夢かよふ

古典文学大好きな国語教師が、日々の悪戦苦闘ぶりと雑感を紹介しています。

五島美術館 秋の優品展

2015-09-16 21:42:46 | 日記
これも先週の今日、五島美術館に「秋の優品展 宗教と美術」を観に行った。
この日の朝、間もなく台風が東海地方に上陸するとの予報もものかは、電車を乗り継ぎ、上野毛駅からは歩いて、強い風雨に濡れながら、ようやく五島美術館にたどり着いた。


この展覧会は、装飾経を中心とした「古筆経」、禅宗僧侶の「墨跡」「水墨画」など、名品約50点を選び、宗教と密接な書や絵画の世界を展示したもの。
あいにくの天気が逆に幸いし、ほとんど来館者がない中で、わたしはゆっくりじっくり、一点一点を心ゆくまで眺めることができた。

特にすばらしかったのは、重要文化財の後鳥羽院筆「熊野懐紙」。
後鳥羽院が、正治二年(1200)に和歌山の熊野三所権現を参詣した折のものである。
この懐紙は、三年前にも一度見ているが、見るほどにその書から王者の風格が感じられるような気がする。

読みやすいように表記を改めて書くと、

    行路氷
  朝ゆけば日かげ待つ間の氷ゆゑ絶えぬに絶ゆる山川の水
    暮炭竃
  冬くればさびしさとしもなけれども煙をたたぬ小野の夕暮

800年もの昔、後鳥羽院が険阻な山路を難儀しつつ行った熊野御幸の道中や、後鳥羽院はじめ院政期の上皇を度重なる参詣に駆り立てた信仰心のあり方を、心に思い描いていた。