季節はずれのインテルメッツォ(続)

音楽、文学、絵画、スポーツ、シェパード等々についての雑記帖。

糸目

2009年10月10日 | 音楽
音楽学生と思われる方から、音楽を学ぶにはお金に糸目をつけてはいけないと言われて引きずっている、本当だろうかという問いをいただいた。

似たような話として「ピアノを取るか、結婚を取るか」はっきりさせなさいと言われたというのもある。

何にお金や時間や感情を費やすか、それは他人からとやかく言われるべきことではない。ましてや生徒に対して言うべきことではない。一種のアンフェアである。

生活というものがいちばんの関心事であるのは誰でも同じだろう。

しかし記事に書くと約束したものの、一般に適応する内容となると何を書いたらよいか思案投げ首である。個人的に話ならいくらでもできるのだが、不特定の人に対して書くべきこともない。人生相談みたいだしなあ。

僕がまず感じることだけ書いておこう。ひっかかるのは「金に糸目をつけぬ」という表現である。この通りに言われたのではなくても、およそそう受け取られる言い方になったのであれば、僕は首をかしげざるをえない。

音楽ではなくとも、すべてはそれなりに金がかかる。誰でも許された条件の中でいろいろ工面するわけである。

結局はその人があるものに対してどんな価値を見出しているか、というところに行き着く。

糸目をつけぬという言い方に僕が引っ掛かりを覚えるのは、僕自身はそういう言葉の使い方を決してしないからである。

勘違いしてもらいたくないが、僕自身が何かについて糸目をつけぬことは決してない、というわけではない。目下そのような心境にはないが、もしかしたら器に車に糸目をつけない、と狂う日が来るかもしれない。

つまり「糸目をつけない」という言葉は、通常自分自身の決意や身の処し方に対して使うのである。

車屋が僕に向かって「金に糸目をつけてはいけませんよ」と言ったらバカやろうということになるだけだ。「でも安全のためには・・」と付け加えても、それはこちらが決めることだ、営業の下手なやつだなあ、と苦笑いするだろう。

音楽には金がかかる。(でも繰り返すけれど何だってお金はかかる。犬にもかかるし、趣味にもかかる。)演奏会だって、外来演奏家の入場料は高い。オペラ、オーケストラともなるとお手上げだ。僕も学生のころはちょっと言うのを憚られるような方法で聴いたものだ。

しかし今日、すべての演奏会が満席というわけではない。それどころかガラガラの場合だってあるようだ。僕自身は演奏会というものにまったく行かなくなってしまったので、断言はできないけれど。

ヨーロッパのように当日売れ残った席は(少なくとも学生には)数百円で売ったらよいのにと思う。

そうした方が演奏する側も嬉しかろう。1000人のホールに300人いるより、250人のホールが満席のほうがずっと嬉しいものです。若い聴衆を育てもする。

そんなことを考えていくと糸目をつけるつけないよりも、まず音楽界としては先にした方がよいことがありそうである。

習う側にも言いたい。あらゆる場面で人を選べ、ということ。演奏会、CD、講習会、レッスン、楽譜。これらを無造作に、あるいは受身に行っていたならば、仮に糸目をつけて続けてもつけずに続けても大した役には立たない。結局のところすべてはその人が決める事柄である。

あらゆる噂を疑ってみることも大切である。噂だけで成り立つような世の中かも知れないでしょう。

そして最も大切なことは、工夫をしろということだ。工夫に糸目をつけてはいけない。これは無尽蔵なのだから。

つまり「糸目をつけず」という言い方自体は何ら実体がない。恐れるに足らずということであろうか。糸目をつけずと言う人だって本人はつけているに決まっている。そんな言い方をする品性を疑ったほうが良い。率直な感想だ。


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2 コメント

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Unknown (A)
2009-10-10 19:13:09
本当に記事にしていただいて、ありがとうございます!!
この記事を読んで、自分自身が音楽を学ぶことに受け身だったことに気がつきました。
きっとそんな姿を見兼ねて学ぶことには貪欲になってほしい、という意味をこめてお金に糸目をつけるな、と先生は言ったのではないか、と思えるようになりました。
今は音楽を学べる環境が整っていますし、自分で探して工夫すれば出来る事はたくさんあると思うので、自分で考え、選択し、行動できるように頑張ろうと思います。
これからも音楽の道をあきらめずに進んでいこうと思います。ありがとうございました!
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細く長く (重松正大)
2009-10-11 02:03:09
Aさん、あまりストイックにならずに続けてください。僕は生徒に「細く長く続けるほうが大切だ」と言っています。そして本当はこちらの方が難しい。

音楽の勉強という言い方も好きではありません。何を美しいと感じるかは人それぞれでしょうが、少なくとも美しいと思うことが肝腎なので、「正しい」ことを求めてもだめだと思います。

この辺はたいへん難しいところです。あれこれ書き散らす行間から少しでも伝わることを願います。

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