ヴラドの腹にささった剣が、さらに深く鋭くえぐられた。
動脈を傷つけられたらしく、今度はさっきとは比べものにならない量の鮮血が溢れ出す。ニヤリと笑ったツルゴが、油断を見せた。
さっきまで牢屋の角で震えていたラドウが、ゆらりと動いた。
次の瞬間、猛禽類かと見間違う両手の爪がツルゴの後頭部に突き立てられた。ツルゴには何が起こったのかわからない。
「おそれることない。今日より我は、昼はこれまで通りラドウ、夜は『合わせるもの』エリザードと名乗ることにしよう。男の牙で苦しませずに死出の旅路に送ってやろうか。それとも、女の牙で恍惚の中で天国に送り届けてやろうか」
そのセリフは、激痛と恐怖で彼には届いていなかったかもしれない。
いつの間にか全裸になったエリザードの犬歯が、ゆっくりと、だが着実にツルゴの首筋に突き立てられていく。
ズズッ、ズズッ・・・・・・
命の源である血を、最後の一滴まで吸いつくそうとする音であった。いまやエリザードとなったラドウの端正な顔が勝利の美酒に酔っていた。
ふと見ると、足下に虫の息となったヴラドが倒れていた。
「ラドウよ、後を頼む。我が祖国ワラキアの民のため、よき君主となってくれ・・・・・・」
「我は悪魔の力を手に入れました。兄上にはドラゴンの力を差し上げましょう」
まずエリザードは、するどい牙を首筋に突き立てるとヴラドの命の源を吸い出した。次に、自らの右手のかぎ爪を豊かな左の乳房に突き立てた。血が百目蠟燭から垂らされる鑞のようにヴラドの傷口に垂れ始めた。
“ドラクール”一族の血の契りの儀式が、史上初めて行われた瞬間であった。
エリザードの口から、アポロノミカンによって脳内に刻み込まれたセリフが流れ出た。

我が胸より流れ落ちる命の水
この者の体内を駆けめぐらんと欲す!
流れ落ちる命の水
この者に“ドラクール”一族の眷属にふさわしい
魂と身体を与えんことを祈らん!
流れ落ちる命の水
この者に呪いと祝福を与えんと欲す!
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