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(旧:アヴァンの物語の館)ギリシア神話的世界観で人魚ナオミとヴァンパイアのマクミラが魔性たちと戦うファンタジー的SF小説

第三部闘龍孔明篇 第3章-4 神導書アポロノミカン

2018-04-01 00:00:30 | 私が作家・芸術家・芸人

「我ら錬金術師の究極の目標は、『大いなる作業』の貫徹じゃ」
「なんだ、それは?」
「知らぬなら説明してやろう。ほとんどの魔術師は、等価交換の原則で、何かを別のものに変換させることで新たなものを生み出そうとする。無から有を生み出すことは真の奇跡じゃからな。しかし、相反するもの、つまり対立物それぞれの特質を失わずに統一させて、第3のものへ昇華させることこそ、『レビス』と呼ばれる我ら錬金術師の活動の目的なのじゃ。それは2本足で立つ獅子、太陽、火の鳥などに代表される男性原理と、胸から命を流す女、月、ワシ、大地を流れる澄んだ水の源に代表される女性原理の統合じゃ。この段階は、腐敗を表すカラス、瑕焼(かしょう)を表すダチョウ、水銀を表すドラゴン、浸潤を表すペリカン、賢者の石を表す火の鳥という段階を経て、最終的に天使の領域を目指すのじゃ」
「天使の領域とは大層なことだな。だが人間が人間を越えるなどとは、不可能ではないのか」
「錬金術師にとって作業と概念のレベルに差などない。対立を調和させる世界霊魂によって、新たな存在を創り出すのじゃ。『すべてのものは一なるものにおいて一致し、一なるものは二つのものに分割される』と言われている」
「なんだ、その世界霊魂とは?」
「人間界存在のすべては、神を起源とする固有の生命である世界霊魂によって突き動かされている。神が世界霊魂に物質という衣を与えることで、人間界は物質化した世界霊魂の集合体となっている。だからこそ世界に存在するものは外見が異なる姿に見えようとも、その本質はすべて同一なのだ。それゆえ神界と人間界には、本質的な違いなどない」
「人間も、神に等しい存在だと言うのか?」
「人間こそ神に由来する霊魂の完璧な所有者なのだ。だが、人間は、普段は男性原理と女性原理に引き裂かれているため、その真価を発揮することはできぬ。天使がそうであるように、神と同等の能力を発揮するには男性原理と女性原理の融合を必要とするのだ。二つの原理の融合は、人間界においては両性具有者によって象徴される」
「両性具有者」と聞いて、眠っていたはずのラドウが目を見開いた。
 二人はそのことに、まったく気づいていなかった。
 パラケルススが禁断の書について語り出した。
「賢者の石を求めて世界をさすらっていた儂の運命は、神導書を見て以来、すっかり変わってしまった。人間が使える脳の力など1割にも満たない。だがアポロノミカンは、人と神を隔てる敷居をはずしてしまう。アポロノミカンを見たものは、禁断の知識が解放されてもはや人とは呼べぬ存在になってしまう。それがどのような変身か、一人一人違うし、ほとんどは圧倒的な開放された力を受けとめきれずに発狂してしまうのだ。儂はそれ以来、『時を翔るもの』となって時空間を越えて旅を続けておる」
「我にも、その神導書を見ることはできるのか?」
「できる。なぜなら、儂がアポロノミカンを持っているからだ」
「見たい。アポロノミカン。その名には我の心を捕らえて離さぬ何かがある。お主が今まで物語を語って聞かせたのも、今夜のためではなかったのか?」
「よかろう。望むなら不死の肉体と不屈の精神をあたえようではないか。だが、一つだけ聞いておく。お前に人間以外のものになる覚悟はあるか? たとえ、それが自分自身を不幸に導くことになっても?」


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