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100% pure モノクロの故郷に、百彩の花が咲いて、朝に夕に、日に月に、涼やかな雨風が吹いて、彩り豊かな光景が甦る。

南洋編 8 ~オレンジ色の屋根~

2010年06月29日 | 人生航海
入出港船の無い時は、時間もあり、広い大通りを自動車で走り廻ったりして運転を楽しんでいた。

将校や下士官から私用で使われる事も度々あったが、これも仕事だと思うと運転も上達するので楽しく思っていたぐらいである。

スラバヤの街は、既に平穏を取り戻して、いつでも何処の町に出て行っても危険な場所はなかった。

休みの日は、班長と一緒に車で商店街で買い物をした後は、よくこぎれいな食堂に入り食事をしたものだった。

宿舎は、オランダ領時代の軍人の宿舎で、オレンジ色の屋根で一戸建ての綺麗な様式で同じように並んで建てられてあり、その中の一軒家だった。

隣には、部隊長専属の運転手が居たので、暇な時には高級車に乗せて貰い、走りながら運転の指導を受けていた。

信号所での仕事も慣れた頃、本部の主計中尉から呼ばれた。

「君の字が気に入った」と言って、ガリ版を使い部隊内の通達を書かされるようになった。

ガリ版刷りは、初めての事であったが、「自分の字が皆に読まれるのは嬉しいだろう」と中尉から言われて、その後は、事務所の仕事が多くなったのである。

信号所での仕事の他に、事務所での仕事も増えて忙しくなり、そんな日々が当分続いた。

オレンジ色屋根の不思議さに想いをしながらも、これほど、私は、幸運である事を悟った事は無かった。