桃井章の待ち待ち日記

店に訪れる珍客、賓客、酔客…の人物描写を
桃井章の身辺雑記と共にアップします。

2006・12・16

2006年12月17日 | Weblog
直前のリハをするまでは、本番できっとアガルと思っていた。何てたって40数人の観客の前で朗読するのだ。素人の俺が上がらない訳がない。だからアガッタ時の用意に傍に強いラム酒を置いておいた。でも、そんなことは必要なかった。紺野さんのピアノの演奏が耳に心地よく聞こえて来る。オンチの俺にもその旋律が、音符になって見えて来る。朗読を始めるきっかけの小節も分かった。読み出したら読み出したで、自分で声の高低を調節出来て、抑揚もつけたりしてしまった。不思議だった。何故こんなに落ち着いていられるのだろう?朗読と朗読の合間に思う。でも、考えてみれば不思議でも何でもないことだ。他の人にとって、そこは「ハレ」の場であるステージであったりするのかも知れないけど、俺にとっては、毎日、お客さんとお酒を飲んだり、すき焼を食べたり、掃除したり、後片付けしたりして働いている日常の場なのだ。他の場所ではアガッテしまっても、ここではアガリたくてもアガリようがないのだ。とは云っても、素人の朗読には違いないし、決して上手く出来た訳ではない。それに紺野紗衣さんのファンにとっては、誰だか分からない初老の男の朗読なんて、邪魔以外の何物でもなかったろう。でも、終った時、やってよかったと思ってしまった。確かに昔、モノを表現する事をしてきたけど、脚本家はあくまで裏方だし、表で人の前でモノを表現する醍醐味には敵わない。今日のことに味をしめた俺は、ウチのスペースなら上がらないし、来年、人前で何かを表現したいと云う衝動にどうしようもなく駆られだした。誰かこの無謀な衝動を止めてくれ。