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ダンジョン飯/九井諒子・KADOKAWA/エンターブレイン

2016-06-27 17:22:44 | 書籍・漫画

 ダンジョン飯は、2014年からKADOKAWA エンターブレイン系列の雑誌に連載されている九井諒子氏作のファンタジー漫画。ビームコミックスレーベルより、既刊2巻が発売されている。


 ダンジョン飯という奇抜なタイトル通り、ファンタジーRPGに出てくるような架空の世界での冒険者たちの食に焦点を当てた作品。空腹、食料という概念は古くはウルティマから、ザナドゥ、ハイドライド3などコンピュータRPGの世界では基本となるパラメーターのひとつだった。ただウィザードリィやその他の多くのRPGでは省略されていたり、ドラゴンクエストでも取り入れられることはなかった。これは当時のコンピュータの表現力や容量の制限の問題もあって省略せざる得ない場合も多かっただろうし、食事をしないとスタミナが減ったり、ヒットポイントが減るなどプレイヤー側への足枷や制限となって、ゲームに組み込んでもあまり面白くならないという事情があったのかもしれない。とにかく、この作品ではその省略されてしまいがちな冒険者たちの食生活についてスポットを当てて細かく描いている。


 物語は、主人公の戦士(剣士)ライオスのパーティが、狂乱の魔術師の支配する迷宮の奥深くを探索するところより始まる。迷宮の奥深くでレッドドラゴンに襲われ、ライオスの妹である僧侶のファリンがパーティをかばって喰われてしまう。ファリンの死の直前の帰還魔法によりからくも迷宮を脱出できた一行は、ファリン救出のため再度迷宮に挑むことになる。しかし装備、食料を置き去りにしてきた上に、仲間の脱退もあり資金難に陥ってしまう。節約のため、迷宮内で食料を確保することにしたライオス一行であったが・・・。


 パーティのメンバーは、冒険者のリーダーであり物語の主人公でもある戦士(剣士)ライオス。前々からモンスターを食べてみたいという密かな欲求を抱いていたりとマニアックな嗜好を持つ。次に本作のヒロインでもあり、少し神経質で潔癖症ぎみなエルフの女魔術師マルシェル。常識人であり、パーティのつっこみ担当でもある。罠や鍵の解除を担当し、少し冷静な視点でパーティを眺めるハーフフットのチルチャック。中立的であり、個性的なメンバーのクッション的役割も果たす。モンスターを調理し、若き一行を導く役割を果たす戦士(ドワーフ?)のセンシ。この人は料理のレシピの解説も行い、クッキングパパみたいな役割を果たす。これ以外に、ドラゴンに喰われてしまって、現在はドラゴンの腹の中にいる僧侶のファリンがいる。ダンジョンズ&ドラゴンズやウィザードリィに倣って能力別の職業わけがなされているだけでなく、キャラクターの性格付けも明確に分かれており、これが本作の物語を引っ張っていく。


 物語の舞台となるのは、狂乱の魔術師の支配する迷宮であり、モンスターに倒されても即死ではなく、死からの回復の手段も残されており、迷宮の奥深くで遭難したパーティを探索隊を作って回収に行くことができるなど、ベースとなる世界観はウィザードリからの影響を色濃く受けている。宝箱には鍵や罠が仕掛けられており、その解除が必要だったり、帰還魔法ではアイテムを持ち運べなかったりと、随所にウィザードリィからの影響が見られる。


 モンスターを食するという部分では、やはりダンジョンマスターからの影響が強く感じられる。ダンジョンマスターは、アメリカのFTL Games社が1987年に発表した作品で、リアルタイムで動くモンスターやダンジョン内に経過する時間にスポットを当てた、リアルタイムRPGとして最初期のもの。時間の経過やアイテムの重量、食料や空腹などリアルさを売りとしたゲームだった。ともすれば足枷になりがちな空腹、食事という部分を、上手くゲームの中に落とし込んだ一例といえるかも知れない。


 プレイヤーはダンジョン内に閉じ込められており、この作品にはアイテムとしてのコインはあるが商店や通貨の概念はないため、食料はダンジョン内で調達することになる。先行する他の冒険者が落としたものなのか、ダンジョン内にはリンゴやとうもろこし、パン、チーズ、もも肉といった食料が落ちている。また人型のモンスターを倒すと、まれに食料を持っていることもある。


 ただし、落ちている食料だけでは足りないため、食べられるモンスターを倒して食料とする。これは、スクリーマーという植物か動物かわからないモンスター。倒すとブロッコリーみたいな肉片になる。


 ダンジョン飯だと、このような描写。


 こちらは、名前もそのままにワーム。ダンジョンマスター中盤の強敵。ちなみに毒も持っている。


 倒すとこのようなカラフルな肉片を落とす。これを焼かないで(調理しないで)、そのまま食べる。なんかプリプリしてて、噛むと肉汁も出てきそう。


 リアルに考えるとこうなるわけで、これらのゲテモノ喰いを、それらしく調理して料理に持っていくというところに、この漫画の面白さがある。


 扉絵では、そのまんま方眼紙に書かれた手製のマップという趣が演出されており、オールドRPGを楽しんできた読者には刺さる仕掛けがたくさんされている。それだけではなく、罠の解除の手順が詳細に描写されていたり、スライムがなまこやほやみたいな生き物だったり、宝箱に擬態するミミックがヤドカリみたいな生き物だったり、ゴーレムを畑として利用してみたりと、コンピュータRPGでは省略されていた部分への独自の解釈が楽しい。それ以外にも、迷宮内に店舗があり街があってたくさんの他の冒険者も描かれているため、最近のMMORPGからのネタも入っていると思われる。迷宮内にオークの集落があり、そこを訪れる描写などあるので、ウルティマアンダーワールドからの影響もあるのかもしれない。


 グルメ部分だけに焦点が当たっているというより、迷宮での排泄やトイレの管理はどうなっているか、行き倒れた冒険者はどうなるのか、植物や生き物の生態系はどうなっているかなど、ゲームでは省略されてしまっている部分を、深く考察して独自の解釈を与えリアリズムを追求している点が興味深い。8ビットのコンピュータやファミコンでは、容量や表現力の問題からダンジョン内での生活は大幅に省略、簡略化されており、プレイヤー自身がその空白を想像で埋めることによって、それぞれにリアルな冒険を楽しんでいた。この作品は、その空白の部分を埋めていくというところに作者の情熱が注がれているようにも見える。


 物語を引っ張っていく、それぞれのキャラクターの性格付けも良く出来ていて、それぞれが大変魅力的なキャラクターになっている。 ということで、ウィザードリィやダンジョンマスターなどのオールドダンジョンRPG好き、ファイティングファンタジーなどのゲームブック好きには、なかなかのお勧めの作品になっていると思います。

参考:ダンジョン飯/九井諒子・KADOKAWA/エンターブレイン、Wiki ダンジョン飯、ダンジョンマスターの項、Dungeon Master - Return To Chaos


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