私の町 吉備津

藤井高尚って知っている??今、彼の著書[歌のしるべ]を紹介しております。

おせん 26

2008-05-09 18:35:16 | Weblog
 「そうどす。人さんはみんな、お園さんが、今、言わはりました宿世、そうどす、前世からの約束で生きておるのどす。お園さん。今、ここに、こうして、みんなで、おささを頂いているのも、これも、みんな宿世とちがいますやろか。誰がどうやって決めはりましたかは、そりゃあ、わかりしまへんけど、きっと、神さんがお決めにならはったことではないですやろか。・・・・。そんな神さんのお決めにならはった事を、どうのこうの、とやかく、人さんが言うのはどないなもんでっしゃろ。・・・・・考えてみておくれやす。みんな明日はどうなるのか誰一人わかっているもんはいやはらしまへん。みんな宿世と思うて今を生きておるのどす。お園さんが、最前から辱だ、辱だ、と言わはっておられるのどすが。そんなん辱でもなんでもないのどす。神さんのお決めになった通りに生きておるだけどす。150年も前のお人もそこら当りのことはご承知しておったのと違いますやろか。人の勤めをよくすれば、必ず神仏は守ってくれはる、と言っておられます」
 そこまで大旦那様は一気におしゃべりになられます。そして、膝の上にあった冷えたお酒を口にされます。
 「あら、失礼をしました。大旦那様。ついうっかり皆さんのお話を聞かせてもろうてましたので、お酒のことはすかっり忘れてしもうとりました。暖かいのを持ってこさせます」
 「私がとってまいります」と、言うお園さんを制して、お美世さんが部屋から出て行かれます。大旦那様は「すまんですな」と、盃を膳に戻しながら、ゆっくりとお園さんを諭すように、また、話を続けられます。
 「なあ、お園さん。考えてみなはれ。おばあさまはどう思われていたのかはしれへんのどすが、わいは、辱ではないと思うとります。第一、それも神さんがお決めになった事どすさかいな。神さんのお決めにならはった事じゃけん、どうしょうもなかことと違がいますやろか。それこそお園なんの言わはりました宿世なんどす。二度お嫁に行くのも。これもやっぱり宿世どす。そう思われしまへん。ここにおる平蔵と夫婦になるのが、お園さんにとっても。平蔵さんにとっても、前世からの宿世でおます」
 「お言葉を返すようですが、大旦那様、わたしがお嫁に二度と行かないで一人で生きていくこともやっぱり前世からの宿世ではないのでしょうか」
 「そうどす。それもやっぱり宿世かもしれまへん。では、どれがほんまの宿世か分かりしまへンやろ。これがほんまの宿世だと決めることができしまへん。・・・・じゃんけんで決めることも出来しまへん。困りましたナー。みなはんもおおいにお困まりどした」
 女将さんのお美世さんが、これもまた洒落れたお猪口に入れた新しいお酒を持って「遅うなってごめんなさい」と部屋に来られます。
 
 
 


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