パラドクスの小匣

南原四郎、こと潮田文のブログです。

これはひどい!

2006-02-14 01:14:35 | Weblog
 といっても、トリノ冬期オリンピックにおける日本人選手の成績のことではない。子供の頃、「是はうまい」というふりかけが大好物だったが、「是はひどい」と言うしかない法律が4月1日から実施されそうだ。
 その法律は、検査機関の認証を受けていない電気製品の販売を禁止する、「電気用品安全法」という2001年に施行された法律で、今年3月一杯で、5年間の猶予期間が終了するのだ。簡単に言うと、検査機関の認証を受けた証拠である、PSEマークのついていないすべての電気製品の販売を禁止するというもので、違反したものには法人で一億、個人でも数百万円の罰金が課せられるという。
 この法律のどこが「ひどい」のかというと、“今後”、PSEマークのないすべての電気製品の販売を禁止するというのではなく、“過去”にさかのぼって適用されるところにある。実際、“今後”の販売禁止というだけなら、正直言って、まったくの無駄な法律だが、それを除けば、どってことはない。しかし、“過去”にさかのぼって適用されるとすると、話は別だ。なぜなら、その場合、2000年以前に作られた電気製品を販売することはできなくなり、中古市場が成立しなくなるのだ。是はひどい! 中古市場というものは、単に貧乏人向け市場というのではない。日本で「ノンリコースローン」が一般化しないのは、日本の家屋の中古市場が小さいのが大きな理由になっているように、「金融」にも密接に関係してくる。

 なんで「金融」に関係してくるのかと言うと、「月光」のケインズ特集でも触れたのだが、中古製品販売業というのは、実は、情報産業なのだ。たとえば、工場を出荷したばかりの自動車の品質は、製造業者が保証している。つまり、商品に関する情報は、新品の場合、消費者に公開されている。ところが、いったん消費者の手に渡り、自動車ならば、数万キロ走っている間に、どのような不具合が生じたかは、それを運転していたものにしかわからないし、それを中古業者に売る場合、売る側はそれを隠して売ろうとする。一方、中古車業者は、自らのノウハウでそれを見つけだし、適当と思われる価格でそれを買い取り、利益分を上乗せした値段をつけて、買い手に売る。これが中古車業者の仕事であるけれど、その本質は、中古自動車の外見ではわからない「秘密の情報」を探り出すところにあるのだ。もちろん、テレビや冷蔵庫、オーディオ機器、パソコンなどの中古販売業者の仕事も同様で、売り手が隠したがる、「真の価値」を暴き、それを中古価格に反映させるのが彼らの仕事である。(中古価格には、「ブランド価値」という、「品質」とはまた別の、無形の要素もあるけれど)もちろん、銀行や株の売買も、「情報産業」である。

 では、今回実施される「電気用品安全法」の場合はどうかというと、「PSEマーク」は、工場出荷時における商品の安全性を保証するというものであるけれど、前述したように、工業製品は、新品、すなわち工場出荷時の製品の機能、安全性は、製造者が保証している。言い換えれば、消費者は、新品を買う場合には、「安全性」について――もちろん、実際には、「価格に応じて」、という条件がつくが――心配する必要はない。つまり、新製品の情報は公開されているのだ。というか、正確には、消費者一般が「共有」している。
 要するに、工場出荷時の製品を検査機関が調べて「PSEマーク」を付与することなど、そもそも必要がないのだ。
 しかし、それだけじゃない。「PSEマーク」のついていないものは、中古品でも販売してはいけないというのだ。しかし、前に書いたように、中古品販売業者というものは、買い手(消費者)にはわからない、中古品の欠陥などを精査し、通常の使用にはまず問題がないとわかったものに、適当な価格をつけるのが仕事なのだ。それを、「PSEマーク」がついていないというだけで販売禁止にされたら、中古製品販売業そのものが成り立たない。逆に、「PSEマーク」がついていれば、中古品であれなんであれ、売っても良い、というが、「PSEマーク」がついていようがいまいが、いったん消費者の手に渡ったら、必ずどこかに不具合が生じる。つまり、「PSEマーク」は中古品の場合、なんの意味も持たないのだ。
 
 以上は、「原理的」な話だけれど、実際に生じる問題は多岐に渡り、いずれ深刻な問題を生じかねない。たとえば、古道具屋とか、リサイクルショップにかぎらず、一般の小売り業者も、「PSEマーク」のついてない商品の在庫をかなり抱えているのが現実で、そのために税金も払っている。なぜなら、将来利益を生むかも知れないからだ。その在庫品を4月以降は売ってはいけない、というのだから、業者としてはすべてゴミとして捨てるしかないが、そうなると、今まで、「将来的に利益を生じるもの」という前提で払っていた税金はどうなるのだろう。「売ってはいけない」ものを抱えて、なおかつ税金がかかるのだろうか。あるいは、利益の圧縮要因になるのだから、その分、一種の還付金としてもどってくるのだろうか。
 2chの書き込みにあったのだが、この疑問点を税務署に聞いたところ、「電気用品安全法なんて法律は知らない」、という返事だったそうだ。いやはやなんともであるが、業者としては、「PSEマーク」のついていない商品は、捨てる以外にない。それでもいいのか? 通商産業省。

 この「とんでもない」法律については、月光読者のH君から一ヶ月程前事務所に来た時に、「リサイクルショップや、中古業者がパニックになってますよ」、と聞かされていたのだが、昨日あたりから2chでスレが立って、「紀子様御懐妊」の後を継ぐように、大騒ぎになっている。しかし、新聞もテレビも、マスコミは一切、この問題に触れていない。どうなってるのか。担当役所である通商産業省には、ここのところ、急に抗議の電話が多くなり、苦慮しているらしいのだが……。役立たずだなあ、マスゴミは。