そのでえく(大工)が「こねえで」と言ったんで、殿様は当分の間はほってえたそうな。
「一人でするんじゃけん。そげんできるもんか」
とかなんか、ぶつくさ言いながら。
でも、殿様なんかが思っていたのより違うて、不思議なことじゃが、お宮がどんどんできょうたんだと。昼間は一人でやっているのに、朝、目が覚めてめてみたら、きにょうより、何十倍もはかどっていて、ものすごう仰山、柱や何やらが立ててあり、屋根まで上がっていたのじゃ。殿様は、どうして、こげえに出来るんじゃろうかと、不思議で不思議でおえりゃあせん。「こねえで」と言う、約束をしとったんじゃが、日が暮れてから、こっそり見に行ったんじゃ。すると、昼間は一人しか働いておらんのが、夜行ってみると、昼間のでえくと、顔も形も、一つも違わんおんなじもんがぎょうさん黙って働いていたそうじゃ。どれが昼間の、でえくかわかりゃせん。そこで、一人のでえくに聞いてみたそうな。
「おめえらの親方はだれなら、みんなおんなじで、わかりゃあせん。ほうみをやろうと思うんじゃが。だれにやったら、ええんじゃろうか」
「親方にゃあほくろが鼻んとけえ、ちいとるけえ、そりょうをみりゃあわからあ」
「ええ事を聞いた、あしたりにでも行って褒美をやらにゃあ」
と、その晩は早く寝たそうな。
殿様は、あくる朝、ぼっけえいせえで、そけえ行って見ると、どうした事か分らんが、今まで出来ていたお宮をいしょくたにして、一つのお宮にしてしもておったのじゃ。屋根にゃ、ぐじゃぐじゃに取り付けられておるし、柱の間は広かったり狭かったりしているし、お宮さん、らしゅうねえ、へんてこなお宮さんが出来ておったんじゃと。せえから、真ん中のおおけえ柱にゃあ、握りこぶしぐれえの黒々とした節がついていたそうな。
何処を探しても、ほくろのでえくの親方も、きのうばん、あれぐれえ、おおぜえ、おった同じ顔・形をしたでえくも、どこをさがしてみてもおりゃあへん。
仕方がねえけえ、かえりょうたら、細谷の橋のとけえ、仰山のどれもけえも、同じ、かたちゅうした藁の人形の重なって捨ててあったと。
こんなお話が細々とですが、まだ、捜すと、偶然にも、耳にすることもあります。このお話も、ある年老いたおばあさんから聞いたものです。この人も今では故人になられておられます。
「こげんな話でよけりゃあ、まだ5や6つはあるでー」
と、言っていたのですが、惜しい事に、このお話が最初で最後になってしまいました。
このような何代にも亘って、口から口へと伝わって来た昔話が、今のこの文明の社会の中から、どんどん消え去っていっています。
「一人でするんじゃけん。そげんできるもんか」
とかなんか、ぶつくさ言いながら。
でも、殿様なんかが思っていたのより違うて、不思議なことじゃが、お宮がどんどんできょうたんだと。昼間は一人でやっているのに、朝、目が覚めてめてみたら、きにょうより、何十倍もはかどっていて、ものすごう仰山、柱や何やらが立ててあり、屋根まで上がっていたのじゃ。殿様は、どうして、こげえに出来るんじゃろうかと、不思議で不思議でおえりゃあせん。「こねえで」と言う、約束をしとったんじゃが、日が暮れてから、こっそり見に行ったんじゃ。すると、昼間は一人しか働いておらんのが、夜行ってみると、昼間のでえくと、顔も形も、一つも違わんおんなじもんがぎょうさん黙って働いていたそうじゃ。どれが昼間の、でえくかわかりゃせん。そこで、一人のでえくに聞いてみたそうな。
「おめえらの親方はだれなら、みんなおんなじで、わかりゃあせん。ほうみをやろうと思うんじゃが。だれにやったら、ええんじゃろうか」
「親方にゃあほくろが鼻んとけえ、ちいとるけえ、そりょうをみりゃあわからあ」
「ええ事を聞いた、あしたりにでも行って褒美をやらにゃあ」
と、その晩は早く寝たそうな。
殿様は、あくる朝、ぼっけえいせえで、そけえ行って見ると、どうした事か分らんが、今まで出来ていたお宮をいしょくたにして、一つのお宮にしてしもておったのじゃ。屋根にゃ、ぐじゃぐじゃに取り付けられておるし、柱の間は広かったり狭かったりしているし、お宮さん、らしゅうねえ、へんてこなお宮さんが出来ておったんじゃと。せえから、真ん中のおおけえ柱にゃあ、握りこぶしぐれえの黒々とした節がついていたそうな。
何処を探しても、ほくろのでえくの親方も、きのうばん、あれぐれえ、おおぜえ、おった同じ顔・形をしたでえくも、どこをさがしてみてもおりゃあへん。
仕方がねえけえ、かえりょうたら、細谷の橋のとけえ、仰山のどれもけえも、同じ、かたちゅうした藁の人形の重なって捨ててあったと。
こんなお話が細々とですが、まだ、捜すと、偶然にも、耳にすることもあります。このお話も、ある年老いたおばあさんから聞いたものです。この人も今では故人になられておられます。
「こげんな話でよけりゃあ、まだ5や6つはあるでー」
と、言っていたのですが、惜しい事に、このお話が最初で最後になってしまいました。
このような何代にも亘って、口から口へと伝わって来た昔話が、今のこの文明の社会の中から、どんどん消え去っていっています。