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秋葉山鳳莱寺一九之紀行(下) 12 さい川(二)

(挿絵)

(挿絵中の句)

    谷川に 落ちて砕けつ 峰の月       青鳥舎 一挑

一九之紀行下編の解読を続ける。

《亭主》いこ、おっきな(大きな)声さっせえますな。

 ト、そろ/\仕度して、網を打ちながら、段々川上の方へ打ち上る。

《一九》権さん、こっちへ来なせぇ。オヤそこに蹲(つくば)って何をしている。
《権八》わしハイ、抜かる込んではないやぁ。
※ 抜かる込む - へたれ込む。
《清治》ごうせえ(豪勢)に奇麗な水だ。

 ト、顔を洗い、口をすすぎながら、その上の方に、権八が褌(ふんどし)を洗いいるを見つけて、

《清次》ヤア/\権八さん、ふんどしを洗いなさるのか。
《権八》知れたこんだい、わし、ここでふんどしを洗いおる。その下で、おまい口を漱ぎおったな。コリャハイ、えいきび(気味)だいやぁ、ハヽヽヽ。
《清次》イヤおまへ、わしをとんだ目に合わせた。道理で、水が油臭くて、おかしな匂いがすると思った。アヽ穢ねえ/\。
《権八》ハヽヽヽ、ハヽヽヽ、わし金玉の油がずないで、その水を呑んだら、さぞ旨からずいやぁ、ハヽヽヽ。
※ ずない - 程度に限りがないさま。途方もない。とてつもない。
《清次》エヽぺッぺ/\、ありようは、わたしも、褌を洗おうと思って、外して柳ごり(柳行李)の後ろに置いたが、忘れて来やした。
※ ありよう(有様)- 実際にあったとおりの状態。ありのまま。ありてい。実情。

《一九》ときに、御亭主は、滅相川上へ行ったそうな。
※ 滅相(めっそう)- とんでもなく。

 ト、段々上の方へ川端を伝い行きて見るに、亭主は一向見えず。

《一九》コリャア始まらねぇ。網打ちをどこへか無くなしてしまった。そして、大分寒くなってきた。もう帰ろうじゃあねぇか。サァ/\、権さん、来なせえ/\。
《権八》ヲイ/\丁度、洗ってしまったいやぁ。

 ト、ふんどしを絞り/\、段々と、もとの畑道に来ると、柿の木に、枝のしわるほど、一面に柿のなりているを、月夜ざしに見つけて、
※ しわる(撓る)- しなう。たわむ。
※ 月夜ざし - 月明かり。


《一九》ナントこの柿を、ちっとせしめていこうじゃあねぇか。
《権八》コリヤハイ、よからず/\。
《一九》これ清次、誰ぞ来るか気を付けて居さっし。

 ト、二、三本もある柿の木へ、めい/\登りて、思う様柿を取りて、両方の袂へ入れ、もうよい時分と、そろ/\一九下へ下りようとして、枝を踏み折り、どっさり落ちて腰を傷め、

《一九》アイタヽヽヽヽヽ。

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