銀座テアトルシネマで「
敵こそ,我が友-戦犯クラウス・バルビーの3つの人生―」を見ました。ドキュメンタリー映画です。
ナチス親衛隊のバルビーは,戦争中,リヨンでレジスタンスの弾圧,ユダヤ人強制収容所への移送等に関わります。そのときについた名前が「リヨンの虐殺者」。第1帝政期から復古王政期に活躍した,警察大臣
ジョセフ・フーシェにつけられた名前と同じ名前を付けられることになります。
そして戦後。バルビーはそのままヨーロッパで活躍します。アメリカ陸軍情報部で反共運動の工作員として暗躍し,時には極左にも接触し,その影響は90年代にまであったとのことです。バルビーは自らは訴追を免れる一方で,フランスにおける戦犯(反レジスタンス)の裁判で証言までします。
しかし,フランスからの引渡しの要求が強くなると,アメリカはバルビーを南米に亡命させ,バルビーは南米で武器密輸やクーデターに関わり,反共の軍事政権を支え,また南米におけるネオナチの中心になっていきます。
最後に,軍事政権と麻薬の密売の関係が明らかにされ,アメリカが軍事政権を見限らざるを得なくなったときに,バルビーはフランスに送還され,終身刑になります。そして,刑務所内で病死。
バルビーの言葉「皆が皆私を必要としていたのに,裁かれたのは私一人だけだ。そこが不公平だ。」
映画の主人公はクラウス・バルビーですが,テーマはバルビーという個人を超え,「敵の敵は友」の理屈のもと,反共のためにはナチスや独裁政権を利用することも全く意に介さなかったアメリカのパワー・ポリティクスだったような気がします。インタビューの中でも,イスラム原理主義者の利用についての言及もありました(私自身は,このほかにもサダム・フセインやチャウシェスクのことも思い出しました。)。
映画の最初にはベトナム戦争の時の有名な裸の女の子の写真も一瞬写っていましたし,映画のポスターにはアメリカの国旗もあるのですが,国旗の星の半分がナチスの鉤十字になっていました(たまたま映画館の前を通りがかった観光客と思わしきアメリカ人グループは,暢気に皆でこのポスターの写真を撮っていましたが,このポスターの意味は全く分かっていないのでしょうね。)。
本作品では,非常に多数の関係者のインタビューが回転よく,次々と流れていきます。少し気を抜くとついていけなくなります。私は疲れていたこともあり,南米編の前半は完全に眠ってしまい,チェ・ゲバラの逮捕・処刑への関与の話を見ることができませんでした。DVDが販売になったら,是非丁寧に見直したいものです。