杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

幸せなひとりぼっち

2017年10月29日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)

2016年12月17日公開 スウェーデン 116分

愛する妻を亡くした孤独な中年男オーヴェ(ロルフ・ラスゴード)。かつて町内の自治会長を務めたこともあり、近所には規律に厳しい人間として知られていた。年齢を重ねてからは気難しさに拍車がかかり、いつしか鼻つまみ者でしかない厄介なおじさんと化していた。地域の治安を守るため、共同住宅地の監視役を自ら買って出ていたのだが、数年前、自治会選挙で落選。今や、誰からも望まれていない見回り日課とする日々を送っているのであった。オーヴェは43年間、鉄道局職員としての仕事を全うしてきたが、突如クビを宣告されてしまう。家に帰れば、今は亡き妻の面影が脳裏をよぎる。孤独に耐え切れなくなった彼は、自宅の天井にロープをかけ、首つり自殺を図る。ところがその時、向かいのテラスハウスへ引っ越してきたパルヴァネ(バハー・パール)一家の騒がしい声がオーヴェの耳に飛び込んでくる。一家の車がオーヴェの家の郵便受けにぶつかってしまい、自殺どころではなくなってしまう。オーヴェは外へ飛び出すと烈火のごとく怒り、挨拶もしないまま代わりに車を駐車場にきれいに車を停め、ぶつぶつ文句を言いながら家に帰る。翌日、迷惑をかけたと思ったパルヴァネが、お詫びのペルシャ料理を届けに来る。オーヴェとパルヴァネ。生き方も考え方も違う二人だったが、この美味しい手料理をきっかけに、思いがけない友情が芽生えていく。頑固な態度は相変わらずだが、近所同士のあたたかい交流に心を溶きほぐされていくオーヴェ。やがて、オーヴェは妻・ソーニャ(イーダ・エングヴォル)との出会い、そして、妻と自分の人生を一変させたある出来事について語り始めたのだった…。(公式HPより)


フレドリック・バックマンの同名小説の映画化で、孤独な老人が隣人一家との触れあいを通して再生していく姿を描いたヒューマンドラマです。オーヴェは頑固爺さんという設定ですが、なんと60歳以下なんですね~~老け過ぎ!!70歳超えてるかと思ったわ。 (そういえば会社側の人間が早期退職って言ってたっけ

昔はこういうオジサン(お爺さん?)が町内に一人はいたなぁ・・というような道徳観溢れる生真面目で融通の利かないキャラです。最愛の妻に先立たれたことでますます頑固さに磨きがかかった感じに見えます。ある日、四十数年務めた会社をクビになって何もかもに嫌気がさしたオーヴェは、自殺してソーニャの待つあの世に行こうとします。ところが、そのたびに邪魔が入るのこの展開だけみれば立派にコメディです。

首吊りをしようとすれば、パルヴァネ一家の騒音に邪魔され、排ガス自殺を図れば、パルヴァネに病院への送迎を頼まれ、駅のホームで飛び込もうとすれば、意識を失って倒れこんだ人を救うはめになり、猟銃を喉元に当てればゲイをカミングアウトした少年に一夜の宿を貸すことになり・・・もう少しというところでことごとく彼の計画は頓挫するのです。おまけに追い出そうとしていた捨て猫の面倒まで引き受けることに 「老人と猫」は「子供と猫」以上に相性の良い組み合わせだね。それにしてもこの猫ちゃん、野良には見えない立派な毛並みだこと

オーヴェの過去の記憶の回想を挟みつつお話は進みます。7歳で母を亡くし、厳格な父に勤勉さと道徳観を学んで育った彼の人生は決して平坦なものではありませんでした。ソーニャと出会い、結婚して幸せな生活も束の間、悲劇が彼らを襲います。それでも挫けずソーニャと共に過ごした歳月は何よりかけがえのない幸せな日々だったのですね。 ソーニャの墓前で語りかける姿は彼の愛情の深さを端的に表していました。

パルヴァネは邪険にされながらも、オーヴェのことを気にかけ、娘たちの子守を頼んだり、運転を教えて貰ったりします。(路上教習中に後続車にクラクションを鳴らされパニくる彼女にオーヴェは「イランから戦争を超えてやってきてダメ男と結婚して三人目を産もうとしてる君が運転ごとき何を怖がることがある」とハッパをかけるシーンはちょっと感動!オーヴェを見直した瞬間でした やがてオーヴェも彼女に心を開いていきます。 

頑固な偏屈爺の印象はやがて、愛すべき老人に変わっていきます。パルヴァネ一家や、自治会長の座を争った元親友のルネやその妻、隣人、ソーニャの元教え子といった周囲の人々が常にオーヴェと関わっています。彼は決して孤独な老人ではないのです。

オーヴェとルネは親友でしたが、車の趣味と子供のことがきっかけで疎遠になっていました。(サーブという車種が一番だと思っているオーヴェにはボルボやアウディ派のルネが我慢ならなかったらしい。)でも口では悪態をつきながらも心中ではルネのことを気にかけています。ルネは難病で施設に入れるよう福祉課?の「白シャツ」に強要されています。介護の負担を思えば良いことに見えますが、実際は施設に入れることで国から補助金を搾取しようとしている悪徳職員であることが後に暴露されます。オーヴェにとって、役人=白シャツは困っている者を救うどころか突き放し、さらには利用しようとする憎むべき相手なのです。福祉国家スウェーデンの現実の問題点が垣間見られる話です。 ソーニャがバスの転落事故で障害を負い、教師の道が閉ざされそうになった時にも役所は動いてくれなかったことも回想シーンで明かされていました。

自殺はことごとく失敗したオーヴェですが、心臓に持病があり、それが原因である朝目覚めぬ人になります。彼の遺言に従って行われた葬儀には大勢の人が参列しています。遺言の中身?「私を認めてくれた人達だけで葬儀を」です。その中には愛犬のことでいつもオーヴェに怒鳴られていた女性の姿もありました。なんのかんのと煩かったけど、それだけ地域を愛した人だということを皆感じていたということでしょう。その意味でも彼はひとりぼっちなんかじゃなかったんだね。


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