細田暁の日々の思い

土木工学の研究者・大学教員のブログです。

学生による論文(48) 「モータリゼーションと高速バスは地方都市の敵である」 堀 雅也 (2022年度の「土木史と文明」の講義より)

2022-11-11 05:44:59 | 教育のこと

「モータリゼーションと高速バスは地方都市の敵である」 堀 雅也

 講義内で紹介された藤井先生の言葉の中で、「モータリゼーションは都市の発展を妨げるものである」というものがあったが、私が春に経営学部の学友と議論した際に結論の1つとして出ていたので、これに関して論じる。

 まず前提として、私の考える(性質が特殊なので空路は除く)交通インフラの階層について述べる。

【第一階層】国の軸となる最速達交通
「はやぶさ」、「のぞみ」、「みずほ」
【第二階層】大都市間の速達交通
上記以外の新幹線、「ライラック」、「北斗」、「つがる」、「いなほ」、「ひたち」、「あずさ」、「しなの」、「しらさぎ」、「サンダーバード」、「こうのとり」、「やくも」、「しおかぜ・いしづち」、「ソニック」
【第三階層】ネットワークの構成に必要な交通
上記以外のほぼ全ての特急、私鉄の有料特急、「きたみ」、仙石東北ライン快速、「大和路快速」、「マリンライナー」、「とっとりライナー」、「シーサイドライナー」
【第四階層】小都市・町(郊外のベッドタウンを含む)への輸送を担う交通
博多南線や短距離支線を除くほとんどのJR線、概ね30km以上の私鉄各線、長距離路線バス
【第五階層】中心都市と近郊のベッドタウンを結ぶ交通・都市内の高速交通
地下鉄各線、経済圏の中心から伸びる上記以外の私鉄・路線バス
【第六階層】中心域以外の駅やバスターミナルを拠点とする地域交通
郊外の支線や経済圏の中心に乗り入れない路線バス

 そして、この第三階層まででせめて中国の高速鉄道くらいのネットワークが構成出来ているのが理想と考えている。この妨害をしているのが、他でもないモータリゼーションである。

 さて、路線バスやBRT以外の自動車交通は「点と点を結ぶ」特徴を持つ。自家用車も高速バスも、いずれも点と点を結んでいる。これが一つ目の問題点である。

 点と点を結ぶ交通は、文字通り二点間のスムーズな輸送には役立つが、地域の発展には役立たない。たとえば、最初の鉄道、いわゆる陸蒸気が新橋と横浜を無停車で結んでいたら京浜地帯の発展に寄与出来ず、京急線が品川と大師や羽田空港を無停車で結んでいたらインフラとしての能力が著しく低いと言える。しかし自家用車や高速バス、リムジンバスはこのような運用が為されており、インフラとしての役割を担えていない。なお、第一階層の高速鉄道や飛行機との違いは、速度が昔の特急列車ほども出ない点、つまり第三階層を担うべき速度にも関わらず点と点の輸送しか出来ない点にある。

 自家用車は更に顕著であり、バスターミナルすら経由しないため、何一つ地域の発展に貢献していない。全員が自家用車で移動するようになれば、百貨店などが揃っている必要が全く無くなってしまうので、「街」そのものが崩壊してしまうと考える。大きな駐車場と多種多様な店を揃えたイオンモールのような商業施設しか残らない未来も想像に難くない。

 二点目に、高速バスはインフラと競合し、需要を食い潰す点が挙げられる。

 高速バスは都市間輸送を担っているが、その間のインフラへの投資を行わずに運行できるため、極端に安く運用されている。そのため、階層を構成する交通の需要を食い潰しており、バスのせいで廃止に追い込まれ、あるいは赤字経営を余儀なくされるインフラも多く存在する。本来インフラは競合する必要は無い。NEXCOの他にいくつも高速道路会社が争っている必要が無いように、鉄道と高速バスが競合する必要は無いのである。鉄道の適正価格は電気やガスの様に国の審査を受ければ違法な値段にはならないだろうし、明治期には利益を上げられる都市部だけを運転する私鉄を規制してまで地方の鉄道・乗合自動車運用を進めていた歴史がある。これが無ければ、都市間輸送を行う鉄道が建設できず、鉄道が都市部のみにしか存在しない小規模な輸送手段になっていたかもしれない訳である。

 第一・第二階層レベルに対抗している高速バスに対しては、鉄道が速達性で優位に立てているため需要の激減にまでは至っていないものの、第四階層レベルに対抗している高速バスは、山田線に対する106急行バスなど、速達性でも本数でも価格でも鉄道を制しており、ネットワークを崩壊寸前まで追い込んでいる。このような例で大きな問題となるのは、利用者にとっては鉄道が廃止されてもさしたる問題にならない点である。災害時やバイパス手段としての有用性に気付いた阿佐海岸鉄道沿線のような例は非常に稀であり、不便な鉄道は廃止しても問題無いという風潮が未だに拭えていない例が多い。非常に自己中心的な考えによって既に多くのインフラネットワークが破壊されており、災害時の迂回輸送が出来ない危機的な状況を迎えようとしているのだが、どうも災害対策という考え方が交通インフラには及ばない様である。

 このように、「安いから」と利用者は飛びつき、「儲かるから」と事業者は高速バスを乱発し、「不便だから」と中心地の商業やインフラネットワークが崩壊し、結果的にその街まで不便になって人口減少が加速する悪循環が地方の至る所で展開されている。我々が安い物に飛びつくことは、環境以外にも様々な恐ろしい未来を作る一助となっていることは間違いない。

 最後に対策を考える。まず、速度は第三階層程度しかないのに第一・第二階層の需要を食い潰す高速バスや、第三階層以下の需要を食い潰す自家用車の入るべき所は無く、折角形成されたネットワークを破壊するこれらの自己中心的な輸送手段は可能な限り淘汰すべきである。例として、第四階層以下へアクセス出来ない場所との移動に限定して自家用車を許容する、自家用車は荷物運搬用としてのみ許可する、高速バスはそもそも廃止し、鉄道によるアクセスが不能な地域には路線バスを導入することなどを私は提唱したい。高速バスの廃止で需要が過剰になった暁には、増発コストの非常に低い鉄道を増発すれば良いだけである。そうすれば更に便利な街となり、活性化のスタートが切られるだろう。

 藤井先生のおっしゃる通り、これが明日の都市、そして国のための方策である。


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