桃井章の待ち待ち日記

店に訪れる珍客、賓客、酔客…の人物描写を
桃井章の身辺雑記と共にアップします。

2006・10・30

2006年10月31日 | Weblog
月末、お金のやりくりがつかない。払わなくてはならないお金がありすぎて、何から先に払っていいか分からない思考停止状態。とりあえず督促を受けたり、延滞金が発生してしまっている労働保険料と冷蔵設備の保守点検料、合わせて10万近くを振り込む。でも、31日までに自動振替されたり、どうしても払わなくてはならないお金が家賃管理費の60万円を入れて、後100万前後。ところが、お店の通帳は30万を切っている。今日は週明けで期待出来なかったけど、それでも美人姉妹の妹Nさん、忘れ物を取りに来たまま飲んで行ってくれた映画配給会社のAさんとWさん、近所のNさん、信託銀行勤務のU君、GテレビのSさん、SミュージックのIさんたち、祇園のバーのママRさんたち、宝石デザイナーのAさん、常連の演出家Sちゃん、日比谷の映画興行会社のTさん一行たちのお蔭で、何とか10万を越えることはできたけど、カード売上が多くて現金収入は5万。まぁ、31日だけで65万の現金収入を上げることは英語の喋れない俺がアメリカ大統領になるより無理。さてどうする?結局、俺が個人的に何とかするしかないのだけど、役員報酬と云う名目の35万ばかりの給料はもう三カ月も出てないし、七月に入った予期せぬ130万の著作権収入を取り崩して手当てするのも今月が限界だ。

2006・10・29

2006年10月30日 | Weblog
起きて突然母に会いたいと思った。母に会いたいと思う時はいつも突然だ。母にとっては迷惑な話だろうが、気にせず電話して白金にあるトンカツ屋『D』で会う約束をする。『D』は二年半前に亡くなった父の行きつけだった店だ。生前、父は家族が集まる機会があると必ずといっていい程この店を指定した。有名人の娘を気づかってか、営業時間外に無理を云って店を貸し切り状態にしては、殆どのメニューを食べきれない程オーダーするのが常だった。そして料理が出て来る度に、まるで自分が作ったかの様に「うまいだろ、うまいだろ」と美味さを強制した。その時は少し煩くて迷惑だったけど、いまになってみると懐かしい。だからか、俺もこの店に来ると、父と同じように食べきれない程の料理を注文してしまう。今日も80ン歳の母と二人きりなのに、特製オニオンスライスから始まって、山形牛の刺身、特大カキフライ、串揚げ、海老とホタテのフライ盛り合わせに200グラムのロースカツ定食を注文してしまう。だからこの店を出る時はいつもお腹が苦しい。血は争えないものなのか、それとも生前は決してうまくはいかなかった親子関係をこの店に来ることで取り戻そうとする潜在心理が働いているのだろうか?6時に店。12時まで粘ってお客さんは図書館勤務のMさん一人きり。日曜日だから仕方ないかと諦めて、ゲップばかりしている。

2006・10・28

2006年10月29日 | Weblog
いつもは奥さんと一緒の脚本家のHさんが今日は一人で来店してくれた。お客さんも少なかったので、二人で話す。Hさんとは30数年前、同じドラマを書く脚本家同士として知り合って、電話では色々愚痴を云ったり、他の脚本家やプロデューサーの悪口を云ったりしてお喋り友達としてつきあっては来たけど、こうして二人きりで話すなんて初めてのような気がした。知り合った頃はお互い新人だったけど、Hさんは俺とは違って瞬く間に売れっ子脚本家になり、ヒット作品も次々発表して来た。でも、60を過ぎて、まだ現役でやっているものの、仕事の注文が舞い込んで困ると云う状況ではないらしい。若い頃は一日でも仕事をしない日があると、精神的におかしくなると嘆く程の仕事中毒のHさんにとって、今の状況は耐えがたいに違いない。そこで俺はけしかける。ウチで芝居を書きなよとけしかける。お金はもう一生分稼いだんだし、これからはお金にならない仕事をしなよと。Hさんは曖昧に頷く。お金にならない仕事ってHさんには未知の世界なのだろう。でも、これからは未知への挑戦をしないと時間を持て余してしまいますよ。今までの作風とは全く違う作品を見せて下さいよ、Hさん。他にお客さんは女性脚本家のIちゃんとゼミの生徒2人、珍しく女性連れの司会者のBちゃん、先日の『舌切雀』の公演をこの日記で知って見に来てくれた女優のAさんたち、すき焼だけを食べに来てくれたイチゲンのお客さん、結婚式帰りのBさんたち、そして最後はウイスキーを何杯も飲み続けて泥酔して立てなくなってなってしまった名前も知らない若い女性客。一人じゃ歩けないので抱きかかえて階段を登ったら、腰に痛みが走った。

2006・10・27

2006年10月28日 | Weblog
今日は九時から常連のH監督の新作映画の打ち上げパーティがあると云うのに、七時過ぎに看護婦のRさんとレントゲン技師のAちゃんが来店してくれたのを皮切りに、プロデューサーのMさんとTさん、映画制作会社に勤めるYちゃん、脚本家のHさんと女友達、初めてソロデビューしたYさん、テレビ制作会社の経理担当者Iさんたち、テレビプロデューサーのMさんたち、TテレビのAさんと放送作家のTさんたち、常連のFさん、同じく法律事務所勤務のNさんたち、同じく信託銀行マンU君とその先輩、近所のAさん、Nさん、二年前ウチで公演をプロデュースしてくれたAさんたち、女優復帰宣言したMさんたちで溢れかえって、電話してきたお客さんは断らなくちゃいけなくなるし、Yちゃんには客から臨時スタッフになって働いて貰ったり、その後来店してくれた俳優事務所社長FさんとテレビAのAさんたちにはドア近くに仮設のテーブル席を作って対応する始末。昨日は十時半までお客さんが一人もいなかったと云うのに、まったく世の中ままならない。パーティが終った後もお客さんが残って4時近くまで。7時からずっと立ちっ放しで働き続けたTちゃんとMちゃんが肉でも食べないと体が持たないと強烈なアピールに負けて、Yちゃんも一緒に朝方から新大久保の韓国料理屋に。20代の女性三人がホルモン料理をパクつく姿を眺めながら、還暦間近の俺には肉を食う気力は残ってなく、クッパをすするのみ。6時過ぎ解散。もうすっかり朝。

2006・10・26

2006年10月27日 | Weblog
今月はいつもの月より支払いが多い。納期が過ぎて督促を受けている固定資産税、同じく労働保険料、冷凍冷蔵設備の保守点検修理代……等々総額20万近く。反対に今月はいつもの月よりイベントやパーティが少ない。この数カ月、只でさえ売上が低迷していると云うのに、今月は先月より先々月より更に悪い。金曜日は急にパーティが入って助かったけど、土曜日にも日曜日にも急に何十人規模のパーティが入るなんて奇跡が起こらない限り、とても支払いをまかなうことは出来ない。勿論、俺の役員報酬は今月も出ない。イベント絡みのギャラその他経費の支払いも待って貰うしかない。そんな中、今日も予約はないけど、せめて7、8万の売上は何とか上がらないかと6時から店に出ていたのだけど、8時になっても9時になっても10時になっても一人のお客さんも来ない。10時半になってイチゲンのお客さんが一人来てくれて、11時過ぎにJ子さんが珍しく男友達と、11時半に美容師のKさんが来てくれてお店が辛うじて成立。でも、この時点での売上はみんな一杯づつしか飲んでいなかったので6、7千円でしかない。こんな状態ではこの後お客さんは望み薄だし、経費を削減するしかないと、Mちゃんを11時半に、Tちゃんを12時に帰してしまう。ところが皮肉なもので、こういう時に限って遅くからお客さんが来る。殆どTちゃんと入れ違いにTテレビの面々6人が、続いて脚本家Nさんたち5人のグループ。それもドンドン料理を注文して来る。俺がドリンクのオーダーを受けながら作った料理は、すき焼2、パスタ4、カレー2、小皿料理3。みんなが帰って後片付けが終ったのは3時半。だから何さ?と言われれば別にとしか答えられないし、一人でバタバタした売上は3万に満たなかったし、後一週間で59歳になる男は完全に思考放棄状態で、お客の残したベチョベチョになったパスタを胃袋に詰め込んでいた。

2006・10・25

2006年10月26日 | Weblog
Lちゃんが辞めたことをこの日記を読んでいて知っている人もいれば、当然全く知らないで来店する人もいる。知っている人は俺をやんわりと非難しつつ、Lちゃんが幸せな人生を歩んでくれることを願ってくれたりするが、知らないで来た人に事情を説明すると、一様にショックを隠しきれない。強烈なLちゃんファンだった近所のNさんは、数カ月前に出入り禁止にしたにも関わらず、何かを察知してか店に入って来た。普通ならまだ出禁中だと追い返すのだけど、Lちゃんのことは教えておかなくてはとカウンターに座らせた。予想はしていたことだけど、Lちゃんがやめたことを知って、ひどく落ち込んでしまった。いつもは酔っぱらって訳の分からないことばかり喋り、勝手に他の客の会話に入って来てウザイとしか思わなかったNさんが、とても可哀相に見えてしまった。対照的に演出家Sちゃんは、Lちゃんを可愛がっていたにも関わらず、やめたことを知ってびっくりしたものの、最近のLちゃんを見ていて、辞めるは時間の問題だったとクールに対応する。まぁ、Lちゃんはたかが酒場の女の子だったけど、されど酒場の女の子だったと云うことか?明日もまたLちゃんのことをお客さんに説明しなくちゃいけないと思うと結構気が重い。今日は25日、Lちゃんの10月分の給料は手渡しではなく、初めて銀行振込にした。
※そのLちゃんが11月13日発売の『週刊プレーボーイ』でグラビアデビューすることになりました。皆さん、記念に買ってあげて下さい。

2006・10・24

2006年10月25日 | Weblog
朝起きて、突然お好み焼きが食べたくなる。だからって、一人でお好み焼きを作るのは不気味な光景だし、お昼からお好み焼き屋さんはやってない(と思う)。そこで冷凍庫にあったブタコマとキャベツの残りを油で炒め、ソースとマヨネーズで和えたものに鰹節をかけた物を作って食べる。100%じゃないけど、95%はお好み焼きの味で満足。後はこれまた冷凍庫にあったイカをじゃがいもと一緒に煮た物と、冷や奴にオクラを一杯刻んで粘りが出たものを乗っけて、他には納豆となすのサラダ風漬け物。やっぱりこんな風に好きな物を好きな時間に食べられる生活って幸福。表はいつの間にか嵐っぽくなっている。早い時間に出て、郵便局、銀行を廻って買い出しして5時半に店へ。こんな日はお客さんがいないだろうと思っていたら、六時すぎにイチゲンさんが二人、元広尾の雑貨店店主のKさん、常連のFさん、法律事務所に勤めるNさん、人妻Iちゃんと続く。そして久々に30年来のつきあいの俳優事務所AのBさんがTテレビのKプロデューサーと監督のTさんと、東京国際映画祭に来た地方の映画祭の面々が12人で、更に広告代理店D通の一行6人が続いて、イベントスペースまで久々に満杯になる。とは言っても売上は12万を超えた程度だけど。2時半過ぎ、店を閉めてTちゃんと今後の店のことについて話しながら飲む。これからLちゃんのいないコレドを作っていかなくてはならない。

2006・10・23

2006年10月24日 | Weblog
Lちゃんが店をやめることになって、最初に直面したのがランチ問題だ。折角始めたことだし、それはそれなりに楽しかったし、何とか続けたいと思った。でも、それには一人じゃ出来ないし、Mちゃんに引き続き担当して貰うことにして、夜は俺とTちゃん二人でやれば、やってやれないことはない。日曜日の夜中まではそう思っていたし、中華ランチを入れた新しいメニューも印刷した。でも、今朝起きてみて、途中三時間程の空白はあるけど、朝10時過ぎから日によっては翌朝4時過ぎまで店に拘束されるのは、もうすぐ59歳になる身には、ちょっとハードすぎると思い出した。そう思い出すとランチを続けることのマイナス面だけが浮かび上がって来る。パーティや大きなイベントの時はMちゃんに十時間以上の労働を強いることになる。TちゃんやMちゃんが病気で休んだ時はどうする?俺はただただ店に拘束されているだけで、イベント企画や営業に動かなくていいのか?そんなことを考えていたら、時計は十一時を廻っていた。もう今日は出来ないと判断した途端、俺はMちゃんにランチを中止するから夜働いてくれと電話していた。楽しみにしてくれたお客さんには本当に申し訳ないと思う。行き当たりばったりで全く駄目な経営者だ。

2006・10・22

2006年10月23日 | Weblog
いざそうすると決めたけど、躊躇うことは躊躇った。Lちゃん宛のメールに『10月21日付けで君との雇用関係を終結します。二年間コレドの為に有難う』と書いたものの、なかなか送信出来なかった。送れば終るのだ。二年間にわたる実の親子以上の俺とLちゃんの関係が終ってしまうのだ。まだやり直せるのではないかと微かな可能性を探って送信を躊躇い続ける。感情的にはこのまま可能性を探り続けたかった。ずっと探っていたかった。でも、高まる感情を理性が抑えた。ケジメはケジメなのだ。ここで負けたら二人にとって悪い結果しか待ってない。そう言い聞かせると、俺は送信ボタンを押して、ダメを押すようにLちゃんにやめて貰う顛末を日記に書きだす。もう引き返せない。書きながらLちゃんと過ごした二年間の色々な思い出が走馬灯の様に脳裏に甦って来る。また感情に負けそうになる。そこを必死でこらえて書き終える。書き終わるといつもなら見直ししたりするのに、こみ上げる感情から逃げる様に即座に送信した。Lちゃんからはしばらくして『こちらこそありがとうございました。感謝しています』と返信があった。俺の目から涙がこぼれた。

2006・10・21

2006年10月22日 | Weblog
10日前、イベントがあった日にLちゃんは開場時間になっても店に来ず、連絡も取れなくなってしまった為、俺は予定をキャンセルして店へ飛んで行った。そして、遅れて来たLちゃんに俺は告げた。たった十五分だけど、何の連絡もなしに遅刻したりすると他の人間の大事な時間を奪うことになる。以後、一分でも連絡なしに遅刻した場合は、その場で店をやめて貰うと。そして、今日。Lちゃんは何の連絡もなしに10分遅刻した。俺はもうこれまでだと決心した。Lちゃんに今日はもう帰ってくれと告げた後、メールで解雇通告をすることにした。たった十分だ。そこまですることはないだろうとも思う。この二年間、お店はLちゃんのお蔭で活性化したんだし、そんなことで切り捨てるべきではないとも思う。Lちゃんがいなくなれば必然的に俺の労働時間が増えることになるし、他の仕事が出来なくなって結果的にお店にとってマイナスになることは分かっている。それでも、俺はLちゃんと別れることにした。Lちゃんとはホントの親子みたいに二年間つきあってきたから辛くて辛くてたまらないけど、別れた方がお互いの為にいいと思った。二年前、二人きりで朝から晩まで働いていた時、俺の自転車の後を必死に追って走って来る彼女の姿を思い出すと、今でも愛しくなって涙が出て来てしまうけど、もうあの日は戻らない。そして10月23日、月曜日からLちゃんの姿はもうコレドにはない。