杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

極楽征夷大将軍

2024年03月31日 | 
垣根 涼介 (著) ‎ 文藝春秋(発行)

やる気なし 使命感なし 執着なし
なぜこんな人間が天下を獲れてしまったのか?
動乱前夜、北条家の独裁政権が続いて、鎌倉府の信用は地に堕ちていた。
足利直義は、怠惰な兄・尊氏を常に励まし、幕府の粛清から足利家を守ろうとする。やがて後醍醐天皇から北条家討伐の勅命が下り、一族を挙げて反旗を翻した。一方、足利家の重臣・高師直は倒幕後、朝廷の世が来たことに愕然とする。後醍醐天皇には、武士に政権を委ねるつもりなどなかったのだ。怒り狂う直義と共に、尊氏を抜きにして新生幕府の樹立を画策し始める。
混迷する時代に、尊氏のような意志を欠いた人間が、何度も失脚の窮地に立たされながらも権力の頂点へと登り詰められたのはなぜか?
幕府の祖でありながら、謎に包まれた初代将軍・足利尊氏の秘密を解き明かす歴史群像劇。第169回直木三十五賞受賞作 (アマゾン内容紹介より)


尊氏の実弟・直義と尊氏の家宰の高師直の目線で描かれる尊氏は散々な低評価です。
およそ人の上に立とうという気概などまるでなく、物や人への執着心もない。ただ流されるまま、己の感情のままに動く子供のような人物です。
二人が陰で尊氏を「うすのろ、ぼんくら、極楽殿」と話すのを読んでいると何だか尊氏が可哀そうに思えてきます。

しかし反面、尊氏は情に篤く、万人に広い心で接し、私欲のない人物として描かれています。特筆すべきは実弟の直義が大好きで、普段は周囲に流されるままなのですが、弟の危機と知るやいつもの優柔不断の影もなく即決即断で駆けつけるのです。

直義は妻の彰子ただ一人を生涯愛した誠実実直な男です。頭もよく冷静な判断もでき政治的な能力にも長けていますが、何故か戦下手でことごとく負け続けます。😓 

お家の存亡がかかった大事な戦いの最中に出家すると髷を切った後で、弟の危機を知りざんばら髪で戦場に出ようとした尊氏に、家来も彼を守るために髷を切り落として従う逸話は捧腹絶倒です。髷は武士の誇りそのものであり、それを切り落とすことは恥です。しかもそのざんばら髪の上に兜と被った姿は敵の恰好の標的となる危険があります。なので家来たちは主君を守るために泣く泣く自分の髷を切り落としたわけです。裏返せばそれだけ慕われていたということですね。窮地に駆け付けてきた兄と家臣たちの姿を見て絶句した直義ですが、その目からは涙が溢れます。兄の自分への愛情をひしと感じたからです。😂 

煩雑な政務を嫌って丸投げされたり、気が向かないことに対しては仮病を使って逃げようとしたり、挙句は出家を言い出して直義を困らせまる子供のような兄ですが、何故か戦には勝ち続けます。裏表のない素直な(何も考えていない)性格が周りの武士たちの心を掴んで好かれる尊氏は、その天然のひとたらしと勝機の波に乗る天才的な戦上手だったのです。😲 

逆に物事に対して几帳面で融通の利かない直義は、少しでも味方に損害が出れば腰が引けて結果的に負け戦を重ねます。師直も同様です。
しかし彼らは絶対的なピンチの際に身を捨て死に物狂いで戦ったことで自分たちの欠点に気付き、それ以後は勝ち戦となるんですね。

直義と師直が手を取り合って尊氏を支え、念願の幕府が開かれたまでは良いのですが、その後はお決まりのお家騒動となります。
鎌倉幕府の例に倣うがごとく、執権の地位を狙った師直と直義の間で争いが起きるんですね。😨 

鎌倉幕府を倒すために担ぎ出した後醍醐天皇でしたが、実は彼に上手く利用されたことに師直たちは気付きます。この天皇の飽くなき権力欲には辟易させられます。 護良親王 も同様ですが倒れても踏まれても雑草のように蘇る執着心は直義でなくても怖気がします。😩 

武士は領地という褒美(恩賞)があるからこそ命を賭して戦うのですが、戦いが終わってみれば領地は公家に手厚く武士に不利な沙汰が乱発されます。
後醍醐天皇を崇めている尊氏は、直義や師直の苦情も受け流すだけです。

武士たちの不満が募る中で、直義と師直の考えの違いが生じてきます。
これまで自分たちを支えてくれた武士を優遇する師直と公平であろうとする直義の亀裂が深まっていくんですね。互いに相手を認めている二人だからこそ、その諍いの行き先も見えて深みにはまっていくのです。

後醍醐天皇問題に決着がついた後、尊氏の実子・直冬の存在が二人の仲を決定的にします。尊氏が一度だけ情を交わした女性が生んだのが直冬ですが、尊氏は決して実子と認めようとしませんでした。兄とは容姿も性格も似ていない直冬でしたが、妻から自分の子供の頃とそっくりだと言われた直義は確かに足利の血を引いていると確信して自分の養子にします。
尊氏と正妻の間に生まれた義詮より先に生まれ、利発で武士としての素質の見られる直冬がゆくゆくは将軍家の跡目争いの種になることを危惧した師直ですが、その本心は高家が義詮を傀儡とした執権となり栄える事のように見えました。
両者の戦いは直義が勝ち、師直は彼に恨みを持つ者に殺されてしまいます。

師直側だった義詮は直義を嫌い、直義もまた政治に倦み仏門に入ることを望みますが、尊氏は弟を手放そうとせず都にとどまり続けることになります。
しかし周囲の者が彼を旗印に担ぎ上げ、またまた戦が始まるんですね。
朝敵とされた直義は今度は南朝(故後醍醐派)を担いで応戦します。兄弟とも直接刃を交えることをせず、直義が負けた後も尊氏は彼の助命に奔走します。

極楽将軍と揶揄されていた尊氏ですが、師直を喪い、弟まで離れたことで自らの意志で物事を決めることを余儀なくされ人が変わったように文武の才を開花させていくのです。それなら最初からそうしろよ!と直義と師直は思ったかもね😛 

結局直義は深酒が祟って病死します。朝敵として刑を受けずに済んだことできっと兄は悲しみの中にも安堵を覚えたかもしれないな~。

読み始めた頃と読み終わった後では尊氏の評価は微妙に高くなりました😁 

楠木正成や新田義貞、赤松円心といった武将も登場し戦場での彼らの戦略家としての能力の高さにも感心しきりです。

これ、大河ドラマにしたら面白いんじゃないかな~~😀 



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