ダウンワード・パラダイス

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(期間限定記事)「坂道のアポロン」文化祭のシーン

2020-09-10 | 映画・マンガ・アニメ・ドラマ・音楽
(gyaoでの無料配信期間は終了しました。)







川渕千太郎(drs.)




西見 薫(pf.)


文化祭での即興ジャム・セッション。この場に居合わせた生徒たちは、北島マヤの「女海賊ビアンカ」を観ることのできた高校生たちと同じくらい幸運だったね。


 1960年代後半の佐世保を舞台に、ジャズを愛する高校生男子二人の友情を描いた青春もの。原作は2009年度版「このマンガがすごい! オンナ編」にて1位に輝き、第57回小学館漫画賞一般向け部門も受賞した折り紙付きの名作。2018年には実写映画化も。
 このアニメ版は2012年4月 から 6月にかけて放送。 全12話。音楽監督は菅野よう子さんで、幾多のスタンダードナンバーを見事にアレンジしている。
 作中の演奏シーンがどれも素晴らしいのだが、ことにこの7話の文化祭のシーンは「アニメ史に残る3分31秒」として話題になった。もちろんここに至る経緯を知ってから観るのが望ましいんだけど、gyaoでの無料公開が2020年9月15日までとのことで、とりいそぎ紹介まで。


 ジャズの魅力はアドリブだろう。同じ曲をやっても、ミュージシャン同士の感情の流れや、その場の雰囲気しだいで別物になってしまうこともある。まさに一期一会。アドレスを貼ったシーンは、ご覧になればおわかりのとおり、「電気系統のトラブル」という不慮のアクシデントでたまたま成立した。もちろんこの二人はこれまで何度も一緒に練習をしており、だからこそここまで息の合ったライブができたわけだけど、ここに至るまでの数日間は、行き違いが重なって気まずくなっていた。それがこのセッションで一気に解放される。カタルシスに満ちたシーンでもあるわけだ。



 この好評に気をよくした二人は、周りからの薦めもあって翌年の文化祭では最初から出演を決め、念入りに準備をするのだけれど、前日の夜に起きたアクシデントによって中止を余儀なくされる。ポシャってしまうわけである。卒業してからは互いの道を歩み、何年かのちの最終話で、薫が千太郎を離島の教会に訪ねる、という形で再会を果たす。そしてそのまま、当然ながら何ひとつ打ち合わせなどしていないのに、またしても偶然に、かつ圧倒的に、セッションが成立してしまう。それがアニメ版の最終話(12話)だ。


 お話の作り方としてもうまいし、何よりも、ジャズの本質を捉えた名シーンだと思う。繰り返しになるが、まさに一期一会。その時、その場所でなければ成立しない1度かぎりのもの。生前の中上健次は、「レコードをぶっ壊せ。」としつこく言っていたけれど、たぶんそういう意味だったんだと思う。まあ、どちらのシーンで使われた演奏も、プロのミュージシャンがスタジオ録音したものなんだけど、そこは言わぬが花ってことで。


 とにもかくにも、本編をお見逃しになった方は、とりあえずこの7話の文化祭のシーンだけでもどうぞ。おおむね16:00あたりから。

(gyaoでの無料配信期間は終了しました。)






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