Me & Mr. Eric Benet

私とエリック・ベネイ

金子三勇士 ピアノ・リサイタル @葛飾シンフォニーヒルズ 12/3 2011

2011-12-04 09:37:28 | ピアニスト 金子三勇士
実家の両親と一緒に住む末の弟の突然の病、
その後、救急で入院した地元の病院から都心の病院に移り、
2回の手術を経て昨日の午前中、退院に至った。

文章にしてしまえばたった一行の出来事だが、
その間、手術以外の方法はないのかとか、
手術は避けられないとわかった時に、
できれば他の病院に転院させたい、
そのためにはどの病院が適切で、
どうしたらそれができるだろうなど家族で話し合ったり、
ネットで検索したり試行錯誤の日々が続いた。

転院後、2回の手術はそれぞれ5時間と13時間を超え、
手術の翌日に行なわれた検査も3時間近く掛かり、
その後に容態が悪化してしまい、ICUに6日間滞在することになった。
これも数字に出してしまえば、決して長い期間ではないかもしれないが、
この間の私の緊張と心配はマックスに達していた。

病院に通いながら弟よりもたいへんな状況にある人達やその家族を
脳外科の病棟やICUで見かけ、いろいろなことを考えさせられた。

ICUから一般病棟の集中治療室へ、
そこから普通の病室に移って一週間後、
主治医から退院の話があった。
最初は命の危険もあり、その後は障害が残る不安もあったのが、
こんなに早く退院へと運ぶとは思ってもみなかった。

その間、予定していたライブ、コンサート、イベント、
お誘いいただいていたお約束をすべてお断りしていた。
ブログ、facebook、Twitterもお休みしていました。
ご迷惑をおかけしてしまった皆さん、申し訳ありませんでした。
事情を伝えた方達から頂いたお見舞いのメッセージ、励みになりました。
ほんとうにどうもありがとうございます。

12月3日、チケットを買ってあった金子三勇士のコンサート、
行けないかもしれないと思っていたものが、
会場は実家の近くでしかも3時から。
久々で三勇士の演奏を聴くことができた。

葛飾シンフォニーヒルズ、金子三勇士は昨年にこの施設内のモーツァルトホールにて、
梅田俊明指揮のオーケストラとの共演でショパン・ピアノ協奏曲第一番第一楽章、
ガーシュウィンピアノ協奏曲、またチャイコフスキー「くるみ割り人形」の中の「あし笛の踊り」
(この曲はピアノではなくチェレスタ)などを披露している。

今回は階下のアイリスホール、客席は約300席余り。
会場に入るとピアノの調律が行なわれている。
金子三勇士専属の調律師の方の姿を見ると安心する。
必ず三勇士の演奏する曲、好みの音、会場の雰囲気に合わせて絶妙の仕事をしてくれるからだ。

リスト・ハンガリー狂詩曲第2番
三勇士のデビューCD「Miyuji Plays Liszt」にも収録されている曲。
いつもながら生で聴くと迫力に圧倒される。
コンサートのオープニングにふさわしい曲だ。

バッハ・フランス組曲第6番
厳かな調べが三勇士の雰囲気に合っている。
ピアノのない時代に作られた作品、どのように色をつけるかは、
演奏者の腕と解釈に掛かっている。

この後に続くバルトークの三曲は圧巻だった。
6つのルーマニア民族舞曲
セーケイ人達との夕べ
オスティナート

コンサートで会場に来て演奏を聴いているという状態から、
別の世界へとトリップしてしまうという素晴らしい瞬間に稀に出会うことができる。
この三曲を聴いていて秋空に夕日が沈んでいく様子、雪景色、あるいは盛夏の山の渓流、
様々な情景が浮かんできてしまった。
また弟と子供の頃に一緒に遊んだ思い出まで鮮やかに蘇ってくる。
聴きながら涙を抑えることができない。

金子三勇士、ハンガリーのライターから受けたインタビュー中で、
「自分は何世紀にも渡って受け継がれてきた偉大な作曲家達の曲を
仲介する立場であると思っています。
想像性を保ちながらも作曲家の意図に忠実に曲を再現することが
自分に課せられた役目。」と話している。
http://blog.goo.ne.jp/ak-tebf/d/20110330

それでもこのバルトークの演奏を聴いていると、
金子三勇士にとってバルトークとは特別な存在なのではないかと思えてくる。
先週、朝日カルチャーセンターで行なわれた演奏+真嶋雄大との講演「バルトークらしさとは」
を聴きそこなったのは残念だった。

第二部はベートーヴェン・ピアノソナタ第8番「悲愴」
第二楽章がいつになく胸に迫ってくる。
ビリー・ジョエルがこのメロディーをベースに作った"This Night"
と言えば曲が耳に浮かんでくる方もあるかもしれない。
第二楽章は厳しい状況の中にもある希望や喜びを奏でる人生賛歌に聴こえた。
ここでも目頭が熱くなってきた。

リスト・ラ カンパネラ
演奏会においては贅沢な事と思いながら、目を閉じて聴く。
目の前のピアノも演奏者も消え、聖堂で鐘の鳴る音を聴いているような美しさに身を委ねる。

リスト・コンソレーション
タイトルの通り、真の癒しを感じさせる曲だ。

リスト・メフィストワルツ
「コンソレーション」と共に8月のトッパンホールにてのランチタイムコンサートで初めて聴いたが、
こちらは思いっきり遊び心のある曲。
しかし演奏者にとっては技巧を酷使する難易度の高い曲。
先程のコンソレーションとは対極にある選曲だ。
メフィストとはゲーテの「ファースト」中からではなくレイノ―の作品がイメージされているそうだ。

「金子三勇士 トッパンホール・ランチタイムコンサート 8/3」
http://blog.goo.ne.jp/ak-tebf/d/20110806

ここでプログラムは終了。
金子三勇士から挨拶が入る。
天候の悪い中、風邪の流行っている中をコンサートまで足を運んでくれた観客への感謝、
自分も風邪気味なのでメフィストワルツでは汗をかいて燃焼したとの話に笑いを取る。
「お楽しみいただけましたでしょうか?」との問いかけに会場からは暖かい拍手が沸いた。

アンコールはそれに応えて、
リスト・愛の夢第3番
この曲の持つ優しさはまさに究極の愛の調べ。

まだ拍手は鳴りやまず、観客の熱い思いを受けてもう一曲アンコールが続く。
「更に体温を上げたいと思います。」との語りに何の曲だろうかと身を乗り出す。
それは「パガ二ーニ練習曲第2番」だった。

コンサート後、CDの販売と共に本人のサイン会があり長い行列ができていた。
金子三勇士が丁寧に一人一人に挨拶しサインをする姿を横目に見ながら、
時間がないので会場を後にする。

勢いのある曲で観客を元気づけて会場から送り出した金子三勇士。
本人も今日からコンサートのために北京へと旅発つとのことだった。

この日の演奏会は、いつまでも私の思い出に残る特別なリサイタルになった。