たそかれの散策

都会から田舎に移って4年経ち、周りの農地、寺、古代の雰囲気に興味を持つようになり、ランダムに書いてみようかと思う。

弁護士の広告と倫理 <誰がアディーレを業務停止に追い込んだのか・・>などを読みながら

2017-10-15 | 司法と弁護士・裁判官・検察官

171015 弁護士の広告と倫理 <誰がアディーレを業務停止に追い込んだのか・・>などを読みながら

 

先日、ある相談者と協議中、別件の過払い金をアなんとという法律事務所に依頼しているという話がなにかの拍子ででた。ご本人、事務所の名前も覚えていないくらいだから、まだきちんと依頼していなかったのか、一度くらい相談したばかりだったのでしょう。

 

たしか報道でその前日くらいにアディーレ法律事務所が業務停止になったというニュースがあったのを思いだし、事務所の名前を告げ、もしそうだったら、委任契約を継続できないので、一旦、解約になるので、対応について聞いた方がいいですよとアドバイスしました。

 

以前からこの事務所の広告が過払い金返金を大きくPRし、しかも着手金無料とか喧伝していたのは知っていましたので、それでやっていけるのかな、きちんと事務処理しているのであればいいのだがと少し気になってはいました。というのは私自身、過払い金返金事件とかは自分の業務外といった気持ちでしたので、やっていませんでした。当地に来て一般事件をやる中で、過払い金の依頼も数件程度やったと思います。成功したのは1件くらいでしょうか。サラ金業者が事実上破綻して返金できないという状態で結局、取り戻せなかった事案を最後にもう何年もやっていませんでした。

 

ですので、アディーレ法律事務所が過払い金返金を大量に受けているのは成果があるからで、それなりにやり方があるのかな、それはそれで借りた人にとって着手金無料だからいいサービス提供をしているといった感覚が半分ありました。他方で、事件を漁って、複雑な事件は放置されたりしていないのか多少は心配していました。ただ、あるとき若手の弁護士でこの事務所に勤務している人と話す機会があり、誠実でまじめな方という印象を受け、こういう人が大勢働いているのであれば大丈夫かな、なんて少し安堵したりしていました。

 

そんなとき弁護士法人には業務停止2ヶ月(代表は同3ヶ月)というきわめて重い懲戒処分がされたというニュースでしたので、どんなひどいことをしたのかと思っていました。

 

ニュースをちらっと見ただけではあまりぴんときませんでした。そこに今朝の東洋経済の記事です。<誰がアディーレを業務停止に追い込んだのか懲戒請求者も驚愕、重すぎる「業務停止2カ月」>との見出し記事では、当該法人が日本の5大法律事務所の次になる185人の弁護士を抱えているというのですから、その弁護士数には少し驚きました。

 

2012年暮れ以降に弁護士登録をした、経験年数5年未満の若手が全体の7割以上を占める。>というのですから、<就職難に喘ぐ新人弁護士たちの受け皿にもなった>、いわば法曹人口拡大の犠牲者?的な新規登録者に仕事場を提供してきたのかと思ってしまいます。

 

これも大々的なPRで顧客を集める手法で事務所を飛躍的に増大させたのでしょうか。むろんサービスが迅速かつ適切、しかも廉価あるいはリーズナブルな費用であれば、自由競争の社会ですから、業務量を増やし、弁護士を増やすのは当然の結果で、むしろ望ましいあり方の一つかもしれません。

 

しかし業務停止という重大な懲戒処分を受けたのですから、よほどひどいことをしたのでしょう。その記事を見ると、<今回、東京弁護士会が公表した処分理由は景品表示法違反。常時着手金を全額返還するキャンペーンを行っていたのに、事務所のウェブサイト上では1カ月間の期間限定と謳っていたというもの。20162月、消費者庁から措置命令を受けており、これを理由に弁護士会として下したのが今回の処分だ。>

 

たしかに事実とは異なる、誇張する部分はありますが、それが重大なものかとなると、もう少し事実関係を見る必要があるでしょう。

 

その記事にもあるように、弁護士には自治が認められる一方で、厳しく自分を律することが求められています。<弁護士法56条には、弁護士と弁護士法人が弁護士法や所属弁護士会、日弁連の会則に違反したり、所属弁護士会の秩序・信用を害したり、品位を失うべき非行があった場合、懲戒を受ける>ということになります。

 

アディーレの広告記事が、そもそもその品位を失うべき非行であるといった点も議論の余地があるかもしれません。それ以上に、懲戒処分としても戒告、業務停止、退会処分、除名の4種類ある中で、大抵の場合戒告にとどまるのですが、広告について業務停止(しかも2か月)となるほどのものかというと、広告だけ見ると疑問を感じる人も少なくないかもしれません。

 

そこでこの記事が指摘している本件の特殊性です。<アディーレ急成長のエンジンとなった過払い返還請求訴訟が、訴えさえすれば100%勝訴する訴訟になったのは、20061月の最高裁判決以降だ。>この最高裁判決は<多重債務者の救済活動を展開していた、いわゆる人権派のクレサラ弁護士(クレジットローン、サラリーマン金融専門の弁護士)が全国レベルで連携を図り、長年にわたって多くの判決を積み上げた結果、勝ち取った判決だ。>

 

私自身、これらのメンバーの何人かを知っていますし、中には一緒に仕事をしたこともあります(この最高裁事件ではありませんが)。彼らが最高裁判決を勝ち取るための、膨大な事件での業者側との熾烈な争い、その訴訟準備はとてつもなく時間・費用・エネルギーをかけたものです。

 

この記事の筆者がいみじくも語る<アディーレはクレサラ弁護士の努力が生んだ成果物を、機動力で一網打尽に取り込んだ、いわばクレサラ弁護士の天敵である。>という表現は、ある種的を射るものかもしれません。

 

というのは<弁護士の広告-禁止から解禁へ>で指摘されているように、昭和の終わりまで広告は禁止でした。その後昭和62年に一部解禁になっても、ほとんどの弁護士は広告などしていなかったと思います。<平成1210月から弁護士広告は原則自由となりました。>が、その後もあまり変わらなかったと思います。

 

ただ、その頃から関東圏で、電車内での広告などが自己破産や債務整理をうたって少しずつ増えていったように思います。このような広告に対し、クレサラ弁護士は猛反対して、その弁護士を懲戒するよう厳しく運動を展開していました。まだ過払い金返還が一般的でない頃でした。

 

自己破産や債務整理は、ある種機械的に事務処理できることが多く、パラリーガルといった事務職員を多く抱えて、全国の個別弁護士と提携して、ビジネス的に始めたNさんがどんどん広告も打ち、事件数を増大させていったのが2000年代初め頃でしたか。

 

私はクレサラ弁護士の仲間から厳しい口調で弁護士倫理に違反するとの声をよく聞いていました。他方で、当時、弁護士数が少なく、自己破産・債務整理が大量に増えていった頃でしたから、そういう事件処理をしてくれる事務所があるのはありがたいとも思っていました。

 

ただ、過払い金返金は、おそらく弁護士事務所としては相当収入になり得たのではないかと思います。残念ながら私は最高裁判決をとって喜ぶ仲間たちの声は知っていても、それが収入に結びつくとか、そういう請求が増大することまで頭に浮かばず、まったく蚊帳の外で別の仕事をしていました。

 

ともかくクレサラ弁護士にとっては、当初の電車広告やパラリーガルを利用しての事務処理以上、過払い金返還の事件は、自分たちが努力して(付随的に事業者から弁護士が訴訟提起されたりもしていました)勝ち取った方法ですから、さるかに合戦のかにさんみたいなやり方に映ったかもしれません。

 

だいたいこういった訴訟にエネルギーを費やす弁護士の多くは、ネット広告やテレビ広告で顧客を呼び込むなどは邪道と思っている人が多いかもしれません。

 

ぐだぐだとこれまでの顛末の一部を自分なりの回想で思うままに書いてみましたが、それはこの処分の合理性がいまだよくわからないことも一因です。

 

だいたい懲戒請求したのは<「弁護士自治を考える会」>という<「不届きな弁護士をとっちめる」>ことを目的にしているような団体です。

 

<今回の懲戒請求もその活動の一環で、アディーレが支店登録している全ての地域の弁護士会に、アディーレと所属弁護士個人全員に対する懲戒請求を行った。

だが、「大半が門前払いだったし、もともと戒告が出れば上出来だと思っていたのに、東京弁護士会が突然重い処分を下したのでびっくりした」(考える会の主催者)という。>

 

東京弁護士会だけが下した重い処分だったのです。たしかにクレサラ弁護士は、元々東弁が最初につくり、全国の中核メンバーがいまも多くいるのではないかと思います。私はまだ東弁の公害消費者委員会(その後公害環境委員会と消費者委員会に別れた)と呼ばれていた頃、メンバーでしたので、クレサラやさまざまな詐欺商法などをよく議論していました。

 

ともかく東弁のホームページから記事を読んでみましょう。

 

1011日付けで<弁護士法人アディーレ法律事務所らに対する懲戒処分についての会長談話>とあり、これは一弁護士法人に対する懲戒処分について会長談話が出ること自体、普通ではないでしょう。

 

そこでは<消費者庁より広告禁止の措置命令>を受けて、改めて弁護士会として審査して処分したことがわかります。

 

そして同日付の<>では懲戒理由として、ウェブサイトで、

<それぞれ,約1か月ごとの期 間を限定して,

 (1)平成22年10月6日から同25年7月31日まで,過払金返還請求の 着手金を無料又は値引きする,

(2)平成25年8月1日から同26年11月3日まで,借入金の返済中は過 払金診断を無料とする,過払金返還請求の着手金を無料又は値引きする,

(3)平成26年11月4日から同27年8月12日まで,契約から90日以 内に契約の解除をした場合に着手金全額を返還する,借入金の返済中は過 払金診断を無料とする,過払金返還請求の着手金を無料又は値引きする,

ことが<景表法,日本弁護士連合会の弁護士等の業務広告に関する規程等に違反>し、<弁護士法第56条第1項の品位を失う非行に該当する。>というのです。

 

無料とか値引きが虚偽とか、不当な誘因ではなく、期間限定をうたっている点が問題にされたのです。たしかにこれは問題でしょう。しかし、懲戒処分として2ヶ月の業務停止とするほどの重大性に匹敵するかとなると、今少し検討が必要でしょう。

 

そこで消費者庁の当該処分を<景品表示法関連報道発表資料(措置命令等の事案)>の多くの事例と<アディーレ法律事務所・・>の事例と

比較してみたとき、どうかと思うのです。

 

唯一課徴金納付命令が加重されているのが<三菱自動車工業の燃費不正>の事案です。この事案はニュースでも大きく取り上げられましたし、消費者の信頼を裏切るきわめて重大な燃費偽装でした。その偽装方法も巧妙で、悪質性も高いものです。

 

他の措置命令事案は、個別には見ていませんが、著名企業も結構あり、広告等の適切な対応が要請されてしかるべきでしょう。これらの例と比べてアディーレ法律事務所の広告が特別に悪質かといわれると、戒告くらいはありえても、2ヶ月の業務停止処分までとなるとどうでしょう。

 

ただ、クレサラを担当する弁護士の多くが、消費者保護を担ってきたメンバーで、景表法などの違反に対し厳しく対処してきたと思われます。景表法などの遵守を訴える立場の弁護士が自ら不正を継続していたことを見過ごしにできなかった、消費者保護の視点から見ると、その考えもなんとなくわかるような気がします。

 

とはいえ、懲戒処分の合理性は客観的に担保される必要があり、日弁連での審査で、より慎重な判断がされ、だれもが納得できるような結論を期待したいです(それは無理な相談かもしれませんが)。

 

今日はこの辺でおしまい。