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Brugge Style
「かわいい」の構造
美容室の無聊をなぐさめるために日本の古い雑誌をくっていたら、「かわいい」論議をやっていた。
曰く、日本では妖怪などでさえどこかコミカルでかわいらしい存在にしてしまう。もっと世界的に「かわいい」を広めよう、それはやさしい心を広めることである。もうすでにサンリオのキャラクターなどは受けているではないか、と締めくくってあったが...
何かと「かっわいい~」を連発する女子大生が揶揄されるようになったのは、懐かしや、女子大生ブームのあの頃だっただろうか。
とにかく何でも「かわいい」。
ブランドもののかばんも、イタもの(と当時は言っていた)のスーツも、新生児も、サークルの男の子も、新しいレストランも、ハワイのホテルも、なんでもかんでも「かわいい」。
細部まで観察する、経験と合わせて深く考える、言葉を探す、そして自分の下す評価から生まれるかもしれない議論、等々すべてすっとばして、目と口が直結。「かわいい~!」。
な~んという軽み。
当時、やはり女子大生だか女子高生だったわたしは母からこの言葉を使うことを禁じられていた。語彙が乏しくなるから、と。
たしかに日本語には豊かな形容詞があり、洞察力を養うためにも、表現力を豊かにするためにもあまり使いたくない...
しかし。
最近、わたしの4カラットのダイヤモンドを見て、「かわいい~」と評価した人がいた。
わたし自身としては、その装飾品は、堂々としているとか、神秘的とかいった方向性の違う形容を思っていたので、彼女のその「かわいい~」という言葉の選び方が衝撃だった。
が、嫌な気は全くせず、むしろ嫌みなほどのサイズのダイヤも「かわいい」と形容されることでより親しみを得、集団内で気持よく受け入れられるものへと変化するのだ、と...思ったのだ。

キューピーのたらこスパゲティ・ソースのおまけのキューピーさん。
毒々しく着色されたタラコの中に埋まって顔だけ出ている。最初はグロい、と思ったけれど、今ではもうかわいいとしか思えない(笑)。
このように標準的な美の基準からはかけはなれているけれど、なんだか愛嬌があって憎めないもの。そういうものを疎外せずに受け入れてしまうためのマジック・ワード、としての働きもあるのである。
和を何よりも尊ぶ(ということになっている)日本人の知恵が生んだ言葉なのだろうか。当たり障りのないことをもって集団を乱さない、という。
そういえば女子大生当時、男の子に女の子を紹介する場合、彼女が美人でない場合、必ずその女の子は「かわいい」のだ。
男「誰か友だち紹介してよ」
わたし「Yちゃんっていう子がいてね...」
男「どんな子?」
わたし「かわいい子」
(笑)
よくクレームがついた(笑)。
でも「美人じゃないしスタイルもいまいちで鼻炎持ちで深爪だけど、性格はホントに最高に良くて」などと表現してどの男が「紹介してよ」って、特にバブリーなあの当時、言う(笑)?!
いや、実際、女は女友だちのことをまさに「かわいい」と心底思っている。「かわいい」としか言いようのない、この愛情。
外国には「かわいい」という概念が日本ほどはない、と言う。英語にはまあ、当てはまりそうな単語があるが、例えばオランダ語には相当するものがない。強いて訳すならば「楽しい」「愛しい」という単語になってしまう。
「かわいい」。軽いようで奥が深いようだ。
でも奥深くしてしまったら、「かわいい」の用法に反してしまうのだ...
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