道楽ねずみ

ドイツに関するものを中心に美術展,オペラ,映画等の趣味の世界を紹介します。

Casino Boncompagni Ludovisi

2017年01月15日 | 美術道楽

コロンナ宮を割と早めに切り上げたのには訳がありました。

実は、この後、重要な見学の予約があったのです。

 

カラヴァッジョが描いた唯一の天井画というものがあります。

それが、カジノ・ボンコンパーニ・ルドヴィージという貴族のお屋敷の中にあるのです。

こちらは一般公開されていません。金曜日と土曜日に予約を取って、個人見学が可能というものです。一般的には、15名からのグループ見学で一人€20ということなのですが、それ以下の人数でも€300を支払えば可能ということですので、つたない英語でメールを書いて予約を取りました。

ドイツ語であればメールでもなんでも困らないのですが、英語でははなはだ乏しい表現力です。ドイツ語と英語の両方で記載したメールを書きましたが、ドイツ語は相手にされず、英文で返事がきました。そうこうして、何度かやり取りをして、結局、グループ見学の予定が入らないということが判明したので、ねずみたち2匹だけで見学となりました。

時間前に到着しても、門は閉じられていて、監視カメラで見られているのか、予定時刻の11時きっかりに門が開きました。

メールでは、普段は勝手に見てもらうが、お姫様Princessがいる時には、Princessが説明してくださるとのことでしたが、お屋敷にうかがいますと、Princessがいらっしゃいました。執事のおばさんは、イタリア語しか解さないので、会話ができず、皆、Princessからお話をうかがうことになりました(どうやらメールも、執事が書いていると思っていたのですが、Princessが執事に代わって書いていたのでしょうか。天皇が綸旨を自分で書くようなものです。)。

 

この建物は、ルドヴィコ・ルドヴィジ枢機卿が1621年から1623年にかけて建築したのを、1825年から1851年にかけてボン・コンパーニ・ルドヴィジが増築したということです(宮下規久朗「イタリア・バロック」66頁)

 

最初に通されました風景の間です。

中央にAntonio Circignaniの絵があり、その周りにグエルチーノ、ドメニキーノ、パウル・ブリルなどの絵があります。

 

 

次に「アウロラの間」に入ります。

このヴィラの見どころはカラヴァッジョよりもむしろグエルチーノの天井画です。

アウロラの間には、有名なグエルチーノ《アウロラ》があります。

下から見上げた視点で描かれて、遠近法が駆使されています。

暁の女神が夜を払しょくする場面とのことです。

 

 

この作品は、誰のかわからなくなってしまいました。

 

 

2階に行くとカラヴァッジョ《ユピテル、ネプトゥルネス、プルート》があります。

これがカラヴァッジョ唯一の天井画ということですが、あまり感激するような作品ではありません。

カラヴァッジョは、これ以降、自分は天井画の制作には向いていないと思い、二度と制作しなかったそうです。

 

2階でも評価が高いのは、むしろこちらのグエルチーノの天井画です。

 

 

 

ヴィラの外には、ミケランジェロの彫刻が普通に置いてあります。

 

 

最後にはPrincessと記念撮影をさせていただきました。

 

今度は、ゲーテが絶賛したという、グイド・レーニの《アウロラ》のあるパラッツォ・ロスピリオージにも行きたくなりました。


コロンナ宮

2017年01月10日 | 美術道楽

更新が遅れています。

昨日ようやくこの記事を書き上げたのに、なぜかgooのブログはみな接続不良で更新することができませんでした。

 

気を取り直して、本日、更新です。

ローマ2日目は駅からバスでナヴォーナ広場まで行き、コロンナ宮に行きました。

ここは、土曜日しか一般公開されていません(それ以外の日はプライベートで予約をする必要があります。)。

貴族の屋敷であるこの場所が有名なのは、映画「ローマの休日」で王女が記者会見を受ける場面の撮影がされた場所であるからです。

 

コロンナ宮(Palazzo Colonna)は15世紀に建築され、18世紀に再建されたということです。

建物の2階に上がって見学を開始するのですが、すぐに「ローマの休日」で有名な階段にでます。そして、そこを降りて大広間に行きます。途中、階段の上に砲弾があります。これはフランスの2月革命の余波を受けて1849年に誕生したローマ共和国に対し、教皇ピウス9世を救出するという名目で侵入してきたフランス軍が攻撃し、ジャニーコロの丘から発射した砲弾が着弾した後といわれています。

 

階段にめり込んでいる砲弾がこれです。

 

ギャラリー大広間、コロンナ・ベッリカの間、風景画の間、マルティヌス5世神格化の間など。所狭しと絵画が密着して並べられていますが、解説は番号を頼りにほかの場所で見なければならないので、とても見にくいです。

 

カラッチ《豆を食う男》

大した絵ではないと思うのですが、この絵が一番有名です。

 

 

アンドレア・デル・サルト《聖母子と洗礼者ヨハネ》

写真を撮影した絵は、もはや有名な絵であるからではなく、作者と作品名と照合できたからという選別になっています。

 

 

グエルチーノ《守護天使》

 

 

 

 

 

さらに進むとイザベッレ王女のアパルトマンに入ります。

中庭が見えます。

 

タペストリーがきれいです。アルテミジア女王の物語のタペストリーというのが有名のようです(下の写真の中にあるのかどうかも不明です。)。

 

 

 

下の紋章がコロンナ家の紋章ということです。

 

 

 

 

こちらも所狭しと絵画が飾られています。

 

グエルチーノ《大天使ガブリエル》

ガブリエルといっても、ist mir egalの歌に登場するMan mit Bauchの人(副首相)ではありません。

 

 

 

 

 

 

 


あけましておめでとうございます

2017年01月03日 | 美術道楽

あけましておめでとうございます。

本年もよろしくお願い申し上げます。

 

さて、今年もトーハクの「博物館に初もうで」の企画に行きました。

この企画、10年以上も前に初めて行ったときは、人もまばらで、道楽ねずみと相方ねずみのように正月に行くところがない人が行くのかなと思っていました。

ところが、最近は人気で、美術館内も混雑です。

最初に獅子舞を見ました。

獅子舞の獅子に頭の部分を噛むような仕草をしてもらいました。

 

館内には、例年公開される長谷川等伯の国宝「松林図屏風」が今年も展示されています。

もはや、NHKで放送されるウィーンのニューイヤーコンサート並みに新年を代表する存在になりました。

 

本阿弥光悦の《船橋蒔絵硯箱》です。

 

このほか、今年の干支の酉に因んだ美術品が展示されています。

今回、特に気になったのは、こちらの伊万里焼です。

伊万里焼の壺の上に鶏がいます。

 

今年一年が、皆様にとってもねずみ属にとってもいい年になりますことを祈念いたしております。

 

 

 

 


2016年印象に残った美術展

2016年12月31日 | 美術道楽

今年は、美術展の内容をほとんど紹介しないまま1年が過ぎてしまいました。

ここで美術展のランキングを書いても、以前の記事を引用することもできませんし、かといって改めて全部ここで紹介する余裕もないので、結論だけの紹介になってしまいますが、恒例の行事なので一応書いておこうかと思います。

 もっとも、毎年の弁解ですが、私のごとき者がランキングを付けるのはとてもおこがましい限りです。どれだけ自分のセンスにあったかという、完全は主観的評価にとどまります。

 

1位 カラヴァッジョ展(国立西洋美術館)

 なんといってもカラヴァッジョです。去年はグエルチーノ展を見てからイタリアに行きたくなりましたが、今年はカラヴァッジョに焦点を合わせて夏にローマ、ナポリと旅をしました。

 《女占い師》は、昨年カピトリーニ美術館に行った際には、それほどいいと思わなかったのですが、日本で改めて見てよいと思いました。ちなみにこの絵は、日本から戻るとそのままマドリッドのティッセン=ボルネミッサ美術館の「カラヴァッジョと北方の画家たち」展に貸し出され、ローマでの再会は果たせませんでした。

閑話休題

そのほか、《バッカス》《果物籠を持つ少年》《洗礼者ヨハネ》《エマオの晩餐》などの有名な作品もあれば、新たに発見された《法悦のマグダラのマリア》もあり、充実度一番の企画展でした。

 

2位 クラーナッハ展(国立西洋美術館)

 多作の作家のためか、ワイマールでもベルリンでもフランクフルトでもドイツでどこにでもある作品というイメージで、あまり有難味を感じない作家でした。でも、今回の企画展に伴い、秋山聰先生や学芸員の方の講演を聞き、少し見方が変わりました。ヴィッテンベルクに住み、ルターとも親しかったクラナッハが、ルターの肖像画を描きつつも、宗教改革により伝統的な宗教画の活躍の場が少なくなり、エロさを感じさせる絵に活路を見出し、しかも、それを狩野派のようにパターン化して量産することができるようにしてきたことなど知りました。ドイツにいたときは、どうでもいい画家と思っていたのに、日本で再発見するという貴重な機会がありました。

 

3位 ヴェネチア・ルネサンスの巨匠たち展(国立新美術館)

ティッツィアーノの《受胎告知》の祭壇画がそのまま来るなど、とてもいい企画展でした。

 

4位 黄金のアフガン展(東京国立博物館)

惜しくもベスト3から漏れてしまいましたが、とてもよい企画です。アフガンが西洋、インド、東方の各文明の十字路であることがわかる作品が多々展示されていました。ティリヤ・テペの遺跡には驚嘆するばかりでした。この展覧会をブログで紹介することができなかったことはかえすがえす残念です。

 

5位 ボッティチェリ展(東京都美術館)

 ボッティチェリ作品だけではなく、フィリッポ・リッピ、フィリッピーノ・リッピ親子の作品も紹介されて、興味深く見ました。ボッティチェリの作品は、サボナローラの時代の以降は魅力を失いますが、フィリピーノ・リッピの作品は明るさを失わず、工夫もしてあり、とてもいいと思いました。

 

6位 デトロイト美術館展(上野の森美術館)

 デトロイト美術館のコレクションから、セレクトされて展示されているのですが、道楽ねずみのお気に入りはいうまでもなく、ドイツ表現主義の作品です。カンディンスキー、ノルデ、キルヒナーなど有名な作家の作品を日本で見られて感激です。来年もまだ見られます。

 

7位 鈴木其一展(サントリー美術館)

朝顔の作品が素晴らしいと思いました。

 

8位 村上隆のスーパーフラット・コレクション(横浜美術館)

アンゼルム・キーファーの作品を私蔵しているということ自体で驚嘆しました。ほとんどキーファー作品を見るために出かけたのですが、幅広いコレクションに圧倒されました。

 

9位 「ジョルジョ・モランティ展」(東京ステーションギャラリー)

ひたすら瓶や水差しの絵を描いた画家(正確にいえばそのような画家として演じ続けた画家)の作品です。地味ですが、妙なこだわりをもっているように演出されています。

 

10位 ポンピドゥーセンター展(東京都美術館展)

 各年を代表する作品を一つずつ選び展示するという手法も興味深く見ました。ただし、1945年のコーナーには何も展示されておらず、ただEdith PiafのLa Vie en roseの歌のみが流れていました。ナチが合法的に政権をとった1933年のコーナーには、ユダヤ人で後に強制収容所に送られるオットー・フロイントリッヒの作品が展示されていたのが印象的でした。祖国は、彼にとってfreundlich(親しみやすい)ものではなかったのでしょう。

ピカソ、マティス、デュフィなどの作品は、単体としても十分に素晴らしいものでしたし、その年の世相をよく表した作品も多々ありました。

 

(番外編)

・  聖なるもの、俗なるものメッケネムとドイツ初期銅版画展(国立西洋美術館)

・  ピエール・アレシンスキー展(Bunkamuraザ・ミュージアム):同じ作風にこだわらず、いろいろなものから影響を受け、次々と作風を変えるアレシンスキーの作品はとても新鮮で魅力的です。上位にランキングしてもおかしくないほどよい企画展と思いましたが、自分として咀嚼しきれないまま、番外編になってしまいました。

・  レオナルド・ダヴィンチー天才の挑戦展(江戸東京博物館)

・藤田嗣治展(府中市美術館)

 

(純然たる個人的番外編)

・京都大徳寺聚光院の千住博の襖絵

・今後、紹介する予定のローマ、ナポリの美術館

 

今日12月31日は、毎年のとおり、早稲田の穴八幡宮に詣でで、夏目坂の中村屋で年越しそばを食べました。

 

皆様、よいお年をお迎えください。

 


コルシーニ美術館

2016年09月23日 | 美術道楽

サン・ピエトロ寺院を後にして、トラステヴェレ地区まで歩き、コルシーニ美術館に行きます。

今回の旅の目的は、ローマ、ナポリにあるカラヴァッジョの絵を制覇しようということにありました。といいながら、Santa Portaに行ったり、野外オペラに行ったり、ポンペイ秘儀荘に行ったりと、いろいろ他のテーマも最終的には混ざったのですが、主要な目的は、カラヴァッジョです。

 

最初の目的は、コルシーニ美術館にある、カラヴァッジョ《洗礼者聖ヨハネ》です。

サン・ピエトロ寺院からコルシーニ美術館までは、テヴェレ河に沿って歩きます。

テヴェレ河沿いのとおりに出る前にサンタンジェロ城が見えてきます。

 

 

テヴェレ河のほとりを結構歩きました。初日でしたし、日本は、ずっと梅雨のような気候が続いていたので、イタリアの太陽のまぶしさが特に感じられました。

写真にはありませんが、街に自動小銃を構えた兵士がまだいます。

刑務所の前を通り過ぎると、コルシーニ美術館です。

 

中に入ってみますと、貴重な絵画なのに無造作に配列されている印象を受けます。暑い気候の中、空調もかけずに窓を開けっ放しの状態で絵画を保存してあり、解説も各部屋ごとにパネルが置いてあり、それを見ながら確認するしかありません。

 

カラヴァッジョ《洗礼者聖ヨハネ》

実はこの絵は、6月12日まで日本に来ており、2か月前に見たばかりでした。ですので、本当はコルシーニ美術館に行かなくてもよかったのですが、せっかくのカラヴァッジョの旅なので程度で「再会」を果たしてきました。

 

ほかの絵です。

ムリーリョ《授乳の聖母》

パネルではMadonna del latteと書いてあるので、授乳の聖母になると思います。

ただ、ドイツ語のサイトで、この絵がZigeunermadonna=ジプシー聖母???(Zigeunerbaron=ジプシー男爵ですので。)となって いるのを発見して訳が分からなくなりました。

 

 

 

ファン・ダイク《麦わらの聖母》

 

 

リベーラ《アドニスの死》

 

 

 

ルーベンス《聖セバスチャン》

 

 

クリスチャン・ブレンツ《ハエ》(the fly)

 

このほか、Psyche carried by the Zephyrsというタイトルの比較的新しい彫刻が、数少ない観光客の関心をひいておりましたが(単にこの部屋は空調があったからかもしれません)、この彫刻の写真は取り損なってしまいました。

 

他にもたくさんあるのですが、どの絵が誰の絵なのか、タイトルが何なのか、いちいちパネルを見ないとわからないので、見づらい美術館でした。絵の管理方法を見ても、あまりやる気がなさそうで、観光客もほとんどいませんでした。

 

美術館の内部の様子

 

入場券

 

 


戦後昭和の新宿風景(新宿歴史博物館)

2016年06月20日 | 美術道楽

既に展示が終了した展覧会です。

5月初めに新宿歴史博物館に行き、「戦後昭和の新宿風景と題する企画展を見ました。

 

文字通り昭和20年代の敗戦直後から昭和のおしまいまでの写真の展示です。

新宿駅の周りは東口、西口ともに昔の面影は残っていますし、南口は現在のような形になる前の記憶も頭の片隅に残っておりましたので、現在の姿と重ね合わせつつ楽しむことができます。

堀があった時代の飯田橋(飯田濠)、昔の神楽坂なども、意外と現在の姿と重なって見えたりもします。昔河田町にあったフジテレビが建築される前のホテル河田会館(その昔は、近くにある防衛省敷地と共に、尾張徳川家のお屋敷だったようです。)の姿などは、さすがに生まれる前のことなので知らず、興味深く見ました。

 

最後に展示してありましたのは、昭和天皇の大喪の礼のときの写真でした。この時は、既に社会人にもなっており、何だかまだ昨日のことのような感じがしました。


フランスの風景 樹をめぐる物語(東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館)

2016年06月19日 | 美術道楽

既に2か月近く前のことなのですが、西新宿の東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館に行き、フランスの風景 樹をめぐる物語と題する展覧会を見ました。

HPの企画の趣旨にもありますが、ロマン派やバルビゾン派にはじまり、印象派を経てフォーヴまで、樹木を題材にした絵画の数々が展示されています。

最初はコローやテオドール・ルソーの伝統的な風景画が中心で、その後、ピサロ、モネ、ピサロなどの絵も出てきて、シニャックの絵となります。このあたりから、面白くなりまして、最後の方ではヴァロットン、ドニ、セリュジエ、エミール・ノルデ、クリスチャン・ロールフスの絵なども展示されます。

 

あまりにも期間が経ちすぎていささか記憶も薄れているのですが、ヴァロットン、ノルデ、ロールフスの絵が特によかったという記憶です。

ノルデやロールフスの絵は、ヴッパースタールにあるようなので、いつか見に行きたいと思いました。


ファンタスティック 江戸絵画の夢と空想(府中市美術館)

2016年06月13日 | 美術道楽

だいぶ前のことになりました。

5月にブログの更新をすることができない期間に、府中市美術館で開催されていました、「ファンタスティック 江戸絵画の夢と空想」と題する企画展に行きました。

 

ファンタスティックってなんだろうと思いますが、企画展に出かけてもわかりかねました。

要するに夢、空想といった要素を含むものということであろうかと思いますが、そうであればファンタスティックという主題が正しいのかどうか疑問が残ります。

 

ともあれ、俵谷宗達(伊年印)、円山応挙、司馬江漢、歌川邦芳、歌川国貞、伊藤若冲など江戸時代を代表する作者の様々な作品が展示されていました。

歌川邦芳、国貞は、渋谷のBunkamuraで企画展を開催中の時期でしたし、伊藤若冲も東京都美術館で企画展を開催中の時期でしたので、両者の企画展には行かなかったものの、こちらで作品を見ることができました。


東京都現代美術館の一時閉館

2016年06月06日 | 美術道楽

東京都現代美術館は5月29日をもって一時期閉館となりました。

私にとっては、まだまだ開館したばかりの美術館のように思っていたのですが、開館から早20年も経っています。とはいえやはり20年しかたっていないのに工事なのですから、きっと余程耐震面では問題があるのではないかと思ってしまいます。

 

東京都現代美術館が開館した当時は、清澄白河の駅もなく、東西線の木場からバスに乗って出かけた記憶です。

そのころは現代アートも日本では物珍しく、ドイツから帰国して間もなかった私は、日本でも現代アートが楽しめる美術館として、通うようになりました。

マリオ・メルツといった現代の作家の作品も、東京都現代美術館で名前を覚えていったような記憶です。

 

閉館前に開催されていた企画展は、Pixar展で、若い人や子供を中心に大人気でした。

私も、一応見に行き、同じねずみ仲間の「レミーのおいしいレストラン」のレミー関連の展示を中心に見ました。

 

それと「キセイノセイキ」という企画展も同時に開催していました。

HPの企画の趣旨には、「今の社会を見渡すと、インターネットを通して誰もが自由に声を発することができる一方で、大勢の価値観と異なる意見に対しては不寛容さが増しているように思われます。表現の現場においても、このひずみが生み出す摩擦はしばしば見受けられます。そうした中で、既存の価値観や社会規範を揺るがし問題提起を試みるアーティストの表現行為は今、社会や人々に対してどのような力を持ちえるでしょうか。」といった問題提起がされており、こうした問題意識が企画展のテーマになっていました。

展示物のタイトルと解説はあるが、展示物の全くない空間という作品もあれば、ウォーホルのマリリンモンローの作品に手を加えた作品もありました。

キセイノセイキに展示されていた橋本聡の作品

 

しかし何と言っても今回、東京都現代美術館を訪れたのは、常設展のコレクションの展示を見るためです。アンディー・ウォーホル、ロバート・ラウシェンベルク、ロイ・リキテンシュタイン、ウィレム・デクーニングなど現代美術館自慢のコレクションが展示されていました。

 

東京都現代美術館は2018年に耐震工事を終える予定とのことですが、また常設展のコレクションを展示してくれることを望むばかりです。改修後は、アニメやオタク文化の殿堂になってしまうという噂が流れたこともあるようですが、そのようなことにならないよう願ってやみません。

 


村上隆のスーパーフラット・コレクション(横浜美術館)

2016年03月23日 | 美術道楽

横浜美術館で「村上隆のスーパーフラット・コレクション」と題する企画展が開催されています。

 

森美術館で展示されていた五百羅漢図だけではなく、村上隆の作品はどうの好きになれないのですが、こちらは村上隆の作品ではなく、そのコレクションの展示です。テレビの「ぶらぶら美術館」でアンゼルム・キーファーの作品を見て、キーファーの作品を見るだけでも意味がありそうだと考え、この企画展に出かけてみた次第です。

 

行ってみまして、その膨大なコレクションに圧倒されました。

ホルスト・ヤンセン、アンディー・ウォーホール、奈良美智、ガブリエル・オロスコなどいかにも現代アートという感じの作品もあれば、一休や秀吉の書もあり、北大路魯山人の器もあり、果てには村上隆のパパの小作品もあるなど、本当に広いジャンルの作品が多数展示されています。

 

ただ、個々の作品の解説はなく、しかも展示がたくさんあるのに、展示作品の作家と作品名を記載したプレートが一か所にまとめられていることもあって、誰のどの作品だかわからなくなっているものもありました。

 

一番の見どころともいえる、キーファー作品は何と入場料を支払わなくても入ることができるスペースに展示されていました。入口を入ってすぐのところに展示しており、お年寄りの車付きのカバンやベビーカーが、天文学的とまではいえないかもしれませんが、極めて高額と思われるキーファー作品のガラスケースに激突しそうで心配になります。

キーファー作品は、無料のスペースで、しかも空間的に余裕のないところ置かれているせいか、せっかくの作品なのに、足を止めてみている人の姿もほとんどいませんでした。残念なことです。

無料スペースには、ほかにも大きな作品が展示してあります。「ぶらぶら美術館」の番組の中で山田五郎氏が、このまま横浜美術館にずっと置いてくれれば、村上さんも管理の問題がなくていいのではないかと発言していましたが、本当にそのとおりと思ってしまいました。このままここにおいてくれれば、訪問者もいつもキーファー作品が見られて本当に良いのにと思います。

 

キーファー作品以外で、私のお気に入りの作品は、もちろん相方も含めネズミですので鼠志野茶碗もありましたが、なんといってもダグ・アンド・マイク・スターン《横桟のあるキリスト》でした。バーゼル美術館所蔵のホルバインの《墓の中の死せるキリスト》をベースにした作品です。昔、何度も訪れたバーゼル美術館所蔵のあの作品をベースにした作品ですので、強く魅き付けられました。

 

4月3日までの開催予定です。

会場内は写真撮影が可能です。

 


茶の湯の美、煎茶の美(静嘉堂美術館)

2016年03月22日 | 美術道楽

世田谷区岡本にある静嘉堂美術館で開催中の「茶の湯の美、煎茶の美」と題する企画展に行きました。二子玉川から世田谷美術館行きの小型バスに乗っていきます。20年も前にこのバスに乗って世田谷美術館から二子玉川まで出たことを思い出しました。今回は期間終了間際であったせいか、静嘉堂美術館に行く客で小型バスは息苦しくなるくらいの超満員です。

 

さて、展示品ですが、静嘉堂美術館自慢の国宝の曜変天目(稲葉天目)が展示されています。前にサントリー美術館でも藤田美術館所蔵の曜変天目を見ましたが、曜変天目は世界で3点しかなく、いずれも日本にあり、国宝に指定されているということです。藤田美術館のものと合わせて2つ見たことになります。

《唐物茄子茶入 付藻茄子》というのは、足利義満→信長→秀吉と伝わったもので、大坂夏の陣で大破したものの、家康の命により漆でつなぎわせ、表面も漆で塗り固めて修復したものということですが、外から見たのでは、破損したことがわからないほど、漆で陶器の色、肌合いまでうまく再現されています。

このほか、油滴天目、灰被天目等々もとは大名家の所蔵していた茶器が所狭しと展示されています。

 

敷地も広く、庭に出れば、竹林も見ることができます。

23区内にこのような場所があるとは知りませんでした。

 

 

 

 


没後100年 宮川香山展(サントリー美術館)

2016年03月21日 | 美術道楽

サントリー美術館で開催中の宮川香山展に行きました。

宮川香山は、幕末期から大正期にかけて活躍した陶芸家で、京都に生まれ、岡山県に行った後、明治維新後横浜に出て、そこで輸出用の精巧な陶芸を作成するようになります。

 

1876年のフィラデルフィア万国博覧会や、1878年のパリリ万国博覧会などで受賞し、その名声を高め、特に、陶器の表面をリアルな浮彫や造形物で装飾する「高浮彫(たかうきぼり)」という新しい技法で知られるようになります。花瓶に張り付いているような蟹、水差しの上で体をくねらせて、歯や耳の血管まで再現してあるネコ、花瓶に張り付いて、毛並や赤くなった目やこれまた耳の血管まで再現してあるネズミなど、いったいどうしてこんなに精巧な作品が製作できるのか驚嘆します(いずれも写真撮影ができない作品で、冒頭の写真とは異なる作品です。)。

おばあさんたちが、「いや、よくできたネズミだ。」としきりに感激しておりまして、うちの相方ねずみのことを「よくできるねずみ」と褒めてもらったような気持になり、こそばゆい気持ちになってしまいました(趣旨はもちろん違うのですが。)。


ジョルジョ・モランディ 終わりなき変奏(東京ステーションギャラリー)

2016年03月20日 | 美術道楽

東京ステーションギャラリーで開催中の、「ジョルジョ・モランディ 終わりなき変奏」と題する企画展に行きました。

ジョルジョ・モランディの作品につきましては、既に昨年のミラノ、ローマ紀行でもいろいろ紹介しているところです。

 

モランディは、故郷からほとんど出ることなく、ひたすら瓶や水差しの絵を描いた画家として知られています。中には、同じような絵もあり、2つ並べると間違い探しのような感じもします。今回の企画展に際しても、「すこしちがう すごくちがう」というキャッチコピーが用いられています。いろいろ見ていますと、サイロのような変わった形の容器があったり、伸縮自在の不思議な器が描かれていたり、影のつけ方に特徴があったり、瓶についてホコリに特徴があったり、およそ実際にはありえない瓶の配置(テーブルから容器が落ちてしまうような配置)があったり、瓶と瓶との間に微妙な距離が置かれたり、間にリボンのようにつなぎ合わせるように見える器が置かれてたりと、いろいろ工夫がされていることを知りました。何でも瓶のホコリはとても貴重で、誰もモランディの瓶のホコリを掃除してはいけなかったそうです。

 

モランディが瓶だけではなく、瓶のような没個性的で空間表現しかされていない風景画や花の絵も描いているということは今回初めて知りました。

 


新宿風景展(中村屋サロン美術館)

2016年03月14日 | 美術道楽

3月13日まで中村屋サロン美術館で開催していた「新宿風景展」に行きました。

油彩画は佐伯祐三のほか、名前を知らなかった刑部人という画家の作品の合計2点のみの展示ではありました(刑部の作品は描かれた年さえ不明でした。)。

大半の作品は、新宿の昔の景色を描いた堀潔の絵葉書でした。それはそれで、昔の景色を知ることができたり、思い出すことができたりと興味深く見ました。

このほか、歌川広重や川瀬巴水の版画もありました。広重の作品は、市ヶ谷八幡や内藤新宿を描いた作品が展示されていました。内藤新宿の作品は、巨大な馬が描かれているのが有名ですが、馬糞まで描かれています。

 

江戸時代まで遡って、今自分の住んでいる近辺の景色の版画を見ることができるのは、楽しいものです。


カラヴァッジョ展(国立西洋美術館)

2016年03月13日 | 美術道楽

国立西洋美術館で開催中のカラヴァッジョ展に行きました。

2001年に東京都庭園美術館でカラヴァッジョ展が開催されて以来、久しぶりの回顧展になります。

 

今回、カラヴァッジョの作品は、以下のものが展示されています。

《女占い師》(ローマ、カピトリーニ美術館)

《トカゲに噛まれる少年》(フィレンツェ、ロベルト・ロンギ美術史財団)

《ナルキッソス》(ローマ、バルベリーニ宮国立古典美術館)

《果物籠を持つ少年》(ローマ、ボルゲーゼ美術館)

《バッカス》(フィレンツェ、ウフッツィ美術館)

《マッフェオ・バルベリーニの肖像》(個人蔵)

《エマオの晩餐》(ミラノ、ブレラ美術館)

《メデゥーサ》(個人蔵)

《洗礼者ヨハネ》(ローマ、コルシーニ宮国立美術館)

《法悦のマグダラのマリア》(個人蔵)

《エッケ・ホモ》(ジェノヴァ、ストラーダ・ヌオーヴァ美術館ビアンコ)

 

カラヴァッジョの11作品をいっぺんに見られるなんて、とても貴重な機会です。しかも、個人蔵の作品などは、この機会を逃すともう一生見られないと思いますと、特に熱心にみてしまいます。《マグダラのマリア》は、最近になってカラヴァッジョの真筆であることが確定した作品で、しかも、一般公開は世界初ということです。《マグダラのマリア》は、お尋ね者のカラヴァッジョが、恩赦を得るための切り札として描いた絵ということです。マグダラのマリアは、娼婦としての過去を悔い改め、聖女となっているので、カラヴァッジョはこの絵をシピオーネ枢機卿に寄付することによって、自分も悔い改めるので、恩赦をしてほしいと訴えたかった模様です。

《洗礼者ヨハネ》に描かれたヨハネのポーズは、17世紀初めにローマで発掘された著名な古代彫刻《瀕死のガリア人》に基づくといわれています。カピトリーニ美術館に展示されている彫刻のことと思います。

 

世界初の公開ということもあり、《マグダラのマリア》の前は人込みで一杯ですし、それだけではなく開館前から国立西洋美術館の前には開館前から長蛇の列ができるほどの人気です。

 

私は、昨年ミラノ、ローマを訪れていたので、《女占い師》、《ナルキッソス》、《果物籠を待つ少年》、《エマオの晩餐》は見てから1年も経たないうちに「再会」することができました。また、もう13年も前になりますが、フィレンツェを訪れた際にもウフッツィで《バッカス》は見ていたので、この絵とも「再会」できましたし、今回展示のものとは違う作品の《メデゥーサ》(個人蔵)も見たことがありましたので、「再会」に近い気持ちとなりました。今回、ローマのコルシーニ宮国立美術館やジェノヴァのストラーダ・ヌオーヴァ美術館など行っていないところの絵も見られてとてもうれしくなりました。

 

カラヴァッジョ作品以外の作品でも、バルベリーニで見たベルニーニ《教皇ウルバヌス8世》を初め、イタリア各地から優れた作品が来ています(グエルチーノもあれば、ドメニキーノもあります。)。国立西洋美術館のラ・トゥールやグエルチーノ作品も展示されています。

また、カラヴァッジョの非行の記録や、ライバルとの裁判の記録なども、合間合間に展示されており、意外な見どころです。

 

おそらくは、2016年の美術展の中では、最も印象に残る美術展になりそうな雰囲気です。

今回、石鍋先生の講演を挟んで、合計3回会場を1周して、目を皿のようにしてみましたが、後、最低2回は訪れようと思います。

また、改めてカラヴァッジョの絵画を見るために「巡礼」をしたくなりました。ただ、イタリア周辺ですと、残るはナポリ、シチリア、マルタになってしまい、いささかハードルを感じなくもありません。今回の企画のパネルでドイツのポツダムの絵画館にもあることを知りましたが、ポツダムも何回か出かけている割には、1日でサンスーシーとツェツィリエンホーフの両方を回ったせいか、絵画館には一度も行っておりません。こちらも、ぜひ訪れたくなりました。