たそかれの散策

都会から田舎に移って4年経ち、周りの農地、寺、古代の雰囲気に興味を持つようになり、ランダムに書いてみようかと思う。

弁護士秘匿特権 <公取委、「秘匿特権」導入>などを読みながら

2019-03-11 | 司法と弁護士・裁判官・検察官

190311 弁護士秘匿特権 <公取委、「秘匿特権」導入>などを読みながら

 

今日も一日雨模様。気分もグレーでした。それでも仕事はこなさないといけません。と思いながら業務時間終了となり、今日のお題はと悩みます。今日はほんとにパスしようかと思いつつ、昨日ほど体調が悪くないこともあり、昨日見た毎日記事<公取委、「秘匿特権」導入 独禁法改正案提出へ>を取り上げることにしました。

 

弁護士秘匿特権といっても、なんだろうと思う人の方が多いでしょう。わが国ではあまり話題にならないですね。刑事訴訟法で弁護士や医師などに業務上委託を受けて保管したものなどに押収拒絶権が、知りえた事実で他人の秘密に関するものについて証言拒絶権が認められています。民事訴訟法にも同趣旨の規定があります。また弁護士法は秘密保持権(義務も)を定めています。といってこれらの制度がとくに問題になることはわが国では希でしょうね。なぜでしょうかね。

 

四半世紀くらい前でしたか、トムクルーズ主演の映画“The Firm”を最初見たとき、法的な問題があまりに違いすぎて、少しついて行けない印象を持ちました。トムクルーズ演じる新人弁護士はFBI、勤務先法律事務所が雇った暗殺団、さらに事務所の顧問先マフィアの3者から追求されて、万事休すというとき、巧妙な法的ロジックで奇想天外な逆転劇を生むのですね。作者が弁護士のジョン・グリシャムが考えただけのストーリーかなと感嘆します。

 

そのロジックは、マフィアの脱税をFBIに告知することが弁護士・依頼者間の秘匿特権を犯すことになる一方、それをしないでマフィアからも暗殺団からも、またFBIからも逃れる手段として、事務所が顧客に過大な時間給の報酬を請求していたことを取り上げ郵便詐欺(連邦法違反)で摘発したのです。過大請求は秘匿特権を侵しません。

 

ところでトランプ大統領の元顧問弁護士だったコーエン被告の場合秘匿特権は関係ないのでしょうかね。日経記事<コーエン被告の証言要旨、「トランプ氏は詐欺師」>によると、<コーエン被告の証言要旨、「トランプ氏は詐欺師」>とかはまあ弁護士倫理上の問題はあるとしても、特権の問題にはならないでしょうね。他方で、<ポルノ女優に個人口座から口止め料>となると、どうなんでしょう。口止め料を支払うなんてことは違法行為そのものでしょうから、それも自ら行っているわけで、秘匿特権で保護される対象にはならないように思うのです。その意味で、公聴会で証言拒絶できないと思うのです。これは異論があるかもしれません。

 

長々と関係のない余談となりました。ここから本論です。

 

毎日記事では弁護士の秘匿特権が話題となっていますが、前提に談合、カルテル規制(GAfa支配も対象?)についてグローバルスタンダードが要請され、実効的な課徴金制度に見直しを図っている中で、欧米並みの弁護士秘匿特権の導入が検討されてきたようです。

 

<公正取引委員会が、調査対象の企業と弁護士とのやり取りを秘密にできる「秘匿特権」を導入することになった。>

 

欧米の秘匿特権制度は概要つぎのようです。<秘匿特権は欧米では広く導入されている。具体的には(1)公取委が談合やカルテルに関する立ち入り検査を行う際、企業側から「弁護士とのやり取り文書」と説明されたものについては、検査を担当する職員は中身を見ずに封をする(2)検査を担当しない職員が中身を確認した上で企業に還付する――という流れ。刑事事件化に向けた検察や警察などの捜査では認められない。>

 

公取委はこの制度導入に消極的でしたが、結局、日弁連、業界の要望を受けて、法律ではなく規則改正で対応することにしたようです。

<公取委関係者は「企業が社内弁護士を会議に出席させて『弁護士との相談だから議事録は出せない』と抵抗することもありうる」と懸念。今後まとめる指針では、社内弁護士は企業と同一に扱うことになるとみられる。【渡辺暢】>

 

社内弁護士を企業職員と同じに扱うとなると、せっかく社内弁護士導入の流れが進んでいる中、水を差すのではないかと疑念を抱きかねないです。ただ、まだ社内弁護士の知名度や独立性が確立しているかというと、事業体によって異なるでしょうから、社内弁護士や日弁連においてもこのような公取委の対処にきちんとした対応をしてもらいたいと思うのです。

 

他方で、弁護士の秘匿特権の意義を啓蒙するいい機会ですので、より議論を深めて欲しいと思うのです。日弁連の意見書はこれまでなんども出されているようで、最近では一昨年615日付け<公正取引委員会「独占禁止法研究会報告書」のうち、「第3-14(新制度の下での手続保障)」に対する意見書>があります。

 

弁護士多田敏明氏が<米国における弁護士依頼人秘匿特権>をわかりやすく解説しています。具体的な場面を想定して、秘匿特権を有効に活用することにより事業者側が法に抵触する行為を回避する一方、公取委の調査に支障をきたすおそれがないことを解説しています(私の杜撰な要約より、関心のある方は上記をクリックして読んでいただければと思います)。社内弁護士につても。

 

なお、公取委が既存の制度改革を見直すに当たり、一昨年425日付けで<(平成29425)独占禁止法研究会報告書について>を発表し、その報告書で詳細に現行の問題点や改正点を取り上げています。

 

課徴金制度も欧米並みになっていくのでしょうか。それにより、より実効的な公正競争の実現が可能になることを期待したいところです。

 

今日はこの辺でおしまい。また明日。

 


特捜部を少し考える <小説『巨悪』><大阪市官製談合><ゴーン被告辞任>などを読みながら

2019-01-25 | 司法と弁護士・裁判官・検察官

190125 特捜部を少し考える <小説『巨悪』><大阪市官製談合><ゴーン被告辞任>などを読みながら

 

伊兼源太郎著『巨悪』は、最近では現代物をほとんど読まない私がふと手にとってぱらぱらと見たとき、なんとなく気になり読み出したところ、次の展開がどうなるかと、久しぶりに感じる感覚でした。

 

伊兼氏の著作は初めてでしたが、元新聞記者という経験を彷彿させる場面が随所にあります。しかも、東京地検特捜部という、とくに機密性の高い舞台をとりあげただけあって、参考文献とした検察官ものは相当なものです。といってもそれを血肉あるものに仕上げるにはやはり検察官や検察事務官という人間にどう踏み込めるかが肝心で、取材を通して身につけたのでしょうか、結構臨場感を感じました。

 

ところで、大阪地検特捜部検事による証拠改ざん事件では、特捜部解体論も取りざたされたとも言われていますね。この小説ではそのような特捜部の進退が迫られるような状況で、検察内部の対立と、検事と検察事務官との役割の違い、上記事件で指摘されたような自白強要を迫るような旧来型捜査手法と証拠に基づき人間性に訴える?捜査手法との相克が目白押しにでてきます。そして巨悪の本流は、長い冷たい断片的なスローペースを経て、様々な謎解きを用意しつつ、最後の章には次々と明らかにされていくのです。それは、東日本大震災に対応すべき巨額の復興予算が、復興目的と外れて、大物政治家、大手企業、闇の工作員などを介して、まるでこれ幸いのように巧妙なマネーロンダリング手法で収賄・贈賄の金銭として使われてしまう仕組みに組み込まれていくのです。

 

このような筋立て自体は、他にも似たような小説なり、論文なりあるかもしれません。私が着目したのは、検察官と検察事務官の役割を大胆に描いている点です。それも序章の一人の若い女性の異質な危機的状況を提示しつつ結論を書かないで、読者を不安定な状態にしつつ、その後の展開の重大な布石にしているのです。

 

しかも二人の主人公に近いともいえる、一人は検察事務官ですが、東大法学部卒でありながら、キャリア試験も司法試験も受けず、東京地検の検察事務官をあえて選んだ人物。もう一人は私大卒で2浪で?司法試験をパスして検察官になった人物。そしてこの検事は上司が強引に調書を作れと要求しても首を縦に振らず、昔よく言われた「検事調書」(検事の作文で本人の供述をそのまま書いたものではない)的なものを忌避し、いかに取り調べ相手が適当な嘘を言おうとも、自白を誘導したり、強要することは断固さけて、それこそが検事の役割だとの信念を抱いているのです。それぞれの経緯や思いはその後次第に判明するのですが・・・

 

特捜部の検察事務官というと、よくガサ入れという場面で、段ボールをもってビルの中に入っていく大勢の人たちがイメージされたり、取調室で検事が被疑者から聞き取る内容を記録したり、その後供述調書にするときタイピングするなど、補助的役割をするイメージは私もほぼかわらないかもしれません。

 

でもこの小説での東京地検特捜部における検察事務官の役割は別格です。経済事犯なども多いですから、会計資料など膨大な資料を検察事務官がしっかり読み込んで証拠となり得るようなものを取り出す役割を担っています。それ以上に刑事なみに捜査手法を駆使するのです。普通の地検検察事務官ではあまり経験がないと思うのですが、特捜部の実態を知らないので、そうなのかと思ってしまいます。

 

ところで、この『巨悪』では検察組織、とりわけ東京地検特捜部の検事は、一人ひとり、そして組織として、地道に証拠を積み重ね、犯人を追い詰めていくことを、願いを込めて語っているように思います。

 

そこでゴーン氏の逮捕、勾留、起訴事件ですが、以前にも少し書きましたが、最高検はもちろん、最高裁、政府とも事件の具体的な提示がなくとも、司法取引とか外国の要人であるとかを踏まえて、なんらかの協議をしていたのではないかと勘ぐっております。まあ、ありえないというのが妥当なんでしょうけど、そんな危ない橋を渡ったのかなとも思うのです。

 

いずれにしも、経済の世界はすでにゴーン後で動き出していますね。それはゴーン氏の犯罪立証がどこまでできるか、裁判所がどのような認定をするかに関係なく、これまでの資料・情報からゴーン氏が世界トップにランクされる自動車グループの総帥としての資格を欠くとの烙印が押されたと思うのです。私はそれだけでも特捜部の成果としてあげてよいかと思います。今朝の毎日記事<クローズアップ2019 仏ルノー新体制 「ゴーン後」新たな攻防 連合主導権、日産守勢も>はそのようなゴーン後体制を取り上げています。

 

司法取引の運用については、法案成立段階の審議で、すでに捜査が開始していた可能性が高いので、一定の場面を想定した議論はできたのではないかと愚考するのです。司法取引の審議で、具体の犯罪類型をどこまで本件を想定したものが検討されたかは分かりませんが(審議資料を見てもそのようなものはないでしょう)、検察当局としてはイメージしていたのではと考えるのです。

 

そういえば、事務総長は、司法取引の導入に熱心だったとされる西川克行氏でしたが(こちらは「にしかわ」と呼ぶようです)、日産社長の西川(さいかわ)氏と同姓に近いというのも奇遇ですね。ただ、昨年9月、稲田伸夫氏が就任されているので、ゴーン氏逮捕時の検察トップは西川氏ではないですが。

 

『巨悪』でも犯罪のより具体的な内容自体は小説の中では明らかでなく、これから本番という場面で終わっていますが、異常に巨額の復興予算の計上やその使途には多くの国民から疑惑の目が向けられている中、一つの切り口を示したのかなと思うのです。

 

他方で、昨夕からの毎日記事では<大阪市、電気工事で疑い 建設局を捜索 地検特捜部><繰り返し入札情報漏えいか><市設定と落札額、価格差全て1%未満 捜索会社>と大阪地検特捜部による大阪市官製談合の摘発を報じています。

 

入札の適正化・透明化など長年言われてきたことですが、これまた浜の真砂の例よろしく、各地で見過ごされてきたかもしれません。まだ外観的な事実しか取り上げられていないようですが、これから検事、検察事務官がチームで熱い作業を休みなく行うのでしょうね。それは頑張って欲しいと思うのです。この『巨悪』でもそのような努力を丁寧に描いてます。

 

私がこの小説に魅了されたのは謎解きとか、筋書きとかではなく、その女性の死と二人の男性の生き様でしょうか。

 

今日はこのへんでおしまい。また明日。


心に届く判決とは <在韓被爆者訴訟 手帳認定判決 元徴用工、証言伝わった>などを読みながら

2019-01-09 | 司法と弁護士・裁判官・検察官

190109 心に届く判決とは <在韓被爆者訴訟 手帳認定判決 元徴用工、証言伝わった>などを読みながら

 

元徴用工をめぐる話題は、いろいろあるようですが、最近では日本企業に賠償請求を認めた韓国大法院の判決とそれに基づく資産差押執行が大きく紛糾?し、話題となっています。判決文を見たことはないですが、賠償理由自体よりも、日韓請求権協定の請求権放棄規定の効力と国際法上の解釈が話題になっているように思います。ネットを少し見てもちょっと偏った見方で議論しているようにも見えて、心に響くような意見はあまりないようにみえます。

 

今朝の毎日は<元徴用工訴訟で資産差し押さえ 政府、韓国に協議申し入れへ>で、客観的事実を淡々と報道しています。

 

他方で、一面と最後の紙面で別の徴用工の裁判を取り上げていて、この判決文には驚きました。

 

まず一面で<元徴用工に被爆者手帳認める 長崎地裁、朝鮮半島出身に初>とありました。

<戦時中に長崎市の三菱重工長崎造船所に徴用されて被爆したとして、90代の韓国人男性3人が、長崎市と国に被爆者健康手帳交付申請の却下処分取り消しなどを求めた訴訟で、長崎地裁(武田瑞佳裁判長)は8日、原告3人全員について市に手帳交付を命じる判決を言い渡した。>

 

ここでは徴用工の賠償請求問題は関連づけられていないので、この方がそういった請求をしているかどうかは明らかではありません。他方で、被爆者健康手帳申請が却下されたため、訴訟で取消を求めたのですが、元徴用工の方々は大変悲惨で厳しい状況を経てきたことが理解できます。

 

それは<在韓被爆者訴訟手帳認定判決 元徴用工、証言伝わった 高齢化、転換促す>の記事で取り上げています。

 

<1944年7月ごろ、同造船所に徴用され、鋼板の接合部に熱した鋲(びょう)を打つ「カシメ」と呼ばれる作業に従事した。昨年6月の尋問では、車椅子で長崎地裁に入り、爆心地から約5・5キロの寮で被爆した時の様子を「突然、空が真っ赤になり、ドカーンという音がしてガラスがガラガラと割れた」などと証言。「ブタや犬の餌のようなものを食べさせ働かせておいて、今になって『本当に徴用されたのか』『本当に被爆したのか』と言うのは人間のやることなのか」と語っていた。>と。

 

また<もう一人の原告、〓漢燮(ペハンソプ)さん(92)は昨年夏に脳梗塞(こうそく)で倒れ、代わりに電話に出た長女が「父の長崎での苦労が認められ、本当にうれしい」と話した。〓さんは寮の食堂に向かっている時に被爆し、とっさに地面に伏せたが、腰を負傷。支援者らには腰のえぐれたような傷痕を見せながら「原爆を受けたことは事実」と訴えていた。>というのです。

 

では判決は、却下理由について、どう判断したのでしょうか。

解説在韓被爆者訴訟 元徴用工判決 証言重視の審査促す>で、行政による通常の判断方法について、被爆という異例な事件であることに加えて、70年の時の経過を考慮したことです。

 

<原告の証言は基本的に申請段階から一貫していたが、長崎市は部分的に他の資料と整合しないことや、証拠や証人がないなどの理由で却下した。>というのですから、これは行政としては一般的な方法として支持されるでしょう。

 

しかし、<判決は、被爆からの時間の経過などを踏まえれば、本人の記憶がある程度薄れるのは仕方なく、関係者の死亡などで証言や証拠が得られなくても、本人の証言の「中核部分」に信用性があれば被爆者と認められるとする従来より踏み込んだ判断を示した。>というのです。

 

こういう判決文はどのような証言をとりあげ、こういった中核部分を構成させたかも含め、一度読んで見たくなります。元徴用工の方の証言やその姿勢に真摯なものを感得したのかもしれません。

 

私が最初に医療過誤訴訟を担当したケースで、看護記録など診療記録との矛盾があるにもかかわらず、当該医師の誠実さといった人格を取り上げて信頼できるとしたあまりに情緒的な判断をされたことがあります。この場合当該医師の具体の証言内容を取り上げて判示理由に言及するのであれば、勝敗にかかわらず、納得できるというか、理解できることがありますね。むろんこの医療過誤訴訟は、判決前に大きな金額の和解案まで裁判所が提示したにもかかわらず、(最初で最後の)敗訴でしたが、まったく納得できない内容でした。

 

<原告代理人の中鋪(なかしき)美香弁護士は「援護を必要としている人こそ手帳を申請する。行政は判決を重く受け止め、姿勢を変えるべきだ」と訴える。【樋口岳大、今野悠貴】>と指摘していますが、この裁判所のような見方をしてくれるといいですね。

 

おそらく控訴され、その場合高裁がどう判断するか注目したいです。

 

今日はこれにておしまい。また明日。


司法の役割 <特殊詐欺 3億円返還へ・・大阪地検>と<最高裁 相続分無償譲渡は「贈与」>を読みながら

2018-10-20 | 司法と弁護士・裁判官・検察官

181020 司法の役割 <特殊詐欺 3億円返還へ・・大阪地検>と<最高裁 相続分無償譲渡は「贈与」>を読みながら

 

強いジャイアンツはあまり好きになれなかったけど、弱すぎるジャイアンツもつまんない、と野球ファンというかスポーツ好きの私は勝手な意見の持ち主のようです。広島カープは強いですけど、菅野が一度も投げずに4連敗はないでしょうと思ってしまいます。このシリーズでは広島もさほど打てていないのに、いいところでホームランなりヒットがでて、貧打の割に高得点を稼いでいます。西武が一方的に勝つかなと思ったら、SBがしぶといですね。そういうゲームをしてもらいたいものです。

 

さて新聞やTVでは、サウジアラビアの記者で政権批判記事を続けていたカショギ氏を皇太子関係者が同国トルコ総領事館内で殺害したという猟奇疑惑事件が連日報道されています。サウジの独裁体制については、北朝鮮同様報道統制があってあまり実態が分かりませんが、時折、隠し撮りがいくつかの媒体に流れますね。しかし、ここまでやるかと思ってしまいます。SBの孫氏も超大規模経済連携をスタートしたばかりで、どうするのでしょうかね、昨夜の幕引き会見で収束するとは思えないのですが、日本も含め利害関係が複雑に入り組んでいて、今後どうなるか注視したいです。

 

そういったきな臭い話は横に置いていて、今日は司法の役割について、2つのニュースを手がかりに少しだけ考えてみようかと思います。

 

一つは昨夕の毎日記事<特殊詐欺3億円返還へ 震災仮設巡り 関係先で発見 大阪地検>です。特殊詐欺の被害者は年々増大し、被害者が申し出ただけでも相当な金額になりますが、捕まるのは末端ばかりで、被害回復の話は希です。そんなとき、この3億円返還はうれしいニュースです。大阪地検の功績でしょうか。

 

高嶋将之、松本紫帆両記者による記事はその意義について、<東日本大震災の仮設住宅購入をかたる特殊詐欺事件を巡り、大阪地検が、だまし取られた現金3億4200万円を被害者に返還する手続きを進めている。組織犯罪で奪われた財産を被害者に返す「被害回復給付金支給制度」に基づくもので、特殊詐欺事件としては最高額。>と指摘しています。

 

この事件の手口は<地検などによると、特殊詐欺グループが14~15年、東日本大震災の仮設住宅を購入するための名義貸しを高齢女性らに電話で依頼。その後、金融庁職員だと名乗って「名義貸しは犯罪。逮捕を免れる保釈金がいる」などと要求し、現金をだまし取った。>

 

上記の制度に基づき行われる被害者返還について、<地検は今年7月から、ホームページで給付を告知し、裁判で被害者とされた16人を超える28人(今月10日現在)が既に申請。西日本豪雨で被災した一部地域については、11月末まで募集を続ける。口座の記録などで裏付けられた被害に応じた金額を分配する。>とのこと。

 

特殊詐欺事件では飛び抜けた返還額というのですが、被害総額に比べるとほんの一部にとどまっています。むろん検察・警察も必死に犯人を追及しているのでしょうが、多くの特殊詐欺事件では、なかなか本丸にたどり着けない状況でしょうか。私も受け子の一人を担当しましたが、すらすらと中国の拠点や各地での詐欺行為を話しますが、リーダーの存在や所在となるとよく分かっていないか、話しません。

 

<日本弁護士連合会は今月、被害回復制度の拡充を国に求める決議を公表した。>ように、弁護士会も、被疑者・被告人の人権保護の活動を従来通り行いつつ、最近は被害者支援に向けた活動を活発に行うようになりました。

 

被害回復について、<詐欺グループは他人名義の口座や海外の金融機関を駆使し、巧妙に資金を隠す。警察は、拠点を見つけて容疑者や証拠を一気に確保する「アジト急襲型捜査」を強化するが、多額の現金が見つかる例は少ない。>として、特殊詐欺事件ではとくに被害に遭うと事後救済はよういではないことが実態です。やはり事前の被害に遭わない対策を講じることがなによりも先決で、従来の被害情報の分析を踏まえて(情報共通して)、予防策を講じる必要があると思うのです。いたちごっこかもしれませんが、銀行窓口を介するようなケースは少なくなったと思いますし、ATM対応もかなり進んできたと思います。自宅訪問や電話対応について、より有効な策を講じることが求められるのでしょうか。

 

だらだらと愚見を述べましたが、今度は少し格調高く?、最高裁判決を取り上げます。

 

今朝の毎日記事<最高裁相続分無償譲渡は「贈与」 遺留分請求認める 初判断>です。

 

相続分の譲渡自体が事件として争われるのはそう多くないと思いますが、このケースではその法的性質をめぐって本質的な問題が争点となりました。

 

<父親の死亡時に、母親が自身の相続する持ち分(相続分)を特定の子に全て無償譲渡したため、母の死亡時に母の遺産を受け取れなかった他の子が最低限度認められる相続の「遺留分」を請求した2件の訴訟の上告審判決が19日、最高裁第2小法廷(鬼丸かおる裁判長)であった。小法廷は「相続分の無償譲渡は贈与に当たる」との初判断を示し、他の子が遺留分を請求できると認めた。裁判官4人全員一致の判断。【伊藤直孝】>

 

なぜこれが問題となるかですが、相続分の譲渡では、具体的な財産が当事者間で移動するわけではありません。相続分の譲渡の結果、譲り受けた相続分を前提に、相続人間で遺産分割が行われた場合、被相続人の死亡時に遡ってその相続の効力が発生します。たとえば、母から2分の1の相続分を譲り受けた子は、その相続分と自分の相続分を加えた分を、父死亡時に、父から相続することになります。

 

ですので、譲り受けた子は、譲渡を受けた相続分に相当する財産を父から相続したのであって、母から贈与を受けたものではないと考えるのも相続法理に符合します。他方で、他の譲渡を受けなかった子は母からの相続分の譲渡はその財産価値相当の贈与を受けたと見て、母死亡時、遺留分減殺の対象となると考えるのも自然でしょう。父の相続では贈与と言えなくても、母の相続では贈与とみることができます。でもこのように考えられるかは、下級審で争いがあったようです。私自身は、30年くらい前、東弁で発行した法律税務の書籍の中で、この部分を担当していくつかの場合分けをして書きましたが、当時は母の相続時までは検討していませんでした。もう古い話です。

 

なぜ相続分の譲渡が行われるかですが、私自身も、30年くらい前に原稿を書いたとき、それ以前に父親の遺産相続をめぐってきょうだい間で紛糾し、母親が困ってしまっていて、家業を継いでいる子に渡して、自分は紛争当事者から外れたいと相談され、相続分譲渡に関する公正証書を作ってもらったことがあった記憶です。

 

だいたい相続分の譲渡をするような方は、紛争に巻き込まれたくないという気持ちと、誰かに財産管理を任せたいという気持ちがあって、決心するように思います。当時はまだ相続分譲渡に関する文献もほとんどなく、定説もなかったような記憶ですね。実際の現場では結構使われるか、あるいはあえて文書化しないで口頭合意でやっていたかもしれませんが。

 

この最高裁判決でより明確になったと思います。相続分の譲渡をチョイスとして考える人も増えるのではと思います。

 

父の相続の場合母が2分の1の相続分を譲渡(父・母逆もありますね)することは有効であり、この移転に贈与税が別途かかるわけではないのです。一つの議論として、譲渡人がその相続分全部を譲渡したとき、遺産分割の当事者の地位を残しているかが問題になりますが、確立した定説はないかもしれません。私は譲渡の意図や法的性質から、譲渡人がいなくても遺産分割は有効にできると考えます。さて、最近の実務を検討していませんが、どうでしょうかね。

 

今回の最高裁判断は、父ではなく母の相続のとき、相続分の譲渡を贈与として取扱い、その遺産価値に相当する利益を受けたと言うことで、母の遺産が現存していなくても、他の子はこの相続分に相当する経済的利益を特別受益の対象となる贈与額として遺留分減殺請求できるとしたのですが、合理的な判断ではないかと思います。

 

今日はこのへんでおしまい。また明日。

 

 

 

 

 

 

 

 


司法とセクハラ・性差別 <米最高裁判事候補の性的暴力疑惑>と<女性検事増加>などを読みながら

2018-09-18 | 司法と弁護士・裁判官・検察官

180918 司法とセクハラ・性差別 <米最高裁判事候補の性的暴力疑惑>と<女性検事増加>などを読みながら

 

アメリカは女性の地位が確立している、尊重されているとなんとなく思っている人は多いと思います。日本と比較すると多少ともオーバー気味に感じるかもしれません。たしかに目立ったところではレディーファーストとかは一応、いろんな含みがあるとしても社交的にはそのとおりなんでしょうね。LGBTといった分野でも早い段階で容認の動きがありましたからね。

 

でも実態はさほど大きな違いがないかもしれません。見えないところでは。

 

今朝の毎日記事<米国連邦最高裁判事候補が性的暴力か 女性が実名で告発>は、少し驚きました。まるで30年前のリメイクのように思ってしまったからです。そのときは黒人候補者でしたが、こんどは白人候補者ですね。

 

記事では<米紙ワシントン・ポスト電子版は16日、トランプ米大統領が連邦最高裁判事に指名したブレット・カバノー氏(53)に1980年代、性的暴力の被害を受けたとする女性(51)の告発を実名で掲載した。>と一大事件の前触れのようです。

 

さてその内容は<被害を告発したのはカリフォルニア州の大学の女性教授。10代だった82年ごろのパーティーで、泥酔した当時高校生のカバノー氏に体を押さえ付けられ、服を脱がされそうになったとしている。女性は叫び声が漏れないよう口を手でふさがれたとして「誤って殺されたかもしれない」と語った。82年というと36年前ですか。この経過時間も、告発者の地位が大学教授という点も、30年前の舞台と類似しますね。

 

その告発にあたっての条件として提示したという点も、<女性は最高裁判事候補としてカバノー氏の名前が挙がった7月ごろ、公表しない条件で被害を民主党の議員に伝えていた。>ということで、ほぼ過去の事件と一致しますね。で、名前を公表した経緯については<複数の米メディアが内容を報じるなどして、不正確な情報が出回るようになったため名乗り出ることを決めたという。>ことで、少し異なるように思いますが、さほど大きな違いではないかと思います。

 

すごいですね、<女性はポリグラフ(うそ発見器)検査も済ませており、同紙は告発が正確だとの検査結果を確認した。>とまるで容疑者のような立場を吹っ切る形で登場するのは、過去の事例を他山の石にしているのでしょうか。

 

むろん、告発された候補者は完全否定ですね。<カバノー氏は17日、声明で告発内容を全否定し、議会で反論する考えを示した。>これはアメリカでは普通の対応でしょうね。

 

毎日報道では、今後の行方について予断を許さない感じでしたが、朝日記事<米最高裁判事候補の性的暴力疑惑、女性が公聴会で証言へ>では、<トランプ米大統領が連邦最高裁判事に指名したブレット・カバノー氏(53)の承認について審議する上院司法委員会は17日、三十数年前にカバノー氏から性的暴力を受けたとする女性とカバノー氏を招き、24日に公聴会を開くことを決めた。>と公聴会で両者の対立が披露されることになります。

 

こうなると約30年前の事件のほんとにリメイク版がどのように推移するのか、楽しみ?です。

 

しかし、このケースは、候補者が当時17歳(5336)の高校生で、被害者の女性も2つ下の15歳で、高校生が主催していたパーティでの出来事で、告発者も候補者が泥酔しての犯行と述べていますね。他方で、約30年前の候補者・クレアランス・トーマス黒人判事の場合は、同人がたしか司法実務か研究者かで、告発者はその助手とかの、まさに上下間があったときの話で、その告発の内容はとても下劣な程度の低い言動でした。それも繰り返し相当の期間リアルに迫っていたというのが告発内容でしたので、アメリカ社会、それは人種を問わず見られた典型的なセクハラと思いました。

 

どちらが評価が低いかは人によって取り方が違うと思いますし、その証言の信憑性も公聴会での発言を聞かないとまだなんともいえませんが、私は過去の事例の方がひどいと思っています。

 

いずれにしても、公聴会でどのような事実が露呈されるか、それぞれの証言を見守りたいと思います。ただ、アメリカの司法は、弁護士にはいろんな批判はあっても、判事や、まして連邦最高裁判事になるような人は、優れた人格だという評価をもちづらくなっているのが現実かもしれません。

 

ところで、最近のブログで、日本の検事像について、外から見た印象みたいな感じで、私が若い頃、女性で検事になる人をほとんど見かけなかった趣旨を述べましたが、どうやら最近は違っているようです。

 

昨日の毎日記事<週刊サラダぼうる・それホント?女性検事増加、全体の4分の1に 先輩の姿、修習生後押し>では、たしかに以前は私が指摘したとおり、80年代初頭は1%を割っていたようですが、最近は20%台というのですから、すごく増えていますね。

 

この記事の中には上記の数値は出ていませんが、紙面上はグラフで示されていました(昨日の記憶ですが)。

 

私と同期がもう検事総長となる時代で、検察組織も昔のような男女差別?的な仕事環境では成り立たないことを感じて、組織変革を続けてきたのでしょうか。そういえば、昔は女性検事の姿をほとんど見たことがなかったですが、最近は結構見かけるようになり、なにか新鮮な刑事法廷に見えます。

 

だいたい被疑者に対して男性の強圧的な姿勢で取り調べないと、捜査がすすまないといった偏見がもしあったとすれば、それ自体が自白強要の温床となっていたと思います。むろん女性検事も正義感にまかせて強圧的な姿勢で臨む人もいるかもしれません。

 

いずれにしても、いま求められるのは、客観的な証拠とその関連性を積み上げて、説得的な心証を得ることでしょうから、男女に関係なく、捜査検事も公判検事も、有能な方が求められるのでしょう。

 

セクハラとかパワハラの関係では、検察組織は、そういう印象を外から受けがちですが、たしか村木さん事件では大阪地検特捜部を含めそういう環境を醸成したように映りました。それが女性が増えることにより、セクハラはもちろんパワハラもよりなくなることを期待したいです。

 

いずれにしても、検事の仕事はどんどん多様化していますので、女性の力は必須でしょう。女性検事の活躍を期待したいと思います。そしてこの記事にもあるように、いま小学生や中学生、あるいは高校生といった若い方も、女性の働き場として選んでもらいたいと思います。

 

女性弁護士は、私の感覚だと、割合向いている仕事ですし、男女差も少なく、昔から相当選ばれてきたように思うので、あえて宣伝するまでもないかなと思うのです。

 

女性裁判官も結構頑張られているようで、これまた男女差が少ない印象ですね。気楽に話せる女性裁判官をいまでは知らないので、ほんとはどうでしょうかと聞きたいものですが。

 

ちょうど一時間が過ぎました。時間となりました。また明日。