ダウンワード・パラダイス

「ニッポンって何?」を隠しテーマに、純文学やら物語やら、色んな本をせっせと読む。

期間限定記事・ばらかもん

2020-10-06 | 映画・マンガ・アニメ・ドラマ・音楽


(この記事は20年10月06日付です。gyaoでの無料配信期間は終了しました。)



dig フカボリスト。口がわるい。




e-minor ……当ブログ管理人eminusの別人格。




☆☆☆☆☆☆☆




 どうもe-minorです。


 digだよ。


 本日は時間がないので立ち話ていどになると思うけれども。


 手短にやらせてもらうぜ。


 ギャグ満載のとにかく楽しい作品です。毎回毎回、たっぷり笑って最後にほろり。「笑いありナミダあり」ってやつ。『昭和元禄落語心中』、『坂道のアポロン』につづいて、gyaoでの期間限定・無料公開アニメのご紹介。


 どれも基本的にはリアリズムで描かれてる点が共通してるな。あと作者が女性であるところも共通……といいたいところだが、いま調べたら、『ばらかもん』のヨシノサツキ氏は男性とのことだった。


 「長崎県五島市出身・在住」とウィキペディアにあるね。それで、さらに「長崎県五島市」を引くと、「長崎港から約100キロメートルの位置にあり、11の有人島と52の無人島により構成されている。」とある。いわゆる離島なんだけど、これはそのような作者にしか描けないお話。


 「ばらかもん」とは現地のことばで「元気者(元気なやつ)」という意味らしい。ただこの主人公の青年・半田清舟(はんだ せいしゅう。これは書家としての号で、本名は半田清)は第1話の時点では「元気」とは程遠い。


 むしろ意気消沈してるよね。引き続きウィキ先生の記述を借りつつ補足すると、「23歳。身長は174センチ。かなりのイケメン。書道界の家元の後継ぎ。期待の新鋭として名を馳せていたが、入賞作品を書道界の重鎮に酷評されて逆上し、暴力沙汰を起こす。大事には至らなかったものの、父から“頭を冷やして来い”と命じられ、単身、五島に移り住む。」


 でもこれなあ、「酷評されて」って言うけども。


 「書道界の重鎮」って、美術館の館長なんだよね。受賞パーティーのさなか、自分の書いた作品を前にしてこう言われるんだ。「まだ若いのに、型にはまった字を書くね。手本のような字というべきか、賞のために書いた字というべきか。君は平凡という壁を乗り越えようとしたか? 長いこと運営していると、目が肥える。じつに詰まらん字だ」


 それで「基本に忠実で何が悪いっ」と言って殴り掛かる、というか、じっさいに殴ってしまうわけだけど、これは館長の言うのが正論だよな。修業時代ならともかく、プロだったら個性を出すのが当然だ。


 だよね。半田の生真面目さと、世間知らずでプライドの高い性格を示してるんだろうけど、いきなりここは「ん?」と思った。しかも目上の高齢者を殴るってのは尋常じゃなくて、これは書道界うんぬん以前に、社会人としてアウトでしょ、ふつうなら。


 だから最初は主人公の半田に感情移入できなくて、いまひとつ気持ちの据わりが悪いんだけど、なるが出てきた瞬間にもう……


 そうそう。いやでも、とつぜん「なる」っていっても読んでる人にはわからない。ではgyaoの公式コピーから。
「東京で“ある事件”を起こしたイケメン書道家・半田清舟(小野大輔)。雑音から離れ書道と向き合うため、身寄りのいない島に一人で生活することに。海と山がきれいで人口が少ない小さな田舎町。借りた家は、汲み取り式便所にバランス釜のお風呂、ネズミが走るボロ屋……そんな家には、元気過ぎる小学1年生のなる(原涼子)が秘密基地として遊んでいた。一人になりたいのに一人になれない、半田の慌ただしい島生活が始まる。」


 この「なる」のCVを務める声優さんがむちゃくちゃ上手いのな。


 原涼子さんという方らしいね。子役出身で、現在は15歳とか。アニメ版が放映されたのは2014年7月~9月だから、当時は9歳くらいってことになるけど、それでこの演技力……


 なにが凄いって、ずっと方言なんだよ、なるは。


 うん。だから、「現地というか、同じ方言圏の中からオーディションで選んだのか」なんて思ってんだけど、ウィキで肩書をみたら、神奈川県横須賀市出身なんだ、この方は。


 ウィキペディアの「原涼子」の項には、『ばらかもん』のことが特筆してあるよな。


 そうなんだ。原作者のヨシノサツキ氏は、「子どもには方言は無理だと思うので、なるは標準語でしゃべらせてほしい」と言っていたそうだ。しかし、あまりにも原さんが上手かったので、その懸念は払拭された。ちなみに原さん、最初に方言での台詞の入ったCDを貰って、それを何度も聞いて覚え、難しいところは現場で教わってこなしたとのこと。


 よほど耳がいいんだなあ。


 この「なる」がもし標準語で喋ってたら、このアニメの魅力は半減したろうね。


 半減っていうか、十分の一くらいかな。いや内容も音楽もいいんだよ。もちろんそれだって良作になったとは思うけど、それくらい、なるの方言の力は大きいってこと。


 半田の移住したこの家を「秘密基地」にしてたのはなるだけじゃなく、中学生の山村美和と新井珠子もいる。そこに同級生の木戸浩志や他の児童たち、もちろん島の大人の人たちも濃密に加わって、「一人になりたいのに一人になれない、半田の慌ただしい島生活」が繰り広げられるわけだけど。


 いやアニメでこんなに笑わせてもらって、いい気分になったのは久しぶりだわ。


 「都会の生活に挫折した男(いやもちろん女でもいいけど)が、何かのきっかけで田舎で暮らすこととなり、そこでの暮らしのなかで人間的に成長を遂げ、再生の手がかりを掴む」というモティーフはたくさん前例があるだろうし、そこに「子ども」が絡んでくるのもしぜんな設定だと思うんだけど、これはその中でも傑作だと思うな。


 このアニメについては、おれのほうから付け加えることはないんだけども、ひとつ言いたかったのは、こないだまで2人でやってた「バナナフィッシュ」の件な。記事はまとめてnoteに移動しちまったが。


 うん。


 あれも青年と子どもがかかわる話だった。『ばらかもん』の半田はこのあと立ち直るんだろうけど、バナナフィッシュのほうは、あのとおり残念な結果になっただろ。


 シーモアは彼なりの悟りに達して幸福だったかもしれないが、一般的には、そりゃ残念としか言いようがない。


 そこが第二次大戦の生んだアメリカの純文学と、平和を謳歌する泰平ニッポンでつくられたエンターテインメントとの違いだなあ、ということは思ったな。


 どちらも大事なものだし、その双方が揃って文化ってものは豊かになるとは思うけどね。


 たしかにな。


 というわけで、今回のお薦めアニメは『ばらかもん』、ぼくらも気づくのが遅かったんで、第2話だけは無料公開が終わってしまいましたが、1話とその他の話数にはまだ間に合うんで、よかったらご覧ください。



(この記事は20年10月06日付です。gyaoでの無料配信期間は終了しました。)