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こまつ座第九十八回公演 「芭蕉通夜舟」を観て  

2012年09月22日 | 観劇メモ
少し前の9月15日、大阪・西梅田のサンケイホール・ブリーゼで、こまつ座公演「芭蕉通夜舟」を観てきました。
会場で買い求めたパンフレットです。↓


この芝居の初演は小沢昭一で、井上ひさしがあて書きで書き上げたとのこと。
それを29年後の今、坂東三津五郎がどう演じるか興味津々でした。出演はこまつ座のサイトでも記されているように、ほぼ坂東三津五郎の一人芝居
なぜほぼかというと、他に4人の黒子役がいて、舞台の転換や進行を助けているからです。彼らもいい味出していました。

公演の前に坂東三津五郎は、この舞台に立つ抱負として、
「今夏、私は初めて井上ひさしさんの作品に出演する。俳聖・松尾芭蕉の心の変遷を描いたほぼ一人芝居の一代記「芭蕉通夜舟」だ。笑いながらも見終わった後に身に迫る大きなテーマが横たわっている井上作品は好きでよく見ていた。念願かない、俳句の縁にも導かれ、うれしくも熱い夏になりそうだ。」と述べていました。

私がこの舞台を観ようと思ったのは、井上ひさしの作品であることが第一ですが、なんといってもテーマが「芭蕉」だったことが決定的でした。「芭蕉」と聞くと、私は素通りできません。(笑)

というのは、私も芭蕉と同じく伊賀上野生まれだからです。
中学校は桃青中学校でした。ご存知の方も多いと思いますが、「桃青」は芭蕉と名乗る前の俳号です。
なので、小学校時代から俳句作りは教科の一部でした。
(でも当時はけっこう苦痛でした。そして、最近その中学校が統廃合されて無くなったとも聞きました。さびしい限りです。)

高校の校舎裏から続く上野公園内の「俳聖殿」や芭蕉記念館、そして市内に散在する芭蕉生家、故郷塚、蓑虫庵などゆかりの場所もよく幼いころから親しんだところです。まあ故郷の偉人というところですね。
おかげで芭蕉の句はよく覚えていて、今でも旅行先でたまたま句碑などを目にすると嬉しいですね。
子供の時の記憶は一生忘れません。(笑)

今回、その芭蕉を、井上ひさしがどう捉えて描いているのか、それを坂東三津五郎がどう演じているのか、楽しみでした。

場所はサンケイホール・ブリーゼ。サンケイホールは昔一度だけ行ったことがある程度で、ブリーゼとなってからは初めてでしたが、阪神高速の出入り橋出口からすぐの、意外に車で行きやすい場所でした。
1時半の公演だったので早めに行って、地下1階のカフェで昼食。おいしかったです。↓


初めに書きましたが、この芝居がほぼ「一人芝居」となったのは、作者の井上ひさしが芭蕉を「『人はひとりで生き、ひとりで死んでゆくよりほかに道はない』ことを究めるために苦吟した詩人」と考えたからとのことです。
その一人きりになる場所として雪隠の場面がたびたび出て笑いを誘っていました。

今回初めて知ったのですが、俳句のもとである俳諧では、次々に句を詠んで、36で一区切りとしそれを歌仙を巻くというそうです。今回の舞台もその形式を踏んで、俳句を極めようとした芭蕉の生涯を全36景に区切って、描いています。

劇場はこじんまりとしていて、双眼鏡なしでもはっきり役者が見えるのがよかったですね。

冒頭、坂東三津五郎が「私が芭蕉を演じます坂東三津五郎です」とあいさつするところから舞台が始まるのが意表を突いて面白かったです。さすがにセリフははっきりしていて聞きやすいのも印象に残りました。

話としては、芭蕉の奉公時代から始まって、若主人が早逝したのち居場所がなくなって江戸に向かい、やがて俳諧で身を立てていって、大成する晩年までの生涯を、井上ひさしとしては珍しく淡泊なストーリーに描いていました。
この点は、これまで見てきた彼の作品とはいささか趣が異なりますが、芭蕉が自らの目指す俳諧の世界を極めようと、あえて安住をのぞまず、托鉢僧のような乞食(こつじき)行脚によって自らを厳しく追い込んで行ったひたむきな姿はよく描かれていたと思います。
演じた坂東三津五郎も、自ら俳句をたしなむというだけに、彼なりの解釈の芭蕉像が明瞭に伝わってきて、見ごたえがありました。私的には寿ひずるの件であまりいい印象がなかったのですが(笑)、今回の好演でその力量を見直したところです。

今は伊賀上野市から伊賀市になってかなり違和感のある故郷ですが、芭蕉の生涯を若い世代に理解してもらうにはうってつけなので、ぜひ地元でこの公演をやってほしいと思いました。

やはり井上ひさしは面白いです。


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