2024年10月4日公開 インド 124分 G
2001年、とあるインドの村。プール(ニターンシー・ゴーエル )とジャヤ(プラティバー・ランター )、結婚式を終えた2人の花嫁は同じ満員列車に乗って花婿の家に向かっていた。だが、たまたま同じ赤いベールで顔が隠れていたことから、プールの夫のディーパク(スパルシュ・シュリーワースタウ )がかん違いしてジャヤを連れ帰ってしまう。置き去りにされたプールは内気で従順、何事もディーパクに頼りきりで彼の家の住所も電話番号もわからない。そんな彼女をみて、屋台の女主人マンジュ(チャヤ・カダム)が手を差し伸べる。一方、聡明で強情なジャヤはディーパクの家族に、なぜか夫と自分の名前を偽って告げる。果たして、2人の予想外の人生のゆくえは──?(公式HPより)
『きっと、うまくいく』のアミール・カーンが製作を手がけ、監督は彼の元妻のキラン・ラオ。取り違えられた2人の花嫁の思いがけない人生の行方を描いたヒューマンドラマです。
今から四半世紀前の設定とはいえ、花嫁の取り違えというあり得ない筈の出来事がインドの結婚事情を知れば「あり得る」と感じてしまいます。基本的にはスパイスの効いたコメディです。
さて、インドの結婚は現代でも家同士で決めることが一般的で、殆どの人が親の決めた相手と結婚するそうです。結婚の日取りも、ヒンドゥー教徒だとパンディト(僧侶か占星術師)に相談して決めるんだとか。だから大安吉日には何組もの新婚さんが誕生するわけですね。花嫁の持参金である「持参財」には、婚家への贈り物(品物等)と、花嫁の個人財産として持たせる現金や金目の物の2種類があり、貴金属の装飾品(腕輪、指輪など)は万が一の時の妻の貯金のようなものらしい。
花嫁がベールをすっぽり被るのは「パルダー」という習慣に従ったもので、家から外へ出る時や来客時、また目上の人と接する時に敬意を払う意味を込めて視線を合わせないようにするため。
という基本事項を抑えた上で、新婚カップルで混みあった満員列車に乗り合わせたことから悲劇(喜劇?)の幕が開きます。
インドの列車事情は終戦直後の日本の鈍行列車並みに混んでいるようで、もちろん指定席なんぞ見当たらない。乗降の入れ替わりも減げしく、いつのまにか離れてしまったディーパクとプールですが、目深にベールを被っているので互いに気付きません。居眠りをしていたディーパクは降車駅に泊まったことに気付いて慌てて隣の女性を促して降りると、最終バスに乗り村に帰ってきます。仲間や家族に迎えられ祝福を受けるディーパクですが花嫁の様子が変。ベールを上げると全くの別人です。プシュパと名乗った彼女を放り出すわけにもいかず家に泊めながら、ディーパクは仲間たちと警察に相談に行きます。
マノハル警部補 (ラヴィ・キシャン)は平然と賄賂を受け取る人物で、本気でプールを探してくれるのか不安を覚えてしまいます。
一方、花婿に起こされて駅に降りたものの、ディーパクの姿がありません。見知らぬ男に「ジャヤ」と呼びかけられ、怖くなって逃げ出します。トイレで一夜を過ごし駅を彷徨うプールを見兼ねて声をかけたのはマンジュの屋台で働く少年です。駅長さんに嫁ぎ先の村や自分の家を尋ねられたプールでしたが、夫の名前しか答えられません。何しろそれまで一人で村を出たこともないし、村には駅もなかったのです。(それにしても知らなすぎだろ!と一応突っ込んでみる)警察は恐いから嫌と怯えるプールに駅長さんもお手上げです。
プールは慣習に従い夫に従順な妻になるためのしつけを受けてきた女性で、そのことに疑問を抱いたこともありませんでした。しかし駅に置き去りという状況になり、マンジュに拾われて屋台で働くようになると彼女の影響もあって自ら道を切り拓こうと変っていきます。ベールを脱ぎ顔を出して料理を作って接客するプールはとても生き生きとしています。
プシュパは実はジャヤです。何故偽名を使うのか?寺院に行くと言って何時間も戻って来なかったり、彼女の行動はどこか不自然で怪しく映ります。
マノハル警部補はジャヤの夫から出された捜索願の情報からプシュパを疑い尾行を始めます。その様子がコミカルに描かれ笑いを誘います。顔写真を撮ろうと四苦八苦したのに全く撮れてなかったりね😁
ジャヤはある目的のため、夫から隠れて時間を稼ごうとしていたのですが、警部補にジャヤであることを見抜かれ逮捕されてしまいます。
偽名を使い自分を騙していたのかとショックを受けるディーパクでしたが、ジャヤがプールを探すために動いていたと知ると彼女を助けようとします。
ジャヤは向上心が強く大学で学ぼうとしていましたが、母親が強引に結婚を決め、仕方なく従おうとしたのでしたが、取り違えが起こったことをチャンスと考え行動していました。彼女の夫となった男は裕福だけど妻を所有物と見なす粗暴な男で、子が出来なかった前妻を焼き殺したという噂もありました。
彼女の訴えを聞いたマノハル警部補でしたが、迎えに来た夫に彼女を引き渡します。え~~!やっぱ嫌な奴!と思ったら・・・粋な裁定をしてくれるじゃないですか😃 警部補の印象が180度変わる瞬間です。
ジャヤが作ったプールの捜索願いのポスターが功を奏してプールは無事にディーパクと再会します。この二人は親が決めたとはいえ互いに好意を抱いた相思相愛のカップルなのです😍
ジャヤは警部補の計らいで無事夫と別れ大学に進学する道が拓けます。バスに乗るジャヤをディーパクやプール、彼の仲間や家族が総出で見送ります。
予期せぬ出来事を通して全く新しい価値観と可能性を手にした2人の女性の未来に幸あれと拍手を送りたくなりました。
インドの広大な自然や色鮮やかなサリーに美しいジュエリーは目の保養に、パコラ(インド風天ぷら)、サモサ(揚げパイ)、カラカンド(ミルク菓子)といった屋台メシも美味しそうで、インドの魅力が詰まっていました。