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海中の見えない悪魔

2020-07-26 04:22:18 | 船舶


カナダの首都・バンクーバーは、
北アメリカ大陸の西(太平洋側)にあります。
地図ではBの場所です。





バンクーバーの向かい側には、
バンクーバー島という南北の長さ450キロくらいの島があり、
バンクーバー港に入出する船は、その島の北か南からの航路を通るのです。

南側を通る船は何の問題もないのですが、
北側ルートを通る船には、とんでもない悪魔がいたのです。
(はて、いったいどんな悪魔なのでしょう?)
だったら北側を通るのはやめて南側を通れば・・だったらいいのですが、
北に向かいたい船が、反対側を通るには数百キロという無駄な行為と・・
それは時間的にも燃料費にも多大な無駄遣いを強いられるのです。
船というのは皆、経営、経済の基で走っているのですから、
そういった無駄は絶対にしたくないのです。

そして、北米大陸とバンクーバー島との狭い海峡は、
波も静かで快適な航海が約束されているのです。
昔からこの航路はそういった意味で頻繁に利用されていました。

しかし、その狭いセイモア海峡には恐ろしい魔物が潜んでいました。
セイモア海峡は広い場所で5キロ。
最も狭い場所では、たった1.6キロしかありません。
海峡は水深100メートルと深く、大型船でも全く航海に支障はありません。

ですが、この最も狭い部分の真ん中には、
まるで海底からそびえ立った様な急峻な尖搭がそびえ立っていたのです。
その尖搭は海面下わずか2メートル。
満潮時でも3メートルしかありません。
海峡は常に波が静かで、この尖搭の頂上でも、全く波は立たず、
船からこの尖搭の存在を知る事は全くできないのです。

カナダではこの危険な存在を避ける為に航路を定めていました。
しかし、この尖搭へ座礁する船は後を絶たなかったのです。
特に霧が深い時には極めて危険でした。

1875年から1958年までの83年間で、
座礁した船は120隻に及び、死者も114名に達していました。
この尖塔はリップルロック(さざなみ岩礁)と呼ばれていました。

カナダ政府もこの海峡が船舶の航行に極めて重要な事を認識していたので、
これの撤去には昔から様々な方法を考えてはいましたが、
妙案が浮かばないままに放置されていました。
尖搭といっても、それは巨大な岩山ですから、
水中からのダイナマイト爆破などでは全く受け付けないのです。

カナダ政府は1952年にこの尖搭の除去を本格的に開始しました。
その方法は、
最も近い陸地から縦に131メートルにたて穴を掘ります。
そこから今度はリップルロックに向かって真横に720メートルの海底洞穴を掘ります。
そこはリップルロックの真下になります。
そして上向きに90メートルのたて穴を掘ります。
それはリップルロックの頂上の真下10メートルです。

そこから直径2メートル、20本の穴を斜め上に向かって掘ります。
そして全ての作業が終わったところへ、
合計1950トンの高性能爆薬が仕掛けられました。



そして、掘削した全ての穴が塞がれます。
1958年4月7日午前9時31分。
1950トンの爆薬が点火されました。

リップルロックの上半分、40万トンの岩礁は一瞬にして吹き飛び、
海の中の見えない悪魔は海面下12メートルまでが消滅したのでした。

その後は巨大タンカーの航行も自由になり、
長年にわたって船乗りたちを悩ませ続けた悪魔は失われたのでした。





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