杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

騙し絵の牙

2021年03月26日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)

2021年3月26日公開 113分 G

大手出版社「薫風社」に激震走る!かねてからの出版不況に加えて創業一族の社長が急逝、次期社長を巡って権力争いが勃発。専務・東松(佐藤浩市)が進める大改革で、お荷物雑誌「トリニティ」の変わり者編集長・速水(大泉洋)は、無理難題を押し付けられ廃刊のピンチに立たされる…。速水は、新人編集者・高野(松岡茉優)と共に、イケメン作家、大御所作家、人気モデルを軽妙なトークで口説きながら、ライバル誌、同僚、会社上層部など次々と現れるクセモノたちとスリリングな攻防を繰り広げていく。嘘、裏切り、リーク、告発――クセモノたちの陰謀が渦巻く中、速水の生き残りをかけた“大逆転”の奇策とは!?崖っぷち出版社を舞台に繰り広げられる、仁義なき騙し合いバトル。逆転に次ぐ逆転劇!どんでん返しのラスト!最後に笑うのは誰だ?!(公式HPより)

 

作家の塩田武士が大泉洋をイメージして主人公を「あてがき」した小説を、大泉の主演で映画化したそうです。出版業界を舞台に、廃刊の危機に立たされた雑誌編集長が、裏切りや陰謀が渦巻く中、起死回生のために大胆な奇策に打って出る姿が描かれます。監督は「紙の月」「桐島、部活やめるってよ」の吉田大八監督。外資ファンド代表役で斎藤工もちょっとだけ登場。他に小林聡美が文芸評論家役を演じていました。

出版不況の波にもまれる業界の実情を覗き見ているような感覚に陥りました。大泉演じる速水が主人公の筈ですが、終わってみれば高野のひとり勝ちなような

薫風社の看板雑誌である『小説薫風』は文芸畑の王道であることにプライドを持っています。作家生活40周年を迎えた大御所ミステリー作家・二階堂大作(國村隼)が落ち目であることは誰の目にも明らかなのですが、彼の権威と連載に頼りきっている編集部は作品に口を出すことができません。ところが編集部の新人編集者の高野が、速水の巧みな誘導に乗せられて彼女なりの熱い正直な感想を口にして二階堂を怒らせてしまいます。責任を取らされる形で他部署に異動となった高野を速水が「トリニティ」に誘い、二階堂にも自分の雑誌で書くよう画策するのです。

高野が「小説薫風」新人賞に応募してきた新人作家・八代聖の作品「バイバイするとちょっと死ぬ」(なんちゅう題名だ!)を高く評価するも、保守的な編集部の方針と合わず落選します。ふとしたことからこの作品を知った速水は、彼(宮沢氷魚)を探し出してきて「トリニティ」で連載することに。同時にカリスマモデルとして活躍する城島咲(池田エライザ)の作家としての才能を見抜いた速水が、彼女に声をかけます。実は彼女は銃マニアだったという

速水は八代と咲をその容姿からも売り出そうとしますが、咲がストーカーに襲われた際に自作の銃で対抗したことで逮捕されてしまい、八代もモデルのように扱われ世間の注目を集めることに不満を持つようになります。

事件により咲の表紙を差し替えるかが社内で論争されますが、速水はこの事件を逆手にとりGOを勝ち取り、結果売り上げを伸ばします。本作では作家の犯した罪は罪として、その作品は人々のもとに届けられるべきであるという明確な結論を出していました。

「小説薫風」の編集長(木村佳乃)と組んだ常務の宮藤(佐野史郎)は、八代の作品を「トリニティ」から横取りして「小説薫風」で連載すると発表します。ところがその発表会見で、八代が自分が書いたのではないと爆弾発言をします。このことで、宮藤は権力争いから退くことに。これも速水の計画の一つなんですね

実は、「バイバイするとちょっと死ぬ」を書いたのは、ベストセラー作家の神座詠一(リリー・フランキー)で、1997年に薫風社から不本意な形で自作を出版されたことで消息を絶っていたのですが、まだ自分の作品が通用するか腕試しのつもりで「八代聖」のペンネームで、新作を新人賞に送っていたのです。原稿が神座のものだと見抜いた速水が、若くてイケメンの「八代聖」をでっち上げて本人をおびき出したというのが真相でした。

速水は東松(売上のためにがむしゃらに突っ走る彼を「機関車トーマツ」と揶揄しているのも一興)の下で働いているように見えましたが、彼の狙いは東松の「KIBA計画」(製造物流センター建設プロジェクトで、薫風社のコンテンツを仲介業者を介さず製造販売する複合施設)を 潰すことで、これは前社長の息子・伊庭(中村倫也)が仕組んだ計画だったのです。「KIBA計画」自体は前社長も賛同していましたが、時が経ち今のニーズに合わなくなっていたのです。KIBAの名前の由来には先代社長親子の苗字と名前(伊庭喜之助と伊庭惟高)「K.IBA」が隠されていました。

薫風社存続の新たな手段として、惟高はアメリカの大手通販サイトと交渉を進めていて、将来的にデジタル化や世界進出をしようと考えていました。速水はそのための社内改革の先鋒でもあったわけです。

目的のために多くの人を騙し、裏切ってきた速水を間近で見てきた高野ですが、紙媒体からデジタル媒体に生き残りを賭ける速水の考えとは別に、古き良き書店を守りたいと考える彼女は薫風社を退社して実家の書店を継ぎます。彼女は、自らが原稿を発掘して信頼関係を築いてきた神座詠一をくどいて書店で本の編集・出版を始めます。手伝いには元「小説薫風」の編集長もいます。その本の値段は一冊3万円!有名作家というブランドを生かした、新たな高級志向の商法は大当たりします。まさに速水へ牙を剥いたと言えます。 これを知った速水は悔しがりますがどこか嬉し気でもありました。

本作では、出版業界が現在置かれている苦境(デジタル媒体の台頭による紙の本と電子書籍のシェア争い)が語られていて、両者を速水と高野が体現しています。結末はそれぞれが活路を見出していく内容でしたが、私自身は高野派かな~~。

確かにデジタル化は保管場所も取らず、いつでもどこでも読めて便利ではあるけれど、大好きな物語を手元に置く楽しさや紙ならではの良さも捨てがたいと思うのです。

それとは別に、紙の本を購入するのは書店ではなく専ら通販サイトだったりする現実があります。消費者にとっての便利さが書店をどんどん追い詰め、閉店に追い込んでいるのもまた事実。異業種とのコラボなど生き残りの道を模索することが必須の現状です。

娯楽作でありながら、本好きには色々考えさせられる物語です。

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