夢かよふ

古典文学大好きな国語教師が、日々の悪戦苦闘ぶりと雑感を紹介しています。

服を選ぶ

2012-12-21 17:19:54 | 日記
服を選ぶのは出会いにも似て、偶然性に左右される部分が大きい。
気に入った服にすぐに出会える場合もあれば、いくら探そうとちっとも見つからない場合もある。

また、洋服は基本的にその時々の流行に乗っかって作られているので、以前と同じような服は、なかなか手に入れることができない。

昨年まで、非常に気に入って、冬の間は日常使いしていたダウンのハーフコートがあった。6年ほど前、新潟の長岡に出張する前に、何か暖かい服をと思い、高島屋で買い求めた(別にたいした値段ではない)。同じ型で色を黒にするか、オリーブグリーンにするかで迷い、また同じ黒でもデザインが微妙に違うのが2つあって、どちらにするか2、3度着替え、お店の人にも意見を聞いて、やっと決めた。

軽くて、暖かくて、どんな服にも合わせやすくて、スーツの上に着ても、ジーンズなどカジュアルな服の上に着てもおかしくなく、重宝して、冬の間は平日も休日もしょっちゅう着ていた。

ところが、昨冬からさすがに傷みが目立ち始め、服の縫目から羽毛が出てくるようになってしまった。年をとると黒髪に白髪が混じるように、気がつくと白い羽がつくようになったコートは悲しかったが、春になって泣く泣く捨てた。その前から、同じようなコートがほしいと探し始めたものの、なかなか見つからず、来シーズンに望みを託すことにした。

だからこの冬は、先月来ときどき同じようなコートを探したが見つからず、普段使いのコートがないまま、すっかり寒くなった。先週、池袋で買い物をしたときにもさんざん探し回ったのだが、思うようなものはついに見出せなかった。ダウンのハーフコートはあっても、以前とはすっかり人々の好みが変わっているのか、同様のデザインのものが絶望的なほどにない。少し似た感じに見えても、生地のテカテカした風合いが気に入らなかったり、今風の縫い方やポケットの形・配置などに違和感があったり、丈が長すぎたり…。

そして結局気づいたのは、長い時間が経ってから、以前気に入って着ていたのと同じ服を見つけようとしても無理だ、という当たり前のことだった。定番の商品でない限り、同じものは手に入らないのだから、こういうときは、元のお気に入りのイメージを捨て、むしろそこから遠いものを選ぶくらいでちょうどいいのだ。軽く暖かくて動きやすく、オンにもオフにも使えるもの、という基本線だけ譲らずに、店員さんのアドバイスも聞きつつ、今の自分に合い、感覚にピッタリくるものを選んだらすぐに決まった。(マーガレット・ハウエルの服を買うのは初めてだったが、このブランドはちょくちょくいいのがあるな、と前から思っていた。)

たとえは違うかもしれないが、「舟に刻みて剣を求む」という故事成語がある。時世の推移に気づかず、旧套を守る愚を戒めるものだが、世と共に推移するのが賢い生き方なのかもしれないな、と感じた今回の出来事だった。