月の晩にひらく「アンデルの手帖」

writer みつながかずみ が綴る、今日をもう一度愉しむショートショート!「きょうという奇蹟で一年はできている」

ドナドナのうた

2012-06-15 20:49:47 | 腹腔鏡下 子宮全摘術


ようやく落ち着いた気がする。
窓から見えるのは空中庭園、新梅田研修センターのネオンサイン、
大阪の夜景はオレンジの灯が多い。

大阪駅の構内からのびている何本もの路線、
電車の「ガタゴト」「ガタゴト」という音が一晩中、眠るまで聞こえている。



病院につく前は、「ドナドナの唄」がアタマの中に
鳴り響いていた。
人間から動物にかえられてしまうような
妙な錯覚があって。頼りない気持ちになったのはどうしてだろう。

なんで仔牛ー、
真っ暗な荷台に乗せられた仔牛の、濡れそぼった真っ黒な瞳、
枯れ草が湿ったムッとする臭い。陰気で重たい雲が被さってくるグレーの空、が頭を過ぎる。

大阪中央病院、12階。個室「412号室」。

1時半に入院して、麻酔科の先生の説明と
後は夕方、担当医師が顔を見に来てくださる。

佐伯愛先生です。
ショートカットで、ノーメイク。
やさしい表情で
少年のような、クールなオーラだった。
誠実な受け答えと、まっすぐな瞳で、
こちらをみてくださるので
いっぺんで信頼を置いた。
おそらく、少しだけ低くて静かな物言いが、
たまらなく好きだ。

「ええ、…はい、いいでしょう」と毅然とした語り口。



今日と明日はほとんど用がない。

贅沢にじかんだけは、
たっぷりとある。

持ってきた本を読んで、
昨日iPhoneにいれた音楽を聴いて
文章を書いて、
時々ニュースやドラマを見て過ごしてみよう。

それとも、ふだんしたくても出来なかったことだけをして、過ごしてみようか。

出産以来の小さな修行の旅のようだ。


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