たそかれの散策

都会から田舎に移って4年経ち、周りの農地、寺、古代の雰囲気に興味を持つようになり、ランダムに書いてみようかと思う。

コマツ方式の普及を <『経済成長の妨げを打開 コマツ坂根氏の処方箋』>を見て

2018-11-27 | 企業運営のあり方

181127 コマツ方式の普及を <『経済成長の妨げを打開 コマツ坂根氏の処方箋』>を見て

 

昨夜のプライムニュースは<『経済成長の妨げを打開 コマツ坂根氏の処方箋』>というテーマで、ゲストにコマツ相談役の坂根正弘氏と元総務相の増田寛也氏を招いて議論されました。とりわけコマツの様々な点で創意工夫ある経営、これからの企業のあり方の一つを示すような内容が提供されました。

 

人口減少時代を前提に、人手不足に対応するために外国人材の受け入れ拡大を目的とした出入国管理法改正案について、緊急対策として一定の合理性を認めつつ、国内における高齢者や女性など多くの雇用の機会が整備されていないことを問題にしたり、現行の外国人を含めた雇用環境に問題があることの改善が必要との指摘があったかと思います。

 

与野党の議論がさまざまな争点があるにもかかわらず、適切な議論がされているか、坂根氏もきっと内心では疑問を感じているのではないかと思いました。

 

日本の労働慣行の特異性を多々問題にしていましたが、私も多く賛同できました。

 

たとえば就活ルールを大企業が統一して決めるというやり方も現在のグローバル経済に適合しないという点もそのとおりだと思います。私自身、45年くらい前でしたが、ああいう就活活動は私にはとてもできませんでした、その結果、弁護士という道を選んでしまったのかもしれません。

 

大学では勉強しなくても、どのような専攻を学んだとしても、就職先では通用せず、会社のルールが優先して、そこから新たにスタートするような状況は最近少しずつ変わっていっていると思いますが、海外の大学で授業を受ければ、いかに日本の大学の実像が奇妙なものかわかりますね。増田氏もそういった指摘をしていました。

 

坂根氏は、就活ルールをとりあげ、年度の一時期に一括採用すること、本社が東京に集中する大企業の問題性を指摘して、通年随時採用、地方分散を提案しています。その場合就職の目安はどのくらい専門知見・技術・伸びしろがあるかといったことが大きなファクターになるのではないかと思います。大学での勉強もそれだけ実質が伴わないと意味をなくすことになるでしょう。

 

コマツは本社を地方の小松市に移転し、地元の地方大学採用を推進し、地域貢献・社会貢献という企業の社会的責任を体現してきたように思います。

 

会社経営のあり方で坂根氏が指摘していた一つ、変動費・固定費・変動費率という指標を用いて経営管理している企業が海外では当たり前であるのに、わが国では少ないという点も同感です。

 

多くの企業は、税務申告用や、有価証券報告書用などで、貸借対照表・損益計算書を作成したり、銀行用に資金繰り表を作成しますが、自社の経営において各事業部門が採算性を有しているか、自社独自の上記指標を作成して判断する必要があるのに、あまり関心のない企業が多いように見えてしまいます。

 

そのような趣旨を坂根氏は指摘していたのではないかと思うのです。坂根氏は社長になったとき、固定費の比重が高いことに注目して、それをいかに下げるかを工夫して、固定費上昇の要因であった終身雇用を改め、収益改善を果たしたそうです。

 

コマツといえばITIOT装備の建設機械が多方面の産業に展開して言っている点が注目されていて、私も気になっていましたが、坂根氏の次の社長が得意分野だったそうです。

 

コマツが石川県で取り組んだ新たな戦略は次の4つが柱ということのようです。

 

<地元での大学卒採用を開始>

<農業&林業への技術支援を開始>

<電力削減~新工場バイオマス発電建設>

<地域交流を目的に「こまつの杜」竣工>

 

地元大学卒採用は先に述べました。建設機械メーカーのコマツが農林業に進出?というと驚きますが、私は農林業に関心を抱きだした10年前くらいから次第に情報を得るようになり、コマツの西欧で使われている機械が農林業分野で画期的な機能を発揮していることを知りました。

 

その点、坂根氏は、地元採用の社員の多くが兼業農家だったことから、その社員たちの雇用環境を整備する中で、自然と農業の現状に目をやるようになったそうです。兼業農家は、普通平日は会社に勤めますが、土日とか、連休などでは農業をしています。ある意味普通の会社員の週末ファーマーとさほど違わないかもしれません。

 

でも兼業農家は基本、伝統的慣行農法をおこなっており、たいていは農協指導でやっているでしょうね。トラクターでも何でも農業機械は自分とこの自由な時間で使いたいため、ほとんどが自前ですね。それが効率的か、生産性を考慮したものかと言えば、費用対効果的には疑問が多い場合が普通ではないかと思います。

 

ITAIを装備した機械でもないですね。コマツはGPSを含めITIOTを搭載した農業機械を開発して、農業の合理化を開拓してきたようです。

 

私が着目したのは林業機械です。林野庁がウェブサイトで取り上げている高性能林業機械といったものの多くは、たぶん90年代のものとさほど大きな変化はないのではと思います。欧米、とくに北欧などで使用されている機械は、坂根氏が話していたように、IT,IOT搭載のもので、樹種、その大きさなどの市況が瞬時にITを通して林業機械の画面に現れ、それに対応する樹種を選んで一本を掴んで枝払いから造材まで一挙にして、さらにネットで近接する運搬トラックを呼び出し市場まで運ぶという一連の切れ目のない作業が行われているのです。

 

コマツは工場の省電力化を行い、90%も削減したそうです。これからの時代、いかに省電力化を図るか、よりいっそう企業力が試されるのだと思います。原発電力を頼ってどんどん電力消費するような体質の企業は淘汰されるのではないかと思うのです。

 

林業に関わっているため、バイオマス発電も手がけ、本来の高性能林業機械で生み出される大量のC級材や枝条も活用可能になるわけですね。

 

その他コマツは企業力を多方面に伸ばしていますが、そこには企業利益を超えた社会貢献を目指す姿を感じます。

 

これからの企業のあり方として多くが模索して欲しい一隅の光のように思えます。あまり絶賛していると、どこかで落とし穴があるかもしれませんが、そういう注意は怠らないと期待しています。

 

今日はこれにておしまい。また明日。


企業再生の経営学? <ホンハイはシャープをこんなに変えた>を読みながら

2018-10-31 | 企業運営のあり方

181031 企業再生の経営学? <ホンハイはシャープをこんなに変えた>を読みながら

 

わずか4日間このブログをお休みしたのですが、もう一度再開しようかと迷ってしまいました。他のことに終日追われて、ブログのことはすっかり忘れていました。PCの前に今日座っても、乗り気になりませんでした。まあたまっていた仕事が忙しくてそれどころでなかったのもありますが・・・誰か読んでくれている人がいるから続けようとしているのか、いや本来の目的を思い出し、自分なりのエンディングノートをつくろうと試みているのか、最近は曖昧なまま、惰性的に書いてきたように思います。

 

そろそろこのブログの目的を改め考えないといけないのですが、今日も忙しくていつの間にか終業時間となり、目についたウェブ記事を拾って本日のテーマにしようとしています。これはエンディングノートの趣旨とは関係なく、自分探しでもなんでもない(遠縁には関係があるかも?)ものです。このようなことを続けていると、いつかぱたりとやめてしまいそうです。千日ブログもこの4日間のお休みで途絶えたので、また一からやり直すほど元気もなければ、意味を感じません。ではどうするか、とりあえず書くことにしましたが、おそらく仕事の気分展開に利用しているのがいまの実態かもしれません。おつきあいいただける方は、今後もよろしく。これからは続ける意味を感じていませんので、適当にお休みをするかもしれません。

 

さて今日のお題にします。これも以前に何度か取り上げたテーマです。シャープが企業破綻のどん底から鴻海による吸収合併後、驚異的なV字回復を示していることに、多くが注目していると思います。なぜ日本経済を一時牽引する勢いがあった日本を代表する企業が破綻の淵に追い込まれたのか、その赤字原因は何か、鴻海傘下で何がどう変わったかは以前から話題となっていると思います。実態がわからない私があれこれ言っても隔靴掻痒の話しかできませんが、業界に詳しい人が書いたものを参考にすれば少しは分かるかと思い、今朝その記事がアップされていたので、とりあえずこれを土台に検討してみようかと思います。

 

Japan Business Pressの本日付記事<隔世の感あり、ホンハイはシャープをこんなに変えた>はジャーナリスト大西 康之氏の取材によるものです。

 

興味深いのは企業代表者の記者会見でも、記者側に与党と野党がいるようで、最近は批判的な野党は絶滅危惧種とか。なにやら安倍政権側の記者会見をみているようで面白いですね。まあ総会屋があまり表だって跋扈しなくなった代わり、企業実体を把握して報道すべき記者が、二手に分かれる構造は、総会屋が二手に分かれていたのと似通っている印象を持ちます。

 

しかも最近は厳しく批判すべき野党的記者が絶滅危惧種になりつつあるというのですから、企業情報としてニュースになるものも、眉唾物の可能性を疑ってもおかしくないわけですね。だいたい不正会計とか不正データとかが昨今、当たり前のように報道で取り上げられるのは、それを見落としてきたというか見過ごしてきた、企業側が発表する情報を鵜呑みにしてきた記者・ジャーナリスト側にも問題なしとしないかもしれません。

 

少し脇道にそれてしまいました。本論に戻しましょう。大西氏はシャープの日本人副社長野村氏が最近は自信満々になってきたというのです。その理由として<2018年度上期の最終損益は409億円の黒字で、前年同期比17.8%増。利益率は半期として過去最高を記録したのだ。これを受け20193月期の最終損益予想も800億円から900億円に引き上げた。>

 

戴正呉社長が最近は中国で指揮を執り、野村氏が日本での事業をほとんど任され、その成果が以上のように上がっているからというようです。

 

といっても野村氏いわくそれは<『戴社長のリーダーシップ』>であり、<「戴さんの凄さというのは、事業に関する知識と経験の量だと思う。知識と経験の裏付けがある指摘は常に明確であり、リーズナブル。従って社員が納得できるし行動のスピードも上がる」>というのです。まるで戴社長一人の判断でシャープが劇的に変わったといっているように思えるのです。

 

たしかにプロ野球はもちろん、さまざまなスポーツでも監督が替われば、チーム全員が変わることはよくみかけます。でもなにをどう変えたかも、この場合は割合目に見えます。ではシャープの場合見えてきているのでしょうか。

 

この点、大西氏は次の事例を取り上げています。

<かつてのシャープなら、安売りで赤字を膨らますか、売れなくても作って在庫の山を築くところだったが、戴社長はすぐさまパネル工場のブレーキを踏み在庫をコントロールした。結果的に上期のアドバンス・ディスプレイシステムの売上高は大きく減ったが、190億円の営業利益を確保した。>

 

採算の悪い事業とみれば、ブレーキをかけ、生産量を抑えて在庫コントロールし、コストダウンを図り、他方で安売りを避けて、売上高を下げても、営業利益に注目するというのです。でもこれ自体は当たり前ですね。どこの企業経営者でもやっていることですね。文脈から判断すると、ブレーキの迅速さが違うのでしょうか?

 

野村氏の発言を引用している部分で、<テレビ事業や半導体事業、白物家電事業の収益改善>について、以前のシャープの体質は<パネル工場の稼働率を維持するため、テレビが売れなくてもパネルをじゃんじゃん作って在庫の山を築いていた>とし、それを鴻海は<筋肉質に改善した>というのですが、なにが<筋肉質>なのかあまりぴんときません。

 

それに続いて指摘した<上期のセグメント別の売上高を見ると、パネルを手がけるアドバンス・ディスプレイシステムが前年同期比で12%減少している。ホンハイの傘下に入った直後、量を確保するため中国で安いテレビを大量に売ったのだが、それがシャープのブランド力を毀損し、スマホなど他製品にまで悪影響がで始めたのだ。>

 

この文章からは、鴻海傘下に入っても、当初は<中国で安いテレビを大量に売った>結果、<シャープのブランド力を毀損し、スマホなど他製品にまで悪影響がで始めた>というのですから、問題があったということですね。

 

ただ、ここで急ブレーキをかけたことが戴社長の高い能力を示しているということなんでしょう。

<戴社長はすぐさまパネル工場のブレーキを踏み在庫をコントロールした。結果的に上期のアドバンス・ディスプレイシステムの売上高は大きく減ったが、190億円の営業利益を確保した。>

 

素人的にはある事業の安売り戦略が他の有力事業の市場支配力に悪影響を与える可能性があれば、当然当該安売り戦略を撤回ないし減速・停止するのはセオリーではないかと思うのです。このようなことで評価されると言うことは、事業部制が独立志向を強くしすぎ、全体のコントロールがきかない状態に、以前のシャープが陥っていたことを示しているかもしれません。企業経営者としてやるべき当たり前のことがされないまま、放任されていたことなのでしょうか。

 

まあそれはリーダーシップというのでしょうけど、以前のシャープが経営コントロールを失っていたことが露呈されたように思えるのですが、なぜそこに至ったのか不思議です。いま東電の旧経営者が福島第一原発事故の責任を問われ、彼らは津波被害発生の報告を知らず、その責任を否定する一方で、当時の部下はその報告をしたのに無視したと述べ、対立しています。企業統治ができていなかったという一言で尽きるのか疑問です。

 

シャープの場合も、まだその原因が明らかにされたとは思えません。またV字回復の要因を戴社長の能力を賛美するだけではほんとうの解明にはならないと思うのです。アクセルとブレーキの話も大事ですが、もっと追求して欲しいと思うのは私だけではないように思うのです。

 

1時間が過ぎました。今日はこの辺でおしまい。


仏作って魂入れず <社外取締役 複数9割超 「リーマン」後、経営透明化>を読みながら

2018-10-26 | 企業運営のあり方

181026 仏作って魂入れず <社外取締役 複数9割超 「リーマン」後、経営透明化>を読みながら

 

今日はなにかと忙しく過ごし、いつの間にか業務時間を過ぎています。疲れもあってブログを簡潔に済ましたいと思います。

 

今朝の毎日記事<社外取締役複数9割超 「リーマン」後、経営透明化 東証1部>では、取締役会における経営統制の強化・透明化を図る動きを取り上げています。

 

要は、社外取締役の複数選任がその対策とされています。きっかけはリーマンショックです。

<上場企業の09年3月期の決算は、金融危機に伴う世界同時不況で総崩れの様相を呈した。これを契機に、安定した収益を持続する上で経営体制の一段の強化が求められ、「取締役会の実効性への関心が高まった」>

 

安定した収益の持続性が経営体制強化の方向性であり、取締役会の実効性が目指されたのです。

 

さらにこの問題対応を社外取締役に絞ったような形になったのは次のような動きでしょうか。

<経済団体などが企業統治の改善を相次いで提言し、政府は13年の成長戦略に社外取締役の導入促進を盛り込んだ。東証は15年、上場企業の行動指針「コーポレートガバナンス・コード(企業統治原則)」の適用を開始。社外取締役の複数選任の基準を定め、企業側も対応を急いだ。>

 

長い間会社法上の取締役会が機能不全というか、法律が要求する経営コントロール機能を果たしていないことが問題にされてきたのに、ようやく光が当たったかのような状況になったのでしょう。

 

従前、取締役と言えば、その会社で長年従事し、成績を残した、あるいはトップに認められたように、従業員から選ばれてきた人がほとんどでした。株式持ち合いとか融資先金融機関から派遣されたといった場合は例外であったと思います。

 

かりに社外取締役がいてもいなくても、ほとんどが社内出身取締役ですので、どちらかというと経営問題を討議する場にはなっていなかったのではないかと思います。それではどこで議論するかというと、経営会議とか、取締役会の上に主要人物だけの会議体があり、そこで実質的な討議が行われ、取締役会はその結論を会社法上の体裁を整えるような実態が結構多かったのではないかと思います。それは私が上場企業の会社を研究する活動をしていた80年代から90年代初頭のころでしたが、その後もそれほど大きな変化があったのかなと思っていました。

 

90年代の後半ころからくらいでしたか、コーポレートガバナンスとか複数社外取締役制とか、話題になっていたような記憶ですが、実質はどこまで変わったのでしょうか。これを採用し最先端を走り優良企業のトップともいわれていた東芝は、その後の顛末を見ると、いかにずさんな経営体であったか明らかになりました。トップすら、原発事業を含めよく理解しないまま、経営していたのですね。この破綻について、第三者委員会では、取締役会、むろん社外取締役の責任というか、役割もほとんど議論の対象にならなかったように思います。

 

記事もその点、わきまえていて、<取締役会の意思決定などでこうした機能が十分に確保されていないとの批判もくすぶり、制度設計は道半ばと言える。>そうですね、仏作って魂入れずとなりかねないというか、社外取締役を取り入れただけではほとんど変わらない危険が現在の上場企業にあると思うのです。

 

社外取締役制度そのものについて厳しい見方として<大和総研の鈴木裕主任研究員は「会社のために身を削って働く意識に欠ける人もいる」と、資質を備えた人材は限られているとの見方を示す。人選の過程や報酬算定基準で不透明な部分もあり、制度を改善する余地は大きいという。>

 

そのとおりと思いますし、他方で、社外取締役だけの問題ではないと思います。

また、東芝の不正会計の問題が指摘されていますね。これはいくら社外取締役を増やしても解決にはならないと思います。不正会計の温床が現在の企業活動の拡大そのものにあり、それをフォローできる会計対応になっていないように思うのです。

 

今日ちょっとこの記事を見て適当な意見を述べているので、問題対応になにが決め手になるなんてたいそうな議論はとてもできませんが、企業統治は長い時間をかけて試行錯誤を繰り返しながら、提案、計画、実施、検証、さらに見直しといったありきたりながら、セオリーをしっかりやることがまずは必要でしょうか。

 

30分程度でまとめ?てみました。今日はこれにておしまい。また明日。


株式における選択と責任 <大手信託・生保の議決権行使 議案への反対率増加>などを読みながら

2018-09-27 | 企業運営のあり方

180927 株式における選択と責任 <大手信託・生保の議決権行使 議案への反対率増加>などを読みながら

 

今日もとくに忙しくなかったのですが、いつの間にか時間が経過してしまいました。ちょっと興味深いケースがあり、その事実関係を調べたり、別の紛争案件に関わる裁判例を調べたりしていると、あっという間にこの時間になってしまいました。

 

今日の話題は・・・・とくに見つからず、ちょっと目についたので、見出しのタイトルにしたのですが、簡潔に終わらせたいと思います。

 

今朝の毎日記事<株主総会大手信託・生保の議決権行使 議案への反対率増加 投資先に厳しい姿勢>は、ようやくわが国においても大手企業の一部で、その議決権行使のあり方に光が当たるようになってきたようです。

 

<昨年金融庁が改定した機関投資家が守るべき「スチュワードシップ・コード(受託者原則)」に基づく2年目の開示で、全体として議案への反対率が昨年比で増加した。利益の株主還元や企業統治を巡り、投資先企業に厳しく接する姿勢が強まっている。【深津誠、竹下理子、古屋敷尚子】>

 

このスチュワードシップ・コード(受託者原則)について、同じ記事で次のように解説しています。

<顧客などから託された資金を運用する銀行や保険、証券会社などの機関投資家に定められた行動原則。>で、<投資先企業の経営監視や顧客への説明責任などで構成されており、金融庁が2014年に制定した。>ということでまだ4年目ですね。

開示することがルールで、その議決権行使の是非はとくに問われていないようです。その開示方法はというと、<株主総会の議決権行使の内容については、当初は議案の種類ごとにまとめて開示すればよかったが、17年5月の改定で個別議案ごとの公表が必要になった。賛否の理由についても開示が奨励され、機関投資家は判断の妥当性が問われる。>

 

さてその判断の妥当性を問うのは、一体誰でしょう。委託者である個々の投資家・企業なんでしょうけど、こんどはそこの選択が問われるのかもしれません。でもその前提の現在実施されている開示程度で選択が適切かどうか、検討できるのか少し不安です。

 

開示内容について、<信託、生保大手7社中、個別の議決権行使状況を開示したのは、昨年同様、日本生命を除く6社(明治安田は開示対象を全投資先に拡大)。三井住友信託、三菱UFJ信託は賛否の理由も公表した。議案への反対率は三菱UFJ信託以外で増加し信託は15~20%台、保険は1~3%台。昨年以降、ガイドラインを厳格化した三井住友信託とみずほ信託は反対率がそれぞれ8・2ポイントと3・9ポイント上昇した。>とその程度がよくなっている趣旨の記事となっています。

 

具体的な事例としては<注目案件では、シェアハウスに絡む大規模な不正融資問題が発覚したスルガ銀行の創業家の岡野光喜会長(9月に退任)ら9人の取締役選任案に対する対応が分かれた。三井住友信託、三菱UFJ信託、明治安田の3社は、「(6月の株主総会時点で)第三者委員会の報告がされておらず、反対する材料が十分ではなかった」(三菱UFJ信託)などの理由で選任案に賛成した。>とありますね。第三者委員会の報告を待つまでもないように思うのですが、どうも積極的な議決権行使が行われていない大手もまだまだ多そうです。

 

その点<みずほ信託は「不祥事に責任があると認められる取締役の選任に原則反対する」という自社のガイドラインに沿って、9人の選任案に反対した。>と積極的に議決権行使ガイドラインを策定しているという点は評価できますね。同様の理由でしょうか、同社は<長期間務めた取締役に退職金とは別に支払われる退職慰労金について、「年功的性格が強い」として原則反対する方針に変更した。その結果、退職慰労金支給議案への反対比率が昨年より60・7ポイント高い96・2%に跳ね上がった。>と個別企業毎の選択と言うより、自社独自の選択基準で、行使しているという、望ましいあり方を示しているかと思います。

 

通常、上場企業大手は、たいてい横のつながりもあって、この種の対応もどこかがガイドラインを作れば、自社もまね?してつくる傾向にあるのですが、みずほ信託だけとは思えないのですね。他社はどうなっているのでしょう。

 

この開示によって、短期利益の追求に終わるような結果になることは避けてもらいたいものですが、どうでしょう。

<株主への利益還元について意見する姿勢の高まりは各社で目立った。利益をどれだけ配当するかを決める「剰余金処分案」に対し、3信託で反対率が上昇。三菱UFJ信託は、TBSホールディングスの1株当たりの配当についての議案を「不適切」として反対した。>

 

アメリカの投資環境のようになって、トランプ旋風に風船が破れるまでどこまでも高く上がっていきそうにならなければいいのですが・・・

 

ところで85日付け毎日記事<けいざい・因数分解2500兆円 世界のESG投資額 「持続可能」でリターン>では、<気候変動や社会貢献、企業統治への取り組みを重視して投資先を選ぶ「ESG投資」>が取り上げられています。

 

アメリカや西欧は多様ですので、先端的なことも早くから始めますね。その投資選択の基準としてはかなり前から行われてきたと思いますが、わが国はようやく重い腰をあげたような印象です。

 

<国際組織の世界持続可能投資連合(GSIA)の2016年の調査で、全世界のESG投資額は前回14年から約25%増えて22兆8900億ドル(約2500兆円)になった。これは世界の投資額の4分の1に当たり、ESG投資は近年、世界的な潮流となっている。>

 

ESGといっても耳慣れないかもしれません。記事ではちゃんと解説があります。

<ESGは「環境(Environment)」「社会(Social)」「統治(Governance)」の頭文字。投資を判断する際、従来の財務情報や収益性だけでなく、非財務情報であるESG要因も考慮しながら収益を追求する投資手法の総称がESG投資とされる。投資対象は株式や債券、不動産など多岐にわたる。>

 

で、日本のESGにおける現状はというと、<総投資額の2500兆円を地域別に分類すると、欧州(53%)と米国(38%)が大半を占める一方、日本は2%。全資産運用額に占めるESG投資の割合は、上位から▽欧州53%▽豪州・ニュージーランド51%▽カナダ38%▽米国22%--と続き、日本は3%。金額、割合とも日本は世界の先進国に水をあけられているのが現状だ。>出遅れ感は否めないですね。

 

その内実を次のように記事にしています。

<日本では、15年に年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が国連のPRI(責任投資原則)に署名し、ESG投資への関心が次第に高まっている。GPIFは約160兆円のうち1兆円をESG投資に充て、今後も増やす方針だ。GPIFは世界最大の機関投資家だけに、今後はESG投資の普及が期待される。

 ただ、現時点ではGPIFや生命保険会社、信託銀行などが相次いでPRIに署名する中、企業年金基金で署名したのはキッコーマンやセコムなどの数機関にとどまる。PRIは日本の機関投資家に対し、「ESGに配慮しない投資は受託者責任に反する」と指摘している。大和証券の大沢秀一シニアアナリストは「短期ではESGに配慮しない企業が利益を出すかもしれないが、長期でリターンを得たいなら持続可能なモデルがある企業に投資した方が良い」と指摘している。【深津誠】>

 

と記事の引用で終わらせてもらいます。また明日。


シャープは何が変わったか <シャープと東芝、何が運命を分けたのか>を読んで

2018-06-19 | 企業運営のあり方

180619 シャープは何が変わったか <シャープと東芝、何が運命を分けたのか>を読んで

 

昨夜は久しぶりに邦画を見ました。藤沢作品は一度も読んだことがないのに、いくつかの作品を朗読で、あるいは映画で惹かれるものを感じています。たしか森繁久弥と加藤道子の日曜名作座で、「蝉しぐれ」を語っていて、その内容と朗読の見事さに魅了されて、全部ではないですが、ある程度続けて聞いたのが最初でしょうか。そして出会ったのが山田洋次監督の映画「たそがれ清兵衛」です。このなにが惹かれるのか、これで3回目だと思いますが、NHKBS3で放映していたのを見てしまいました。

 

細かいところではちょっと気になる素材やストーリー展開もありますが、全体としては邦画としてはとてもよくできた作品と思っています。外国の映画が優れているといえるわけではないですが、ともかく滅多に見ない邦画を3回も見るというのは我ながら魅了されていると自覚しています。それを表現すると次々とできてしまいますが、そんなことは自分の中でしまっておけば良い事柄でしょう。

 

この映画に惹かれたゆえか、わたしのブログの名前にも影響を与えたように思います。むろん主人公・井口清兵衛の生き方を好ましいとか、理想としてみているわけではなく、ともえさんとやそこに登場する人物との関係はなにか心を打つものがあるのでしょう。

 

この話はこの程度にして、本題に移りたいと思います。

 

Japan Business Press提供の中川行彦氏の論評でしょうか<シャープと東芝、何が運命を分けたのか>は、興味あるテーマでした。

 

このブログでも、両社については何度か取り上げてきました。いずれも日本の成長企業として一時は飛ぶ鳥を落とす勢いにあったように思いますが、経営戦略の失敗などであっという間に経営危機のどん底に陥りました。東芝は、巨大赤字原因の米原子力企業を売却し、他方で稼ぎ頭で将来有望の半導体メモリ事業を売却して、破綻の危機から一時的に逃れたものの、先行きが見えない状況ではないでしょうか。

 

他方で、シャープは鴻海傘下に入ってどうなるかとおもいきや、見事なV字回復を見せています。何が変わったのか、シャープの社員から少し聞いてみても、現場ではよくわからないように見えます。

 

中川氏はそれをどのようにメスを入れて明らかにしてくれるのか、読みながら取り上げてみたいと思います。

 

まず中川氏は<シャープも東芝も、会社存亡の危機に瀕していた。しかし、シャープは完全復活し、一方の東芝はまだ危機から立ち直れていない。その立場の違いを象徴する出来事が、今回のシャープによる東芝パソコン事業の買収だ。

 このような差はなぜ生まれたのか?>と当然の問題提起をします。

 

シャープと東芝のPCを利用したことがある私にとっては、両社ともこの分野から撤退したのではと思っていましたので、シャープの動きは楽しみです。

 

中川氏はまず、その答えとして、<大きな要因の1つに、危機に陥った時に他社との提携をどのように行うか、の経営判断の違いがあった。国際派、つまりグローバル提携か、国内派、つまり日本連合かの選択である。

 もっと具体的に言えば、「官民出資の投資ファンド」と言いながら実質的に経済産業省が監督する「産業革新機構」とどう付きあったか、の違いだ。>というのです。

 

企業再生で重要なのは提携先の選択であり、その相手の企業戦略が破綻企業を生き返らせるだけの能力とエネルギー・資本があるかではないでしょうか。たしかに技術流出防止が優先するかどうかは重要ですが、官民出資ファンドだと自然船頭多くして・・・になりかねませんね。他方で鴻海はある種独断専行?といったら言い過ぎでしょうが、意思決定や実効が素早くなるのは当然でしょう。

 

しかも東芝の場合、技術流出防止のために、関係企業に議決権行使制限など複雑な仕組みを用意して、余計に果敢な企業戦略を発揮することができないようにしているようです。

 

シャープ買収の際、官民連合は同様の企業を合体して規模の利益を計る案を提供したのに対し、<鴻海の支援案では、鴻海とシャープが同業ではなく補完関係にあることが明確になっている。ひと言で言うと、シャープは研究・開発に強く、鴻海は生産・販売に強い。このため、両社の強みを生かした「国際垂直分業」によりグローバル競争に展望を持てる。さらに、単なる分業だけでなく、お互いの長所を生かし共同で価値創造する「共創」が期待できる。>

 

水平的統合か、垂直的統合かといった、昔習ったような形式的な問題だけではないと思いますが、それにしても要はいかに機能させるかが問われたはずです。

 

そして<今回シャープが東芝のパソコン事業を買収した理由は、シャープと鴻海の「国際垂直分業」と「共創」により、パソコン市場のグローバル競争でも十分な勝算があると判断したからに他ならない。>ほんとに大丈夫かはこれからでしょう。

 

ただ、<かつてシャープは、「メビウス」ブランドでパソコン事業を展開していたが、2010年に撤退している。この時はグローバル企業とのコスト競争に勝てなかったからだ。>ま、ガラパゴスの一つだったのでしょうね。<東芝のブランド「ダイナブック」は、かつてはノートブックPCでは世界トップに立っていたブランドである。>でも現在は赤字状態ですね。

 

はっきりした方向性は私にはわかりませんが、中川氏は<シャープは今でもパソコンの開発技術を有している。さらに鴻海は、今や「世界のサーバの過半が鴻海製」と言われるほどの規模のメリットを生かし、安価に部材を調達することもできる。また、委託先からのコストダウンの要求に応じることで発展させてきた生産技術に強みを持つので、東芝から引き継ぐ杭州のパソコン工場の管理もお手の物だろう。>

 

中川氏が注目する<「世界のサーバの過半が鴻海製」と言われるほどの規模のメリット>がPC分野にどう働かせることができるのか、液晶テレビと同様にいくのか期待しつつ、見えない世界です。

 

最近のPCの売れ行き、利用度は激減しているのではないかと思います。新たなPCのあり方が問われているように思えるのですが、シャープの開発力に期待するのでしょうか。

 

あるいは鴻海がもつ中国での市場支配力を生かすと言うことでしょうか。

 

液晶テレビの成功について中川氏は<シャープは製造した液晶テレビを、鴻海の販売網をフル活用し、中国市場での販売台数を約400万台と倍増させ、ついに1000万台を達成したのだった。鴻海系の販社が主体となって安値攻勢で売場を確保し、中国メーカーからシェアを奪っていったのだ。>

 

たしかに先進国におけるPC利用度は落ちてきていると思いますが、中国を含む東南アジアなどではまだまだ潜在需要が高いと思われます。そんなところを狙っているのでしょうかね。

 

他にもいろいろ書いているようですが、少々疲れる仕事を終えた後なので、読む元気がなくなってきました。今日はこの辺でおしまい。また明日。