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100% pure モノクロの故郷に、百彩の花が咲いて、朝に夕に、日に月に、涼やかな雨風が吹いて、彩り豊かな光景が甦る。

南洋編 1 ~台湾高雄~

2010年06月18日 | 人生航海
宇品に帰ってから、どのくらい経ったか定かではないが、私は以前と同じ事務職の仕事をさせられた。

その為に、その後何処へ行っても軍属工員のなかで事務員として扱われる事になった。

戦時中、それが私の運命とでもいうのか、その後も幸運が続く事を願う他何もなかった。

そのうち、私達に再び移動命令が出た。

或る夜のうちに乗船して、広島宇品港を出港したが、行く先は再び知らされない侭だった。

そして、数日後に到着したのは、又台湾の高雄の港であったのには、誰もが驚いたのであった。

しかし、前回と違い・・既に戦闘態勢に入っていたので、どことなく緊張感が溢れていたのである。

宿舎も以前と同じ小学校であった。

その後の南方侵攻作戦に備えての待機であった。

当然、私達の行動は秘密ゆえ、誰も知る事は出来なかった。

その度の此処での滞在は長引いて・・昭和17年の正月も台湾で迎えると云う、誰ともなく、そんな情報が駆け回っていたのであった。

その為か、私達の日常生活は、ある程度自由に外出も許されて、一般人とも変わりはなかった。

噂通り、正月を台湾の高雄で迎えることになった。

その後も暫く待機が続いた。

当分の間、移動の気配は全くないまま、毎日が何事もなく過ごしていた。

が、その間に、新しく多くの知識人が、加わって来たのである。

毎日の待機中に、その方々から豊富な知識を得ることも出来て、後々のために好い勉強となったのも、私の思い出のひとつなのである。

昭和17年1月も過ぎて、2月に入ってから、ようやく高雄を出る時が来たのである。