日本コンクリート工学会(JCI)のある研究委員会の幹事長を務めましたが、その委員会報告書の「おわりに」の文章を執筆しました。委員会のテーマが「革新」でしたが、幹事長として苦労したこともそのままストレートに文章にしました。
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5. おわりに
今回,「コンクリートの生産・供給・施工システムの革新」というテーマで委員会活動を行った。委員会の顧問である堺孝司先生のお考えや思いは序章に書かれているので,ここでは委員会活動を取りまとめる役割を担った幹事長の私の立場で,委員会活動を通じての所感をまとめたい。
正直に言って,このテーマでの委員会活動の運営は容易ではなかった。現在の我が国のシステムが十分に機能しておらずに数々の問題が生じていることは分かる。何らかの革新(私自身は,漸進的な改善の積重ねの方が良いと基本的には考えている)が必要なことも分かる。サステイナビリティ設計の方向性が基本的には良さそうであることも分かる。しかし,現在は,世界史的に見ても相当なレベルの転換点にあり,日本の様々なシステムが機能不全に陥りつつある状況の原因は,大局的に捉えないと議論の方向性を誤る。また,私が良いと考える漸進的な改善の積重ねならともかく,「革新」となると,考える時間のスパンや,それこそ価値観により,議論はほぼ常に発散する。
3つのWGのうち,私が主査を務めたWG(報告書の3章)に当初与えられた課題は,「これまでの国内外における技術発展の系譜の整理と新技術適用バリアの分析」であり,この分析を「アカデミック」にやってほしい,と言われた。WGのメンバーとも考えてみたが,何をどうやってよいのか皆目見当が付かなかった。集まったメンバーの構成を見て,また2018年の年始ごろであったが,偶然に私が勉強していた電力,エネルギーについての驚愕的な情報(報告書の3.2.3)に触れたこともあり,私の中ではWGの方向性がクリアに拓けた気がした。何のための「革新」かと問われれば,私たちの社会や世界のサステイナビリティのためである,と答える。この委員会の期間中に,「資源の枯渇・急減」こそが,これからの人類が経験する最大級の課題である,と私自身の認識が改まった。技術革新による課題の克服も期待できるであろうが,過去の大戦争の直接的な契機が資源であったことを考えると,これからの人類の歴史はしばらくは相当な動乱となることであろう。
私は,確実に人類を襲う,資源の枯渇・急減という問題を共有した上で,集まったWGのメンバーがそれぞれの得意とする分野で,サステイナブルな社会に貢献できる,コンクリートの材料,コンクリートを使った技術やシステム等について調査研究を行い,読み物として取りまとめることにした。目的が大事であり,コンクリートの分野でサステイナビリティに貢献できるのであれば,手段で悩むのはばかげていると思ったし,資源やエネルギーの視点をWGメンバーで共有しながら,様々な材料,技術,システムを分析してみると多くの気付きや発見があった。サステイナビリティ設計,という思想の方向性に皆が具体的に気付くことが重要であると今は感じている。
青木幹事の取りまとめた2章は,生コンクリートの生産・供給システムの具体的な課題の分析と,革新に向けた具体的な提案が記載されている。革新のためには,全体最適的なヴィジョンの構築だけでなく,各論的な現場の課題の改善を常に継続していく必要があり,これらの課題が実際に改善されていくことを期待したい。
千々和幹事の取りまとめた4章では,人口減少がコンクリート供給体制に与える影響に関する仮想的検討に取り組んだが,これも大変に苦労したWG活動であった。将来シナリオはいくつもの可能性があるため,「仮想的検討」というタイトルに収まったが,「人口減少」というこれまた我が国がこれから経験する極めて課題の多いであろう社会において,基幹材料であるコンクリートのあり方を,若い数名の委員で連携して検討していただいた。難しい将来に対して目や耳を塞ぐのではなく,私たちが切り拓いていくという勇気や覚悟が必要であり,そのような活動に少しでもつながってくれればと期待する。
各WGの活動も個性豊かなものとなったが,改めて,目的は共通でサステイナビリティである。コンクリートの分野だけで達成できるはずもなく,大局的な視点も本報告書の序章や3章には含まれている。全うな方向に,ありとあらゆる努力が重ねられて,ようやく目的が達成されるであろうと私は認識しており,そのために私たちがなすべきことはそれこそ無数にある。本報告書が,サステイナビリティの実現のために少しでも役立つことを祈念する。
[担当 細田 暁]