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エピダウロスで医術の神に参る




ペロポネソス半島東側、エピダウロスは、現代では最も保存状態の良い円形劇場で知られている。

世界遺産には1988年に登録されたとか。

円形劇場のサイズは、そのまま都市の規模を反映しており、一万5千人を収容できる巨大さと美しさ、計算された音響の良さは、かつてのエピダウロスの繁栄を今に伝える。

はて、何が繁栄をもたらしたのか...




エピダウロスは、アスクレーピオスが生まれた場所である。
彼は、医術の祖にして神、またアポローンの息子(アポローンは医学の神としての一面も持つ)である。

現代でも通用する医師の職業倫理として「ヒポクラテスの誓い」はよく知られている。
それは「医の神アポローン、アスクレーピオス、ヒュギエイア、パナケイア、および全ての神々よ。私自身の能力と判断に従って、この誓約を守ることを誓う。」という出だしで始まる。

医療のシンボルとしてしばしば見られる「杖に巻き付いた蛇」の意匠も、これまた「アスクレピオースの杖」と呼ばれる。
蛇の描く螺旋(らせん)は、生命力や再生、権威、超自然などを表すという。




この地では主にアポローン・マレアタス (アポローンと英雄マレアタスが習合された神格)が崇拝されており、聖域の神殿もアポローン・マレアタスに捧げられたものである(2枚目3枚目の写真)。

その他にも複数の神が崇拝され、アスクレピオースはもちろん、アスクレーピオスの妻へピオーネー(鎮痛の女神)娘ヒュギエイア(衛生の女神)、あるいは「男を征服し眠らせ再生させる」、武装した美の女神アフロディテーなども...


エピダウロスはそういうわけで古典期のギリシャ世界では医療の中心地であり、治癒を願う巡礼が集まったという。

患者がエンコイメテリアいう部屋で一夜を過ごすと、夢の中で神が正しい治療法を告げてくれるのである。



神殿で、アスクレーピオスの妻へピオーネー(鎮痛の女神)娘ヒュギエイア(衛生の女神)に参拝する病人の列。
アテネ考古学博物館にて撮影


遺跡内では、160部屋あるエンコイメテリア(患者が宿泊する施設)が発掘されており、周辺には鉱泉もある。

医療はエピダウロスに繁栄をもたらし、紀元前4世紀~紀元前3世紀には、記念碑的建築物の建設や拡張などが行われ、円形劇場の建設もこのころ建設された。

紀元前87年、ローマの将軍、(悪)名高きあのスッラに略奪されるまで...




娘がこの夏ジュニア・ドクターとしてロンドンで働き始める。

英国では研修医という身分はなく(これ、英国内でもしばしば認識に誤りがあり、数ヶ月前には英国保守党の議員が「ジュニア・ドクターは研修中の医師にすぎない」という発言をして大大バッシングを受けた)、「ジュニア」でも、フルカウントの「医師」である。

人生の意味とは、他人の人生に意味を与えることだ。

「ヒポクラテスの誓い」を胸に、そう尽くしてほしい。
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