ダウンワード・パラダイス

「ニッポンって何?」を隠しテーマに、純文学やら物語やら、色んな本をせっせと読む。

宇宙よりも遠い場所・論 05 友達って何ですか? 前編

2018-11-28 | 宇宙よりも遠い場所
 あれこれ書いているけれど、『宇宙よりも遠い場所』はエンターテインメントであって、深刻でもなければ小難しくもない。ほとんどは、女子高生4人がわちゃわちゃやってるだけである。むろん報瀬の抱える課題は重いが、彼女とて大半のエピソードでは稀にみるドジっ子としてコメディエンヌぶりをいかんなく発揮し、「ポンコツ」と書かれた紙を額に貼られる始末だし、日向だってけっこうガキっぽい。天然ボケ気味のキマリのおバカっぷりはいうまでもない。とにかくみんな楽しそうで、こちらとしても、ややこしいことなど考えず、そのようすに付き合ってるだけで全然いい。
 あくまでこれは、「物語」というものをより深く味わいたい人や、自分でもいずれ物語をつくってみたいと思っている人たちのための論考だ。
 さて。友達ってのは、そんなふうに「よくは分からないけど一緒にいるだけでなんだか楽しい」間柄のことをいうんだろうけど、いざ正確に定義してみろと言われると、たしかに困るところがある。
 最後にくわわる白石結月(しらいし ゆづき CV・早見沙織)は、友達というのがどんなものなのか、実感としてわからない。子役として仕事に追われ、学校にちゃんと通えなかったため、親友はおろか同世代の知り合いすらいなかったせいだ。それで「友達」や「友情」に並々ならぬ憧れをもっている。


 この結月は、むろん他の3人と同じくたいへん魅力的だし、彼女がおらねば面白さが半減するのも間違いないが、話の構成上から考えるなら、かなり作為的なキャラではある。
 もし結月がいなかったら、3人が南極に行けることはなかったろうからだ。整理してみよう。
 報瀬の母は「民間初の南極観測隊」の一員として彼の地に赴き、そこで消息を絶った。それもたんなる「一員」ではない。藤堂吟(とうどう ぎん CV・能登麻美子)、前川かなえ(CV・日笠陽子)と共に、そのプロジェクトを立ち上げた、主要メンバーの一人だったのだ(むろん3人とも、南極に行ったのはその時が初めてではない。あくまで「砕氷船と基地を使用する権利が民間に払い下げられて初」ということである)。


藤堂吟。初登場シーン(厳密にいえば1話でちらりと姿を見せてはいるが)




左が前川かなえ。右はマネージャーも兼ねる結月の母


 犠牲者を出したショックと、スポンサーの撤退による資金難でプロジェクトは頓挫し、3年間のブランクののち、ようやく再開のめどが立った。報瀬たちはそこに加わろうとしているわけだ。
 藤堂は母の高校時代からの親友で、母がよく自宅に招いていたので、報瀬も子供の頃からよく知っている。ただ、母が遭難した際の隊長を務めていたひとだから、お互いにわだかまりがある。これは2人に共通する頑なな性格も大きいわけだが。いっぽう、副隊長の前川かなえは、気さくな人柄で話しやすい。どうやら報瀬はこれまでにも再三、かなえのいる事務所を訪ねて「連れて行ってくれ」と直談判し、そのたび突っぱねられてきたらしい。
 そこで報瀬は今回、キマリと日向を伴って夜の歌舞伎町に出かける。観測隊の会合がそこで開かれるとの情報を入手し、もういちどアタックしようと計画を立てたのだ。しかしそれは、「男性隊員を色じかけで篭絡し、密航を企てる。」などという、おバカというかマヌケというか、「ポンコツ」の名に恥じないグダグダな策なのだった。
 とうぜんそれは失敗する。そもそも歌舞伎町に来た時点で、雰囲気に飲まれてパニクっているほどだから、うまくいくはずもない。「誰が声を掛けるか」を押し付け合っているうちに、前川かなえと、調理担当の鮫島弓子(CV・Lynn)に見つかって、歌舞伎町中を追っかけまわされる羽目となる。


 この鬼ごっこは、考えてみると全13話のなかで唯一の「アクションシーン」といっていい。ドタバタなんだけど、挿入歌がかかり、キマリの「なんかね、動いてる……私の青春、動いてる! なにかが起きそうで……なにかが起こせそうで……」という述懐もあって、ほろりとさせる名場面にもなっている。個人的にも好きなシークエンスだし、ひとつずつのカットに緻密な計算が施されていて、分析のし甲斐もあるのだが、このあたりで時間を掛けると後になって息切れしそうだ。涙を呑んで割愛しましょう。

 エピソードそのものを冷静に見れば、バカな真似をして、オトナのひとに迷惑をかけてるだけなんだけど、たしかにそれも「青春」ってものの一面ではあろう。
 ふだんから鍛えている観測隊員のお二人には、元陸上部員の日向もかなわず、結局3人はとっつかまって、喫茶店で大目玉をくう。その場で報瀬が改めて南極への思いを吐露し、「お母さんが待ってる」と言って、一同が粛然とする。
 ……といったあたりが第2話の後半部で、だからサブタイトルは「歌舞伎町フリーマントル」だ。
 歌舞伎町まで出かけて走り回っただけで、じっさいにはなにも進んでいない。とんだ無駄足……と、現実であればおしまいになる所だが、そこは「物語」である。観測隊の会合の場に、母親と一緒に結月が招かれ、居合わせていたのだ。そこから事態が一気に進展する。
 「鬼ごっこ」が始まったとき、「誰ですか?」と周囲のひとに3人の素性を訊ねた結月は、どうやらそのまま3人を尾けてきたらしい。帰りの電車で、同じ車両の隅っこの席に乗り合わせているのだ。



帰りの車中。今回の計画のあまりのアホらしさに、日向が「リーダー報瀬の解任動議」を提唱し、キマリが即座に賛同したところ


この時点での距離感


ふくざつな目つき



 この結月のカットで第2話はおわる。視聴者にはまだわからないし、どうも結月自身にすら明瞭にはわかっていなかったようなのだが、彼女はこのとき、3人のことをものすごく羨ましく思っていたのだった。