本当はO橋君、寄沢本流のイイハシの大滝を登攀したいと思っていたのですが、僕にはそこまでの大胆さはなく、勘七ノ沢で我慢してもらいました。
イイハシの大滝はずいぶん昔にS子と二人で行って登ったことがあります。3段45mの滝で、最上段の滝は一般的には登攀対象になっていません。ですから、2段目の25m滝が核心部になるのですが、これが非常にいやらしい。僕は何とかフリーでリードできましたが、濡れ具合や苔の状態次第ではA0連発になりかねません。4級+というグレードですが、ゲレンデの4級+とは違って本ちゃんの滝の4級+はそれは緊張感が半端ではありません。
その時は本当の緊張感は登攀後に襲って来ました。2段目の滝登攀後、ビレイ点を探したのですが、ハーケンやボルトはもちろん灌木すらありません。仕方なく高巻きルートを灌木で確保できるところまで上がらざるを得ませんでした。しかし、その場所からはS子との意思疎通ができません。声も滝の轟音に掻き消されてしまいますし、互いの姿もまったく見えないのです。
それからは相手の能力、習性に対する理解度に頼るしかありませんでした。これほどに時間がたてば相手はこう動くだろう、こういう状況だと相手はこう判断するはずだ。などと、指先に伝わって来るザイルの僅かな感触をつてに決断するしかなかったのです。
僕とイイハシの大滝との間にはこのような記憶が横たわっていたので、O橋君の登攀能力への信頼はあっても、まだ2回しか一緒に沢へ行っていないO橋君と寄沢本流へ行くことは無理筋でした。
そんな、ちょっと可哀想なO橋君との勘七ノ沢遡行です。
▲2012/7/22 大倉から二俣へと歩き、遡行開始が10:08ころ。勘七は人気の沢ですから、遡行者も多く、この写真のパーティー以外にも2パーティーと会いました。
▲人気の沢の割には堰堤も多く、7つほどあります。これが最初の堰堤。10:11ころ。
堰堤と言っても、すっかり沢の景観に溶け込んでいるので、それを登って越えること自体がまずまず楽しくなっています。
ところで、この日の写真はずっとオートにしていましたが、肉眼ではあまり見えなかった霧の粒にフラッシュが当たって光る結果になってしまいました。ご勘弁を。
▲最初の滝F1です。この滝が一番難しい滝で、4級+はあるでしょう。1本目のピンをとる辺りが核心部。10:18と10:26ころ。
▲F2。滝の右壁を登ります。一部もろい箇所もあるので気を付けなければいけません。10:36と10:39ころ。
▲F3。深い釜を持っている。10:48ころ。
▲少し苔色をした岩床のナメ。ほんの少しの長さしかないが、美しい。10:52ころ。
▲2段15mのF4。この滝の1段目は簡単に登れるとすぐに見てとれるが、2段目は一見登れそうには見えない。それを通い慣れた通路を辿るがごとくに、スタスタと登って行くO橋君にはちょっとびっくり。ルートの説明を頭に叩き込んでいたのだろうか? それにしては「・・・・残置ボルトで区切り、・・・・上段の出口はちょっと気をつけたい」と書かれているのに、ザイルを出すことを一顧だにしないとは。
下の写真が2段目なのですが、いまO橋君がいる右上へ岩の間に隠れて行くかのように通り道があるのです。10:57と10:59ころ。
▲F4の上流では堰堤が連続しました。堰堤の上で小休止をとってからF5の大滝10mへ向かうと、そこには先行パーティーが。最後の一人がこれから登るところでした。11:33ころ。
▲大滝のグレードは3級+。ピンもしっかりありますし、易しい登攀です。でも、初見では緊張するでしょうに、O橋君はいともスムースに登って行きました。11:39~11:44ころ。
▲フラッシュで光る霧の粒がすごいですね。大滝の上流では小滝が連続します。11:55ころ。
▲イワタバコです。沢へ行くたびに「イワタバコの花はまだかな~ぁ」と思っていたので、蕾を見て嬉しく感じました。来週からはイワタバコの花に出会えるかもしれませんね。12:03、12:05ころ。
▲O橋君が「ハーケンを打ってみたい」と言うので、持って来ました。熱心にクロモリハーケンを鳴かしているO橋君。いろんな場所で使ってみることですよね。僕も教えてあげるほどには経験はありませんから。12:11ころ。
▲さらに小滝は続きます。12:14と12:20ころ。
▲この日はすべてのルートファインディングをO橋君に任せました。最後は花立山荘に突き上げる支沢の選択。それも大正解でした。写真は山荘下の草地です。13:15ころ。
ルートファインディングをほとんど間違えてくれないのは、教える身としてはつまらないのですが、山仲間としては心強い限りですね。
▲最後の落ちがこの写真。ヤマビルです。僕のザックのアプローチシューズの中にいました。大倉から二俣の間で付いたのでしょう。多分、二俣で付いたのだと思います。13:25ころ。
踏んでも、小石でグリグリしても、潰れません。弾力性があって頑丈な体です。丹沢へ行く際には、塩でも持って行くべきですね。
花立山荘を2時前には出発、大倉発15:38のバスに乗りました。渋沢ではいつもの『いろは』。下山報告を入れると、さっそくS子から返信。「了解 ごゆっくり! ただし、飲みすぎないように」
帰りの南武線、一人だとよく行ったり来たりするものですから。いつぞやは、終電になってしまって、まんが喫茶で夜を過ごしたことも。
この日の『いろは』は山屋でいっぱい。僕も嬉しくて、黒霧島をボトルキープしてしまいました。