猿など人間の顔と同じような顔になっているものもあるなどつまらないことに関心が行きました。特に「嗅覚」の猿は,髪型が特徴的な某有名画家に似ているような気もしました。

作品保護のための暗い照明の中で,ひたすらタペストリーを見るのがお勧めです。解説は有り難いですが,一通り音声ガイドを聞き,展示の解説を読んだ後,もう一度じっくりと自分の目と感性だけで味わうのがお勧めです。ゆっくりと見ていますと,何ともいえない精神的な幸福が得られるような気がします。

商家の宝 -四谷の菓子商・荒井谷と狩野派絵画-(新宿歴史博物館・新宿区三栄町)

2013年06月16日 | 美術道楽
新宿歴史博物館で開催中の「商家の宝 -四谷の菓子商・荒井谷と狩野派絵画-」展に行きました。
江戸時代の末ごろから,麹町十二丁目(現四谷一丁目)で菓子商を営んでいた「荒井谷(あらいや)」に伝わる美術品を公開した展覧会です。「荒井谷」は麹町區ないし四谷區において明治期に手広く菓子業を営み,隆盛を極めたようです。そこの2代目の当主野口又吉が菓子商を営む傍ら,東京美術学校で狩野芳崖の弟子である本多天城に師事して日本画を習い,睡雪と称して画業にも取り組み,さらに絵画のコレクションをしたのだそうです。
今回の展覧会では,狩野山雪《竹雀》,狩野安信《山水》,海北友松《問答図》,伝徳川家康《老松図》などの作品を見ることができました。
狩野派の絵画もよかったのですが,野口睡雪という人物の人生に関心を持ちました。

ねずみ坂

2013年06月11日 | 日常の道楽
いつものように神楽坂に買い物に出かけた帰りに面白い標識を見つけました。

新宿区のねずみ坂です。確か文京区にも鼠坂があったような気がします。

ねずみ坂というのはありふれた名前で,だいたい狭い坂と相場が決まっているようです。


夏目漱石の美術世界展(東京藝術大学美術館・台東区上野公園)

2013年06月10日 | 美術道楽
東京藝術大学美術館で開催中の「夏目漱石の美術世界展」に行きました。

漱石の作品には,「我が輩は猫である」にアンドレア・デル・サルトの話が出てきたり,「草枕」の中でミレイの「オフィーリア」がモチーフのような存在になっていたりと,美術作品から影響を受けたものも少なくありません。もっともアンドレア・デル・サルトなどは,ルネッサンス期の画家ですが,現在,著名とまでは言い難く,何でよりによってアンドレア・デル・サルトなのかという気が以前からしていました。今回の美術展で,漱石は何かの機会にジョルジョ・ヴァザーリの「芸術家列伝」とアンドレア・デル・サルトの名前を聞きかじったのだということを知りました。
漱石は,自分の教養や知識をひけらかしたいだけのためにいろんな人物の名前を挙げているのではないかという気もします。もっとも,そうやって知識をはき出すことが結局,漱石の精神的な安定をもたらし,うつ病の治療のためには良かったのでしょうが(我が輩は猫である等,初期の作品でこうした傾向が顕著なような気がします。)。



さて,今回の展覧会ですが,漱石に影響を与えた絵画作品,絵画作品自体が影響を与えなくても,漱石が小説のモデルにしたり,漱石と親交があったりした画家の作品,漱石の書籍の装丁,そして漱石自身の作品など様々な内容です。

漱石がロンドン留学中に見た作品は,それほど多くはありませんが,グルーズ,ウォーターハウス,ミレイ,ロゼッティの作品など一部展示されていました。今年の後半期に開催されるターナー展のおかげでしょうか,テイトギャラリーからターナーの「金枝」が来ていました。
やはり作品として面白いのは,西洋画と思われました。特に自分が好きなのはやはりロゼッティの絵です。

今回,作品の展示に当たっては,漱石の作品の該当箇所も引用されており,それも読みながら見ていくと,漱石作品の講義を受けているような気もしてきます。しかし,作品の引用を読み過ぎると肝心の美術作品の鑑賞がおろそかになりそうです。このあたりの鑑賞の案配が難しいような気がしました。随分長時間美術館にいたわりには,あまり美術作品の印象が残らなかったような気がしますので,もう一度美術作品をメインに見に行きたいと思います。

本展では,「虞美人草」で藤尾の死の場面に登場する「抱一の銀屏風」(おそらく架空ということです。)のも,小説のイメージをもとに現代の作家が再現しています。また,「三四郎」で三四郎がストレイシープとつぶやく場面に出てくる美禰子の絵まで,同様に再現されています。後者の絵は,それこそ明治期に描かれたような体裁の絵ですが,これがストレイシープの絵画だと言われても,やや違和感がありました。読者が小説を読んで自分のイメージで考えるべき絵を再現されても・・・という気がします。

漱石作品は,漱石の幅広い分野の教養と知識がちりばめられています。物理学の光量子理論やBlackstoneの"Commentaries on the Laws of England"まで出てきて,博識ぶりに驚きます。ただし,件のアンドレア・デル・サルトと同じで何の必然性があって出てくるのか不思議な気もします。

ともあれ,漱石の作品は美術の面からだけ取り上げても,十分にテーマは尽きないようです。

アントニオ・ロペス展(Bunkamuraザ・ミュージアム・渋谷区道玄坂)

2013年06月09日 | 美術道楽
相方ねずみの勧めがあったので,Bunkamuraザ・ミュージアムで開催中のアントニオ・ロペスに行きました。

アントニオ・ロペスは現在も存命の画家です。

以下はHPからの引用です。
「今日のスペイン美術を代表する作家アントニオ・ロペス(1936~)は、その卓越した技術と観察力によってリアリズムを追求しながら独自の世界を描き出しています。また、マルメロを描く作家自身の姿を撮った映画『マルメロの陽光』(監督:ビクトル・エリセ)は、日本でも公開され話題を呼びました。ロペスは10年を経てもなお絵筆を入れるほど、制作期間の長い作家であり、そのため寡作家として知られています。
本展では、ロペスの日本初の個展として、初期の美術学校時代から近年までに手がけた油彩、素描、彫刻の各ジャンルの代表作を厳選して紹介します。」(引用終わり)

ということです。
風景画,静物画,肖像画などいろいろな作品を描いていますが,作品には非常に長時間をかけるので,多作ということではないようです。
ポスターに取り上げられている「グラン・ピア」はマドリッドの一風景ですが,極めて精密に描かれているので,印刷物にしてしまうと写真と見まごうほどです。それでも,別にゲルハルト・リヒターのフォト・ペインティングのように写真に似せて描くための絵ではないですし,美術館に行って近くで見れば写真と間違うことはありません。ただ,ひたすら精緻に描いているのです。そのために,毎朝20分から30分程度描くために,地下鉄で同じ場所に何度も通ったとか。何とも手間をかけた作品です。
また,若い頃,知人の家から見た風景を知人の家族を入れて描こうとしたものの,そのまま長いこと放置され,約30年後にもう一度描こうとしたときは知人が転居していたため,その時点の住人に事情を説明して,家に入れてもらい,風景画として完成させた作品など興味深く見ました。彫刻や彫刻の技法を取り入れた立体的な絵画なども面白く思われました。

相方ねずみが関心を持った静物画につきましては,あまり見ないまま出てしまいました。

そうそう,Bunkamuraザ・ミュージアムの次の企画は「レオ・レオニ 絵本の仕事」です。6月22日から8月4日に開催予定です。その際のポスターに用いられているのは,フレデリックというねずみなのですが,丸くて目が半開きでドイツのマウスにそっくりです。Bunkamuraのホームページや伊勢丹のホームページでレオニ展を紹介してあるサイトにもこのねずみの絵が出ております。
レオニの「フレデリック ちょっとかわったのねずみのはなし」という絵本は1967年のようなので,マウスよりも先に誕生しているようです。我が家では,ドイツのマウスはひょっとしてフレデリックのパクリ???と大いに衝撃を受けており,相方ねずみと共にこれは行かなければならないと話題になっております。



ルドン展(損保ジャパン東郷青児美術館・新宿区西新宿)

2013年06月07日 | 美術道楽
損保ジャパン東郷青児美術館で開催中のルドン展に行きました。

以下はHPからの引用です。
1886年、現代生活を描いた色鮮やかな作品がならぶ第8回印象派展の会場に、幻想的な白黒の木炭画を出品した画家がいました。フランス象徴主義を代表する画家オディロン・ルドン(1840~1916)です。外界と現実を重視した写実主義が台頭する中、内面を重視し夢の世界を描いたルドンは、やがて写実性への反動の高まりとともに注目を集め、次世代の画家や文学者、批評家たちの支持を集めていきました。しかしその一方で、ルドンは実証的な自然科学に対しても決して無関心ではなく、その影響はルドンの幻想的な作品でも見ることができます。本展覧会では、まずルドンの幻想と自然科学への関心が、生まれ故郷であるフランス南西部の都市ボルドーでつちかわれたことに注目し、青年ルドンがボルドーで何を学んだかに焦点をあてます。さらにこのボルドーでの発見が、その後の「黒」と「色彩」の作品でどのように展開し昇華したのかを探ります。本展覧会はフランスのボルドー美術館、ならびに日本における最大のルドン・コレクションを所蔵する岐阜県美術館の全面的な協力のもと、油彩、パステル画を含む約150点の作品を一堂に展示し、画家オディロン・ルドンの「夢の起源」をたどります。

ということです。

ルドンの作品の流れを時代的に追うようにルドンの初期の作品,黒い不気味な作品,色彩の入った作品の順に展示がされています。
黒い不気味な絵は,ウニか蜘蛛みたいなイメージのもの等どうもいいとは思えません。やはり色彩のある,「目を閉じて」とか「神秘的な騎士」といった作品の方がずっといいと思いました。

フランシス・ベーコン展(東京国立近代美術館・千代田区北の丸公園)

2013年06月02日 | 美術道楽
5月26日に終了となりましたが,竹橋の東京国立近代美術館にフランシス・ベーコン展を見に行きました。
HPから少々長い引用です。

「アイルランドのダブリンに生まれたフランシス・ベーコン(1909‒1992)は、ロンドンを拠点にして世界的に活躍した画家です。その人生が20世紀とほぼ重なるベーコンは、ピカソと並んで、20世紀を代表する画家と評されており、生誕100年となる2008年から2009年には、テート・ブリテン(英国)、プラド美術館(スペイン)、メトロポリタン美術館(アメリカ)という世界でも主要な美術館を回顧展が巡回しました。
主要作品の多くが美術館に収蔵されており、個人蔵の作品はオークションで非常に高値をつけているため、ベーコンは、展覧会を開催するのが最も難しいアーティストのひとりだと言われています。そうしたこともあってか、日本では、生前の1983年に東京国立近代美術館をはじめとする3館で回顧展が開催されて以来、30年間にわたり個展が開催されてきませんでした。
今回、没後20年となる時期に開催する本展は、ベーコンの「世界」を、代表作、大作を多く含むベーコン作品30数点により紹介するものです。そのうち、ベーコンを象徴する作品のフォーマットである三幅対(トリプティック)も多数含まれているので、実際にはもっと多く感じられることでしょう。」

ということです。

最初の頃の作品,つまり1950年代くらいまでの作品は,それなりにいいかという気もしました。「人物像習作2」,「叫ぶ教皇の頭部のための習作」,「ファン・ゴッホの肖像のための習作」,「スフィンクスの習作」などは興味深く見ていました。特に面白いと思ったのは金の枠に,反射するガラスの入った額縁に絵が収まっていて,光が反射するので,絵の中に自分をはじめとする観客の姿が写し込まれてしまい,それが作品の一部のようになることです。

しかし,中期以降の作品は,彼の同性愛の嗜好が余りにも強く作品の中に出てきてしまうので,いささか引いてしまいました。誤解を招かないために書きますが,同性愛だからどうかという気はないのですが,ただ作品のテーマとして,あまりにもそればかり出てきてしまうと,やはり少し馴染めないような気がしてしまうのです。

10年以上も前にKlaus Wowereit(現ベルリン市長)は,市長選の前に
„Ich bin schwul – und das ist auch gut so!“  と叫んでschwul(ホモ)であることをカミングアウトしましたが,フランシス・ベーコンの後期の作品がみんなそう叫んでいるように見えて,しかもWowereit市長のような明るさもないので,どうも違和感が残ってしまいました。

注 今回東京国立近代美術館の写真を取り忘れました。使った写真は1年前のジャクソン・ポロック展のときの写真です。
そのことは建物に小さく1952-2012 60thのロゴが入っていることで分かります。

NABUCCO(新国立劇場・渋谷区本町)

2013年06月01日 | オペラ道楽
新国立劇場でオペラNABUCCOを見ました。
私は,この演目がとても好きなのです。私がオペラを本格的に見るようになったきっかけとなった演目です。1993年のクリスマスにプラハを旅行した際に,プラハ国立歌劇場でNABUCCOを見て,それ以来,すっかりオペラを見に行くのが好きになった次第です。

さて,今回のNABUCCOですが,演出が変わっています。エスカレーターで上下階のつながったショッピングモールが舞台であると,日本経済新聞の記事で既に知っていましたが,高級ブランド店や香水の店,それとアップルストアのような店も入っていて,どちらかといえば巨大ターミナル空港の中にある免税店街のようなイメージです。そこで,人々が買い物袋をたくさん下げて忙しなく動いたり,スマホを動かしたりしています。前奏曲が演奏されている時点どころか,会場に入る前から既に幕は上がっていて,この免税店街の中を人々が動き回ります。舞台上の人々は,我々がiPadやシャネルのアリュール等々を買う姿と何ら変わることがなく,あまりにも普通に見慣れた景色なので,オペラを見ていると言うことを忘れてしまいそうになります。

パンフレットに掲載されている演出家(グラハム・ヴィック)の解説によりますと,唯一神への信仰という素地のない日本で,唯一神ヤーヴェを信仰するヘブライ人の物語をどう演出するのかという悩みがヴィックにはあったそうです。そして,ヴィックは唯一神を「自然(ネイチャー)の存在」というもので表したということです。確かに,演出では,樹木や芽などが効果的に用いられていました。そして,バビロン捕囚となるヘブライ人たちの立場を「神に背を向け,神を怒らせる悪者ゆえの境遇」ととらえ,神に背くこと,否,神から見放される人間の状況として,人間がショッピングに走り,我欲をむき出しにして,所有欲に走るときと表現したのです。したがいまして,神殿=ショッピングセンターが,人間の我欲がむき出しになるところ=神から見放されるところという演出になっているようです。そして,そこに,乗り込んでくる「敵」(つまりナブッコのいるアッシリア,実話なら新バビロニア)は,アナーキスト,活動家,さらに言えばテロリストという形で表現されます。

それはそれでよいのですが,そもそもバビロン捕囚の物語は,ヘブライ人たちが「神に背を向け,神を怒らせる悪者」であることが前提だったのだろうかなどと考え始めると,気になるところもあります。イエルサレムは「ソドムとゴモラ」のような街で,新バビロニアによって天罰を加えられるということなのだろうか,そしてva pensiero「行け、我が想いよ、黄金の翼に乗って」は物欲に塗れた背徳の街への望郷の歌で本当によいのだろうか,そうすると最後にNABUCCO自身もヤーヴェの神を信仰することになることはどう捉えればよいのか等々です。
しかし,少し冷静になって,史実とオペラとを混同してもいけないし,演出に首尾一貫性を強く求めてもいけないかとも思い直しました。
そもそも史実だったら,バビロン捕囚の終了はアケメネス朝ペルシアのキュロス2世の登場を待たなければならないことですし。

演出のことばかり書きましたが,歌手もよかったです。
va pensieroは何度聞いてもいい音楽です。

キャスト等は以下のとおりです。
≪スタッフ≫
【指揮】パオロ・カリニャーニ 【演出】グラハム・ヴィック
【美術・衣裳】ポール・ブラウン 【照明】ヴォルフガング・ゲッペル
≪キャスト≫
【ナブッコ】ルチオ・ガッロ
【アビガイッレ】マリアンネ・コルネッティ
【ザッカーリア】コンスタンティン・ゴルニー
【イズマエーレ】樋口達哉
【フェネーナ】谷口睦美
【アンナ】安藤赴美子
【アブダッロ】内山信吾
【ベルの祭司長】妻屋秀和

詳しくはこちらで確認できます。
http://www.atre.jp/13nabucco/staff/index.html#block_staff_01