グローバル経済が世界を席巻、蔓延しても消えない国境 “政経分離”は空念仏
(世相を斬る あいば達也)より
以下の朝日新聞の朝刊記事(取材報道)は必ずしも優れているから紹介しているわけではない。
ただ、着想は悪くないと思うので、取り上げる。
記事は未だ続くようなので中途半端な印象だが、我慢して読んでみよう(笑)。
冒頭のユーロ圏のエリート官僚が行う共同体の経済共助の思想と、それぞれの国の“国家観”に対する国民の意識との乖離が潜在化している点を書いている。
否、既に顕在化していると謂うべきかもしれない。
この点は、グローバル経済下で生き抜かなければならない、世界中の国家が多かれ少なかれ抱える、経済優先か?国家意識優先か?の問題だとも言える。
朝日新聞の記者が、それを意識して書いたかどうか判別出来ないが、筆者は読んでいて、それを感じた。
現在、日本のマスメディアが多くの紙面を割いているのは、国威高揚的プロパガンダ報道と尖閣・竹島の領土問題になっている。
後、グジャグジャの政局も語っている。
ほとんど彼らの紙面から、国民の生活に密接な“経済”は置き去り風になっている。
おそらく、書けば書くほど、暗澹たる記事になるか、嘘八百を書くか、どちらかなので嫌なのだろう(笑)。
一部を除く我が国の右翼の人々も、左翼の人々も、押し並べて“経済成長の鈍化”を毛嫌いする。
殆どの政治家も、GDP成長神話に毒されている国民に足並みを揃えているのが実情だ。
国民の意識を汲みとらなければ政治家ではいられない以上、致し方のないことだが、グローバル経済やGDP成長神話を追いかけていれば、日本等云う国が、永遠の自転車操業と蛸の脚喰いに翻弄される事実を語ろうとしない。
ナショナリズムも満足したい、グローバル経済の波にも乗りたい。
多分、この二頭を追いかける“哲学の矛盾と貧困”が続く限り、日本国家は“米国”と“官僚”の支配から逃れられないような気分になる。
まぁ今夜は参考程度の筆者の思いを語った。筆者の年齢になると、“成長”とは無縁になり、現状維持か、或いは生活成長と異なる、異次元の発見や成長変化に興味が出てくる。
その意味で不評だが、“鎖国的国家観”と云う意識はいまだに消えない。
否、益々強くなるのだが・・・。
そうそう、志村建世氏のブログで紹介されていた ≪「阿武隈共和国独立宣言」(著者:村雲司)≫と云う本が出版されているそうだ。
筆者の“鎖国的国家観”とは異なるシチュエーションであり、井上ひさしの「吉里吉里人」とも違うわけだが、興味のある一冊。気分が乗ったら買って読んでみようと思う。
ただ、福島原発による放射能汚染問題を、どのように受けとめ、自己消化していくか、野田に読ませたい本だが、感性のない男だけに、馬の耳に念仏なのであろう。
≪ EUエリート、民意と摩擦 〈カオスの深淵〉
■さまようエリート:1
めざす学校はブリュッセルの北にあった。高い門をくぐると、広々とした敷地が広がる。
子どもたちがサッカーに興じる姿は、ごく普通の学校だ。
違うのは、ここが幼稚園から高校まで、欧州連合(EU)27カ国からきた子どもたちに、母国語での教育をする「欧州学校」だということだ。
ブリュッセル はEU諸機関が集中しており、そこで働く人の子どもが通う。
生徒は最低三つ、人によっては五つの言語を身につける。卒業生は欧州全域の大学に散らばっていく。
「世界中で仕事をしているが、そのうち1割ぐらいが EU機関に勤めることになると思う」とウルフ・シラーベ校長は言う。
前の校舎が手狭になり、9月に引っ越してきた。
めがね店を営む町内会長のディディエ・ウォーテスさんはいう。
「地元としては交流しようと思うが……。
子 どもや親が商店街に来るのはまれ。
欧州官僚には、長く住んでいても町のことを全然知らない人もいる。
別の世界に住んでいる、という感じがする」
EUの諸機関を動かす欧州官僚は、市民からすれば、つかみどころのない、高給取りのエリート集団だ。
その彼らの影響力が、欧州債務危機でにわかに強まっているように見える。
各国の財政に問題がないかチェックしたり、欧州全体で銀行を監督したりと、国を 超えた仕事が増えているからだ。
その象徴が、イタリアのモンティ首相だ。欧州官僚機構を仕切る欧州委員だったが、母国の政権が行き詰まり、選挙で選ばれたわけではないのに、首相として呼び戻された。
パパディモス元欧州中央銀行副総裁も一時、母国ギリシャの首相を務めた。
欧州官僚として昨年まで30年以上勤めたデビッド・ライトさんは、大物経済官僚の一人だろう。
ギリシャの経済改革を助言するタスクフォースの一員として、脱税防止策などにかかわった。
EUが求めた改革にギリシャ国民の反発は強かったが、「われわれはベストの技術的な支援を用意し、ギリシャ政府も歓迎した。
政治家にとっては、改革をするために外部からの圧力が必要なことがある」という。
しかし、それは国ごとの民主主義との間に摩擦をもたらしている。
「EUエリートたちは、民主主義と国家主権をないがしろにしている」。
フィンランドで反EU政党を率いるティモ・ソイニさんは訴える。
党はじわじわ支持を伸ばし、いまやフィンランドで最も有名な政治家だ。
EUの何が問題なのか。
「法律づくりを主導しているのは欧州委員たちだ。
選挙で選ばれた議員じゃない。
彼らのどこに正統性があるのか」 第2次大戦後、平和と繁栄をめざして欧州は統合を進めた。
いまや経済は国を超えるようになったが、政治は国にとどまる。
その隙間を、選挙の洗礼を受けないEUエリート集団が埋める。
国民投票などの参加型民主主義を提唱するドイツの市民運動家、ミヒャエル・エフラーさんは言う。
「必要なのは欧州レベルで政治を議論する場だが、それは存在しない。
欧州統合は、専門家のレベルでしか起きていない」 欧州官僚機構のトップ、バローゾ欧州委員長の9月12日の演説は、集中する権力への戸惑いがにじんだ。
「民主主義は国境を超えられないという人がいる。
ちょっと待ってほしい。
欧州の民主主義は、国家の民主主義に対立するのではない。補うのだ」
ぴかぴかの欧州エリートも、自らが何を背負い、だれに責任を持つのか、見つめ直さずにはいられなくなっている。
(有田哲文、伊東和貴)
◇
〈欧州連合〉 欧州での国を超えた政治や経済のまとまり。
1952年に石炭と鉄鋼の生産などを管理する欧州石炭鉄鋼共同体をつくったのを出発点に、93年に欧州連合(EU)に。
2004年に中東欧各国を加えるなど加盟国は増え、現在は27カ国。
貿易や移民の垣根を低くして、うち17カ国は共通の通貨ユー ロを使っている
〈欧州官僚〉 欧州連合(EU)の関係機関に勤める職員の通称。
「ヨーロッパ」と「ビューロクラット(官僚)」をあわせ、「ユーロクラット」と呼ばれる。
主にEUの行政執行機関である欧州委員会で働いている人たちを指すが、各国の国家元首や政府首脳でつくる欧州理事会や欧州中央銀行(ECB)にも、 門的な分野で働く職員は少なくない。
〈欧州債務危機〉 2009年にギリシャの財政赤字のごまかしが明らかになったことから始まった危機。財政や経済に問題があると見られた国の国債が急落して金利が上昇。
次々に財政運営に行きづまる国が出てきた。
ギリシャ、アイルランド、ポルトガルが欧州連合各国に救済されたほか、スペインに対する救済の可能性が出ている。
◇
■PKOの現場でも国益
安全保障でも、国境を超えた取り組みが普通になった。それは軍事エリートに、新たな問いを突きつける。 昨年4月。
東ティモールのジャングルを貫く泥道で、陸上自衛隊の栗田千寿(ちず)2佐(37)が、「UN」と書かれた大型四輪駆動車のハンドルを握っていた。
迷彩服の右肩に水色の国連ワッペン、左肩に日の丸。
国連東ティモール統合ミッション(UNMIT)の軍事連絡要員としてやってきた。
国連平和維持活動 (PKO)への個人単位の派遣は、女性自衛官では初めてだ。
東部を担当する5人のチームには、参加各国から軍人が派遣されていた。
「現地では、国同士の旗の見せ合いだった」
チームは各地の村や警察署、学校を訪れ、食糧事情や衛生、教育のニーズを尋ねて回った。
中国陸軍の少佐は、地元華僑から「福」と書いたお守りを仕入れ、 行く先々でばらまいた。
フィリピン陸軍の中佐は、へき地の村の水道の開通式に押しかけ、国旗をつけた軍服で来賓席に陣取った。
栗田2佐も、現地の人たちと記念撮影するたび、車に載せた日本製プリンターで印刷し、裏に日の丸と「JAPAN」の文字を書いて渡した。
「どれだけ自衛隊の存在感を示せるか。常にプレゼンスを意識していた」
同志社大を卒業後、約70倍の一般幹部候補生試験をパスして自衛官に。
2010年の自衛隊観閲式では、陸海空の女性自衛官約300人の指揮官を務めた。
東ティモールの派遣前は、国連の一員として平和に貢献しようと燃えていた。
だが「旗の見せ合い」を目の当たりにして、国連と自衛隊、どちらに軸足をおくべきか戸惑いもでた。
そして「自分も日本のために来たと思うようになった」。
一時的な身分の国連に尽くすより、自衛隊が国際社会の信頼を得る方が大事だと感じたからだ。
自衛隊の国連PKO派遣は今年9月、満20年を迎えた。
この間、2007年に海外活動が本来任務となり、安全保障の舞台は世界に広がっている。
だが「世界平和」の現場では、国を背負うエリート軍人たちが国益をめぐってぶつかり合っている。
「『日本の旗を外して働いてこい』と言われて来てみたら、各国はみな国益を前面に出していた」
陸自の化学戦の第一人者で、元陸将補の秋山一郎さん(63)は、化学兵器禁止機関(OPCW)での10年間をそう振り返る。
OPCWは、97年にオランダ・ハーグに設置された。
軍縮条約の化学兵器禁止条約を約190の加盟国が守っているか監視する国際機関だ。
秋山さんは97年、初代の査察局長として出向した。
査察局は、各国が毒ガス兵器を廃棄しているか、申告外の化学原料を作っていないかを調べる実動部隊。
約200人の査察官のうち、6割が各国から派遣された軍人だった。
山梨県の旧上九一色村にあったオウム真理教のサリン製造施設や、フセイン政権下のイラクの研究所にも査察に入った。
OPCWの規則では、「職員はいかなる国の指示を受けても、便宜供与をしてもならない」と定められている。
だが、「トップシークレットに土足で入りこむ組織。
みな自国に不利にならないように動く」。東欧諸国や途上国の大使は、「地域格差を解消しろ」と理由をつけ、事実上自国の査察官を増やすよう要求してきた。
ある途上国は、自国の工場の査察が増えるのを嫌い、査察予算の増額を拒否した。
情報漏れを防ぐため、パソコンの画面は窓に向けないことが鉄則だった。
「金融、経済でどれだけボーダーレスになっても、軍事では国境はなくならない。
軍事は政治の一手段であり、軍隊イコール国なのです」
■フランス外人部隊─「国のためには戦わない」
国を超える軍事エリートは存在しえるのか。
フランス陸軍に、国籍・経歴不問の「外人部隊」がある。
約130カ国から集まる隊員は約7千人。
中でも、コルシカ島にある第2外人落下傘連隊は、戦時に最初に敵地に潜入するエリート部隊だ。
07年まで5年間在籍した元陸自の日本人男性(30)を訪ねた。
訓練では、数百メートル上空の輸送機からパラシュートで飛び降り、海上で足ひれをつけて上陸したり、重さ20キロの装備を背負って何十キロと行軍したり。
内戦状態のコートジボワールへ在留フランス人の救出に向かい、ガボンやチャドにも行った。
フランスという国は何だった?
「あくまで雇用主だった。
フランスへの愛国心ですか……。
なかったですね。
契約だから死ぬ覚悟はあったけど、いま仮に日本とフランスが戦争になったら、 祖国の自衛隊に行く」
日本語の隊員募集サイトには、部隊訓の冒頭に
「君は信義と忠誠をもってフランスにつくす志願兵である」と書かれている。
命を捧げたのに、ただの雇用主だったのか。
除隊した今、東京・丸の内のオフィスビルで警備員をしている。
職場で軍歴は明かしていない。
軍隊はもう十分なのだという。
別の男性(39)は、陸自のエリート部隊・第1空挺(くうてい)団を「実戦で活躍する場がない」と辞め、やはり第2外人落下傘連隊に入った。
ソマリアの基地で検問中、銃撃戦になったことがある。
銃声がやんだ後、銃口の先の物陰から、足を撃ち抜かれた黒人が運ばれてきた。
「でも外人部隊には、フランスのために戦うやつなんて誰もいなかった。
ただ必死に言われた任務をこなすだけ。
たいていの目的は、勤め上げればもらえる仏国籍と、カネですよ」
自身はフランス国籍を取得したわけでもない。
初任給は1千ユーロ(約10万円)余り。
いま勤める都内のIT企業の方が、給料はずっと上だ。
何を求めていたのか。
「わからない。除隊した今も、答えは見つからない」
(工藤隆治)
◇
〈東ティモール〉 南太平洋の島国で、人口約110万人。
16世紀からポルトガルが植民地支配し、1974年に撤退。内戦が始まり、インドネシアが侵攻 して76年に併合した。
住民投票を経て2002年に独立したが、06年に治安が悪化したため、治安の回復をめざし、国連東ティモール統合ミッション (UNMIT)が設立された。
〈国連平和維持活動(PKO)〉 世界の紛争解決のために国連が行う活動。
各国の部隊で編成する平和維持隊が停戦監視や兵力引き離しをするほか、文民警察活動や、選挙、復興開発などの行政支援活動もある。自衛隊は1992年から、カンボジア、モザンビーク、ゴラン高原、ハイチなどに派遣されている。
自衛隊の派遣には、停戦合意や受け入れの同意など「PKO参加5原則」を満たす必要がある。
〈第1空挺団〉 自衛隊唯一の落下傘部隊で、千葉県の習志野駐屯地に本部がある。隊員は約2千人。
厳しい体力基準があり、全国の陸上自衛官から選抜される「精鋭無比」の部隊。敵地の奪取・制圧を目的に、輸送機からのパラシュート降下やヘリコプターからのロープ降下、海からの潜入を得意とする。
◇
「グローバル人材」が必要だという。国を超えたエリートは、どの社会に対し、どんな使命を担うのか。
それを見失ったままでは、ただの特権階級だ。
人々から不信のまなざしを浴び、自らも不安にかられる。
彼らについて報告する。≫
(朝日新聞デジタル:朝刊より転載)
(世相を斬る あいば達也)より
以下の朝日新聞の朝刊記事(取材報道)は必ずしも優れているから紹介しているわけではない。
ただ、着想は悪くないと思うので、取り上げる。
記事は未だ続くようなので中途半端な印象だが、我慢して読んでみよう(笑)。
冒頭のユーロ圏のエリート官僚が行う共同体の経済共助の思想と、それぞれの国の“国家観”に対する国民の意識との乖離が潜在化している点を書いている。
否、既に顕在化していると謂うべきかもしれない。
この点は、グローバル経済下で生き抜かなければならない、世界中の国家が多かれ少なかれ抱える、経済優先か?国家意識優先か?の問題だとも言える。
朝日新聞の記者が、それを意識して書いたかどうか判別出来ないが、筆者は読んでいて、それを感じた。
現在、日本のマスメディアが多くの紙面を割いているのは、国威高揚的プロパガンダ報道と尖閣・竹島の領土問題になっている。
後、グジャグジャの政局も語っている。
ほとんど彼らの紙面から、国民の生活に密接な“経済”は置き去り風になっている。
おそらく、書けば書くほど、暗澹たる記事になるか、嘘八百を書くか、どちらかなので嫌なのだろう(笑)。
一部を除く我が国の右翼の人々も、左翼の人々も、押し並べて“経済成長の鈍化”を毛嫌いする。
殆どの政治家も、GDP成長神話に毒されている国民に足並みを揃えているのが実情だ。
国民の意識を汲みとらなければ政治家ではいられない以上、致し方のないことだが、グローバル経済やGDP成長神話を追いかけていれば、日本等云う国が、永遠の自転車操業と蛸の脚喰いに翻弄される事実を語ろうとしない。
ナショナリズムも満足したい、グローバル経済の波にも乗りたい。
多分、この二頭を追いかける“哲学の矛盾と貧困”が続く限り、日本国家は“米国”と“官僚”の支配から逃れられないような気分になる。
まぁ今夜は参考程度の筆者の思いを語った。筆者の年齢になると、“成長”とは無縁になり、現状維持か、或いは生活成長と異なる、異次元の発見や成長変化に興味が出てくる。
その意味で不評だが、“鎖国的国家観”と云う意識はいまだに消えない。
否、益々強くなるのだが・・・。
そうそう、志村建世氏のブログで紹介されていた ≪「阿武隈共和国独立宣言」(著者:村雲司)≫と云う本が出版されているそうだ。
筆者の“鎖国的国家観”とは異なるシチュエーションであり、井上ひさしの「吉里吉里人」とも違うわけだが、興味のある一冊。気分が乗ったら買って読んでみようと思う。
ただ、福島原発による放射能汚染問題を、どのように受けとめ、自己消化していくか、野田に読ませたい本だが、感性のない男だけに、馬の耳に念仏なのであろう。
≪ EUエリート、民意と摩擦 〈カオスの深淵〉
■さまようエリート:1
めざす学校はブリュッセルの北にあった。高い門をくぐると、広々とした敷地が広がる。
子どもたちがサッカーに興じる姿は、ごく普通の学校だ。
違うのは、ここが幼稚園から高校まで、欧州連合(EU)27カ国からきた子どもたちに、母国語での教育をする「欧州学校」だということだ。
ブリュッセル はEU諸機関が集中しており、そこで働く人の子どもが通う。
生徒は最低三つ、人によっては五つの言語を身につける。卒業生は欧州全域の大学に散らばっていく。
「世界中で仕事をしているが、そのうち1割ぐらいが EU機関に勤めることになると思う」とウルフ・シラーベ校長は言う。
前の校舎が手狭になり、9月に引っ越してきた。
めがね店を営む町内会長のディディエ・ウォーテスさんはいう。
「地元としては交流しようと思うが……。
子 どもや親が商店街に来るのはまれ。
欧州官僚には、長く住んでいても町のことを全然知らない人もいる。
別の世界に住んでいる、という感じがする」
EUの諸機関を動かす欧州官僚は、市民からすれば、つかみどころのない、高給取りのエリート集団だ。
その彼らの影響力が、欧州債務危機でにわかに強まっているように見える。
各国の財政に問題がないかチェックしたり、欧州全体で銀行を監督したりと、国を 超えた仕事が増えているからだ。
その象徴が、イタリアのモンティ首相だ。欧州官僚機構を仕切る欧州委員だったが、母国の政権が行き詰まり、選挙で選ばれたわけではないのに、首相として呼び戻された。
パパディモス元欧州中央銀行副総裁も一時、母国ギリシャの首相を務めた。
欧州官僚として昨年まで30年以上勤めたデビッド・ライトさんは、大物経済官僚の一人だろう。
ギリシャの経済改革を助言するタスクフォースの一員として、脱税防止策などにかかわった。
EUが求めた改革にギリシャ国民の反発は強かったが、「われわれはベストの技術的な支援を用意し、ギリシャ政府も歓迎した。
政治家にとっては、改革をするために外部からの圧力が必要なことがある」という。
しかし、それは国ごとの民主主義との間に摩擦をもたらしている。
「EUエリートたちは、民主主義と国家主権をないがしろにしている」。
フィンランドで反EU政党を率いるティモ・ソイニさんは訴える。
党はじわじわ支持を伸ばし、いまやフィンランドで最も有名な政治家だ。
EUの何が問題なのか。
「法律づくりを主導しているのは欧州委員たちだ。
選挙で選ばれた議員じゃない。
彼らのどこに正統性があるのか」 第2次大戦後、平和と繁栄をめざして欧州は統合を進めた。
いまや経済は国を超えるようになったが、政治は国にとどまる。
その隙間を、選挙の洗礼を受けないEUエリート集団が埋める。
国民投票などの参加型民主主義を提唱するドイツの市民運動家、ミヒャエル・エフラーさんは言う。
「必要なのは欧州レベルで政治を議論する場だが、それは存在しない。
欧州統合は、専門家のレベルでしか起きていない」 欧州官僚機構のトップ、バローゾ欧州委員長の9月12日の演説は、集中する権力への戸惑いがにじんだ。
「民主主義は国境を超えられないという人がいる。
ちょっと待ってほしい。
欧州の民主主義は、国家の民主主義に対立するのではない。補うのだ」
ぴかぴかの欧州エリートも、自らが何を背負い、だれに責任を持つのか、見つめ直さずにはいられなくなっている。
(有田哲文、伊東和貴)
◇
〈欧州連合〉 欧州での国を超えた政治や経済のまとまり。
1952年に石炭と鉄鋼の生産などを管理する欧州石炭鉄鋼共同体をつくったのを出発点に、93年に欧州連合(EU)に。
2004年に中東欧各国を加えるなど加盟国は増え、現在は27カ国。
貿易や移民の垣根を低くして、うち17カ国は共通の通貨ユー ロを使っている
〈欧州官僚〉 欧州連合(EU)の関係機関に勤める職員の通称。
「ヨーロッパ」と「ビューロクラット(官僚)」をあわせ、「ユーロクラット」と呼ばれる。
主にEUの行政執行機関である欧州委員会で働いている人たちを指すが、各国の国家元首や政府首脳でつくる欧州理事会や欧州中央銀行(ECB)にも、 門的な分野で働く職員は少なくない。
〈欧州債務危機〉 2009年にギリシャの財政赤字のごまかしが明らかになったことから始まった危機。財政や経済に問題があると見られた国の国債が急落して金利が上昇。
次々に財政運営に行きづまる国が出てきた。
ギリシャ、アイルランド、ポルトガルが欧州連合各国に救済されたほか、スペインに対する救済の可能性が出ている。
◇
■PKOの現場でも国益
安全保障でも、国境を超えた取り組みが普通になった。それは軍事エリートに、新たな問いを突きつける。 昨年4月。
東ティモールのジャングルを貫く泥道で、陸上自衛隊の栗田千寿(ちず)2佐(37)が、「UN」と書かれた大型四輪駆動車のハンドルを握っていた。
迷彩服の右肩に水色の国連ワッペン、左肩に日の丸。
国連東ティモール統合ミッション(UNMIT)の軍事連絡要員としてやってきた。
国連平和維持活動 (PKO)への個人単位の派遣は、女性自衛官では初めてだ。
東部を担当する5人のチームには、参加各国から軍人が派遣されていた。
「現地では、国同士の旗の見せ合いだった」
チームは各地の村や警察署、学校を訪れ、食糧事情や衛生、教育のニーズを尋ねて回った。
中国陸軍の少佐は、地元華僑から「福」と書いたお守りを仕入れ、 行く先々でばらまいた。
フィリピン陸軍の中佐は、へき地の村の水道の開通式に押しかけ、国旗をつけた軍服で来賓席に陣取った。
栗田2佐も、現地の人たちと記念撮影するたび、車に載せた日本製プリンターで印刷し、裏に日の丸と「JAPAN」の文字を書いて渡した。
「どれだけ自衛隊の存在感を示せるか。常にプレゼンスを意識していた」
同志社大を卒業後、約70倍の一般幹部候補生試験をパスして自衛官に。
2010年の自衛隊観閲式では、陸海空の女性自衛官約300人の指揮官を務めた。
東ティモールの派遣前は、国連の一員として平和に貢献しようと燃えていた。
だが「旗の見せ合い」を目の当たりにして、国連と自衛隊、どちらに軸足をおくべきか戸惑いもでた。
そして「自分も日本のために来たと思うようになった」。
一時的な身分の国連に尽くすより、自衛隊が国際社会の信頼を得る方が大事だと感じたからだ。
自衛隊の国連PKO派遣は今年9月、満20年を迎えた。
この間、2007年に海外活動が本来任務となり、安全保障の舞台は世界に広がっている。
だが「世界平和」の現場では、国を背負うエリート軍人たちが国益をめぐってぶつかり合っている。
「『日本の旗を外して働いてこい』と言われて来てみたら、各国はみな国益を前面に出していた」
陸自の化学戦の第一人者で、元陸将補の秋山一郎さん(63)は、化学兵器禁止機関(OPCW)での10年間をそう振り返る。
OPCWは、97年にオランダ・ハーグに設置された。
軍縮条約の化学兵器禁止条約を約190の加盟国が守っているか監視する国際機関だ。
秋山さんは97年、初代の査察局長として出向した。
査察局は、各国が毒ガス兵器を廃棄しているか、申告外の化学原料を作っていないかを調べる実動部隊。
約200人の査察官のうち、6割が各国から派遣された軍人だった。
山梨県の旧上九一色村にあったオウム真理教のサリン製造施設や、フセイン政権下のイラクの研究所にも査察に入った。
OPCWの規則では、「職員はいかなる国の指示を受けても、便宜供与をしてもならない」と定められている。
だが、「トップシークレットに土足で入りこむ組織。
みな自国に不利にならないように動く」。東欧諸国や途上国の大使は、「地域格差を解消しろ」と理由をつけ、事実上自国の査察官を増やすよう要求してきた。
ある途上国は、自国の工場の査察が増えるのを嫌い、査察予算の増額を拒否した。
情報漏れを防ぐため、パソコンの画面は窓に向けないことが鉄則だった。
「金融、経済でどれだけボーダーレスになっても、軍事では国境はなくならない。
軍事は政治の一手段であり、軍隊イコール国なのです」
■フランス外人部隊─「国のためには戦わない」
国を超える軍事エリートは存在しえるのか。
フランス陸軍に、国籍・経歴不問の「外人部隊」がある。
約130カ国から集まる隊員は約7千人。
中でも、コルシカ島にある第2外人落下傘連隊は、戦時に最初に敵地に潜入するエリート部隊だ。
07年まで5年間在籍した元陸自の日本人男性(30)を訪ねた。
訓練では、数百メートル上空の輸送機からパラシュートで飛び降り、海上で足ひれをつけて上陸したり、重さ20キロの装備を背負って何十キロと行軍したり。
内戦状態のコートジボワールへ在留フランス人の救出に向かい、ガボンやチャドにも行った。
フランスという国は何だった?
「あくまで雇用主だった。
フランスへの愛国心ですか……。
なかったですね。
契約だから死ぬ覚悟はあったけど、いま仮に日本とフランスが戦争になったら、 祖国の自衛隊に行く」
日本語の隊員募集サイトには、部隊訓の冒頭に
「君は信義と忠誠をもってフランスにつくす志願兵である」と書かれている。
命を捧げたのに、ただの雇用主だったのか。
除隊した今、東京・丸の内のオフィスビルで警備員をしている。
職場で軍歴は明かしていない。
軍隊はもう十分なのだという。
別の男性(39)は、陸自のエリート部隊・第1空挺(くうてい)団を「実戦で活躍する場がない」と辞め、やはり第2外人落下傘連隊に入った。
ソマリアの基地で検問中、銃撃戦になったことがある。
銃声がやんだ後、銃口の先の物陰から、足を撃ち抜かれた黒人が運ばれてきた。
「でも外人部隊には、フランスのために戦うやつなんて誰もいなかった。
ただ必死に言われた任務をこなすだけ。
たいていの目的は、勤め上げればもらえる仏国籍と、カネですよ」
自身はフランス国籍を取得したわけでもない。
初任給は1千ユーロ(約10万円)余り。
いま勤める都内のIT企業の方が、給料はずっと上だ。
何を求めていたのか。
「わからない。除隊した今も、答えは見つからない」
(工藤隆治)
◇
〈東ティモール〉 南太平洋の島国で、人口約110万人。
16世紀からポルトガルが植民地支配し、1974年に撤退。内戦が始まり、インドネシアが侵攻 して76年に併合した。
住民投票を経て2002年に独立したが、06年に治安が悪化したため、治安の回復をめざし、国連東ティモール統合ミッション (UNMIT)が設立された。
〈国連平和維持活動(PKO)〉 世界の紛争解決のために国連が行う活動。
各国の部隊で編成する平和維持隊が停戦監視や兵力引き離しをするほか、文民警察活動や、選挙、復興開発などの行政支援活動もある。自衛隊は1992年から、カンボジア、モザンビーク、ゴラン高原、ハイチなどに派遣されている。
自衛隊の派遣には、停戦合意や受け入れの同意など「PKO参加5原則」を満たす必要がある。
〈第1空挺団〉 自衛隊唯一の落下傘部隊で、千葉県の習志野駐屯地に本部がある。隊員は約2千人。
厳しい体力基準があり、全国の陸上自衛官から選抜される「精鋭無比」の部隊。敵地の奪取・制圧を目的に、輸送機からのパラシュート降下やヘリコプターからのロープ降下、海からの潜入を得意とする。
◇
「グローバル人材」が必要だという。国を超えたエリートは、どの社会に対し、どんな使命を担うのか。
それを見失ったままでは、ただの特権階級だ。
人々から不信のまなざしを浴び、自らも不安にかられる。
彼らについて報告する。≫
(朝日新聞デジタル:朝刊より転載)