杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

スリー・ビルボード

2018年06月15日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)

2018年2月1日公開 イギリス 116分

アメリカのミズーリ州の田舎町を貫く道路に並ぶ、3枚の広告看板。そこには、地元警察への批判メッセージが書かれていた。7カ月前に何者かに娘を殺されたミルドレッド(フランシス・マクドーマンド)が、何の進展もない捜査状況に腹を立て、警察署長(ウッディ・ハレルソン)にケンカを売ったのだ。署長を敬愛する部下(サム・ロックウェル)や、町の人々から抗議を受けるも、一歩も引かないミルドレッド。町中が彼女を敵視するなか、次々と不穏な事件が起こり始め、事態は予想外の方向へと向かい始める……。(公式HPより)

 

2017年・第74回ベネチア国際映画祭・脚本賞、トロント国際映画祭・観客賞、第90回アカデミー賞・主演女優賞、助演男優賞受賞と世界的評価を受けた作品です。舞台はアメリカなのでてっきりハリウッド作品だと思ってましたがイギリス製作なのね 

そんな高評価だった映画なのに劇場で鑑賞しなかった理由は、後味悪そうだと思ってしまったから。でも違った

人間は善と悪に分けられるほど単純じゃないことについて考えさせられる作品でした。賞を獲るにはなるほど理由があるわけですね

冒頭、何年も放置され殆ど剥がれている巨大なビルボードを前に考え込むミルドレッドの姿が。後でわかりますが、彼女の家からこの立看板が見えるんですね

愛娘を無残に殺した犯人が7か月経っても捕まる気配もない、その苛立ちと怒りが彼女を大胆な行動に走らせます。

三枚のボードには娘はレイプされて焼き殺された」「未だに犯人が捕まらない」「どうして、ウィロビー署長?」とのメッセージ。これは強烈です。警察も手をこまねいていたわけじゃなく、残されたDNAと容疑者たちが一致しなかったようですが、遺族にとっては納得できるわけもない。ここに既に深い溝があるわけです。

ウィロビー署長は末期がんで余命宣告されている身で、町の人たち(当然そこにミルドレッドも含まれます)も知っています。その人柄は部下たちからも住民からも慕われていたので、もちろん娘を殺されたことへの同情はあるのですが、ミルドレッドの行為は彼らの神経を逆撫でするものでした。何としても犯人を捕まえて欲しい一心に凝り固まってしまっているミルドレッドは、他の事はもう考えられなくなっているんですね。

署長を慕う部下のディクソンは差別主義者です。(どうやら母親の影響らしい)ミルドレッド憎しの思いが、彼を不当逮捕や脅しという行為に走らせます。後に署長が自殺すると怒りを抑えきれずにレッド(ビルボードを設置した広告会社の社長)に暴行を加え、それを目撃した新署長からクビを宣告されます。怒りの連鎖ですね。

署長はミルドレッドに同情的ですが、広告の設置自体は人格攻撃だと考えていました。やがて自らの死期が近いことを悟って自殺してしまいます。一見、その行為は妻を想って(死の苦しみに付き合わせたくない)のように見えますが、結局自身が死に向かう苦しみから逃れたかっただけな気がしました。 彼は妻の他にミルドレッドやディクソンへも手紙を遺します。ミルドレッドには憎しみだけで生きないで欲しいと、ディクソンには警察官に最も必要なものは愛だと諭します。実はビルボードの維持費も彼が払っていたのです。いや、本当人格者!!でも自殺しちゃったんだよなぁここにも人間の持つ複雑な心の揺れが表現されていました。

あのビルボードが署長の死を早めたと町の人たちはミルドレッドへの嫌がらせを募らせます。ビルボードが燃やされる事件が起き、警察署の仕業と思い込んだミルドレッドは署を放火。偶然、署内で署長の手紙を呼んでいたディクソンが巻き込まれ大火傷を負います。運び込まれた病室には彼が暴行したレッドがいました。優しく気遣ってくれるレッドに謝るディクソン・・このシーンは憎しみは憎しみで返すのではなく、赦すことが癒しであり許しであると気付かせてくれます。

一方、放火の際に彼女のアリバイを証言して助けてくれた小男のジェームズと食事にいった店で、元夫に自分がビルボードに放火したと告げられ動揺したミルドレッドは、ジェームズを心無い態度で傷つけてしまうの。苦しんでいる君を支えたかっただけなのにと立ち去るジェームズを見て、彼女の頑なだった心が少しだけ開いたようです。

改心したディクソンはミルドレッドの娘の事件を本気で調べるうち、犯人と思しき男を見つけ、酷い暴行を受けながらもDNA採取に成功しますが、その男には強力なアリバイがありました。このことを通じてディクソンとミルドレッドは和解します。男がミルドレッドの娘を殺した犯人ではなくても、別の事件を起こしているのは間違いないと、二人は彼を殺しに向かうのです。途中、ミルドレッドは署に放火したのは自分だと告白しますが、ディクソンは「あんた以外誰がいる」と返します。解った上で彼は彼女の「同志」になろうとしているんですね。

本当に殺すつもりゆかと問うディクソンに「道々決めよう」と返すミルドレッド。この会話には希望が見えます。赦すことを知った二人です。きっと・・・

というわけで、後味は決して悪くなく、むしろ痛みからの再生への物語に思えてきました。


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