番外編  100歳、おめでとうございます

2011-02-08 16:10:41 | 日記
現役最長老の挿絵画家、中一弥さんが1月29日で100歳を迎えたそうです。池波正太郎の「鬼平犯科用帳」「仕掛人・藤枝梅安」「剣客商売」のファンならば、あの挿絵を描いた人と分かるはずだ。山手樹一郎・吉川英治・山本周五郎・海音寺潮五郎・藤沢周平等の挿絵を多く手掛けた人である。時代小説に相応しい、なんとも言えない日本画的な線がいい。私などは、挿絵の人々がそのままイメージになっていて、他の顔を思い浮かべることができない。それどころか、映画やテレビドラマ化されると、「違うだろう、そんなデブじゃない、もっとすっきりしていたはず」などと、毒づいてしまう。
これからも、ぜひ素敵な挿絵を描き続けて欲しいと思っています。



フェイスブック  ー若き天才の野望ー

2011-02-07 08:32:57 | 日記
デビット・カークパトリック著  日経BP社刊
本書は「フェイスブック」の開発者であり、創業者であるマーク・ザッカーバーグの創業物語である。フェイスブックはミクシィとツイッター、それにゲームをはじめとするアプリケーションを備えたソーシャルネットワークで、今やユーザーは世界で6億人、グーグルを抜いているそうだ。
細かいことは省くが(とても私には説明し切れない)、参加者は匿名やペンネームでは加入できず、必ず実名でなければならなく、しかも身分を証明できるものが必要だ。最近、インターネットでは匿名やペンネームによるアジテーション紛いの書き込みも多いと聞いていたので、私には意外だった。
と言うのも、実名で参加しているということはプライバシーを公開しているに等しい。事実、大学は入学者を決める際に、企業は社員を採用する際に、フェイスブックを利用しているそうだ。結果は分かるだろう。
この点について、ザッカーバーグは「今や個人情報は隠し切れない。調べようとすればすぐ分かってしまう。二重人格(善良な自分と、時にドラックに走る自分)で済ませられる時代ではない。プライバシーの暴露を恐れるのではなく、本人が望ましい人間になるよう自己規制することだ。フェイスブックは、人々がそう努力して、真の人間同士のコミニュケーションを築いてくれるツールなのだ」と言っている。
IT関連の人の言う言葉ではない。しかし、進みすぎたインターネットに対する貴重な一石だとは思う。
これは、新しい時代の「新しい道徳律」なのかもしれない。
ザツカーバーグは、ハーバート大学のコンピュータ科学専攻の2年生の時にフェイスブックを立ち上げたので、同じ寮の仲間が共同経営者になっている。創業時のドタバタは、20歳前後の若者にありがちなエピソード満載で、思わずニヤリとほくそ笑んでしまう。
しかし、シリコンバレーに進出すると、特許、訴訟、裁判という荒波に揉まれる。この辺を読むと、アメリカは尽づく訴訟社会であることを痛感させられる。
本書のクライマックスは、拡大する業容に伴う資金調達を巡る、ベンチャーキャピタルとの丁々発止駆け引きである。ハラハラドキドキすること請け合いである。



嘘つきアーニャの真っ赤な真実  読み返した本 6

2011-02-05 14:57:52 | 日記
米原万理著 角川文庫
またまた、米原万理である。本書は著者が60年から64年、プラハのソビエト学校で学んだ同級生を、30年後に探し出すメモリー・ツアーである。社会主義が崩壊した後、衛星国であった中欧(東欧ではない)諸国がどう変わっていったのか、同級生がそれをどう乗り越えていったのかの物語でもある。
著者がテーマにしているのは、自分の国を意識するということはどういう場合かということである。彼女によれば、外国に住んで初めて意識する。そして、小さい国、発展の遅れている国の人々ほど強烈に意識するのだと言う。その経験のない私でも、その主張はよくわかる。
話は代わる。日本の国旗「日の丸」と、国歌「君が代」に対して、軍国主義を鼓舞するものだという一部の意見があり、裁判沙汰になっている。
でも、考えてほしい。国際的なスポーツ大会では金メダルを取った国だけが国歌を吹奏される。3位までの国は国旗が掲げられる。国際会議では参加国の国旗が掲揚される。国歌と国旗がなかったらどうすればいい。まるで、名無しの権兵衛だ。サッカーの国際試合では日本の応援団は日の丸の打ち振り、選手は国歌吹奏に際して右手を胸に当てて直立しているではないか。
自国を意識するのは国の外に出ないと経験できないかもしれないが、国内にいてもそれは意識できる。過去の亡霊に捉われた「井の中の蛙」の戯言はもうやめてほしい。

「はやぶさ」からの贈り物

2011-02-04 08:21:01 | 日記
朝日新聞取材班  朝日新聞出版
感動することが分かっていて本を買うというのは、少々邪道のような気がするのだが、我慢しきれず買ってしまった。というのも新聞報道では、今ひとつ全体像がわからなかったせいもある。
本書は同社の出版書籍編集部の中島美奈さんが、「はやぶさ」取材班に申し出て実現したものである。カラー図版も豊富ということだった(「一冊の本」2月号・朝日新聞出版。ちなみに出版社が発行している小雑誌には、その月発売の書籍案内や書評が載っていて、かなりの情報を手に出来るので、外れの本を買わないで済む)。
という訳で、どう感動したかは書かない。気がついたことをひとつ、ふたつ書く。
ひとつは、「はやぶさ」がすっかり擬人化され、「満身創痍」の体を押して飛び続ける健気さに感動したというのが、一般的感想だろう。もちろん、そうには違いないのだが、感動した本質はこれを運用した人たちであろう。大学の研究室を代表して来た人、企業を代表して来た人もいただろう。しかも、その一人一人がそれぞれのパーツに対して全責任を負っているのだ。替わってくれる人はいない。誰が失敗しても「はやぶさ」は飛ばない。この重圧が2592日続いたのである。
感動を通り越して、畏怖さえ感じる。誰でも出来ることではない。
もうひとつは、これは新聞報道では目にしなかったのだが、今回のミッションで開発された様々な技術の中には、ミサイル開発に直結しかねないものが多くあったということである。地球から3億2000万キロ、イトカワは長さ600メートル、幅約300メートル。ここに無事着陸させたのだから、宇宙空間軌道微調整技術は、大陸間弾道ミサイル(ICBM)そのものだということである。本文にはこうある。「軍事にも応用できる技術を持ったことは事実で、周辺国からそうした誤解を受けないよう、積極的に情報公開していく」。

影武者徳川家康  読み帰した本 5    

2011-02-03 15:12:44 | 日記
隆慶一郎全集 第三巻  新潮社刊
徳川家康影武者説をテーマにした小説の中では、最も秀逸なものだと思っている。
なによりも素晴らしいのは、様々な異説、伝説、史実を巧みに綯い交ぜに構成されていることだろう。したがって、読み手は本当かもしれないと思ってしまう面白さが堪らない。最近の時代小説が、文献をそのまま書き写しているのではないかと思えるのに対し、これらを全て自家薬籠中のものにして、小説を展開いく手法がたまらない。
私に馴染みの伝記小説家が亡くなってから、ようやっとでてきた作者で、この人の小説であと何年か楽しめると思っていただけに、早世が悔やまれる。
長編小説の醍醐味をたっぷり楽しめる一冊である。特に、還暦を過ぎた男性には元気と活力与えてくれる(ええ、いろいろな意味で‥‥)。なぜか、つい最近亡くなられた歌舞伎役者の中村富十郎さんを思い出してしまった。

Front Row アナ・ウィンター  -ファッション界に君臨する女王の記録ー

2011-02-02 15:01:02 | 日記
これは世界的ファッション誌『ヴォーグ』アメリカ版の編集長に登りつめた女性、アナ・ウィンターの物語である。タイトルからは「シンデレラ物語」のように思えるかもしれない。
ところが、このシンデレラ、ガラスの靴を履くような繊細な神経の持ち主ではない。毎日筋トレを欠かさず、食事管理をしっかりして体形を維持(当たり前と言えば当たり前か。百貫デブのファッション誌の編集長なんて説得力がないものなぁ)、ヒラリー・クリントンのファッションを一新させたと言われるカリスマ編集長。
次々にオリジナルなアイディアを提示し、邪魔する者は蹴散らかし、首を切る。そしてあらゆるコネを使いまくる。鋼鉄のような精神力と意志を持って初めて実現できることだろう。
1番だから出来ることがある。1番だから見えることがある。「2番ではいけないんですか」と言ったのは誰だ(自分のことは棚に上げて!1番になったから、テレビを前にしてあんなことを言えたのではなかったか)。
1番だからこそ、広がる世界があるのだ。 

ゲノムと聖書ー科学者、<神>について考えるー

2011-02-01 16:43:19 | 日記
フランシス・Sコリンズ著  NTT出版
本書は、先に紹介した『遺伝子医療革命』の著者が2006年に発表したものである。タイトルが奇異に思われるかもしれないが、キリスト教徒が圧倒的に多い欧米では、科学者(物理学者、生物学者、遺伝学者等々)にとっては、避けてと通れない問題であるようだ。
「ビッグバンの前には何があったのか」「地球上の生命の起源」「進化ー理論か事実か?」「創世記は本当は何を語っているのか?」「神はペテン師?」。目次を見るだけでワクワクしてしまう。つまり、科学者にはこれら全ての問題について、「神」と「科学」とがどう折り合いをつけるかという問題がついてまわる。
この宇宙、地球、人間を創った者がいたのか、それとも微妙な均衡の下に自然発生的誕生したのかという問題である。福音派のピューリタンでもある著者は、神と科学は少しも矛盾しないと言い切っている。
無神論者にとっては、どうでもいい問題かもしれない。しかし、胚性幹細胞(ES細胞)の研究ではブッシュは「ES細胞は人である」という理由で研究を禁止してしまった。(オバマは復活させた)。こうなると、関係ないとも言ってはいられない。遺伝子医療や日本発のIPS細胞の研究に支障を来たすことになる。欧米の科学者にとっては、この問題は踏み絵のようなものだろう。
私には、「神が何故宇宙や地球、人間を創り出さなければならなかったのか」、その根本のところがよく分からない。怒られるかもしれないが、神は独りで居るのが淋しかったか、よほど退屈していたのではないか、と思ってしまう。特に人間は厄介だ。きっと、後悔してるのではないか。