杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

夫妻集

2024年04月12日 | 
小野寺 史宜 (著) 

娘が婚約者を連れてきた。他人の分の寿司も遠慮なく口にする、だらしのない男。娘が選んだ人ならば。自分は、心が広く先進的な父親。そう思っていたはずなのに。神保町にある出版社、景談社で働く佐原滝郎は、娘の結婚に心が揺らぐ。「娘が結婚すべきではない」と感じた婚約者は、意外にも滝郎の妻には好印象。妻もあの婚約者のことは気に入らないと思っていたのに、一体なぜ?
積み重ねてきた夫婦生活の中で初めて見えた、自分と妻の間にあるひずみ。もしかして、妻と自分はーー。
社内の三組の夫婦の姿を見ていくうちに、滝郎はある決意を固める。(アマゾン内容紹介より)


4組の夫婦が登場します。

佐原夫妻
娘の彼氏と対面した時の佐原氏の反応は父親としてはごく普通だと思います。
彼が会社で人事部長をしていることを抜きにしても、遅刻して悪びれることもなく、芸人と役者両方の道を目指しているユーチューバーとあっては経済的な不安も感じさせられます。自分が彼の立場だったらやはり受け入れ難く思うだろうな。😔 
でも妻の和香は彼が気に入った様子。どうして??滝郎は混乱し妻との間に初めて溝を感じます。

足立夫妻。
結婚2週間で妻の結麻が転勤となり、東京と名古屋の別居生活になります。思わず結麻に退職を提案した道哉には、無意識にではありますが自分の方が稼ぎも会社の知名度も上という気持ちがありました。それを察した妻との間に微妙な空気が流れます。彼の勤め先の景談社(講談社だよな~😁 )は確かに大手出版社だもんな。互いに熟考し、こどもを作るかどうかも含めての将来に対する明確なビジョンを持つことで二人はこの別居生活を受け入れるんですね。前向きな若夫婦という印象です。

船戸夫妻
編集部で働く美奈は、8歳年下の幹人と再婚します。バツイチ・年上を気にすることなく連れ子の太志を本当の自分の子のように可愛がってくれる姿に惹かれたのですが、結婚してみると気になることも出てきます。
偶然会った元カノに誘われもんじゃ焼きを食べに行ったことを屈託なく話したり、体調の悪い太志をひとり残してバンドの練習に出かけてしまったり・・美奈の気持ちや息子の体調急変の可能性を考えない浅はかさ・・・根は優しくていい人だけど、まだ大人になりきれていない夫。それでも二人でならカバーしながらやっていけると思う美奈でした。8歳の年の差は大きいな~😓 

江沢夫妻
夫の厚久から植木職人になるため会社を辞めて沖縄で造園業を営む学生時代の先輩の下へ行く。だから離婚したいと突然言われた梓乃。驚き非難し翻意を促しますが、彼の決意は変わりません。そもそもどうして離婚?と思ったら、修業中は無給で夫としての責任を果たすことができないかららしい。😩 
梓乃は仕事(出版社勤務)にやりがいを感じていて、収入も安定しているので一緒に沖縄に行くという考えはありません。東京で生まれ育った自分が沖縄で暮らすという選択肢もありません。話し合いの末離婚が決まりますが、子供たち(中3の亮吾と小6の理子)に話すと二人とも(3年間だけ)沖縄に行くと言い出します。両親の離婚を冷静に受け止め、新しい環境を自ら選択する子供たちに寂しさと誇らしさを感じる梓乃・・・って、住む家は先輩の持つ空家をタダで借りられるとしても生活費その他もろもろ大丈夫なのか?
ぽっかり空いた自分時間を前向きにとらえた梓乃は、幹人のバンドで高校時代にやっていたベースを始めるのです。

美奈が担当する作家の小倉琴恵 が各章に登場し、出版社で働く男女との関わりが次第にわかってきます。

滝郎は、同じ部で働いたことのある美奈や梓乃、彼が面接をした道哉との会話や、昔彼が面接で落とした小倉琴恵と彼女の作品の参考のための面談を通して、自分たち夫婦の関係や娘の婚約者に対する見方を考え直します。3組それぞれの夫婦の前向きな考え方に感化されてもいるのかな。

断章では、『夫妻集』を執筆する小倉琴恵自身のことが書かれます。
かつて不倫相手の妻とサシで飲んで意気投合したことのある彼女は再び連絡してきた男をきっぱり退けます。五音でという表現がなんかイイ!✌
彼女の視点を通して出版社の内部事情が示され、人事部長である佐原の就活生への評価の基準など、なかなか興味深い話を知ることができました。物語はフィクションだけど、ほぼリアルなんじゃなかろうか😁 



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花水木: 東京湾臨海署安積班

2024年04月08日 | 
今野敏(著) ハルキ文庫

五月も終わりかけた東京湾臨海署に喧嘩の被害届が出された。ささいな喧嘩でなぜ、被害届が?疑問を抱く安積班の須田は、事件に不審な臭いを感じ取る。だが、その頃、臨海署管内に殺人事件が発生。殺された被害者からは複数に暴行を受けたらしい痕跡が…。殺人事件の捜査に乗り出す安積たちだったが、須田は、傷害事件を追い続けることに―。それぞれの事件の意外な真相とは!?(「花水木」より)五編を収録した新ベイエリア分署・安積班シリーズ、待望の文庫化。(内容説明より)


この文庫本が出版されたのは2009年(単行本は2007年)ということで、まだお台場が開発途上の頃の話なんですね。TVドラマで佐々木蔵之介が安積を演じた「ハンチョウ」を何作か観た記憶があるのですが、原作を読んだのは初めてかも。

お台場に新設された東京湾臨海署(通称ベイエリア分署)を舞台に安積警部補と部下たちが活躍する警察小説になっています。

安積警部補は刑事課強行犯係係長で、別れた妻との間に娘が一人います。
彼の部下は4人登場します。

須田部長刑事は小太りで動作も緩慢でおよそ刑事らしくない容貌ですが、頭の回転は速く、独特の視点を持つそのひらめきが事件解決に一役買っていて、安積のひそかなお気に入り。

村雨部長刑事は真面目で規律正しい最も刑事らしい刑事なのですが、須田と正反対に黙々と仕事をこなす優等生タイプのため、安積は性格的にソリが合わないと思っています。

黒木巡査は須田の相棒で、精悍な体つきをしていて寡黙な性格です。二人の相性は良くて互いに信頼しています。

一番若い桜井巡査は村雨と組んでいて、その関係はまさに上司と部下に見えますが、案外本人たちは気が合っているようです。

安積の親友?悪友?の速水警部補は、本庁直属の交通機動隊小隊長で部下たちからヘッドと呼ばれ慕われています。

安積は率先して陣頭指揮するタイプではなく、部下に任せながら要所では自分が判断する感じかな。2組の部下たちそれぞれを信頼しているからこそで良いチーム(班)になっています。😀 事件の度に速水がタイミングよく登場し安積に絡んでくるのも楽しい。

本作は5つの小編から成っていますが、特に推理力は必要なく軽く読める感じでした😁  

・花水木
一見関連の無さそうな喧嘩事件と殺人事件でしたが、須田が「ハナミズキの匂い」という被害者の言葉に感じた違和感がきっかけとなり結びつきます。殺人を隠すためにもう一つの「事件」でアリバイ作りをしようとしたのね。

・入梅
コンビニ強盗事件が発生して捜査にあたる中、須田と村雨がそれぞれ感じた引っかかりを元に犯人確保に乗り出す安積班。
上司から村雨に昇進試験の打診を依頼された安積が何とかタイミングを掴んで切り出すのですが、あっさり断られます。それは今の安積班を気に入っているということなんですよね。

・薔薇の色
馴染みのバーに揃った安積・村雨・須田と速水。一同が揃うなんてめったにない。そこで速水が店内に飾られている一輪挿しの薔薇の色の意味を知っているかと3人に問います。須田と村雨が推理を披露しますがそれぞれの個性が出ていて面白い。〆はもちろん安積で見事に解いたご褒美はもちろん貴重なウィスキー😋 

・月齢
蒸し暑いフルムーンのお台場で次々起こる事件に駆り出される安積班。刑事事件にはならず地域課に後始末を頼んだまでは良かったが、今度は「狼男」出現の情報に署全体が振り回されることに。須田の冷静な推理を信じた安積の判断で騒動は沈静します。まさに満月は人の感性を狂わす魔力がある?

・聖夜
日曜のクリスマスイブに傷害事件が発生。加害者は逃走し緊配がかかりますが、被害者までも病院からいなくなり双方を探すはめに。病院着の上にシーツを被った被害者は長髪で髭の容貌もあってキリスト降臨のような効果を安積班にもたらします。
事件解決の後、安積は元妻と娘と久しぶりに食事をすることになるようで・・。


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極楽征夷大将軍

2024年03月31日 | 
垣根 涼介 (著) ‎ 文藝春秋(発行)

やる気なし 使命感なし 執着なし
なぜこんな人間が天下を獲れてしまったのか?
動乱前夜、北条家の独裁政権が続いて、鎌倉府の信用は地に堕ちていた。
足利直義は、怠惰な兄・尊氏を常に励まし、幕府の粛清から足利家を守ろうとする。やがて後醍醐天皇から北条家討伐の勅命が下り、一族を挙げて反旗を翻した。一方、足利家の重臣・高師直は倒幕後、朝廷の世が来たことに愕然とする。後醍醐天皇には、武士に政権を委ねるつもりなどなかったのだ。怒り狂う直義と共に、尊氏を抜きにして新生幕府の樹立を画策し始める。
混迷する時代に、尊氏のような意志を欠いた人間が、何度も失脚の窮地に立たされながらも権力の頂点へと登り詰められたのはなぜか?
幕府の祖でありながら、謎に包まれた初代将軍・足利尊氏の秘密を解き明かす歴史群像劇。第169回直木三十五賞受賞作 (アマゾン内容紹介より)


尊氏の実弟・直義と尊氏の家宰の高師直の目線で描かれる尊氏は散々な低評価です。
およそ人の上に立とうという気概などまるでなく、物や人への執着心もない。ただ流されるまま、己の感情のままに動く子供のような人物です。
二人が陰で尊氏を「うすのろ、ぼんくら、極楽殿」と話すのを読んでいると何だか尊氏が可哀そうに思えてきます。

しかし反面、尊氏は情に篤く、万人に広い心で接し、私欲のない人物として描かれています。特筆すべきは実弟の直義が大好きで、普段は周囲に流されるままなのですが、弟の危機と知るやいつもの優柔不断の影もなく即決即断で駆けつけるのです。

直義は妻の彰子ただ一人を生涯愛した誠実実直な男です。頭もよく冷静な判断もでき政治的な能力にも長けていますが、何故か戦下手でことごとく負け続けます。😓 

お家の存亡がかかった大事な戦いの最中に出家すると髷を切った後で、弟の危機を知りざんばら髪で戦場に出ようとした尊氏に、家来も彼を守るために髷を切り落として従う逸話は捧腹絶倒です。髷は武士の誇りそのものであり、それを切り落とすことは恥です。しかもそのざんばら髪の上に兜と被った姿は敵の恰好の標的となる危険があります。なので家来たちは主君を守るために泣く泣く自分の髷を切り落としたわけです。裏返せばそれだけ慕われていたということですね。窮地に駆け付けてきた兄と家臣たちの姿を見て絶句した直義ですが、その目からは涙が溢れます。兄の自分への愛情をひしと感じたからです。😂 

煩雑な政務を嫌って丸投げされたり、気が向かないことに対しては仮病を使って逃げようとしたり、挙句は出家を言い出して直義を困らせまる子供のような兄ですが、何故か戦には勝ち続けます。裏表のない素直な(何も考えていない)性格が周りの武士たちの心を掴んで好かれる尊氏は、その天然のひとたらしと勝機の波に乗る天才的な戦上手だったのです。😲 

逆に物事に対して几帳面で融通の利かない直義は、少しでも味方に損害が出れば腰が引けて結果的に負け戦を重ねます。師直も同様です。
しかし彼らは絶対的なピンチの際に身を捨て死に物狂いで戦ったことで自分たちの欠点に気付き、それ以後は勝ち戦となるんですね。

直義と師直が手を取り合って尊氏を支え、念願の幕府が開かれたまでは良いのですが、その後はお決まりのお家騒動となります。
鎌倉幕府の例に倣うがごとく、執権の地位を狙った師直と直義の間で争いが起きるんですね。😨 

鎌倉幕府を倒すために担ぎ出した後醍醐天皇でしたが、実は彼に上手く利用されたことに師直たちは気付きます。この天皇の飽くなき権力欲には辟易させられます。 護良親王 も同様ですが倒れても踏まれても雑草のように蘇る執着心は直義でなくても怖気がします。😩 

武士は領地という褒美(恩賞)があるからこそ命を賭して戦うのですが、戦いが終わってみれば領地は公家に手厚く武士に不利な沙汰が乱発されます。
後醍醐天皇を崇めている尊氏は、直義や師直の苦情も受け流すだけです。

武士たちの不満が募る中で、直義と師直の考えの違いが生じてきます。
これまで自分たちを支えてくれた武士を優遇する師直と公平であろうとする直義の亀裂が深まっていくんですね。互いに相手を認めている二人だからこそ、その諍いの行き先も見えて深みにはまっていくのです。

後醍醐天皇問題に決着がついた後、尊氏の実子・直冬の存在が二人の仲を決定的にします。尊氏が一度だけ情を交わした女性が生んだのが直冬ですが、尊氏は決して実子と認めようとしませんでした。兄とは容姿も性格も似ていない直冬でしたが、妻から自分の子供の頃とそっくりだと言われた直義は確かに足利の血を引いていると確信して自分の養子にします。
尊氏と正妻の間に生まれた義詮より先に生まれ、利発で武士としての素質の見られる直冬がゆくゆくは将軍家の跡目争いの種になることを危惧した師直ですが、その本心は高家が義詮を傀儡とした執権となり栄える事のように見えました。
両者の戦いは直義が勝ち、師直は彼に恨みを持つ者に殺されてしまいます。

師直側だった義詮は直義を嫌い、直義もまた政治に倦み仏門に入ることを望みますが、尊氏は弟を手放そうとせず都にとどまり続けることになります。
しかし周囲の者が彼を旗印に担ぎ上げ、またまた戦が始まるんですね。
朝敵とされた直義は今度は南朝(故後醍醐派)を担いで応戦します。兄弟とも直接刃を交えることをせず、直義が負けた後も尊氏は彼の助命に奔走します。

極楽将軍と揶揄されていた尊氏ですが、師直を喪い、弟まで離れたことで自らの意志で物事を決めることを余儀なくされ人が変わったように文武の才を開花させていくのです。それなら最初からそうしろよ!と直義と師直は思ったかもね😛 

結局直義は深酒が祟って病死します。朝敵として刑を受けずに済んだことできっと兄は悲しみの中にも安堵を覚えたかもしれないな~。

読み始めた頃と読み終わった後では尊氏の評価は微妙に高くなりました😁 

楠木正成や新田義貞、赤松円心といった武将も登場し戦場での彼らの戦略家としての能力の高さにも感心しきりです。

これ、大河ドラマにしたら面白いんじゃないかな~~😀 




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メゾン・ド・ポリス6 退職刑事と引退大泥棒

2024年03月23日 | 
加藤 実秋 (著) 角川文庫

”昭和の義賊”とおじさん軍団がタッグを組む!? シリーズ感動の完結!
柳町北署管内で少女の誘拐事件が発生。少女の祖父・然治は、かつて世間をにぎわせた窃盗団「忍び団」のリーダーで、誘拐は過去の窃盗と深い関りがあった。メゾンの面々は、少女を探す然治に協力するが……。(内容紹介より)


完結編となる今作は丸々一つの事件の捜査となります。
成長したひよりを突き放す迫田や夏目ですが、その心中はまさに親心。そして夏目にはそれ以上の感情が芽生えていて、それはひよりも同様でした。😀 
バーのマスターの草介と夏目がひよりを巡って密かな駆け引きがあったり、ナナちゃんの意外な一面も見られます。

小川然治 は共働きの息子夫婦に代わって孫の紬ちゃんの面倒を見ていましたが、寄り道せずまっすぐ帰宅する孫が今日に限って帰って来ないと警察に通報したことで事件が発覚します。

指揮本部の設置とマスコミと報道協定が締結される中、連れ去り現場から2kmしか離れていないビルで死体が発見されます。福沢猛という指定暴力団早戸組の配下組織の構成員で前科がある殺し屋でした。福沢のスマホの通話履歴には然治の番号があり、関与が疑われる中、本人から「襲われて仕方なく殺した」とひよりに連絡が入ります。

犯人から紬の父親に届いた動画を検証して送信者の米山新太を割り出し、住居に向かったひよりたちは、60前後の男の刺殺体を見つけます。鑑識を呼ぼうと外に出たひよりは然治の姿を見つけて後を追いビルの屋上に追い詰めますが、彼は逃げようとして転落しそうになり、助けようとしたひよりも力尽きそうになったとき・・・メゾンのメンバーが現れるんですね。😁 

容疑者である然治をメゾンに匿い、おじさんたちは独自に捜査を始めます。それ、犯人隠匿罪になるぞ💦
本庁の捜査一課に引き抜かれることが決まったひよりはおじさんたちから自分たちに関わるなと釘を刺され基本的に別行動です。

然治は昔世間を騒がせた「忍び団」のお頭で、殺されていたのはメンバーの一人だった服部とわかります。残りのメンバーを探す中で柳生は亡くなっていましたが、風魔と千代女が見つかります。忍び団は最後の仕事で入った宝石店で警備員を死なせてしまったことで何も盗らずに逃げそのまま解散していましたが、その時に盗まれたと世間に発表されていたブラックシャドウという高価な宝石を然治が隠し持っていると思った犯人が彼の孫を誘拐して宝石を手に入れようとしていたのです。

若い頃は美しかったという千代女の激変した容姿とスタイルを見て女性好きの藤堂はため息をつきますが、一緒に行動するうちに彼女に惹かれていきます。でも千代女は離婚した風魔のことがまだ好きなのね。事件解決後に藤堂は告白前に振られる形になりますが、彼の二番目の元妻の沙耶とよりが戻りそうな結末でした😁 

実は柳生は人生上手くいかずに自殺していたのですが、彼の息子が遺書に書かれていた(お頭が宝石を盗んでいたのではないかと疑う)内容を信じたことから事件が始まっていました。借金で首が回らなくなった息子が暴力団に情報を流し誘拐が計画されたのです。

犯人に要求された宝石は当然手元にないため、おじさんたちと忍び団は宝石店を継いだ若社長が隠し持っていると考えて、自宅に盗みに入ります。元副総監の伊達さんまで加わって良いのか???れっきとした犯罪ですけど💦
異常に防犯設備の厳重な家の窓ガラスを外して室内に入り苦労して金庫を開けますが、そこにはゲームカードしか入っていません。唖然とする彼らの前に、当時から務めていた宝石店の女性店員が現れ、自分が隠し持っていたと告白します。この宝石が誘拐の発端になっていると知って責任を感じたのね。

ブラックシャドウを持って犯人と人質交換に臨む然治と夏目たちでしたが、柳生の息子は父親の復讐だと言って然治の死を望みます。然治は建物の屋上から飛び降りますが、実はトリックがありました。
然治を庇った夏目が至近距離から撃たれますが、これも伊達が用意させていた偽物の宝石を左胸のポケットに入れていたため無事でした。ダイヤじゃなくて炭化ホウ素だったからで、もしダイヤだったら砕けてたらしい・・・トリビア~!紬ちゃんも救出されて事件は解決します。

春。捜査一課に移動になったひよりは早速事件現場へ。
遺体の状況から的確に見立てをしたひよりの前に現れたのは・・・メゾンのおじさんたち。独り立ちした筈なのにまたまた彼女はおじさんたちと捜査をすることになりそうです。😁

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メゾン・ド・ポリス5 退職刑事と迷宮入り事件

2024年03月12日 | 
加藤 実秋 (著) 角川文庫

退職刑事のシェアハウス誕生秘話が明かされる!? シリーズ第5弾!
老眼、腰痛、高血圧。でも捜査の腕は超一流のおじさん軍団×新人女性刑事が追うのは――12年前の<未解決>名医殺害事件!
12年前、町の皆に愛された近江医師が殺害された。
だが未解決のまま迷宮入り。当時、現役の刑事だった迫田痛恨の事件に、新たな被疑者が浮上した。新人刑事の牧野ひよりは、未解決事件を扱う警視庁特命班の玉置と共にメゾンを訪れるが、実はオーナーの伊達と玉置には<退職刑事のシェアハウス>誕生に深く関わる因縁があった。おじさん軍団は町で起こる様々な事件を解決しつつ、未解決事件の真相を追うが――。(内容紹介より)

第一話 ストーカーで開幕!迷宮入り事件を追うおじさん軍団
花見をしていたおじさん軍団のもとに、迫田が関わった未解決事件の新たな情報が飛び込みます。殺された近江医師と最後に会った橘さんという女性に話しを聞きに行った夏目・日和・迫田は、彼女がストーカーに悩んでいると知り解決に一役買うことになります。職場の同僚が犯人でしたが、社長の不正も発覚する後味の悪い結果に。解決後に橘さんの妹から、近江医師殺害時に犯人と疑われた女性の息子が漏らした言葉を聞かされて、再びその女性への疑いが浮上します。

第二話 犯人は縄文人!? 藤堂の科学推理が冴える
ひったくり事件が起きて犯人探しが始まります。
現場に落ちていた土から容疑者が浮上しますが、実は被害女性が恋人の気持ちを繋ぎとめるためについた狂言だったというオチです。彼女を聴取する中でひよりはおじさんたちと別の視点から狂言を見破っていました。彼女が入院している病院には近江医院で看護師をしていた金子さんが勤務していて、食事に誘った藤堂は事件に関する重要な情報を聞きます。

第三話 消えたフルートとシェアハウス誕生の理由
町内会のイベントで講演を頼まれた伊達さんは何故か頑なに拒否します。そこには彼がシャアハウスを作ったきっかけになる出来事が関わっていました。特命班の玉置と伊達さんの間の訳あり感もまだ解消までは至りません。
イベント当日、演奏者のフルートが盗まれる事件を解決したのは伊達&夏目です。動機が執行役員間の確執というのは大人げないけれど、世代格差を提起しているようにも感じました。

第四話 絡み合う謎 おじさん軍団が辿り着いた真相は!?
未解決事件で犯人と疑われた児玉美月が事件当日の行動について新たな証言をします。一方、窃盗の疑いをかけられたホームレスと関わったおじさんたちが捜査を始めると、意外な犯人に辿り着きます。長年苛めを受け続けてきた青年が仕返しをしようと計画したことが無関係のホームレスを巻き込んでしまった、まさに「普通が一番怖い」結果となりました。(そこにヒントを得た夏目がリサイクルショップの中でアイロンがけをする場面はやり過ぎな気もするけどね。😁
美月が本当に隠したかった真実は近江医師殺害の犯人と疑われても守りたかった息子の素行だったという。突き詰めてしまう性格は母と子双方似ていて、だからこそ息苦しかったという息子の言い分もわからないではないけれど、やったことは許されないのよね。😞 

未解決事件を軸とした四話に脇道エピソードを加えた感じですが、ひよりの成長がより感じられました。

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メゾン・ド・ポリス4 殺人容疑の退職刑事

2024年03月12日 | 
加藤 実秋 (著)  角川文庫
 
柳町北署管内にある神社の石段下で、若い男性の遺体が発見された。容疑者として勾留されたのは、前日に被害者と口論となっていた中年男性。それはなんと、退職警官専用のシェアハウス「メゾン・ド・ポリス」に住む元刑事・迫田だった!新人刑事の牧野ひよりとメゾンの住人は、現場で聞こえたという奇妙な音に着目し独自捜査を進めるが・・・。元捜査一課・夏目の封印された生い立ちも明らかになる、緊迫のシリーズ第4弾!(内容紹介より)

第一話 誘拐犯は宇宙人? 不思議少年&おじさん軍団
目の前でパパが宇宙人に連れ去られた。バロンを散歩させていた夏目が小3の龍生の訴えに事件の匂いを嗅ぎつけます。メゾンの面々が少年を連れて父親の職場であるレストランに行くと父親は普通に出勤していましたが、そこでの会話から藤堂が食品偽装を見破ります。少年が宇宙人と思ったのはレストランの元従業員で、彼の容姿と服装が連想させたものだったというオチです。

第二話 院内捜査!?ネットバッシングの意外な真相
メゾンの一行が人間ドックを受けています。案内をしてくれた職員の悩んでいる様子に気が付いて訳を尋ねると、病院と院長や孫である自分へのネットでの中傷が続いていると打ち明けられます。伊達さんは院長とも懇意ということで、メンバーは張り切って犯人探しを始めます。疑わしい患者が浮上し、ひよりも巻き込んで聞き取りをしますが、真犯人は・・・
患者への対応でストレスを抱えた挙句の動機でしたが、ネットで中傷を続けるうち快感を覚えて止められなくなってしまったというのが怖かった😔 

第三話 独居老人を狙う罠 惣一郎が囮捜査に挑む
ひよりの行きつけのバーの草介から頼まれた事件。
亡くなった父親の持ち物が消えているという相談を受け捜査する中で、金銭に余裕のある独居老人を狙った悪質な手口に辿り着きます。
スキルマーケットの「ココロひろば」のメンバーは、老人の話し相手をするという表向きの顔の裏で言葉巧みに彼らに金品を貰うよう仕向けていました。脅したり騙したりしているわけではないので犯罪にはならないとうそぶく主催者に伊達さんの一言が効いたのか、サイトは閉鎖されます。しかし老人たちの中にはそれでも話し相手になってくれるなら構わないと惜しむ声も。老人が抱える孤独の深さが垣間見える事件でした。
今後ひよりの心のオアシスだった「ICEM00N」はおじさんたちのたまり場になりそう😁 

第四話 おじさん軍団、ピンチ! 殺人容疑の退職刑事
殺人現場に居合わせた迫田が容疑者として拘束されます。
コンビニのアルバイト店員だった被害者と面識があり動機もある迫田の容疑を晴らそうとメンバー&ひよりが捜査を始めます。
被害者が抱いていたコンビニに来る客への妬みや鬱憤が事件のきっかけになっていましたが、それでも彼の行為は許されるものではありませんね。
事件解決かと思われましたが、迫田が聞いたという「梟の声」から真犯人が浮かび上がります。コンビニでの聞き込みの時に伏線も張られていました😁 
生真面目な人ほど思い詰めてしまうのよね😞 

第五話 今明かされる四十三年前の真実 おじさん軍団、北へ
両親亡き後に引き取って育ててくれた恩人が亡くなり、家の整理を依頼された夏目が故郷に数十年ぶりに帰ってきます。43年前の夏、両親と旅行に行った帰りに事故に遭い彼だけが助かったのですが、その時の記憶を喪ったショックと二学期に出された「夏休みの思い出」という作文が書けずにトラウマとなって悪夢にうなされるようになった彼は親戚をたらい回しにされますが、母の遠縁の加賀谷さんが引き取って育ててくれたのです。
夏目に電話をしてきた大津亜希の母は町長戦に立候補していて、町の名士である生方と争っていました。夏目に接触してきた中学の同級生の赤堀は生方の下で働いていて何か引っかかるものを感じます。
翌朝、チェックアウトをしようとした夏目の前にメゾンのメンバー&ひよりが現れます。昨夜電話してきた迫田が夏目の様子に事件の匂いを嗅ぎつけ皆を招集したという😁 どこまで暇なんだよ!あんたら😓 
そこからいつもの聞き込みが始まり、加賀谷が書いた夏目への手紙で43年前の事故の真相が明かされる展開です。更に生方との因縁も・・・
事件解決後、伊達がシェアハウスを始めた理由について次作以降に明かされそうな期待が😉

惣一郎とひよりの関係性が少し変わっていきそうな予感と、ひよりの更なる成長を感じました。😀 

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メゾン・ド・ポリス3 退職刑事とテロリスト

2024年03月09日 | 
加藤 実秋 (著) 角川文庫

偽爆弾が設置される事件が頻発。単なるいたずらなのか? 新人刑事の牧野ひよりは、退職刑事専用のシェアハウス<メゾン・ド・ポリス>に住む、凄腕だけど曲者ぞろいのおじさんたちと捜査に乗り出すが……。(内容紹介より)

前2巻より厚さがないな~と思ったら、今回はテロ事件一本の中編仕立てでした。
新たに登場する退職間近の梅崎刑事は女嫌いで有名な設定。
偽爆弾事件が起こり、彼と組まされることになったひよりとの相性は最悪です。過去に可愛がっていた部下の女性刑事が殉職した事故が梅崎を変えてしまったことが後半に明かされます。女嫌いなのではなく、女性への過度な心配がそうさせていたという・・・それにしては女性蔑視発言が過ぎるんですが😩 
梅崎はメゾンのおじ様たち、特に伊達さんに対しては腰が低く尊敬しています。それもその筈、伊達さんは元副総監だったことが今回初めて明かされます。階級社会の警察組織ですから退職しているとはいえ雲の上の人ですもんね😁 

同僚の原田刑事は彼女ができて浮かれまくりで、整髪料と洗濯用芳香剤の強烈な匂いに閉口させられるひよりです。(原田の彼女がその匂いを受容しているのが不思議でもある😓 )でもこの原田君が爆発に巻き込まれて怪我をしたことで、ひよりは彼と彼女の意外な一面を知ることになります。

テロリストの容疑者のひとりに浮かんだのは迫田の離婚して以来会っていないという息子です。彼は東大理系卒でいかにも爆弾に精通していそうな印象を持ちますが、そっち方面ではないのよね😓 

女性店員が嗅いだという香りが水族館のガラス製作の原料に使われる薬品と思われたことから、工事現場に赴いた一行が、製作に携わっていた迫田の息子を知ることになります。アクリルガラスの隅に書かれていた「 blue grobe 」の意味が伏線になっていました。 (roveと grobeの違い、わかりますか?😁

今回はひよりのライバル?ナナちゃんのネイルがヒントになってテロリストのメンバーが判明します。夏目のアイロンがけはメゾンの中ではなく、自殺した犯人が通っていた学校の教室でした。(アイロンかけられたらどこでもいいんだな😉

クレバーなテロリストの主犯と心酔している副犯の思想は受容できないし、狂信的な新興宗教みたいです。仕掛けられた爆弾を積んだ車をひよりが運転する展開はスリリングではありますが、彼女がやらなくてもとも😥 

事件解決後、迫田の元妻が現れて父子の関係が修復されます。離婚の原因はありがちでしたが、女性の視点からみたら「だよね!」な理由でした。
前作でひよりの家族、今作では迫田の家族問題が修復されましたが、次は夏目の家族関係が登場するのかな?😀

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十字架のカルテ

2024年02月28日 | 
知念 実希人 (著) 小学館(発行)

正確な鑑定のためにはあらゆる手を尽くす――日本有数の精神鑑定医・影山司の助手に志願した新人医師・弓削凛は、犯罪者の心の闇に対峙していく。究極の頭脳戦の果てに、影山が見据える未来とは。そして凛が精神鑑定を学ばねばならない理由とは……。(内容紹介より)


プロローグで通り魔殺人の被害者となった親友の告別式に参列した少女の胸の内が語られます。それが弓削凛だとわかるのは本章に入ってからです。彼女がその道に進んだ動機部分ですね。

第一話「闇を覗く」
 歌舞伎町無差別通り魔事件の犯人・白松京介は、重度の統合失調症と診断され、本鑑定を受けることになります。
影山の助手として同席した凛は、白松が精神を病んでいると判断しますが、影山は彼の背景を丹念に調査し、詐病であることを見抜きます。
地方の名家に生まれ父親の圧倒的な権力の支配下にいた京介は、恋人を死に追いやった父に、事件を起こし家の名に泥を塗ることで復讐しようとしたのですが、影山は京介を異常者と言い、畏怖を抱く父に手をだせない代償行為であり復讐を果たした英雄ではなく復讐すべき相手から逃げた卑怯者だと断罪しました。

第二話「母の罪」 
生後五ヶ月の娘の首を絞めたあと、抱いてマンション4階から飛び降りた横溝美里。面談でも重度の鬱症状が見られますが、最後に「悪魔が娘を殺せと脅した」と言ったことから凛は詐病を疑います。え?一話と同じパターン?と思ったら、自分を罰して欲しい故に演じていた妄想と判明するのです。
頼る者のない土地で初めての育児に追い詰められた美里は我が子に手をかけてしまったのですが、鬱症状が改善すると罪悪感に苛まれ、統合失調症を詐病することで起訴されて罰を受けることを望んだのでした。

第三話「傷の証言」
 姉を刺して逮捕された沢井一也は高校中退し自宅に引き籠っていました。支離滅裂な発言をして恐慌状態に陥った一也を統合失調症と診断した影山たちですが、弟が「ぶっ殺してやる」と叫んで刺したという姉の涼香の証言に疑問を呈し調べるうちに真実が浮かび上がってきます。一也の父は精神病を理解せず頑なに息子の受診を拒んでいたため症状はどんどん悪化しており、海外留学を控えた姉が弟の将来を心配しての狂言だったのです。無理解が生んだ悲劇ですが、真相がわかったことで適切な治療の機会を一也は与えられることになります。

第四話「時の浸蝕」 
傷害致死で起訴された小峰博康は、精神疾患の疑いで簡易鑑定が行われます。罪を逃れるための詐病と診断した影山に彼の弁護士は鑑定医としての資質の疑義を唱えて攻撃してきます。鑑定を巡り過去に彼を統合失調症と診断した医師に話しを聞きに行った凛は、小峰の症状が精神疾患ではなく覚醒剤使用によるものだと気付きます。有罪になるのは必須でしたが、被害者の父親が証言を翻して小峰が不起訴になることを望みます。影山たちにも偽証するよう訴えた父親の真意は、死期を悟り自らの手で小峰を殺すことでした。弁護士を雇ったのもこの父親だったのです。なんかやりきれないなぁ。😥 

第五話「闇の貌」
 同僚を刺殺した桜庭瑠香子は過去にも殺人事件を起こしていましたが、解離性同一性障害(多重人格)と診断され不起訴となっていました。彼女こそ9年前に凛の親友を殺した犯人でした。事件関係者であることを隠して鑑定に同席する凛でしたが、別人格が起こしたことで自分は悪くないという姿勢の瑠香子を前に、思わず感情を爆発させてしまいます。鑑定医失格と影山に外されますが、必死に自分が出来ることを考えて瑠香子と対峙した凛は、遂に彼女から別人格である彼女の父を呼び出すことに成功します。実父に長年酷い虐待を受け続け、彼の子供を妊娠するも流産した過去を持つ瑠香子は、父親と流産した子の人格を自らの内に生み出していました。
凛の親友と今回の被害者は瑠香子と雰囲気が似ており(丸眼鏡や三つ編み)、それが父親の人格出現の鍵でした。この父親が鬼畜そのもの😡 
しかし、よりおぞましい真実が明らかになります。瑠香子は父親の人格が治療により殺されることで復讐の快感を覚えるようになり、今回の事件はわざと父親の人格を呼び出して犯罪を犯させ、治療で彼の人格を殺すことを目的として彼女自身が主体となって起こしていたのです。

親友が何故殺されなければならなかったのか、その罪は誰が背負わなければならないのかが知りたくて鑑定医を志ざした凛は、この事件を通して鑑定医としての覚悟を決めます。
鬱は心の風邪と言われて久しいですが、まだまだ精神病は一般的に受け入れられているとはいえません。人は自分と異なる者や感覚をなかなか受け入れられません。それが差別や偏見に繋がっているとわかっていてもです。投薬と適切なカウンセリングで症状を抑え、日常生活を送ることは決して難しいことではないのですが、周囲の視線というストレスがそれを妨げているともいえるのかなぁ。


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メゾン・ド・ポリス2 退職刑事とエリート警視

2024年02月24日 | 
加藤 実秋 (著) 角川文庫

警視庁柳町北署管内の歩道橋で、男性の転落死体が発見された。
新人刑事ひよりは早速、退職した元刑事のおじさんたちが暮らすシェアハウス〈メゾン・ド・ポリス〉に呼び出された。
「デカ魂」が再燃したおじさんたちは、メゾンの住人・藤堂の元妻で美人鑑識課員の杉岡も巻き込んで、独自捜査を開始する。
仕方なく付き合うひよりは、その一方で、捜査一課の間宮からメゾンの雑用係・惣一郎の「観察」を命じられてしまう――。
やがて明らかになる警察の闇。そのとき、ひよりとおじさんたちがとった行動とは?老眼、腰痛、高血圧だが、捜査の腕は超一流のくせ者おじさん軍団と新人刑事が事件を追う、かつてない警察小説。怒涛の第2弾!

第一話 血痕が導きだす死者の声
歩道橋の下で見つかった遺体は事故か他殺か。
藤堂の二番目の元妻で現役の鑑識課員・杉岡沙耶が登場します。
現場写真を再確認した藤堂があることに気付き、事件の真相が解明される展開です。
働き方改革の皺寄せが子会社に、そして孫請けに回った末に起きた痛ましい事故でした。😔 

第二話 錯綜する資産家女性殺人事件! 
こちらは古畑任三郎やコロンボのように、初めに犯人と犯行の様子が書かれています。恋は盲目というけれどなんともお粗末な犯行動機に同情の余地はありません。
けれどそこにもう一つの犯行があり、それを暴いたのが夏目の推理です。また藤堂の古着の知識がヒントとなっていました。被害者の真意が早くに伝わっていたら良かったのにね。😖 

第三話 vs.連続窃盗犯!おじさん軍団の長い夜
メゾンの主夫・高平さん御用達のさくら町商店街で窃盗被害が相次ぎ、犯人を捕らえようと、おじさんたちが一計を案じます。罠を張ったレストランで捕まえた犯人は店の息子とその部下。でも息子はこの一件しかやっていないと主張します。捜査は振り出しに戻り、伊達さんが可愛がっている元警察犬バロンが活躍して真犯人を突き止めます。証拠を固めようと動くおじさんたちの活躍が楽しい後半部でした。
ひよりは警視庁の間宮に夏目たちの監視=スパイを命じられ迷っていましたが、伊達の言葉に吹っ切れ、きっぱりと断ります。😀 

第四話 ハイテク工場の闇 遂にクライマックスへ!  
ひよりの父が失踪を続ける理由が明らかになる話です。
父親が務めていた会社の不正経理問題の裏に、地方の工場誘致の際のデータ改ざんがあり、隠蔽を強いられた社員が亡くなっていました。その社員から悩みを打ち明けられていた父は身の危険を感じ家族に害を及ぼさないよう失踪していたのでした。
夏目たちと一緒にこの事件の真相を突き止めたひよりの前に父が現れ全てを告白します。実はひよりの母も密かに父と連絡を取っていました。なんだそれ😓 
事件は明るみに出て、隠蔽に関わっていた警察上層部の人間も処分されました。

ひよりの行きつけのバーでの草介とナナとのやりとりは、毎度お約束で箸休め感があります。本筋には関係ないけれど、この先何か展開があるのかな?😁 

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メゾン・ド・ポリス 退職刑事のシェアハウス

2024年02月12日 | 
加藤実秋(著) 角川文庫

その事件、俺たちに解決させろ! 連作ミステリ!
柳町北署の新人刑事・牧野ひよりは、念願かなって刑事になったものの、仕事はお茶汲みやコピー取りばかり。そんなある日、所轄内で殺人がネットで生中継されるという事件が発生。どうやら四年前に起きた事件の模倣犯らしい。ひよりは上司の刑事から、四年前の事件を担当していた元刑事・夏目惣一郎の話を聞いてこいと命じられる。メモの住所を頼りに辿り着いたのは、蔦で覆われた大きな三角屋根の古びた洋館だった。その門前で掃き掃除をする惣一郎に声をかけるが、惣一郎は「断る」の一点張り。すると謎の老人が現れ、「まあお入り。ちょうどお茶の時間だ」と告げて洋館にひよりを招き入れた。そこはなんと、退職刑事専用のシェアハウス<メゾン・ド・ポリス>だった!元熱血刑事、元科学捜査のプロ、元警視庁幹部、元事務員。老眼、腰痛、高血圧だが、腕は一流のくせ者おじさんたちと事件を追うと、思いもよらぬ真相に辿り着き――。(内容紹介より)


女性新人刑事が退職刑事のおじさんたちと事件解決するお話ですが、やたらとおっさん扱いするのも、行きつけのバーでのコントのようなやり取りもちょっと鼻についたのは、どちらかというとおじさんたちにシンパシーを感じてしまったから😓 

第一話 新人女子刑事vs.くせ者おじさん軍団
登場人物の紹介編です。
文庫本の表紙のイラストが実にうまくキャラクターを表していました。
親が子を思う故の事件で犯人はいません。😣 

第二話 犯罪ウィルス!?連続暴行事件の謎
ネット社会の闇が浮かび上がる事件で、犯人のトリックも割と早く気付けるのですが、その目的と真犯人については仕掛けがありました。わかってみればボールに画鋲の時点でどちらが犯人かは明確ですが。

第三話 科学捜査が迫る密室OL自殺の真相
科学捜査のプロである藤堂さんが活躍するお話。
ウサギの毛はボンボンチャームの毛だった😊 
犯人は横領に気付かれ脅されていた・・・地味なOLは自分だけ仲間外れが寂しかった?ってそれもどうよ!お金は人を狂わせるのね😵 

第四話 ペンキ事件と犯行声明文の秘密
容疑者を絞る過程がちょっと安易な気もしますが😥 
被疑者の自宅から見た景色が鍵ですが、読んだ瞬間ピンときたけどな~。
スケールは全く違うけど「名探偵コナン 天国へのカウントダウン」を連想しちゃいました。😉 

第五話 重なり合う過去 さらばおじさん軍団!?
4話までの中でひよりの父親の失踪と元熱血刑事の惣一郎が関わった事件が繋がってきます。一見解決したかに見えて実はまだその裏に隠されている真実があるようで、シリーズの中で徐々に明かされていくのかな?

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街とその不確かな壁

2024年02月10日 | 
村上春樹(著) 新潮社

十七歳と十六歳の夏の夕暮れ……川面を風が静かに吹き抜けていく。彼女の細い指は、私の指に何かをこっそり語りかける。何か大事な、言葉にはできないことを――高い壁と望楼、図書館の暗闇、古い夢、そしてきみの面影。自分の居場所はいったいどこにあるのだろう。村上春樹が長く封印してきた「物語」の扉が、いま開かれる。(内容紹介より)


村上春樹の作品は「1Q84」くらいしか読んだことがなく、それすら「難解な」という印象で終わり今現在内容も思い出せないので、たぶん波長が合わないのだろうと感じていた・・・のにまた手に取ったのは発売当時世間で話題になっていたから。図書館で数十人待ちでやっと今手元に届いたけれど・・・やっぱり合わないなという思いを新たにしてしまいました。😖 

現実の世界と「壁で囲まれている世界」という二部構成で進む物語です。

第一部
海に近い静かな郊外住宅地に住む高校生の「ぼく」は、エッセイコンクールで知り合った私立の女子校に通う一つ年下の女の子に恋をし、彼女の語る「壁の向こう側の世界」を共に創ります。ところが突然彼女からの連絡が途絶えてしまいます。喪失感を抱えたまま高校を卒業した「ぼく」は、東京の私立大学進学後に書籍取次会社に就職します。

ある日、どこからかその世界に現れた「ぼく」は門衛に影を引き離され壁の向こう側の街の図書館で夢読みの仕事 をするようになります。この時既に40歳を過ぎている「ぼく」ですが、図書館で夢読みの手伝いをしてくれる少女は出会った頃の年頃のままなのです。引き離された影はやがて衰弱して死ぬ運命でしたが、「ぼく」は影に乞われて街から出してやります。

第二部
現実世界に戻った「ぼく」は、退職して福島県のZ**町の図書館館長の職に就きます。前館長の子易さんは実は一年前に亡くなっていましたが、「ぼく」と司書の添田さんだけには姿が見え会話もできました。
子易さんは代々造り酒屋を営んでいる素封家の跡取りでしたが、妻子を亡くした後、家業を譲ったお金で財団を作り図書館の運営に関わっていました。ベレー帽とスカートを愛用していた彼の姿は奇異ですが、その人柄と町の名士であることからそのことを揶揄する人はいなかったのです。
幽霊となった子易さんは、かつて影を亡くした「ぼく」に図書館を任せることを望んでいて、適切な助言を与える存在でもありました。

町の生活に慣れた頃、一人の少年(M**くん)・・・イエロー・サブマリンの少年が「ぼく」が墓所で子易さんに語りかけていた「街」に惹かれ、そこに連れて行って欲しいとやってきます。彼はサヴァン症候群のようです。生年月日から曜日を当てる特技を持ち、読んだ本の内容をすべて記憶することができますが、通常の人間関係を結べません。彼にとって現実世界はとても生きにくいものだったのです。「ぼく」は彼を「街」に案内することは出来なかったのですが、ある日突然少年は煙のように消えてしまいます。
「ぼく」は彼が「街」に行ったのだと直感しますが、彼の家族にそれを伝えることはできません。なにしろその「街」は「ぼく」の想像の世界なのですから・・・。

第三部
再び「壁の向こうの街」で夢読みをしている「ぼく」はある時イエロー・サブマリンの少年の存在に気付きます。二人は一体の存在だと語った少年は「ぼく」と同化します。「ぼく」が開いた夢を読み解くのは少年です。
やがて「ぼく」は現実世界に戻る選択をします。

主人公は高校生の時に出会った少女への想いを大人になっても忘れられずに彼女と創った「街」に精神が呑み込まれていきますが、現実世界を捨て去ることも出来ずにいるように感じました。
現実の町で、離婚してこの町にやってきて喫茶店を営む女性に親しみを感じるようになった彼は、やがて「壁の向こうの街」ではなく現実の町で生きていく選択をします。

「ぼく」が「壁の向こうの街」にいた間、現実の「ぼく」は消えていたわけではなく「ぼく」の引き離された影がちゃんと普通に生活していたらしい😥 
少年の方は「影」ではなく「木のマリオネット」の本体を森に隠して「壁の向こう」に行ったから現実世界でも神隠しのように消えてしまっているのね。😔 現実世界でのあの少女も彼女の作り出した「壁の向こう」に行ってしまったのかな😥 

作品に登場するジャズの曲(音楽)や少年が読んだとされる数々の書物については殆どわからないし興味も持てないのですが、林檎の焼き菓子とか食べ物の方には少なからず惹かれるものがありました😋

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古本食堂

2024年01月29日 | 
原田ひ香(著) 角川春樹事務所

かけがえのない人生と愛しい物語が出会う! 神保町の小さな古書店が舞台の絶品グルメ×優しい人間ドラマ。 大ベストセラー『三千円の使いかた』『ランチ酒』の著者による熱望の長篇小説。 美希喜は、国文科の学生。本が好きだという想いだけは強いものの、進路に悩んでいた。そんな時、神保町で小さな古書店を営んでいた大叔父の滋郎さんが、独身のまま急逝した。大叔父の妹・珊瑚さんが上京して、そのお店を継ぐことに。滋郎さんの元に通っていた美希喜は、いつのまにか珊瑚さんのお手伝いをするようになり……。カレーや中華やお鮨など、神保町の美味しい食と心温まる人情と本の魅力が一杯つまった幸せな物語。(内容紹介より)

.第一話『お弁当づくりハッと驚く秘訣集』小林カツ代と三百年前のお弁当
第二話『極限の民族』本田勝一著と日本一のビーフカレー
第三話『十七歳の地図』橋口譲二著と揚げたてピロシキ
第四話『お伽草子』とあつあつカレーパン
第五話『馬車が買いたい!』鹿島茂著と池波正太郎が愛した焼きそば
最終話『輝く日の宮』丸谷才一著と文豪たちが愛したビール

学生時代に足を延ばした神保町の本屋さん。といっても古書店ではなく三省堂などの新書を扱う大型書店ばかりだったけれど、軒を並べる古書店が町に独特の風情を添えています。

そんな古書店の一つ、鷹島書店の店主の滋郎さんが亡くなり、妹の珊瑚さんが後始末のために北海道から上京してきます。彼女は両親の介護をしているうちに婚期を逃しています。両親の死後、介護ヘルパーとして、東山さん宅に通ううちに彼を慕うようになりました。彼の妻の死後、東山さんから好意を打ち明けられますが、自分の思慕への罪悪感から彼を避けるように東京に出てきています。

国文科の大学院生の進路進路は大叔父の滋郎が好きで、店にもたまに顔を出していました。彼女の母の芽衣子は滋郎が遺した財産の行方が気になるようで(神保町で自社ビルですからそれなりのお値段ですね)美希喜に大叔母が店をどうするのか監視報告するよう言いつけます。芽衣子はリアリストとして描かれますが、パンのシールを集めて食器を貰うことに心血を注いでいたりとどこか可愛らしいところもあります😁 

古書店の経営は素人の珊瑚ですが、読書家の彼女は客が求める本を察することができます。
お弁当作りに悩む女性や、世の中を全部分かった気になっている青年、息子との対話に悩む父親、執筆に悩む作家志望の青年などなど・・

珊瑚を手伝うようになった美希喜は、次第に自分が本当にやりたいことに気付いていきます。ビルの階上に入っている辻堂出版の社員の建文君と作家志望の奏人が彼女を巡って密かに恋のバトルをしていたりしますが、当の美希喜は進路の悩みで全く気付いていなくて、そんな若者たちを温かく見守る珊瑚さんも、東山さんへの想いに揺れています。

滋郎兄が不倫していたのではないかと考えて、相手の女性が働く戸越銀座の総菜屋の前の喫茶店で観察したりする珊瑚さんは、自分と重ね合わせてしまいます。ところが上京してきた東山さんが意外な真相を明らかにしてくれるのね。
彼は滋郎さんとも接点があったので、その「嗜好」についても察していたわけです。
うん・・・生きにくかっただろうな~滋郎さん😲 
愛の形は様々と珊瑚さんに語り掛ける東山さん、素敵です😍 

教授の後藤田先生は美希喜に厳しい叱責をしますが、彼もまた滋郎さんと交流のある人でした。そして彼女に古書店を継ぐことを勧めます。その頃には美希喜も自分が本当にやりたいのは研究者の道ではなく鷹島古書店を継ぐことだと気付いているのね。
珊瑚さんの方も本当は美希喜に跡を継いでもらいたいと思っていて、物語は大団円。

お話に登場する神保町のボンディやランチョンといった名店に、ロシア料理店のピロシキ、揚子江菜館の上海式焼きそばなどなど、読んでいるだけでお腹が鳴りそう。
おっとりした珊瑚さんを取り巻く神保町の人々の温かさも加わりとても優しい気持ちになりました。😀 


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片見里なまぐさグッジョブ

2024年01月26日 | 
小野寺史宜(著) 幻冬舎(発行)

俺は、なまぐさといえども、坊主だ。殺生なしで、仕返ししてやる! 「あの男」のせいで自殺してしまったかつてのマドンナのために、へなちょこ男子が立ち上がる!

地方の中途半端な規模の街・片見里。ここで200年の歴史を刻む善徳寺の住職・徳弥・29歳。父の急逝で若くして、急遽、住職となってしまった、合コン好きの「なまぐさ」坊主だ。彼の元を、小学6年生のとき一瞬だけクラスメイトだった、フリーターの一時が東京から訪ねてきた。善徳寺に預けっぱなしの父の遺骨を引き取るためだ。無理矢理クラス会に出席させられた一時は、かつての「マドンナ」美和の自殺を知る。どうやらその原因は、元ガキ大将、今や県会議員に立候補しようとしている丈章のひどい「謀略」にあるようだ。徳弥と一時は、美人で優しかった美和のために、「仕返し」を企てる。「俺は坊主だ、殺生はしない。でもあいつを痛い目に遭わせてやる」熱くてやんちゃな徳弥は、クールな草食男子一時、美和の妹・多美と策略を練るのだが、どうやら敵は一枚上手で……!? 心優しき人たちの、爽快でちょっと泣ける「仕返し物語」。(作品紹介より)


「片見里荒川コネクション」で知って早速読んでみました。
徳弥と一時の友情の始まりが描かれています。

谷田一時は、小さい頃に父を亡くしてから、母に連れられて各地を転々とし、小学校で5回、中学で3回の転校を経験しています。男性遍歴を繰り返す母と音信不通の現在ですが、その母と小学校卒業前の4ヶ月だけ滞在した片見里の寺に預けたままの父親の遺骨を引き取りに17年ぶりに片見里を訪れますが、人生に絶望している彼は、遺骨をどこか林の中に埋めて自分も消えようと考えていたようです。

ところがそんな一時を、寺の現住職となっていた当時の同級生・村岡徳弥が歓待して中学の同窓会に誘います。一時は中学の時はもう転居していますが、小さな町故中学も小学校からのメンバーだからと無理矢理引っ張り出したの。😁 
そこで、一時が元同級生の堀川丈章と彼の腰ぎんちゃくの後藤の不審な会話を耳にしたことで、彼らの復讐作戦が始まるのです。

小学校のクラスで人気のあった倉内美和は、一時が盗難事件の犯人と疑われた際に、きっぱりと「あなたは犯人ではない」と彼に言ってくれた唯一の子でした。優しかった彼女が3年前に自殺したと知った一時は、堀川らの「結果オーライの手ちがい・写真・保険・脅しの材料」という会話が彼女の死に関係していると気付きます。

この堀川という男がまた実にサイテーな人間なのね。😡 市会議員選挙に出馬を目論んでいる彼は、自分の益にならない人間はバッサリ切り捨てる利己的な奴です。美和と交際しながら二股も平気で、美和の父親がリストラされた途端彼女を捨てた上に、妊娠した彼女が産むつもりだと知ると、別れさせ屋を雇った事実を彼女に突きつけ、さらに卑劣な手段で入手した画像で脅して自殺に追い込んでいたのです。

一時が徳弥に話したことで、美和の妹の多美も加わり、まずは事実かどうかの確認をすることになります。美和の友人だった乙恵や、堀川の同僚だった関根敏代の協力を得て、堀川の悪行が明らかになると、どうやって復讐するか頭を悩ませることに。
何しろ直接手を下したわけではないし、そもそも殺人が復讐の目的でもない。
彼らの考えたリベンジ作戦は生ぬるいとも思えますが、プライドの高い堀川にとっては致命的な屈辱であり脅しにもなりうるのだから、結果上々というわけですね。

小学校時代の一時の「棒高跳び」の逸話は「片見里荒川コネクション」にも引き継がれていましたね😁 今作ではそれが堀川家を脱する際に使われ、さらに堀川に気付かれる結果にもなっていました。まさに犯罪スレスレ・・いや、犯罪だし😅 

消防士の哲蔵さんと関根敏代が「その筋」の若頭とお嬢を演じて後藤の口を黙らせるエピソードが愉快で、小学校での盗難事件の犯人が明かされるおまけもありました。ここでも堀川の卑劣な人間性が明かされます😠 

基本的に徳弥の大らかな性格が強調され、コミカルに進んでいくので楽しく読めます。後に結婚する彼と多美のなれそめにもなっていました。
徳弥は一時の音信不通の母親の居所を探して彼に教えさり気なく肩を押します。なまぐさ合コン坊主であっても友情に篤い男です。
一時が自分の道を見つけるきっかけにもなっているようです。😀 

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アクアマリンの神殿

2024年01月24日 | 
😓 海堂尊(著) 角川書店

桜宮市にある未来医学探究センター。そこでたったひとりで暮らしている佐々木アツシは、ある深刻な理由のため世界初の「コールドスリープ」技術により人工的な眠りにつき、五年の時を超えて目覚めた少年だ。“凍眠”中の睡眠学習により高度な学力を身につけていたが、中途編入した桜宮学園中等部では平凡な少年に見えるよう“擬態”する日々を送っていた。彼には、深夜に行う大切な業務がある。それは、センターで眠る美しい女性を見守ること。学園生活に馴染んでゆく一方で、少年は、ある重大な決断を迫られ苦悩することとなる。アツシが彼女のためにした「選択」とは?先端医療の歪みに挑む少年の成長を瑞々しく描いた、海堂尊の新境地長編!(「BOOK」データベースより)


「バチスタ」シリーズの桜宮ワールド に触れるのは久しぶりです。一通り完結したと思っていましたが、今作はあれからまた時間が流れているのね。「モルフェウスの領域」を踏まえた物語のようですが、肝心の「モルフェウス~」未読です。😥 

アツシ君はどうやら「ナイチンゲールの沈黙」に登場した男の子が「コールドスリープ」から目覚めた後の話で、医学ミステリーというより学園青春モノでした。
彼は「ナイチンゲールの沈黙」では、レティノブラストーマで小児病棟に入院している患者であり、「医学のたまご」ではスーパー高校医学生になっています。そして「モルフェウスの領域」で再び9歳の患者として登場するようで、時系列では前後していますが、キャラは一貫しています。

「佐々木アツシ問題」って何?と思いつつ読み進めていくと、どうやら「コールドスリープ」の間の個人情報の取り扱いについて政治的議論があるようで・・・
田口先生が彼のケースをちゃっかり論文発表して教授になっている時点でそもそも個人情報云々は解決してそうなものなのですが😓 そういえば、アツシ君の思考は田口センセにそっくりな気がしました😁 

こ難しい医学用語やらでひねくり回してはいても、根っこは思春期男子の揺れ動く感情がメインで描かれます。睡眠学習で膨大な知識は得られても、感情は学べないので、社会に適応し人として成長させるために西野は彼を二学年下の中学に編入させたわけです。

成績も含め平凡な生徒を装っていたアツシの正体を麻生夏美という少女が見抜きます。彼女の父親が有名なシンクタンクの上層部だったとしても、その観察眼は中学レベルじゃないけどね😝 
半ば強引にドロン同盟に入れられ、ボクシングバカで真っ直ぐな性格の蜂谷一航 と、悲劇のヒロイン願望の破綻的文学少女の北原野麦と4人の中学生活が、担任の門間 や日野原奈々、彼女の腰巾着の豊崎豊 とのいざこざを交えて面白おかしく進んでいきます。

中学高校でアツシはボクシング部に入りながら試合出場は頑なに拒否します。それは彼が義眼だからで、そもそも出場できないのね。高校の対抗試合で最初で最後のリングに上がり東雲高校の天才ボクサー神倉と拳を交えて彼の中で何かが変わります。(神倉がまた絵にかいたような気障なイケメンで逆にいつの時代だよ!と突っ込んでしまいました😙

西野がアツシの住むセンターでの合宿を夏美に許可したのも同年代の友人と交わることで心の成長を期待していたわけですね。蜂谷と野麦のバカップルぶりはともかく、夏美と野麦の立場が目まぐるしく移り変わったりのドタバタなど、高校生活もそれなりに楽しんでいるアツシです。

やがて涼子の凍眠の目覚めの時期が迫ってきます。涼子はアツシが凍眠中のメンテナンスをしていた元未来医学探求センター非常勤職員 でアツシが思慕する女性です。

涼子は西野に目覚め後の選択を聞かれ「佐々木アツシ問題が解決していたなら新しい記憶を、していなければ今までのままで」と答えています。その決定権はアツシに委ねられることになり悩む彼に的確なアドバイスをするのが夏美です。
夏美にも仄かな好意を抱いていたアツシでしたが、彼は涼子の記憶を消さないという最終決定をします。それは彼の個人情報が晒されることでもあるようですが、その辺の事情はよく理解できずに読了。😓 西野はアツシに飛び級で東城大医学部進学の道を示し去って行きます。西野と涼子は恋人関係だったように思えますが、だとしたら彼が涼子の記憶の消去を望んだ理由がよくわかりません。あるいは凍眠を選択した時点で涼子は西野ではなくアツシを選んだわけですから、アツシに嫉妬していた面もある?

田口先生の元を訪れたアツシは彼と一緒に現学長となっている高階 を訪ねます。立場が変わっても相も変わらず高階先生の掌で転がされてしまう田口先生でした。
そういえば、アツシがメールのやり取りをしている曾根崎伸一郎の名も登場し、シリーズの奥深さを感じさせてくれます。

いずれにしてもまずは「モルフェウス~」読まなきゃね😞 

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海の見える理髪店

2024年01月23日 | 
荻原浩(著) 集英社(出版)

伝えられなかった言葉。忘れられない後悔。もしも「あの時」に戻ることができたら…。母と娘、夫と妻、父と息子。近くて遠く、永遠のようで儚い家族の日々を描く物語六編。誰の人生にも必ず訪れる、喪失の痛みとその先に灯る小さな光が胸に染みる家族小説集。(「BOOK」データベースより)

6つのお話の短編集ですが、それぞれに胸に沁みました。

・海の見える理髪店
腕に惚れた大物俳優や政財界の名士が通いつめたという伝説の床屋に予約してやってきた「僕」に店主が問わず語りに話す彼の過去。
そういえば、床屋には小学校まで通っていたっけ。(今は幼児でもキッズ専用美容院に通うらしいが😅 )仰向けじゃなくて洗面台に頭を突っ込むスタイルや、散髪後の産毛剃りを懐かしく思い出しました。
「僕」のつむじが伏線になっていて、最後に二人の関係がわかるのですが、だからといって互いに名乗り合うわけでもなく店を出るのがまたしみじみとさせます。

・いつか来た道
自我の強い母の抑圧から逃れるように家を出た「私」は、弟から連絡をもらい16年ぶりに実家に帰ってきます。
この「母」が自分の親だったら、やっぱり反発しちゃうだろうな~と思わされます😔 老いた自分を認めたくなくて必死に娘の前で虚勢を張る姿を滑稽に思った娘でしたが、やがて母の病状に気付くと、過去の母への怒りを超えて切なさと慈しみの気持ちが芽生えてくるのね。反発の裏に隠されていたのは母に愛されたいと思う気持ちです。母の好物の桃を手土産にする時点で既に彼女は「母に認めてもらいたい子供」に戻っているんだよね😊 切なくて優しいお話です。

・遠くから来た手紙
仕事ばかりの夫と口うるさい義母に反発して子連れで実家に帰った祥子の元に届き始めた不思議なメールは・・・。
育児や義母の口出しに苛々が募っても、夫が話しを聞いてくれたらやり過ごせるけれど、その夫は仕事優先とくれば不満が溜まるのもわかるわかる😁 
でも祥子は離婚したいわけじゃなくて、ちょっと夫にお灸を据えたかっただけみたい。メールも電話もして来るなと言いながらも夫からの連絡を本当は待っているあたりが可愛いね。やけに時代がかった夫からのメールの正体は祖父が戦時中に祖母に送った手紙。亡き祖母が孫を心配して見せてくれた幻です。実家の机に隠していた初恋の相手だった夫との手紙を読み返した祥子はあの時の気持ちを思い出して・・・
まさに「犬も食わない」なんとやらで微笑ましいやら可笑しいやら。

・空は今日もスカイ
親が離婚して母の実家に連れられてきた茜は、家出をして海を目指します。
父親が夢に破れて酒に溺れたことが原因で離婚し、その父は酔って転落死しています。実家は既に弟夫婦が実権を握り居場所がなく肩身の狭い中、母は早く仕事を見つけて出なければと焦っていて、子供を振り返る余裕がないのね。茜は敏い子で、自分たち母子が疎まれていることを察しています。まだ両親仲が良かった頃の思い出の海に行こうと飛び出してきた彼女が、神社でやせ細った男の子と出会って一緒に海を目指すのです。独りでは出来なくても二人なら思い切った行動が取れるのは大人も子どもも変わらないかな。
森島陽太というその男の子をフォレストって呼んだり、茜が覚えたての英語を使いたがるのも子どもらしい微笑ましさがあります。
夜になり、知らない男の人に見つかって彼の「家」に泊めてもらう件はちょっとした冒険談です。でも翌朝、その人(ホームレスのようです)は警官に犯罪者扱いされてしまいます。おそらくは茜の母が捜索願を出していたのでしょう。
フォレストは、初め幽霊なのかと思いましたが、ポテチやビーフン汁を食べる描写があるので生身の人間ですね。とても12歳には見えない痩せ細った背中には酷い傷跡があり、食べ物もろくに与えられず犬のケージに入れられたりと親に虐待されていた様子で知的障害もあるようです。茜の訴えに耳を傾けようとしない警官たちでしたが、陽太が救われることを思わず祈ってしまいました。

・時のない時計
父の形見の腕時計の修理を頼んだ時計屋で、「私」は忘れていた父との思い出の断片が蘇ってきます。店内には沢山の時計。まぁ時計屋ですから当たり前ですが。腕時計を修理しながら店主はレトロな時計にまつわる話を語り始めます。鳩時計にディズニー時計、フリップ時計(パタパタと板が動いて時間を示す)、アニメの美少女戦士が描かれた目覚まし時計など、懐かしい時計たちが指している時間は店主の妻や娘の思い出の時間なのです。時計の針を巻き戻したいと思うかと尋ねられた私がないと答えると、彼は腕時計は高価なものではなく偽物だと言います。店主こそが後悔の中で生きていて、同調しなかった私に意地悪を言ったわけね。
ごく普通の父親と思っていた父が意外に見栄っ張りだったこと、その性格が「私」自身の中に受け継がれていることに気付いた「私」は、前に進むことを選択するんですね。

・成人式
5年前に中学生の娘を交通事故で亡くして以来、悲嘆に暮れる日々を過ごしてきた夫婦。父は過去の娘を映した映像を繰り返しみては思い出に浸り、母は娘の分の食事を食卓に並べ・・互いに悲しみを乗り越えようとしていたある日、成人式の晴れ着の案内が送られてきたことで再び悲嘆の淵に沈みそうになった彼らでしたが、娘に代わって成人式の替え玉出席を思いつきます。さすがに無理があるのだけれど、目標ができたことで妻は若返っていき、つられるように夫の気持ちも高揚します。
式当日、若者に交じって現実を直視せざるを得ない彼らは委縮する気持ちを奮い立たせて会場へ。当然「ご父兄の入場」を断られますが、そこに居合わせた娘の友人たちの協力で式に参加することができるのね。夫婦にとって、成人式は彼らなりの踏ん切りであり前に進むための儀式でもあります。突拍子もない行動ではありますが、夫婦の悲しみ、苦しみの靄が晴れることを願わずにはいられません。

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